情報源はオールドメディア?SNS? | それぞれに届ける映像制作方法
- Tomizo Jinno
- 6 日前
- 読了時間: 9分
更新日:5 日前
現代の情報環境は、大きく二つの流れに分けられます。ひとつは新聞やテレビといった「マスメディア(オールドメディア)」、もうひとつはSNSや動画配信などの「デジタルメディア」です。両者は発信の構造や媒体の収益モデルが異なるため、バイアス性向が異なります。従って、我々BtoBのPR映像制作者は、それぞれの流儀・流派に合わせた情報発信の重要性を理解する必要があります。
1. マスバイアスの構造
マスメディアのバイアスは、政治的立場やスポンサー企業との関係、そして取材方法そのものによって形づくられます。たとえば、日本では記者クラブ制度があり、政府・自治体・大企業などに常駐する記者だけが得られる情報があります。これにより情報の正確性は高まりますが、同時に取材対象との距離が近くなりすぎ、批判的視点が弱まるという指摘もあります。
海外の例では、アメリカのCNNやFOXニュースは、それぞれリベラル寄り、保守寄りと明確なスタンスを持ち、同じ事件でも強調する論点が異なります。これらは視聴者層に合わせた編集方針によるもので、偏りを持つこと自体が構造に組み込まれています。
マスメディアと長く付き合ってきた世代は、こうした「傾向」を把握して情報を読む習慣があります。「この新聞は経済政策に厳しい」「このテレビ局は外交で政府寄り」など、一定の補正をかけてニュースを解釈します。これが、バイアスを前提に情報を利用するという読み方です。
2. Z世代の認識と「報道の自由」の誤解
一方で、デジタル世代、とくにZ世代の中には「中立でないから信頼できない」という理由でマスメディアを「オールドメディア」として、切り捨てる傾向が見られます。しかし、情報発信に完全な中立は存在しません。選んだ言葉、取り上げた事例、並べた順序、すべてが発信者の立場や価値観を反映します。
「報道の自由」は、中立を保証するためではなく、権力や資金の圧力から自由であるために存在します。その結果として、1.で示したように、多様な立場の報道が許される環境が成立します。この制度の本質を理解せずに「偏っている=違法、無価値」とみなすのは、報道の自由の意味を誤解していると言えます。
3. パーソナライズバイアスの見えにくさ
マスメディアの偏りを「マスバイアス」と呼ぶなら、デジタルメディアには「パーソナライズバイアス」があります。SNSや動画プラットフォームは、ユーザーが見たコンテンツ、いいねやコメントをした投稿、滞在時間などの行動データを解析し、関心が高いと思われる情報を優先的に表示します。
この仕組みは、膨大な情報の中から利用者が求めるものを効率的に届けるという利点があります。しかし同時に、似た価値観や興味を持つ人の発信ばかりが目に入る「フィルターバブル」、同じ意見が繰り返し強化される「エコーチェンバー」を生み出します。

たとえば、Twitter(現X)では、特定の政治的立場や社会問題について共感する投稿ばかりに「いいね」をしていると、数日後には反対意見の投稿がほとんど表示されなくなります。YouTubeの推薦動画も同様で、ある陰謀論関連の動画を視聴すると、翌日から関連動画が連鎖的に表示され、視聴者は容易にその世界観に囲い込まれます。
このバイアスは、マスバイアスのように「どの新聞社がどの立場か」を事前に知ることができないので、自分がバブルの中にいることに気づくことが難しい構造になっています。なぜなら、表示の選別、つまりバイアスは個々人の履歴に応じて変化し一定せず、さらにその仕組みは、外部からも本人からも可視化されていないからです。
4. 二つのバイアスを前提とする読み方
マスバイアスは歴史的にも批判と自己修正が繰り返されてきましたが、パーソナライズバイアスは新しく、批判や検証の仕組みもありません。だからこそ、情報の受け手側が意識的に複数の情報源に触れ、異なる立場の意見を意図的に取り入れる必要があります。
健全な情報リテラシーとは、片方のメディアを盲信して他方を排除することではなく、両方のバイアス構造を理解し、相互補完的に利用することです。マスバイアスとパーソナライズバイアス、どちらも避けられない前提とするならば、そのことを承知の上で情報を選び、比較し、自分の判断を形成することが、これからの世代にとって不可欠な力です。
マスメディアを「オールドメディア」と、どれだけ批判しようと、現実的にはSNSのトピックスは、このメディアがもたらす「一次情報」を起点にしていることを忘れるわけにはいきません。
5. 対極的な2つのバイアス性向のための映像セオリー
マスバイアスとパーソナライズバイアスという、対極的とも言える二つの世代的バイアス性向に対応した場合、「どのような映像コンテンツの作り方が有効か」そして「作り方の違い」を考えてみようと思います。
5.1 前提:二つのバイアスと映像受容の特性
マスバイアス世代(マスメディア時代に育った世代)
バイアスを前提にニュースを補正して読む習慣がある
情報は「全体像」や「背景説明」を重視
視聴習慣は長尺・構成型(ニュース番組、ドキュメンタリー)
信頼の判断基準は「取材の深さ」「発信元の実績」
パーソナライズバイアス世代(SNS/Z世代中心)
表示される情報の偏りに無自覚な場合が多い
情報は「関心への即答」や「共感トーン」を重視
視聴習慣は短尺・断片型(SNS動画、切り抜き)
信頼の判断基準は「自分の体験との一致」「他者の反応(コメント・いいね数)」
5.2 マスバイアス世代向け映像コンテンツの作り方
目的
全体像と裏付けを示し、視聴者の「補正力」を活かして深い理解に導く。
作り方のポイント
取材ベースの深度
映像内で出典や取材プロセスを明示
実在する証拠映像や一次情報(公式発表、現地映像)を挿入
背景解説の重視
現在の出来事を歴史的・社会的文脈に結びつける
図表・年表・相関図を多用し、背景知識を補強
一貫した論旨と結論
中途半端な印象を避け、筋道立ったストーリーで結論まで導く
長めの尺を許容
15〜30分の構成でも、十分な情報密度があれば耐えられる
信頼感の演出
キャスターや解説者の経歴を明示
権威性よりも経験値の厚さをアピール
5.3 パーソナライズバイアス世代向け映像コンテンツの作り方
目的
アルゴリズムで届きやすい形式にしつつ、バブルの外の視点も自然に混ぜる。
作り方のポイント
短尺・即答型構成
冒頭3〜5秒でテーマや問いを提示
1〜2分以内に1テーマを完結
感情と共感のフック
個人の体験談や具体的な生活シーンから入る
視聴者が「自分ごと化」できる描写
マイルドな異論挿入
全否定ではなく「別の見方もある」と提示
反論を誘発せずに多角的視点を提供
縦型・字幕必須
無音視聴でも理解できるテキスト配置
見出し的字幕で論点を整理
拡散性の設計
動画単体よりもシリーズ化し、関連性をアルゴリズムに認識させる
コメント欄での議論を誘発する問いかけでエンゲージメントを強化
5.4 作り方の違い(比較表)
項目 | マスバイアス世代向け | パーソナライズバイアス世代向け |
主目的 | 情報の全体像・裏付け提示 | 関心の即時充足+視野拡張 |
情報構造 | 序論→背景→事例→結論 | 問い提示→事例→まとめ |
尺 | 15〜30分長尺可 | 30秒〜2分短尺中心 |
信頼の作り方 | 取材深度・出典明示 | 個人的体験・共感性 |
視聴環境 | テレビ/PC視聴前提 | スマホ・縦型前提 |
視点の挿入 | 複数視点を整理して提示 | 同質視点に異なる視点を混ぜ込む |
拡散戦略 | アーカイブ価値重視 | アルゴリズム適合重視 |
5.5 具体的な制作事例
テーマ例:「再生可能エネルギーの未来」
目的
エネルギー転換の必要性と課題を理解させる
制作物
同じ取材素材を使い、編集方針を変えて二世代向けに制作
5.6 マスバイアス世代向け映像構成(掘り下げ型)
全体尺:20〜25分 視聴環境:テレビ・PC・セミナー上映
構成パート | 時間 | 内容 | 編集ポイント |
オープニング | 1分 | テーマと問題提起 | ナレーション+資料映像 |
背景解説 | 4分 | 再エネ導入の歴史、日本と世界の動向 | 図表・年表・国際比較 |
現状分析 | 6分 | 国内の発電比率、技術・経済的課題 | 専門家インタビュー+現場映像 |
事例紹介 | 5分 | 海外成功事例とその条件 | 現地取材映像+インフォグラフィック |
論点整理 | 3分 | 導入推進派と慎重派の主張比較 | 表形式で対比、出典明示 |
結論・展望 | 3分 | 導入へのステップと課題 | 再度ナレーションでまとめ |
エンディング | 1分 | 視聴者への問いかけ | 静かなBGMと締めのテロップ |
特徴
全体像→背景→論点→結論の順で構成
出典・データ・専門家コメントを多用
映像内で「一次情報」へのアクセス方法を案内(資料番号やリンク)
5.7 パーソナライズバイアス世代向け映像構成(即応型)
全体尺:60秒〜90秒 視聴環境:スマホ・SNSフィード
構成パート | 時間 | 内容 | 編集ポイント |
冒頭フック | 3〜5秒 | 「もし電気代が半額になったら?」 | 縦型・テキスト字幕必須 |
驚きデータ提示 | 10秒 | 「世界では再エネ比率が●%まで増加」 | 動くインフォグラフィック |
身近な事例 | 20秒 | 「この街では太陽光で90%まかなう」 | 現場映像+短い解説 |
逆視点挿入 | 10秒 | 「でも再エネにも弱点がある」 | 反論例を簡潔に提示 |
行動提案 | 10秒 | 「自宅でできる再エネの選び方」 | 具体的かつ即行動可能 |
クロージング | 5秒 | 「あなたはどう考える?」 | コメント誘発テロップ |
特徴
冒頭3秒で関心を引き、最後はコメントやシェアへ誘導
共感トーンで入り、途中で軽く異論を提示して視野拡張
1本単体でも成立するが、関連テーマでシリーズ化(例:「再エネの誤解」「再エネのコスト」「再エネの未来予想」)
5.8 二世代向け別編集の運用手法
取材・素材は共通化
撮影・インタビュー・資料収集は一度に行い、全世代向けの情報を確保
編集方針で差別化
長尺版:論理展開・根拠提示重視
短尺版:感情的フック+要点一発提示
配信チャネル分離
長尺版:YouTube長編・Vimeo・セミナー用
短尺版:Instagram Reels、TikTok、YouTube Shorts
シリーズ戦略
長尺版は「1本で完結」
短尺版は「次回も見たくなる」連続性
評価軸の違い
長尺版:視聴維持率・質的フィードバック(コメント内容)
短尺版:再生数・エンゲージメント率・シェア数
5.9 制作戦略
マスバイアス世代向け
腰を据えて見られる「深掘り型」の映像で信頼を積み上げる。背景知識を丁寧に解説し、出典を明示して「補正をかけやすい情報」を提供する。
パーソナライズバイアス世代向け
短時間で興味をつかみ、視聴者が属するバブルの外の情報も違和感なく混ぜる。アルゴリズム適合と共感要素を掛け合わせて、自然に多様な視点に触れさせる。
この二つは映像の「作り方」だけでなく、編集テンポ・視聴動線・拡散経路まで根本的に違います。どちらか片方を流用すると、もう片方の世代には刺さらない可能性が高く、制作段階での設計分けが必須です。
実際のところ、本音で書けばパーソナライズバイアス性向の視聴者に対して、作為的に創られたコンテンツを視聴するよう仕向けること自体が困難なので、あまりコスパもタイパも良くないことかも知れません。
また、著しく短尺な時間には、情報の置きようがなく、中身が薄いコンテンツになることも必然であることを理解しておきましょう。SNS世代のためのPR動画には、「理解、納得させる」効果を求めるのではなく、「知らせる」ことに限定するべきかも知れません。
Comments