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BtoB映像制作は「短編映画」の系譜を継ぐ

更新日:5 日前


長編映画への登竜門であり、クリエイターの育成の場として機能してきた短編映画は、監督の作家性や物語の深さを追求する「作品」としての側面が強いものです。カンヌ国際映画祭やアカデミー賞など、映画祭によって尺の定義は異なるものの、いずれも観客に思考や余韻を与えることを目指す、物語の起承転結を丁寧に描く芸術的表現です。


一方、現代の若年層に浸透しているショート動画は、15秒から60秒程度の縦型動画で、TikTokやYouTubeショートなどのプラットフォーム上で「消費」されるコンテンツです。視聴者の注意を瞬時につかむことを目的とし、スワイプで次々と新しい動画に移行する「無限スクロール」が特徴です。アルゴリズムがユーザーの興味関心に合わせてコンテンツを自動表示するため、フォロワー数に関係なく面白いコンテンツが広まる「コンテンツドリブン」な設計になっています。

※コンテンツドリブン(Content-Driven)とは、コンテンツ(情報・体験)を中心に据えて物事を計画・実行する考え方や手法を指します。


短編映画とショート動画は、単に「尺が短い」という共通点があるだけで、その目的と性質は根本的に異なります。短編映画の制作者が、自らのビジョンを実現するために物語を構築する「ディレクター」であるとすれば、ショート動画の制作者は、アルゴリズムと視聴者の行動を分析し、最適なフォーマットで情報を提示する「プランナー」に近い存在と言えるでしょう。現代の映像制作者は、この二つの異なる価値観と向き合い、芸術性を追求する長尺の作品から、効率性と瞬発力を求める短尺のコンテンツまで、目的とプラットフォームに応じた適切な「」と「表現」を使い分ける能力が不可欠となっています。



トンネル工事を撮影するフィルムクルー


BtoB映像制作の歩みと短編映画との共通項


日本におけるBtoB映像制作業は、今から半世紀ほど前、劇場映画会社や放送局の副業として、あるいは出版社やゼネコンの子会社として事業化されました。当時、自治体や大手企業の広報映画、土木・建設工事の記録映画などが主な収入源であり、撮影から上映までフィルムが使われていました。


1970年代にビデオ技術が発明され、1980年代にはビデオカメラとVTRの小型化と普及が進んだことで、映像制作の裾野が広がり、独立系プロダクションが全国に誕生しました。この名古屋にも10社以上がありました。この時代に勃興したのが、VP(ビデオパッケージ)と呼ばれる企業映像です。VPはだいたい10分から15分程度、記録映像は30分程度という尺が多く、これは偶然にも短編映画の一般的な定義に近しいものでした。


この頃の映像制作者は、BtoBとBtoCの違いをあまり意識しておらず、映像を制作することは全て、テレビ番組や映画のように一般大衆に向けて作るものだという意識が強かったようです。しかし、筆者はこの業界に入り、テレビ番組制作にはないVP制作の職人気質や表現の深さに惹かれました。あらゆる分野の企業や商品をテーマとするため、徹底的なリサーチを通じてこれまで知らなかった世界に出会えることが大きな喜びだったからです。これは、単にエンターテインメントとして消費されるのではなく、視聴者に深く、そして正確な情報を伝えることを目指すBtoB映像制作が、本質的に短編映画の作家性や物語の深さを追求する姿勢と共通していたからに他なりません。



BtoB映像制作における「短尺至上主義」の呪縛


21世紀に入り、インターネットの高速化とSNS動画の普及により、映像コンテンツの短尺志向が加速しました。そして、本来インターネットメディアとは無関係であったBtoB映像業界にも、「映像は短いものしか見てもらえない」という先入観が浸食し始めました。しかし、これは本当に正しいのでしょうか。


例えば、就職活動中の学生向けの企業紹介映像を考えてみてください。彼らが本当に求めているのは、企業の表面的なイメージではなく、仕事内容や職場の雰囲気、先輩社員の生の声といった、人生を左右する決断に不可欠な詳細な情報です。これを3分で伝えることは不可能であり、むしろ15分から20分かけて丁寧に描かれた映像の方が、学生にとって価値ある情報源となります。真剣に就職を考えている学生なら、そうした映像を最後まで視聴するはずです。


医療機器の操作説明や建設工法の技術解説など、BtoB分野では高度な専門知識を要する映像が多く存在します。これらの映像において重要なのは、制作者が業界の専門用語や業務プロセスを正確に理解し、視聴者(多くは業界の専門家)が求める詳細な情報を提供することです。表面的な理解で制作された映像は、すぐに「薄っぺらい」と見抜かれてしまいます。

BtoC映像の視聴者が「暇つぶし」を求めているのに対し、BtoB映像の視聴者は明確な目的を持っています。このニーズに応えるためには、「インパクト」ではなく「この映像を見ることで何が得られるか」という価値提案が重要であり、複雑な情報を論理的に整理し、理解しやすい順序で提示する「情報設計」の能力こそが、BtoB映像制作者に求められる専門性の核心なのです。



結論:BtoB映像制作は「短編映画」の系譜を継ぐ


ショート動画の制作者が「プランナー」的、短編映画の制作者が「ディレクター」的であるとすれば、BtoB映像制作者は「ジャーナリスト」的な姿勢が求められます。取材対象となる企業や業界について徹底的に調査し、表面的な情報だけでなく、本質的な価値や課題を見つけ出す。そして、それを視聴者にとって有用な形で伝える。このプロセスは、まさに短編映画が追求する「作家性」と「物語の深さ」に通ずるものです。


短編映画とショート動画という異なる世界が存在するように、BtoB映像制作は独自の価値観と専門性を持つ分野です。映像制作業界全体が短尺志向に流されることなく、BtoB映像制作が本来持つ「短編映画」の系譜を活かしたアプローチを追求し、目的に応じて最適な「尺」と「表現」を選択できる環境を維持していくことが、業界の健全な発展につながるのではないでしょうか。


【執筆者】

名古屋を中心とする地域の企業や団体の、BtoBビジネス分野の映像制作を専門に、プロデューサー/シナリオライター歴35年、ディレクター/エディター歴20年の株式会社SynAppsの代表が、映像制作を外注しようと考えている、様々なビジネスフィールドの企業担当者への情報提供として書いています。

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