動画の再生数を競う時代はもう終わり!
- Tomizo Jinno
- 10月4日
- 読了時間: 6分
SNS動画「拡散至上主義」の限界と、いま求められる品位
SNS動画は公開当初、明確なターゲット層に届くよう、特定のプラットフォーム(TikTok、Instagramリール、Xなど)のアルゴリズムや配信手法が選ばれます。しかし、再生数やインプレッション数が「効果の絶対的な指標」とされがちな今のネット広告の世界では、「バズり」を目的とした意図的な拡散施策、あるいは予期せぬSNSのミーム化によって、本来のターゲットではない層にまで視聴される機会が飛躍的に増大しています。
SNS動画を巡っては、企業や著名人による「ジェンダーや社会規範に関する無意識の偏見」が炎上を引き起こし、公開取りやめや謝罪に追い込まれる事例が頻発しています。2025年上半期にも、特定の層を不快にさせる表現や、時代錯誤な価値観を含む投稿が相次ぎ、この傾向はむしろ加速しています。
問題の本質は単なる表現の過激さではなく、企画の倫理観の欠如や社会性の低さにあります。しかし、批判的なコメントや非難が集まる中でも、「アルゴリズム上のエンゲージメント(注目度)」は一時的に伸びてしまいます。関係者がこの短期的な指標(再生数やコメント数)を過大評価し、長期的なブランドイメージの毀損や顧客の離反という本質的なリスクを見落としてしまうケースがあります。企業ブランディングにおいて、ネガティブなイメージの拡散が、長期的な顧客ロイヤルティに著しい毀損をもたらすことを肝に銘じなければなりません。
ターゲット外の視聴者は「アンチ」になり得る
ところで、私たちB2B映像制作の仕事は、特定の産業の専門家や企業の意思決定者といった、極めてセグメントされた対象にコミットメントを得ることを目的に企画・制作しています。
そのため、私たち制作サイドが意図した視聴者ではない友人や家族に、企業向けSNS動画を見せると、「これ、何の動画?面白くない」といった感想が返ってくるのは当然です。彼らは予定された視聴者ではないため、予備知識がなく、その映像の「響きどころ」を共有していません。狭いターゲットを想定して作られた映像は、無関係な人には響かないように設計されているのです。
これに対し、SNS動画は、ショート動画プラットフォームのレコメンド機能を通じて、意図せず世界中に拡散されます。流通ルートをどんなに制御しても、実質的にオールターゲットが視聴するリスクを内包しています。企画段階でターゲットを設定していても、そこから外れた視聴者には「響かない」に留まらず、「不快」「嫌悪」、ひいては「アンチ化」といった負の感情を引き起こしかねません。
SNS動画は「見られなければ始まらない」のは事実ですが、見られた結果がブランドへの悪印象を定着させるならば、それはマイナス効果にしかなりません。
なぜ炎上動画は生まれ続けるのか
炎上事件に巻き込まれるSNS動画は、やはり企画・制作に携わる人や、最終ジャッジを行う広告主側の関係者が、「世間が狭い」のではないかと推測します。
ここで言う「狭さ」は、年齢的・経験的な意味合いも含みますが、自身の企画がSNSという広大な媒体を通じて、自分とは異なる世代、文化、社会的な背景を持つ人々にどのような印象を与えるかを、自身の狭い尺度だけでしか想像できないことに起因します。特にショート動画の流行により、制作の敷居が下がり、「ノリ」や「勢い」だけで企画が承認されてしまう傾向がこの問題を助長しています。
2024年のステマ規制(景品表示法)強化以降、「広告の透明性・誠実性」に対する社会の目は一層厳しくなっています。安易なバズ狙いの企画は、「不誠実さ」と受け取られ、炎上リスクをさらに高めます。
「もともと炎上を狙った」という言い訳の終焉
今は減りましたが、広告会社の中には「炎上も計算の内」思っていると思しき制作者を今も目にします。炎上とは火消しが不可能で、どこへ延焼するかも制御不能な状態を指します。企業イメージをコントロールできなくなる事態を、プロの広告チームが「狙う」というのは、極めて後付けの言い訳にしか聞こえません。
「知名度さえ上がればイメージは二の次」という考え方は一部にはあるでしょうが、ブランドイメージが悪化して構わないというビジネスモデルに未来はありません。特にSNSが生活インフラ化した現代では、企業イメージの毀損は直接的な不買運動や不信感に繋がります。
SNS動画(広告)に「品位」を
インターネット広告の主戦場であるSNS動画ですが、「目立った者勝ち」「バズった者勝ち」といった旧来の基準は、すでに支持を失っていることに気づくべきでしょう。
企業アカウントからの発信である以上、テレビCMと同様に、訴求対象は明確にしつつも、公の場で公開されるコンテンツとして、幅広い視聴者が不快感や嫌悪感を抱くことのないよう、企画の品位と倫理観を向上させる必要があります。
これからのSNS動画広告は、単に再生数を追うのではなく、「狙ったターゲット・視聴者に、狙い通りの印象や情報が、どれだけ深く届いたか」を尺度とすべきです。この「拡散性と品位の両立」こそが、今の広告クリエイターに求められるプロフェッショナルな仕事です。さらに、BtoBのSNS動画広告の場合は、狙ったターゲット以外の視聴者からの反応も想定しておくことが必須です。
そのためには、技術や斬新なアイデアだけでなく、多様な価値観、社会背景、そして炎上リスクに関する経験と深い学習が必要です。まずは、映像クリエイター一人ひとりの社会に対する意識の向上こそが、SNS動画制作業界全体のレベルアップと持続的な発展に不可欠だと考えます。
炎上しやすいSNS動画の特徴(2025年版)
以下の要素は、特定の層を不快にさせたり、社会的な批判を浴びたりするリスクが高い傾向にあります。
無意識の偏見・時代錯誤な価値観
特にジェンダー、人種、年齢、職業などに関する固定観念やステレオタイプを助長する表現。
道徳観や倫理観に反する行為
ハラスメント、暴力的行為、またはモラルに反する行為を「ネタ」として面白おかしく扱うもの。
虚偽・不正確な情報やデマ
事実に基づかない情報、特に健康や社会問題に関わるデマの拡散。
透明性の欠如(ステマ、隠蔽)
広告であることを明記しない**ステルスマーケティング(ステマ)や、問題発覚後の誠実さを欠く対応。
過度な煽動表現やミスリード
視聴者の感情を煽り立てる過激なタイトルや内容でエンゲージメントを誘う行為(特にYouTubeショートやTikTokで顕著)。
著作権、肖像権、プライバシーの侵害
他者のコンテンツや個人情報を無断で使用しているもの。
炎上を加速させる要因
レコメンド機能による瞬発力
プラットフォームのアルゴリズムが、批判コメントも含めて話題性の高いコンテンツを一気に拡散させるため、短時間で制御不能な状態に陥る。
不信感の増幅
企業アカウントの対応の遅れや曖昧さが、「隠蔽」と受け取られ、社会的な不信感を増幅させる。

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【執筆者プロフィール】
株式会社SynApps 代表取締役/プロデューサー。名古屋を中心に、地域企業や団体のBtoB分野の映像制作を専門とする。プロデューサー/シナリオライターとして35年、ディレクター/エディターとして20年の実績を持つ。
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