研究開発を映像にする制作会社の責任
- Tomizo Jinno

- 10月4日
- 読了時間: 3分
研究開発中の技術や商品は、その多くが途上ではカゲもカタチもありません。でも事業として行っている研究開発である以上、その新技術や新商品の有用性や可能性を利害関係者に説明しなくては、研究予算がもらえないし人事評価もしてもらえません。そこで利用される強力なツールが映像です。
目に見える報告を求めるステークホルダー
初期には論文だけでスタートできた研究開発プロジェクトも、一定の進捗を見た時期にはどうしても目に見える形での報告や発表が求められます。現実に今、弊社にはそういうオーダーがじわじわ増えています。「これ1本見てもらえれば、すぐに分かりますよ!」という圧倒的問題解決力を期待されることもしばしば。
発案者の頭にも無い映像
しかし実際には、研究開発の初期段階では「まだ存在しない未来」を説明しなくてはならないため、開発者自身も明確なイメージを描き切れていないことが多いのです。それでも映像として形にするのが、映像制作会社の役割です。
「画面に映るものはすべて具象である。」このことはどう天変地異が起ころうとも普遍の定理です。どんなフィーリングも感覚的な情報も、それを表すパーツとしての画像はすべて具体的な色と形を持っています。発案者というのはアイデアを思いついた時に、必ず頭の中で何がしかの映像を浮かべているはず。というのが私の持論です。
徹底的なヒアリングとディスカッション
ですから、こうした研究開発をプレゼンする映像の企画を立てる時には、まず発案者に徹底的なヒアリングをし、時には禅問答のようなディスカッションをしながら、その研究のおぼろげなイメージを、目に見えるカタチに置き換えていくのです。それをシナリオにするのが私の仕事です。
こうして1枚の絵では表現できない研究開発も、いくつもの画像(カット)の連続と解説(ナレーション)、そして音楽や効果音によって、視聴者が等しく一定のイメージを共有できるレベルまで具体化することができます。
ご覧に入れられないのが残念
研究開発の映像化の成果物(映像・動画)はトップシークレット指定がほとんどで、ネットに公開したり、こそっとお見せすることもできないのが非常に残念です。しかしこうした需要は確実に存在し、そのことを象徴するのが世界のモーターショーです。
courtesy of Shutterstock
モーターショーも様変わり
コロナ禍で止まっていた世界中のモーターショーが、再開した今は次世代技術、次世代モビリティの博覧会となっています。展示物がまだ存在しない段階でも、未来社会を映像で提示するニーズが急速に高まっているのです。
自動車業界の行方
モーターショーで示される未来像は、自動車業界全体の方向性を映す鏡でもあります。いっぽう、自動車業界の潮流はBEVに向かっているものの、米国がESGを重要視しない政策に転換したことで、世界中の自動車ユーザーが「リャンメン待ち」よろしくHEVに流れているのが現状です。
CASE、さらにMaaSといった新しい概念、SDVやIoT、さらには自動運転レベル5など、技術目標の夢は拡大するものの、人間社会がその変化に対応可能なのかという課題も現実味を帯びています。
映像制作会社の責務
映像制作者が果たすべきは、夢を美しく描くだけではありません。課題やリスクをもあわせて示し、社会に冷静な判断を促すこと。社会が本当に必要としているのは、夢と同時に、その実現に伴う課題やリスクをも共有する姿勢です。私たち映像制作者には、その両面を伝える責務がある。そういう時代に入ってきたと私は考えています。
【執筆者プロフィール】
株式会社SynApps 代表取締役/プロデューサー。名古屋を中心に、地域企業や団体のBtoB分野の映像制作を専門とする。プロデューサー/シナリオライターとして35年、ディレクター/エディターとして20年の実績を持つ。




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