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名古屋の映像制作会社が解説:「展示映像」の歴史と今

更新日:6月30日

展示映像制作の魅力


それは、企業向け映像制作で培われたスキルを活かしながら、同時にそれを大きく超えた創作的刺激があることです。企業のPR映像や技術開発映像制作では「セグメント化されたコミュニケーション設計」が求められます。

その経験が、展示映像という、明確なテーマとターゲッを持ったコンテンツ制作にそのまま生かすことができるからです。


しかし真の魅力は、展示施設を具体化する、空間デザイナー、学芸員、インタラクションデザイナー、音響エンジニア、さらには運営技術など、多分野の専門家との深いコラボレーションにあります。

この協働プロセスは、映像制作者の創作の地平を大きく広げます。空間デザイナーとの対話では映像が物理空間でどう知覚されるかを学び、学芸員との協働では学術的正確性と分かりやすさのバランスを追求し、インタラクションデザイナーとは映像を対話的メディアとして発展させる挑戦に取り組みます。異なる専門分野の思考法に触れることで、映像制作者自身の創作アプローチが刷新され、より豊かな表現力を獲得できるのです。


さらに、完成した作品が実際に多くの来場者に長期間にわたって体験され、その教育的・文化的価値が持続的に社会に提供される点も、映像制作者に深い職業的満足感を与える重要な魅力となっています。



 Brother and sister are amazed by a hologram of a Roman sculpture on display at a museum




技術革新とともにある展示映像



1. はじめに


展示映像制作業務は、博物館、美術館、科学館をはじめとする文化・教育施設、企業ショールーム、イベント会場等における情報伝達と体験価値創造の中核を担う専門分野として発展してきました。日本における展示映像制作業務の歴史的変遷を技術革新の観点から列挙し、みなさんと展示映像の未来を考える機会にしたいと思います。

近年のデジタル技術の急速な進歩により、展示映像は単なる情報提示手段から、従来以上に来場者との双方向的なコミュニケーションツールへと、さらに進化しています。特にCOVID-19パンデミック以降、非接触型展示やオンライン展示への需要が高まり、業界全体の在り方が根本的に問い直されている状況にありあます。

いっぽうで、空前の動画ブームにありながら、展示映像の需要と作り手たるクリエーターが枯渇しつつあります。



2. 展示映像制作業務の歴史的変遷


2.1 黎明期(1960年代-1980年代):アナログ技術による情報伝達

日本における展示映像の本格的な幕開けは、1970年大阪万国博覧会に求めることができる。この博覧会では、各国パビリオンや企業館において16mmフィルム、35mmスライド、マルチスライドシステムなどを活用した大規模な映像展示が実現された。


主要な技術的マイルストーン


  • 松下電器産業館「タイムトンネル」:円筒形スクリーンでの360度映像体験

  • 三菱未来館:マルチスクリーンによる未来都市の描写

  • 電力館:立体音響システムとの連動展示


この時期の制作体制は、既存の映画制作会社や広告代理店が中心となっており、展示映像は「動く広告」「教育映画の延長」として位置付けられていた。制作費は現在の貨幣価値で数億円規模の大型プロジェクトが多く、技術的制約から表現手法は限定的であった。


制作プロセスの特徴


  1. フィルム撮影による実写中心の構成

  2. 編集作業の物理的制約(フィルム編集)

  3. 音響との同期の技術的困難

  4. 上映設備の大型化・複雑化



2.2 発展期(1980年代-1990年代):ビデオ技術の普及と多様化

1980年代に入ると、ビデオテープ技術の普及により制作コストが劇的に低下し、中小規模の博物館や企業施設でも映像展示が導入されるようになった。この時期は「博物館映像の民主化」と呼べる現象が起こった。



技術革新の要因


  • VTR(ビデオテープレコーダー)の小型化・低価格化

  • 編集機器の簡素化

  • 業務用カメラの性能向上

  • 音響機器との統合システム化



1985年つくば科学博覧会の影響 


科学万博では最新の映像技術が集結し、業界の技術水準を押し上げる契機となった。特に注目すべきは以下の技術である


  • ハイビジョン技術の展示応用:NHKハイビジョンシアターでの超高精細映像

  • コンピュータグラフィックスの本格導入:科学現象の可視化

  • インタラクティブシステムの実験:来場者参加型展示の先駆



業界構造の形成 


この時期に現在の業界構造の基礎が形成された


  1. 大手広告代理店:総合プロデュース機能

  2. 映像制作専門会社:技術的専門性の蓄積

  3. 設備・機材会社:展示システムの構築・保守

  4. 音響・照明会社:空間演出の総合化



2.3 デジタル化初期(1990年代-2000年代):ノンリニア編集CG技術

1990年代後半から2000年代にかけて、デジタル技術の導入により制作手法が根本的に変化した。この変化は「第二次映像技術革命」と位置付けることができる。



デジタル化の主要な要素


2.3.1 ノンリニア編集システムの普及

  • Avid Media Composer、Adobe Premiereなどの普及

  • 編集作業の効率化と表現力の向上

  • 複数バージョンの制作・検証が容易に



2.3.2 3DCGテクノロジーの活用

  • Silicon Graphics、後にPC-based 3DCGソフトウェアの導入

  • 科学的可視化の精度向上

  • 歴史復元映像の制作可能性拡大



2.3.3 インタラクティブ要素の本格化

  • CD-ROM、DVD-ROMによるオンデマンドコンテンツ

  • タッチパネルシステムの普及

  • 来場者主導型情報アクセスの実現



代表的事例

国立科学博物館「地球館」(1999年開館)


  • 全館にわたるデジタル映像システム

  • 科学現象の3DCG可視化

  • 多言語対応システムの導入




2.4 デジタル成熟期(2000年代-2010年代):HD化とネットワーク連携

2000年代中期からは、HD(高精細)映像の標準化とネットワーク技術の発達により、展示映像の質的向上と運用の柔軟性が大幅に改善された。



技術的進歩の特徴


  • Full HD(1920×1080)の標準化

  • デジタルシネマ技術の応用

  • IP配信システムの導入

  • CMS(コンテンツマネジメントシステム)の活用


プロジェクションマッピングの登場 


2008年頃から注目されはじめたプロジェクションマッピング技術は、展示映像の概念を大きく変えた


  • 建築物・立体物への映像投影

  • 空間全体のメディア化

  • 来場者の没入感の劇的向上

  • イベント性・話題性の創出




2.5 名古屋市とその周辺地域における展示画像

1989年の世界デザイン博覧会と2005年の愛知万博は、この地域の展示技術発展における重要なマイルストーンとなった。これらの博覧会で、私を含め、この地域のプロダクションの展示映像技術は飛躍的に発展した。



世界デザイン博覧会(1989年)

名古屋市制100周年記念事業として平成元年7月15日から135日間開催された「世界デザイン博覧会」では、"ひと・夢・デザイン-都市が奏でるシンフォニー"をテーマに、デザイン界最大の国際会議である「世界デザイン会議」や「国際ファッションフェスティバル」が開催されました。この博覧会は名古屋における展示技術発展の重要な転換点となりました。



愛知万博(2005年)

2005年日本国際博覧会(愛知万博)は、1988年10月に愛知県が万博構想を発表してから長期間の準備を経て開催され、テーマは「新しい地球創造:自然の叡智」でした。この万博では最新の映像技術が多数の展示に活用されました。





3. 現在の業界構造と市場分析


3.1 市場規模と構造

3.1.1 市場規模の推定 

展示映像制作市場の正確な統計データは存在しない。



3.1.2 クライアント分類

  1. 博物館・美術館


国立・公立博物館の常設展示更新

特別展・企画展での映像活用

地方創生関連の新設施設



  1. 企業ミュージアム・ショールーム


自動車メーカーのブランド体験施設

家電・IT企業の技術展示

食品・化学メーカーの工場併設施設



  1. 科学館・テーマパーク


プラネタリウム関連コンテンツ

体験型科学展示

アミューズメント施設での演出



  1. イベント・展示会


企業展示会での映像演出

万博・博覧会での大型プロジェクト

一時的イベントでの映像活用



  1. 官公庁・自治体施設


観光案内施設

防災・啓発センター

文化・教育施設




3.2 業界構造

3.2.1 展示映像制作企業分類と役割

大手総合プロデュース企業


  • 電通、博報堂などの大手広告代理店系列

  • 丹青社、乃村工藝社などの空間デザイン専門企業

  • 年商50億円以上、従業員数300名以上

  • 大型プロジェクトの元請け機能



中堅専門制作会社


  • 展示映像に特化した制作ノウハウ

  • 年商5-30億円、従業員数30-100名

  • 技術的専門性と機動力を併せ持つ

  • 代表企業:コスモ・スペース、NHKアート等



小規模クリエイティブ集団


  • 映像クリエイター、デザイナーの小規模チーム

  • 年商1億円未満、従業員数10名以下

  • 創造性と柔軟性に特化

  • プロジェクトベースでの協業体制



技術系・エンジニアリング企業


  • IT・システム開発会社の展示部門

  • ハードウェア・ソフトウェア統合提案

  • 保守・運用サービスの提供




3.3 技術的現況


3.3.1 映像技術の最新動向

4K/8K対応


  • 4K映像の標準化(3840×2160)

  • 8K映像の実験的導入(7680×4320)

  • 大型スクリーン展示での画質向上

  • 制作・配信システムの高度化



HDR(High Dynamic Range)技術


  • より広い明暗表現の実現

  • 色彩再現性の向上

  • 没入感の増大

  • 専用ディスプレイ・プロジェクターの普及



プロジェクションマッピング技術の進化


  • 自動キャリブレーション機能

  • リアルタイム歪み補正

  • 複数プロジェクター統合制御

  • インタラクティブ連動システム



3.3.2 インタラクティブ技術

センサー技術の多様化


  • 赤外線センサー:人感・距離検出

  • 画像認識:顔認識・ジェスチャー認識

  • 音声認識:音声コマンド・会話型AI

  • 触覚センサー:タッチ・圧力検出



AI・機械学習の活用


  • 来場者行動の分析・予測

  • パーソナライズドコンテンツの生成

  • 自動翻訳・多言語対応

  • 感情認識による体験最適化



VR/AR/MR技術


  • VR:完全仮想環境での体験提供

  • AR:現実空間への情報重畳

  • MR:現実と仮想の融合体験

  • 専用デバイスの軽量化・高性能化



3.4 現在の課題と制約要因

3.4.1 予算制約と投資対効果

公共施設における予算削減圧力により、限られた予算での高品質コンテンツ制作が常態化している。特に地方自治体関連の案件では、予算規模の縮小が顕著である。



具体的な影響


  • 制作期間の短縮圧力

  • 技術的チャレンジの回避傾向

  • 保守・更新予算の削減

  • 人件費圧縮による品質低下リスク



3.4.2 技術陳腐化のリスク

デジタル技術の進歩速度により、設置から数年で技術的に古くなるリスクが常に存在する。


対応策の検討


  • モジュラー設計による部分更新

  • クラウドベースシステムの活用

  • 長期保守契約の標準化

  • 技術ロードマップに基づく計画策定




3.4.3 コンテンツ更新の複雑化

デジタル化により更新は技術的に可能になったが、権利関係、制作体制、予算確保などの運用面での課題が顕在化している。



主要な問題点


  • 著作権・肖像権の管理複雑化

  • 更新作業の専門性要求

  • 継続的予算確保の困難

  • 関係者間の調整コスト



3.4.4 国際化への対応

インバウンド観光の増加により多言語対応が必須となっているが、制作コストの大幅増加要因となっている。


対応の現状


  • 主要言語(英・中・韓)への対応標準化

  • 音声ガイドシステムとの連携

  • ピクトグラム・視覚的表現の重視

  • AI翻訳システムの実験的導入




4. 将来展望と技術革新の方向性


4.1 技術トレンドの分析

4.1.1 AI・機械学習技術の本格活用

現在実験段階にあるAI技術の実用化により、展示映像制作と運用の両面で革新的変化が予想される。


制作面での活用


  • 自動コンテンツ生成:テキストから映像への自動変換

  • 効率化ツール:編集作業の自動化・最適化

  • 品質管理:AIによる品質チェック・改善提案

  • 多言語展開:自動翻訳・音声合成技術


運用面での活用


  • 来場者分析:行動パターンの分析・予測

  • パーソナライゼーション:個人に最適化されたコンテンツ提示

  • 動的コンテンツ:リアルタイムでの内容調整

  • 予測保守:機器故障の事前予測・対応



4.1.2 5G・ネットワーク技術の影響

高速・大容量・低遅延の5G通信により、展示映像の概念が根本的に変化する可能性がある。


新たな可能性


  • クラウドレンダリング:高負荷処理のクラウド化

  • リアルタイム配信:遠隔地との同期展示

  • 分散型展示:複数拠点での連携展示

  • モバイル連携:来場者デバイスとの統合体験



4.1.3 メタバース・デジタルツイン技術

物理空間とデジタル空間の境界が曖昧になることで、展示体験の拡張が期待される。


展開方向


  • デジタルツイン展示:現実展示の完全デジタル再現

  • ハイブリッド体験:現実とバーチャルの同時体験

  • 時空間の拡張:時間・距離の制約を超えた展示

  • ソーシャル機能:バーチャル空間での来場者交流



4.2 市場予測と成長要因

4.2.1 市場規模の予測

今後10年間の市場成長要因を分析し、以下の予測を行う。


成長要因


  1. インバウンド観光の回復・拡大


COVID-19終息後の観光需要回復

2025年大阪・関西万博の効果

地方への観光分散化


  1. デジタル化推進政策


政府のDX推進施策

教育現場でのデジタル活用

スマートシティ構想の具体化


  1. 企業のブランディング強化


ESG経営への注目増大

企業価値向上のための情報発信

人材採用での差別化ツール


  1. 技術コストの低下


制作機材の低価格化

クラウドサービス活用によるコスト削減

自動化による制作効率向上




4.2.2 新規市場領域の創出

医療・ヘルスケア分野


  • 病院での患者教育・情報提供

  • 健康啓発施設での体験型展示

  • 医療従事者向け教育コンテンツ



教育分野


  • 学校・大学での体験型学習

  • オンライン教育との連携

  • 生涯学習施設での活用



商業・エンターテインメント分野


  • ショッピングモールでの集客ツール

  • 空港・駅での情報提供・娯楽

  • イベント・ライブでの演出



スマートシティ・インフラ分野


  • 公共空間での情報提供

  • 交通機関との連携システム

  • 防災・安全情報の配信




展示映像のもうひとつの危機


展示映像制作を志す映像制作者の減少が深刻化しています。その背景には、現代の映像制作環境と展示映像制作に求められる技能の違いがあります。

展示映像制作には、観客を段階的に理解へと導く長期的なシナリオ構築力が不可欠です。ショート動画とは異次元の長尺映像の中で、複雑な概念を論理的に展開し、観客の理解度に応じて情報を提示する技能が求められます。これは、歴史的文脈や科学的原理を時間をかけて丁寧に説明する必要があるためです。


また、展示映像では多層的な意味構築が重要な要素となります。

表面的な情報だけでなく、メタファーやアナロジーを用いて抽象的概念を具体化し、観客が深い理解に到達できるよう構成する技能が必要です。専門知識を映像表現に変換する際には、学術的正確性を保ちながら、視覚的に分かりやすく伝える高度な技術が要求されます。


さらに、教育的配慮に基づいた映像設計も展示映像の特徴です。観客の集中力を維持しながら、認知負荷を適切に調整し、学習効果を最大化する映像リズムの構築が求められます。情報の提示順序、視覚的な強弱、音響効果の使用など、すべてが教育的目的に沿って設計される必要があります。


これらの専門的技能は、長期間の学習と実践を通じて習得されるものですが、現在の映像制作環境では、これらの技能を身につける機会が限られているため、展示映像制作者の育成が困難になっています。


【弊社プロデューサー常設展示映像実績】

Basel World (シチズン時計)

The Optical Fiber Communication Conference and Exhibition(古川電気工業)

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