PR動画のシナリオ作成でぶつかる「3分の壁」とその解決法
- Tomizo Jinno

- 10月26日
- 読了時間: 6分
ネット上に流れてくる「おすすめ動画」の中には、商品PR動画や採用動画も数多く含まれています。それらを見て「こんなの自分でも作れそうだ」と感じたことはありませんか? 実際、私たち映像制作会社にも企業の方から「シナリオはこちらで用意します」というご依頼をいただくことが少なくありません。
多くの担当者がぶつかる「3分の壁」
自社のPR動画制作の担当に抜擢されたあなた。上司からは「できれば3分以内で」と言われている。そして、いざシナリオを書き始めてみると…あれよあれよと文字数が増えていきます。「大丈夫かな?」と思って自分で読んでみると、すでに5分を超えているじゃありませんか!
これが、多くの担当者がぶつかる「3分の壁」です。
最近では「PR動画は短尺(長くて3分程度)でなければ最後まで見てもらえない」という考えが広まっています。特にZ世代と呼ばれるタイムパフォーマンス(タイパ)重視の世代をターゲットにしている場合、「1分で伝えられたら…」という希望を持たれるのも無理はありません。
しかし、私たち映像制作のプロからすると、この「短尺至上主義」はむしろ「迷信」に近いものだと感じています。

「短尺でなければ見てもらえない」は本当か?
なぜ迷信なのか。それは、短尺動画でなければ視聴されないのは、ターゲットではない人に動画を提示している場合に限られるからです。
企業PR動画の基本は、ターゲットを明確に絞り込んで適切な相手に届けることです。長尺動画が敬遠されるのは、興味関心のない人、つまりターゲット外の人に配信してしまっているだけなのです。本当に必要としている人、知りたいと思っている人には、むしろ詳しい情報が求められることも多いのです。
とはいえ、現実には「3分以内」という制約を課されることが多いのも事実。では、この壁にどう向き合えばいいのでしょうか。
プロはどうやって尺をコントロールしているのか
実は、シナリオを書き始めると文字数が膨らんでいくという現象は、私たちプロのシナリオライターであっても日常的に経験しています。
違いは何か。プロは、そんなことは承知の上で、ひとまず必要事項をすべて入れて最後まで書き切るのです。そして、本番はその後です。
何度か読み返しながら、主題でもなく主題の補強をしているわけでもないセクションをバッサリと削除します。
次に、全体のバランスから見て比重が偏っているセクションがあれば、そのボリュームが本当に必要かを検討し、可能な限り文字量を削減します。
この時気をつけなくてはならないのは、ナレーション原稿の文字数=映像の時間の長短とは限らないことです。
「シナリオ」と「ナレーション原稿」は違う
じつは、ここまで「シナリオ」と言ってきた書類は、実は「ナレーション原稿」にすぎません。
短いナレーションでも、多くのシーンを重ねないと表現できない内容があったり、逆にナレーションは長いのに実際は1カットしか素材がないといった事情が隠れていることもあります。これは、映像のシナリオが単なるナレーション原稿ではなく、映像の事情も十分に考慮しながら書くプロフェショナルな作業であることを表しています。
時には、ナレーションでくどくど説明しなくても、たった1カットで視聴者に伝わるメッセージもありえます。
経験的に言うと、ナレーション原稿を自分で読んでみて2分程度であれば、そこに映像を当てはめていくと概ね3分程度の動画になります。その理由の一つは、一般の人(日常の私も含め)の読みのスピードが、プロのナレーターが読むスピードの1.2〜1.5倍ほど早口だからです。さらにもう一つは、動画コンテンツには冒頭とエンディングはもちろん、途中の区切り部分でもある程度の余白を入れるからです。
「3分の壁」を超えてしまった時、あなたならどうしますか?
さて、ご自分で作成したシナリオとは言え、そこには社内各部の人たちの意向も随所に反映されています。もしそのシナリオが、上司から明示されている尺「3分」に収まらないことがわかったら、あなたならどうしますか?
シナリオが予定の尺に収まりそうもない時の4つの選択肢
シナリオ内容は社内で承認されたものだから死守したい。けれども「尺はできるだけ短く」とも言われている。そんな時はどうするべきでしょうか。
①ナレーションをやめる
シナリオ内容を伝える方法は、ナレーションが必須とは限りません。音楽に乗せて映像とテロップだけで見せる手法もあります。視覚的にスタイリッシュで、SNSなどでの拡散にも向いています。
ただし、複雑な情報や論理的な説明には不向きで、説得力は低下する可能性が高いです。また、結果的に「とりあえず全部入ってますよね」という言い訳をする羽目になるかもしれません。
②社内各部署に了解を求め、情報量を減らして予定尺に収める
最もオーソドックスで現実的な選択肢です。各部署と協議しながら優先順位をつけ、重複や補足的な情報を削ぎ落とします。
ただし、関係者全員の合意を得るまでに時間がかかり、調整の難しさがあります。また、情報を削ることでメッセージの説得力が弱まるリスクも。それでも予定通りの尺に収まるため、多くのプロジェクトで採用されます。正直に言えば、私の経験では充実感が少ないのが本音です。
③情報量を減らすと同時にストーリーを強化する
情報を削りつつ、ストーリー構成を練り込む方法です。ただし、ストーリー強化のために尺は伸びますので、結局尺は短くなりません。
それでも視聴維持率が高まれば、関係部署に納得してもらえる可能性があります。問題は、限られた尺の中でストーリーを構築する技術的な難しさです。バランスを取るには、経験と構成力が求められます。
④情報量をそのままに、ストーリーを強化
すべての情報を活かしながら、ストーリーで視聴者を引き込む方法です。尺はさらに延びますが、ストーリー力で視聴維持率を高めることができれば、社内各部署にむしろ喜んでもらえる可能性があります。
私が本音でお勧めしたい選択肢ですが、「長い動画は見られない」という先入観を持つ社内を説得するのは、かなり難儀かもしれません。
まとめ:「3分の壁」に縛られすぎない
いずれの選択肢にも一長一短があります。プロジェクトの目的や予算、公開する媒体などを総合的に考慮して、思い切って決断するしかありません。
大切なのは、「3分以内」という数字に縛られすぎないこと。本当に伝えるべきメッセージと、それを届けるべきターゲットを見失わないことです。
もし判断に迷われたら、私たち映像制作のプロにご相談いただくのも一つの手です。経験に基づいた最適な提案をさせていただきます。
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【執筆者プロフィール】
株式会社SynApps 代表取締役/プロデューサー。名古屋を中心に、地域企業や団体のBtoB分野の映像制作を専門とする。プロデューサー/シナリオライターとして35年、ディレクター/エディターとして20年の実績を持つ。(2025年10月現在)




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