シネマティック
フィルム映画の映像の質感をビデオ技術で再現しようとする試みのことです。(詳細は以下)
現代の「動画クリエーター」の中でも、映像の質感を重要視する人たちが標榜するのが、このシネマティックですが、その定義は人によって異なります。シネマティックは言い換えれば映画的ということですから、映画の定義が多様であることを考えれば当然ではあります。
データの特性としては、概ね共通する要素は以下です。
1. フレームレートを24fpsに設定する
フィルム映画の時代に最適とされた秒間コマ数が24コマであったことから、このレートで表現される映像の滑らかさ(言い換えるとパラパラ感)に似せるためのものだと推察できます。
2. シャッターアングル180°で撮影する
現在の一般的なデジタル(ビデオ)カメラには回転シャッターは使われていませんが、計算上シャッタースピードは 1/fps×2 秒とします。
3. アスペクト比をシネスコサイズに設定する
シネスコ(シネマスコープ)のアスペクト比=21:9 で完成させる。あるいはレターボックスとします。この定義は人によって、FHD(フルハイビジョン)、UHD(ウルトラハイビジョン)の16:9でも問題ないようです。
4. 単焦点レンズを使って背景をぼかす
背景がボケていて、狙った被写体が浮き立つような映像が好まれます。
5. 撮影特機を使って撮影する
ジンバル、スライダー、ジブクレーン、ドローンといった道具を使って撮影した、視点を移動する映像が好まれます。
6. 適度なモーションブラー
高速なシャッタースピードで被写体をくっきり映しすぎることを避け、フィルム映画に似たモーションブラーを映す、ないしはポスト段階で付加します。
7. カラーグレーディングを施す
フィルムトーンに近づける色補正、階調補正を施します。スマホカメラの色調補正のような作為的なグレーディングが好まれます。
8. ストーリーを感じさせる構成
多くのサイトでこのように定義しているのですが、これはシネマティックであることと無関係だと私は思います。

執筆者・神野富三
名古屋の映像制作会社 株式会社SynApps 代表取締役プロデューサー
シナリオ・演出・編集まで一貫して手がける映像プロデューサー・ディレクターとして、JR東海・トヨタ自動車など200社以上の映像制作に携わる。
映像制作会社としての視点
上記の定義要素は、現在の動画クリエーター界隈で言われているものですが、私にとってのシネマティックは、フィルム映画をテレシネ(24コマ/秒→29.97fps)した時に得られる画像の質感だと考えています。
シネマティックの本質——テレシネ画質という唯一の答え
「シネマティック」という言葉は、現代の動画クリエイターやデジタル一眼カメラの愛好家たちの間で非常に頻繁に使われます。
浅い被写界深度、映画的なカラーグレーディング、24fps、シネマスコープのアスペクト比、特定のレンズの収差——これらがシネマティックを構成する要素として語られます。しかしこれらはすべて、「映画っぽく見せるための手段」の列挙に過ぎず、シネマティックという感覚の本質を説明するものではありません。
では本質とは何か。それはテレシネされた画質です。
私たちが「映画的だ」と感じる映像体験の大半は、映画館ではなくテレビ、ビデオ、DVD、あるいは配信サービスを通じて得られたものです。つまり24コマ/秒で撮影されたフィルム映画が、29.97fpsのビデオ規格に変換——すなわちテレシネされた状態で、私たちの目に届いています。フレームレートの変換に伴う動きの質感、フィルムグレインとビデオ圧縮が混ざり合った粒状感、色域変換による独特の色の乗り方。これらは意図して作り込まれたものではなく、異なるメディア間の変換過程で自然に生じた痕跡です。
重要なのは、視聴者がこの質感を映画の出自を示すサインとして無意識に読み取っているという点です。「シネマティックだ」と感じる瞬間は、映像の美しさへの純粋な反応ではなく、その質感から「これは映画から来たものだ」と認識するリテラシーが働いた結果です。感覚より先に認識があり、その認識が感覚を生み出している。
一方、現代のクリエイターが追い求める「シネマティック」は、この認識のプロセスを逆から辿ろうとするものです。テレシネという変換の痕跡が結果として持つ特徴を個別に抽出し、それを意図的に再現しようとする。しかしそれはあくまでも記号の模倣であり、本来テレシネ画質が持つ「映画というメディアが別のメディアを通過した痕跡」という文脈を持ちません。だからこそ、いくら形容詞を重ねても、その説明はどこか的を射ないまま終わるのです。
シネマティックとは、映画らしく見せるための処理の総体を表す言葉ではありません。映画がテレビという別の世界に渡るときに自然に生まれた質感であり、その質感を通じて視聴者が映像の出自を読み取る、メディア横断的な体験の名前です。その本質を一言で言い表せるとすれば、テレシネした画質という表現以外にありません。
関連記事
関連用語など
1. フィルムルック (Film Look)
デジタル映像にフィルムで撮影したような質感を与える技術やスタイルのこと。粒状感、色調、コントラストなどを調整し、映画特有の雰囲気を再現します。
2. ドラマチック (Dramatic)
劇的な感情を揺さぶる演出を指します。照明、音楽、カメラワークなども使い視聴者の感情を高めます。
3. 叙情的 (Lyrical)
感情や情景を詩的に表現すること。映像においては、美しい映像と音楽を組み合わせ、感情や雰囲気を豊かに表現します。
4. フォーカスワーク (Focus Work)
被写界深度を調整し、特定の被写体に焦点を当てる技術のこと。フォーカスワークによって、観客の視線を誘導したり、感情を表現したりします。
5. ムービートーン(Movie Tone)
IMAGICA社が開発したテレシネシステム。ビデオ技術がデジタル化しつつあった時代、フィルム撮影の質感を維持したままビデオ信号化する技術として、TV-CMなどで多用された。
