映像制作会社が求めるナレーションの基本技術
- Tomizo Jinno

- 7月13日
- 読了時間: 5分
更新日:8月21日
私は、この業界の入り口がラジオ番組制作業界だったこともあり、アナウンサーやナレーターの「しゃべり声・しゃべり方」が大変気になります。逆にテレビ番組をみていて時折、素晴らしいナレーションを耳にすると、思わず聞き惚れてしまいます。つまり私はナレーションをとても大切に思っています。
自ら演出して映像をつくる身としては、ナレーションを読んでもらうナレーターの選任は、とても重要な演出要素です。基本的には映像作品の表現トーンに合わせて、イメージにフィットするナレーターさんを選びます。当然、声質や有名無名などを考慮するのですが、それ以前に決定的に重視している条件があります。
それは「原稿がちゃんと読める人」です。なんだそんなのあたりまえでしょ、とお思いでしょうけれど、これが案外ちゃんと読める人は多くないんです。もちろん、みなさんそれぞれ仕事をされているのですから、プロフェッショナルであることは間違いありません。バラエティ番組であれば、大切な要素は他にたくさんあります。しかし私の書くシナリオは、実はかなり理屈っぽいため、見る人に理屈が伝わらないと効果が出ません。ですから、原稿は原稿の意図のまま読んでもらわないと困るのです。ですから「原稿が読める」とは、言い換えると「文章読解力がある」「意図に沿った読み方ができる」という意味です。
こうした視点でナレーターを探すと、この名古屋では選択肢はあまり多くはありません。特に民放では、おおかた理屈なんて煩いことは避けて番組制作していますから、ちゃんとしたナレーターさんでも妙な癖がついていることがあります。今日は私がナレーターさんに「これだけはちゃんとしてほしい」ということを一つだけ書きます。
※掲載しているサンプルボイスは生成AIによる音声ですので、あまり上手とは言えません。そこは突っ込まないでくださいね。

修飾関係を明確にする正しい読み方の原則
1. 係り受けの理解
文章を読む前に、どの修飾語がどの被修飾語にかかるかを正確に把握してください。例えば「静かな森の中に立つ美しい教会」では、「静かな」は「森」に、「美しい」は「教会」にかかります。ところが「静かな」で一旦止めてしまうと、修飾関係が変更されます。
2. 意味的まとまりの保持
修飾語と被修飾語は一つの意味単位として、連続した抑揚パターンで読みます。両者の間に不自然な切れ目や急激な音調変化を入れてはいけません。
3. 適切なフレージング
長い修飾句の場合、全体を通して緩やかな上昇調から下降調への流れを作り、最後の被修飾語で明確に着地させます。「昨日友人から借りた興味深い本」なら、「昨日友人から借りた」全体を一つの流れとして「本」に収束させます。
4. 音の強弱配分
修飾語群の中では、最も重要な意味を持つ部分を適度に強調し、被修飾語では確実に意味を確定させる音調で読みます。しかし、この強調は修飾関係を壊さない範囲で行う必要があります。
5. 間合いの使い分け
修飾語と被修飾語の間には基本的に間を置かず、異なる修飾関係が始まる境界でのみ適切な間合いを取ります。したがって「先週古い青い車が駅前の通りに一台停まった」と「先週古く青い車が駅前の通りに一台停まった」では、読み方が異なります。
上記の文章は【時】【修飾語1】【修飾語2】【主語】が【場所】に【数量】【動詞】と言う構造を持っています。同様な文章を書いてみました。
今朝小さな白い鳥が向こうの森に一羽舞った
先週古い青い車が駅前の通りに一台停まった
夕方大きな黄色い蝶が庭の花壇に一匹飛んだ
今日新しい黒い猫が隣の家に一匹現れた
昨夜明るい金色の星が東の空に一つ輝いた
午後若い緑の葉が裏山の木に一枚芽吹いた
これらの文章では、修飾語の係り受け関係を明確にして読むことが重要です。「小さな白い」は「鳥」に、「古い青い」は「車」に、というように、連続する修飾語群は一つの意味的まとまりとして被修飾語に向かって流れるように読む必要があります。
ただし、「小さな」「古い」これらの形容詞は、次に続く形容詞と並列して、さらに次の名詞(主語)に掛かりますので、完全に連続して読むのではなく、心持ち区切りを持ちたいところです。
原稿がもし「小さい」ではなく「小さく」、「古い」ではなく「古く」といった副詞になっている場合は、「小さく白い」「古く青い」というように、次に続く形容詞に掛かりますので、連続して読む方が自然です。
シナリオライターは言葉を大切に考えています。こうした一字一句の言葉の選び方の積み重ねが、全体の意図やイメージを制御しています。原稿を受け取ったら、ぜひよく読み込んでいただけると嬉しいです。
【執筆者】
本記事はこれまで30年以上にいわたりJR東海、東邦ガス、トヨタ自動車、豊田合成、ブラザーグループなど、名古屋を中心とした地域の幅広い業界の企業課題をテーマとしたBtoB映像をプロデュース、ディレクションしてきた、映像制作会社 株式会社SynApps代表が執筆しました。




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