動画・映像制作用語
【クリエイター】
creator
「クリエイター」とは、広義には「創造者」や「創作者」を意味し、既存の概念にとらわれず、新たな価値や表現を生み出す人々を指します。
かつては、グラフィックデザイナーやコピーライターなど、表現を行う特定の分野で活動する人々を指すことが多かったのですが、近年では、インターネットやデジタル技術の発展に伴い、その範囲は大きく広がっています。例えば、Webデザイナー、映像作家、ゲーム開発者、YouTuber、インフルエンサーなど、多様な人々がクリエイターとして認識されるようになっています。共通するのは、その活動によって金銭、ないしはそれに類似する利益を得ることを目的とした「商業活動」であることです。
1. 現在のクリエイターとはクリエイティブソフトが扱えること
かつてクリエイティブをビジネスにする人は、その活動に関する訓練された、卓越した技能と知見、オリジナリティを備えていました。しかし、クリエイティブプロダクツの多くがコンピュータプログラムによって、生成・加工できる現在、クリエイティブの原点とも言える「発意」「創意」を持たない人でも、それらしいプロダクトやコンテンツを生み出せるため、クリエイターという呼称はもはや特別な職名ではなく、ビジネスのスタイルにすぎなくなっています。
2. コンピューター技術による映像関連クリエイターの職域の変遷
※コンピュータグラフィックス、DAW(Digital Audio Workstation)は除く
1987年
Adobe Systems “ Illustrator” 発売
代表的なクリエイティブ職である、イラストレイター、グラフィックデザイナーの仕事が、美術系の専門的な訓練を経ずに行えるようになりました。
Microsoft “PowerPoint” 発売
それまで広告会社のプランナーやコピーライターが手書きで作成していた「企画書」を、ワープロ+図形配置機能によって綺麗に作成できるようになり、周辺のプロデューサーやクリエイティブディレクター、あるいは企業の広告宣伝部などに企画書作りの職域が拡大しました。
1990年
Adobe Systems “ Photoshop” 発売
デザイナーが写真を後処理できるようになり、プロカメラマンの職域が減少しました。また、クリエイティブディレクター、アートディレクターなどが自身で創作できるようになり職域が拡大した一方、DTP(Desk top publishing)が可能になり、印刷会社の職域が減少しました。
1999年
Apple “Final Cut Pro” 発売
それまでに専用機や高額なノンリニエ編集ソフトは普及を始めていましたが、同時期コンピュータの性能アップが進んだことで汎用パソコンでの稼働が可能になり、小規模のプロダクションでは編集を内制化しました。これ以降ポストプロダクション(エディター)の職域が減少を始めました。
2008年
Canon “EOS D5 Mark II” 発売
エポックメイキングな機材でした。現在のシネマティック動画の源流とも言えるカメラです。比較的安価な35mmフルサイズCMOSセンサーを搭載したデジタル一眼レフカメラの登場によって、それまでのデジタルカメラはフィルムカメラに劣るという先入観は払拭され、テレビCM制作などの現場でも重宝されました。
その後、センサー技術や記録メディアの進化により解像度やフレームレート、ビットレートはプロ用ビデオ機器に匹敵する性能を持つに至り、その入手の容易さもあり、ビデオカメラマンの職域はスチールカメラマンだけでなく、一般の人々にも侵食され減少の一途を辿りました。その一方「動画クリエイター」「ビデオグラファー」という新たな職域が誕生しました。
2013年
Adobe Creative Suiteが Adobe Creative Cloudに移行
Adobe社が提供している全てのソフトウェアがサブスクリプション方式のクラウドサービスとして提供されるようになりました。これによって様々なクリエイティブワークがクラウド内の関連するソフトで実行し統合できるだけでなく、場所やデバイスを選ばずに作業できる環境を提供し、チームでのコラボレーションを可能にしました。
これによって、高額で手が出なかったプロ用のソフトウェアを比較的安価に利用できることとなり、プロ以外のユーザーが拡大、一方で業務として行う場合、対価の低下が著しいものとなりました。
2022年
ChanGPTの発表
それまでブレーキが掛けられていた生成AIの民生化が、これを機に一気に雪崩を起こしたように拡大していまに至り、これまでクリエイターと呼ばれる職にあった人の職域を奪うと同時に、新たなクリエイター職を生成しています。
3. 真のクリエイターとは
かつて、Adobe Illustrator の普及黎明期において、従来のグラフィックデザイナーは『手描きの直線を引けない者にデザイナーを名乗る資格はない』と断じました。フリーハンドによる描画こそが、デザイナーの本質であると。しかし、その批判を浴びたコンピューターによるイラストやデザインは、やがて社会に受け入れられ、それらを創作する人々は「クリエイター」と呼ばれてきました。そして今、生成AIがその領域を侵食しつつあります。もし生成AIがこれらの仕事を代替するならば、それは生成AIもまたクリエイターとなり得ることを意味します。
同様に、コピーライティングもかつては人間の専門領域とされていました。しかし、生成AIが「類似した」あるいは「模倣的な」文章を瞬時に生成する現在、人間とAIの作品を明確に区別できる者がいるでしょうか。
結局のところ、多くのクリエイティブ職は「類似性」や「模倣性」を高度に実現する能力に長けていると言えます。特に商業広告の分野では、クライアントの意向を尊重し、具体的なサンプルを示すことが評価に繋がります。サンプル、すなわち模倣を基盤とする以上、クリエイターに求められるのは、最適なサンプルを見出し、それを再現する能力です。
しかし、真に優れたクリエイターは、その再現過程において『新たな視点』や『斬新な表現』を付加できるのではないでしょうか。
結論として、真のクリエイターとは、既存の要素を洗練させ、独自の価値を付加できる創造者であると言えます。

【関連用語】
1. クリエイティブ (Creative)
本来「創造的な」という意味の形容詞ですが、日本では「制作部門」のように名詞として扱われることも多い言葉です。
2. プロダクション (Production)
製造、生産、制作といった意味を持ち、特に製品や作品を大量に、または組織的に作り出す過程を指します。「クリエイティブ」がアイデアや独創性を重視するのに対し、「プロダクション」は効率性や生産性を重視します。制作会社やタレントマネージメント組織をプロダクションとも言います。
3. プロダクツ (Products)
製品、生産物といった意味を持ち、製造または生産されたものを指します。「クリエイティブ」がアイデアや概念を指すことがあるのに対し、「プロダクツ」は具体的な製品や商品を指します。
4. グッズ (Goods)
商品、物品といった意味を持ち、特に販売や配布を目的としたものを指します。「プロダクツ」と意味が近いですが、より日常的な商品や、特定のイベントやキャラクターに関連するアイテム、具体的な商品を指します。
5. コンテンツ (Contents)
内容、中身といった意味を持ち、特にウェブサイト、書籍、映画、音楽などの情報や作品の内容を指します。「クリエイティブ」が創造的な性質を指すのに対し、「コンテンツ」は情報や作品そのものを指します。