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インフォデミック
情報(information)と流行(epidemic)を組み合わせた造語で、特にインターネットやSNS上で、誤った情報やデマ、噂などが急速に拡散される現象を指します。世界保健機関(WHO)は、インフォデミックを「事実と虚偽の情報が入り混じり、急速かつ広範囲に拡散することで、人々の健康や社会に悪影響を与える情報過多の状態」と定義しています。
インフォデミックが発生する人間の脳の仕組み
「脳のOSが、時代に追いついていない」
我々の脳の基本的なOSは、数万年前の狩猟採集時代、つまり「小さく、危険な世界」で生き抜くために設計されました。
その世界では、目の前の情報(例:茂みがガサガサ揺れる)に対して、
「ライオンかもしれない!すぐ逃げよう!」
と瞬時に判断し、行動する個体が生き残りました。
「本当にライオンだろうか?データは?証拠は?」
と吟味するコストは、自らの死に直結していたのです。
この「疑うよりも信じる方が生存率が高い」という環境で最適化された脳が、安全で情報過多な現代社会という、全く異なる環境で動いています。これが、インフォデミックの本質的な原因、つまり「進化的ミスマッチ」です。
本質的な3つの「バグ」
この古いOSには、インフォデミックを誘発する、主に3つの根源的な「バグ」が存在します。
① エネルギーを節約する「認知のショートカット」
脳は膨大なエネルギーを消費する器官であり、常に省エネを心がけています。そのため、物事を深く考えず、直感や感情、分かりやすい話に飛びつく「ヒューリスティック」というショートカット機能が標準装備されています。
インフォデミックで拡散される情報は、このショートカット機能にハッキングを仕掛けるように作られています。複雑な現実を単純な善悪二元論に落とし込み、考える手間を省いてくれるため、我々の脳は心地よさを感じ、それを容易に受け入れてしまうのです。
② 「仲間」を識別し、結束するための物語
人間は社会的な動物であり、生存のためには集団に所属することが不可欠でした。その中で「情報」や「物語」は、単なる事実の伝達手段ではなく、「誰が仲間で、誰が敵か」を識別し、集団の結束を高めるための道具でした。
あるデマを信じ、共有することは、「私はあなたと同じ価値観を持つ仲間です」という忠誠の証となります。特に社会が分断している状況では、情報の真偽よりも、その情報が所属集団の結束を強めるかどうかが優先されます。事実を指摘することが、仲間への裏切りと見なされることさえあるのです。
③ ランダムな世界に「意味と秩序」を見出す欲求
世界で起こる出来事の多くは、本来、ランダムで、特定の意図や意味を持たないものです。しかし、人間の脳は無秩序や偶然を極端に嫌い、全ての物事に因果関係や物語(ナラティブ)を見出そうとします。
陰謀論のような壮大なデマは、この欲求を満たしてくれます。複雑で無秩序な現実よりも、「世界の裏で全てを操る悪の組織がいる」という歪んだ秩序の方が、脳にとっては理解しやすく、ある種の安心感さえ与えるのです。
インフォデミックとは、知性の欠如や情報リテラシーの低さだけの問題ではなく、生存のために最適化された我々の脳の基本設計そのものが、現代の情報社会との間に起こす、避けがたいシステムエラーです。

執筆者・神野富三
名古屋の映像制作会社 株式会社SynApps 代表取締役プロデューサー
シナリオ・演出・編集まで一貫して手がける映像プロデューサー・ディレクターとして、JR東海・トヨタ自動車など200社以上の映像制作に携わる。
映像制作会社としての視点
インフォデミックは、新しい出来事や危機的な状況が発生した際に起こりやすく、人々の不安や恐怖心を煽るような情報が拡散されやすい傾向があります。例えば、新型コロナウイルス感染症のパンデミック時には、ワクチンの安全性や感染経路に関する誤った情報が大量に拡散され 、人々の行動に影響を与えました。
インフォデミックは、人々の健康や社会に悪影響を与えるだけでなく、民主主義の基盤を揺るがす可能性もあります。誤った情報やデマが拡散されることで、人々は正しい判断を下せなくなり、社会の分断や対立が深まる可能性があります。
こうした現象に対して映像は、その主役を演じる場合が多くあります。私たち映像制作者はインフォでミックに加担して、社会を不安定にする可能性を秘めた道具を手にしていることを決して忘れるべきではありません。
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