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映像制作プロセスはカスタマージャーニーマッピングそのもの

企業活動において、顧客体験の最適化は企業の競争力を左右する重要な要素です。その中で、カスタマージャーニーマッピングは、顧客が製品やサービスと接する一連のプロセスを可視化し、顧客視点での課題発見や改善策の立案に不可欠な手法として広く認識されています。実は、このカスタマージャーニーマッピングというマーケティング手法は、私が日々手掛けている映像制作のプロセスと驚くほど多くの共通点を持っています。



1 顧客理解の徹底とペルソナ設計


1.1 カスタマージャーニーにおけるペルソナの定義と役割


カスタマージャーニーマッピングの出発点は、ターゲットとなる顧客の徹底的な理解です。これは「ペルソナの設定」と呼ばれます。ペルソナとは、年齢、性別、職業、居住地といった基本的なデモグラフィック情報に加え、興味関心、価値観、ライフスタイル、購買行動、抱える課題、情報収集源といった心理的・行動的側面まで詳細に設定された、あたかも実在するような架空の顧客像です。

このペルソナを設定することで、企業は漠然とした「顧客」という概念ではなく、具体的な「誰か」に向けて施策を検討できるようになり、よりパーソナライズされたアプローチが可能になります。

※デモグラフィック = 人口統計学的な属性



1.2 映像制作における視聴者ペルソナの重要性


映像制作においても、このペルソナ設定は企画の根幹をなす非常に重要な工程です。映像を制作する上で、まず誰にこの映像を見てもらいたいのか、その視聴者はどのような人物なのかを詳細に設定します。

例えば、新製品のプロモーション映像であれば、その製品に関心を持つであろう層の年代、性別、職業、家族構成、普段利用するSNS、どのような情報に触れているかなどを具体的に想像し、ペルソナを構築します。この視聴者ペルソナは、映像のトーン&マナー、メッセージの伝え方、使用する言葉遣い、登場人物の選定、さらにはBGMの選定に至るまで、映像制作のあらゆる意思決定に影響を与えます。



1.3 映像に内在する「視点」ペルソナの考案


しかし、映像制作におけるペルソナは、視聴者だけではありません。映像には常に、その映像に一貫する「視点」が存在します。これは、ナレーションによる語り手の視点であったり、特定の登場人物の視点であったり、あるいは特定の企業のブランドとしての視点であったりします。ナレーションで進行する映像では、ナレーターが誰の目を通して語っているのか、ナレーションがない映像であっても、その映像が何を、誰の視点から描いているのかが重要になります。

この「視点」もまた、映像制作におけるもう一つのペルソナと捉えることができます。例えば、企業のCSR活動を紹介する映像であれば、その企業の理念や社会貢献への姿勢という「企業の視点」が強く反映されるでしょうし、ある製品のユーザーインタビューであれば、その製品のヘビーユーザーの視点から製品の魅力が語られるかもしれません。

このように、映像制作においては、その映像を視聴する人という「視聴者ペルソナ」と、その映像に一貫する「視点ペルソナ」の2種類のペルソナを検討することが不可欠なのです。



1.4 カスタマージャーニーと映像視点の共通性


カスタマージャーニーマッピングにおけるペルソナ設定も同様に、単に顧客像を描くだけでなく、その顧客がどのような「視点」で企業やサービスと向き合うのか、というメタ視点での考慮も含まれます。例えば、初めてサービスを知る顧客の視点、利用を検討する顧客の視点、実際に利用している顧客の視点、そしてロイヤル顧客の視点といった、時間軸と顧客の状態によって変化する視点も、無意識のうちにペルソナに織り込まれていると言えるでしょう。


カスタマージャーニーマップ

2 ストーリーテリングの設計とジャーニーの可視化


2.1 カスタマージャーニーにおける体験の時系列化


カスタマージャーニーマッピングは、設定されたペルソナが製品やサービスと出会い、興味を持ち、検討し、購入・利用に至り、さらにはリピーターとなるまでの一連のプロセスを時系列で可視化するものです。このプロセスは、顧客が経験する各フェーズでの「行動」「思考」「感情」を具体的に記述し、その中で顧客がどのような「タッチポイント」(企業との接点)を持ち、どのような「課題」や「ペインポイント」に直面し、どのような「期待」を抱くのかを明確にしていきます。そして、各タッチポイントにおける顧客体験を向上させるための「改善機会」や「打ち手」を導き出します。



2.2 映像構成における物語の構造


これは、映像制作におけるストーリーテリングの設計と全く同じ構造を持っています。映像制作では、まず企画の段階で、視聴者に伝えたいメッセージや、視聴者にどのような感情を抱かせたいのかを明確にします。そして、そのメッセージを伝えるために、どのようなストーリーラインで映像を構成するかを考えます。導入で視聴者の心を掴み、本編でメッセージを伝え、結びで視聴者に何らかの行動を促す、という一連の流れは、まさにカスタマージャーニーにおける「認知」「興味」「検討」「行動」のフェーズに対応します。プロモーション映像も、視聴者の行動変容を促すストーリー構成が不可欠です。



2.3 映像における「タッチポイント」と視聴者の感情設計


映像における「タッチポイント」は、シーンの切り替わり、登場人物のセリフ、BGMの変化、テロップの表示など、視聴者が映像を通して情報を受け取るあらゆる瞬間です。それぞれのタッチポイントで視聴者が何を「行動」し(視聴し続ける、感情移入する、情報を得るなど)、何を「思考」し(期待する、理解する、共感する、疑問を持つなど)、どのような「感情」を抱くのかを緻密に設計していきます。例えば、あるシーンで登場人物が困難に直面した時、視聴者は不安や共感を覚え、次のシーンでその困難を乗り越えた時には、安堵や希望を感じる、といった感情の起伏を意図的に作り出します。



2.4 映像が解決する視聴者の「ペインポイント」


カスタマージャーニーマッピングで顧客の「ペインポイント」を特定するように、映像制作では「視聴者の飽き」や「メッセージの誤解」といった潜在的な課題を予測し、それを回避するための工夫を凝らします。例えば、専門用語が多い場合は視覚的に分かりやすく表現したり、飽きさせないようにテンポの良い編集を心がけたりします。そして、最終的に視聴者にどのような「行動」を促したいのか(製品の購入、ウェブサイトへのアクセス、ブランドへの好意形成など)を明確にし、それに合わせたエンディングを構成します。これは、カスタマージャーニーマッピングにおける「改善機会」や「打ち手」の具体化に他なりません。企業が抱える課題解決に、映像制作はカスタマージャーニーマッピング以上の視覚化で応えます。


※ペインポイント

顧客が商品やサービスを利用する際に感じる「不満、不便、悩み、課題」といった、ネガティブな体験や感情のことです。



3 多様なツールと表現手法の同期


3.1 カスタマージャーニーにおける情報表現の多様性


カスタマージャーニーマップでは、顧客の行動や感情、思考を可視化するために様々な要素が用いられます。例えば、時間軸に沿ってフェーズを区切り、各フェーズでの行動や思考をテキストで記述し、感情の起伏をグラフで表現したり、顧客が遭遇する問題点をアイコンで示したりします。また、それぞれのタッチポイントにおいて、どのような媒体(ウェブサイト、SNS、店舗、DMなど)を通じて顧客と接するのかを明記し、その媒体が顧客体験に与える影響を分析します。



3.2 映像表現を構成する多角的な要素


映像制作においても、メッセージを伝えるための技法は多岐にわたります。映像は、視覚情報(映像、グラフィック、テロップ)、聴覚情報(音声、ナレーション、BGM、効果音)、そして時間軸という要素が複合的に組み合わさって構成されます。カスタマージャーニーマップが様々な要素を組み合わせて顧客体験を表現するように、映像もまた、これらの多様な要素をシンクロさせることで、視聴者に感情移入を促し、メッセージを効果的に伝えます。



3.3 顧客課題への映像ソリューションの提供


例えば、製品の購入を検討するフェーズで、顧客がウェブサイトで製品情報を探していると仮定します。カスタマージャーニーマップでは、このタッチポイントで「ウェブサイトの情報が不足している」という課題が抽出されるかもしれません。映像制作であれば、この課題を解決するために、製品の特長を分かりやすく解説するアニメーションを制作したり、ユーザーの声を盛り込んだインタビュー映像を挿入したりするでしょう。さらに、製品の魅力を視覚的に訴求するために、高精細な製品映像や、実際の使用シーンを魅力的に見せる演出を用いるかもしれません。



3.4 ユーザー体験向上としてのチュートリアル映像


また、顧客が製品を実際に利用しているフェーズでは、カスタマージャーニーマップでは「使い方が分からない」という課題が浮かび上がる可能性があります。これに対し、映像制作では、チュートリアル動画やQ&A形式の動画を制作し、顧客が直面するであろう疑問を事前に解消するコンテンツを提供するでしょう。単に情報を羅列するのではなく、親しみやすいキャラクターが登場したり、実演を交えたりすることで、顧客の理解度を深め、使いこなす喜びを喚起するような映像表現を目指します。企業が提供するサービスにおいても、このような映像は顧客満足度向上に貢献します。


このように、カスタマージャーニーマップで抽出された各タッチポイントでの課題や機会は、映像制作における具体的な表現方法やコンテンツ企画のヒントとなります。両者は、顧客(視聴者)に最高の体験を提供するため、多様な表現方法を駆使して、緻密に設計されたプロセスを共有しているのです。



4 感情と共感の創出:体験設計の中核


4.1 カスタマージャーニーにおける感情の可視化


カスタマージャーニーマッピングの最も重要な目的の一つは、顧客の感情に焦点を当て、その変化を把握することにあります。顧客が各タッチポイントで「どのような感情を抱いているのか」を理解することで、企業は顧客の不満を解消し、喜びを増幅させるための具体的な施策を打つことができます。ポジティブな感情は顧客ロイヤルティを高め、ネガティブな感情は離反を招く可能性があるため、感情の動きを正確に捉えることは極めて重要です。



4.2 映像制作における感情誘導と共感獲得


映像制作においても、感情の創出と共感の獲得は、成功の鍵を握る核心的な要素です。映像は、見る人の感情に直接訴えかける力を持っています。感動、興奮、喜び、悲しみ、不安、共感など、様々な感情を呼び起こすことで、メッセージをより深く、強く心に刻み込むことができます。映像制作者は、視聴者に「この製品は私の悩みを解決してくれる」「このサービスは私に新しい価値をもたらす」「この企業の姿勢には共感できる」と感じてもらうために、緻密な感情設計を行います。



4.3 不安解消から期待感醸成への映像演出


例えば、ある製品のCMを制作する際、カスタマージャーニーマップで「製品を知ったばかりの顧客は、その効果に半信半疑である」という感情が読み取れたとします。映像では、その疑問を払拭するために、具体的な効果を分かりやすく示すビジュアルや、製品を使った人の喜びの表情を映し出すことで、視聴者の不安を解消し、期待感を高めるような演出を取り入れるでしょう。また、製品が抱える課題を乗り越えるストーリーを描くことで、視聴者に「自分も頑張れる」といった共感を呼び起こし、ポジティブな感情を醸成することを目指します。



4.4 音響効果による感情の増幅


さらに、映像におけるナレーションやBGM、効果音の使い方も、視聴者の感情に大きく作用します。希望を表現するシーンでは明るいBGMを、困難を示すシーンでは重厚な効果音を用いることで、視聴者の感情を誘導し、ストーリーへの没入感を高めます。これは、カスタマージャーニーマップで感情の波を可視化し、適切なタイミングでポジティブな感情を喚起する「打ち手」を検討するプロセスと完全に一致します。


このように、カスタマージャーニーマッピングも映像制作も、顧客(視聴者)の感情に寄り添い、共感を呼び起こすことで、より深いエンゲージメントを築き、最終的な目標達成へと導くことを目指す、本質的に同じ体験設計のプロセスなのです。




5 目的意識の統一:ビジネス目標と映像の役割


5.1 カスタマージャーニーマップとビジネスゴールの連動


カスタマージャーニーマッピングは、単に顧客体験を可視化するだけでなく、最終的には企業のビジネス目標達成に貢献することを目的としています。売上向上、顧客満足度向上、ブランドイメージ向上など、具体的なビジネスゴールを設定し、そのゴール達成にカスタマージャーニーマップがどのように寄与するかを明確にすることで、取り組みの意義と効果を高めます。



5.2 映像コンテンツのビジネス目標達成への貢献


映像制作においても、全てのプロジェクトには明確な目的が存在します。新製品の認知度向上、採用活動における企業ブランディング、顧客へのサービス説明、社員のモチベーション向上など、映像は常に何らかのビジネス目標を達成するための手段として企画・制作されます。映像制作者は、クライアントのビジネス目標を深く理解し、その目標達成に最も効果的な映像コンテンツを企画・提案する役割を担います。



5.3 採用活動における映像戦略の例


例えば、採用活動向けの企業紹介映像であれば、カスタマージャーニーマップで言うところの「候補者が企業に興味を持ち、応募を検討するフェーズ」に焦点を当て、企業の魅力や働きがい、社員のリアルな声などを伝えることで、応募意欲を高めることを目標とします。この目標達成のために、どのような映像表現が最も効果的か、どのようなメッセージを前面に出すべきか、といった戦略的な思考が求められます。


このように、カスタマージャーニーマッピングも映像制作も、明確な目的意識を持ってプロセスを進め、最終的にはビジネス成果に結びつけるという点で完全に一致しています。両者は、顧客(視聴者)を中心とした視点に立ちながらも、常に企業の目標達成という大局的な視点を失わない、戦略的な思考が求められる活動なのです。




マーケティング手法としてのカスタマージャーニーマッピングと、映像制作のプロセスがいかに多くの類似点を持つか、おわかりいただけたでしょうか。顧客理解の深化としてのペルソナ設定(視聴者ペルソナと視点ペルソナ)、ストーリーテリングの設計としてのジャーニーの可視化と映像構成、多様なツールと表現としてのタッチポイントと映像表現の同期、感情と共感の創出そして目的意識の統一といった全ての側面において、両者は本質的に同じアプローチを取っていることがご理解いただけたかと存じます。


カスタマージャーニーマッピングは、顧客という「主人公」が体験する物語を描き、その物語の中で企業がどのような「役割」を果たすべきかを問いかけます。一方、映像制作は、視聴者という「ペルソナ」が感情移入し、特定の「視点」を通して世界を体験する物語を紡ぎます。両者ともに、人間が持つ根本的な欲求である「物語を体験したい」という欲求に応えるものであり、その体験の質を高めることに注力しています。


私が映像制作者として、企画の段階で常に念頭に置いているのは、「誰に、何を、どのように伝えれば、その人が最も深く共感し、行動を起こしてくれるか」という問いです。これは、カスタマージャーニーマッピングにおいて、「顧客は今、何を感じ、何を考え、次に何を望むのか」という問いかけと全く同じです。


マーケティング手法としてのカスタマージャーニーマッピングは、単なる分析はなく、顧客の心に響く「物語」を創造し、その体験を最適化するクリエイティブなプロセスであると言えます。そして、そのプロセスは、まさに私が長年携わってきた映像制作のプロセスそのものであると結論づけることができます。現在名古屋で映像制作をご検討されている企業様がいらっしゃいましたら、ぜひこの視点からもご検討、ご相談ください。

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