ABR(エービーアール)
株式会社SynApps 映像制作研究室の映像制作用語辞典
「ABR(エービーアール)」は、Average Bit Rate (平均ビットレート)あるいはAdaptive Bitrate (アダプティブビットレート)の略語です。Average Bit Rateは音声や動画などのデータ圧縮において、再生時間あたりのデータ量を一定の範囲で変動させながら、全体を平均すると指定されたビットレートになるように制御する方式。Adaptive Bitrateは、視聴者の環境に合わせて自動的にビットレートを最適化して配信する技術です。
Average Bit Rate(平均ビットレート)
音声・動画エンコーディングにおいて、瞬間的なビットレートは変動するものの、全体の平均が目標値になるよう制御する方式を指します。これはCBR(固定ビットレート)やVBR(可変ビットレート)と対比される概念です。
つまり「エンコーディング技術」です。
特徴
ファイルサイズの予測が可能
指定した平均ビットレートに収まるようにエンコードされるため、最終的なファイルサイズがある程度予測できます(ビットレート × 時間
)。これは、固定ビットレート(CBR: Constant Bit Rate)の利点に似ています。
品質の最適化
シーンによってデータ量(ビットレート)を動的に調整するため、可変ビットレート(VBR: Variable Bit Rate)のように、複雑なシーンでは多くのビットを割り当てて品質を保ち、シンプルなシーンではビットを削減して効率を上げることができます。
処理時間
VBRよりも高度なレートコントロールを行うため、CBRやシンプルなVBRよりも処理に時間がかかる傾向があります。
CBRのようにファイルサイズが予測でき、VBRのように品質を安定させつつ効率的な圧縮が可能ですが、 全体のデータを見渡して調整するため、エンコード処理が複雑になり時間がかかります。
Adaptive Bitrate(アダプティブビットレート)
ストリーミング配信技術において、視聴者のネットワーク状況やデバイス性能に応じてリアルタイムでビットレートを調整し、最適な視聴体験を提供する技術を指します。Netflix、YouTube、Amazon Prime Videoなどの動画配信サービスで広く採用されています。
つまり「ストリーミング配信技術」です。
仕組み
複数ビットレートのエンコード
配信サーバー側で、元の動画コンテンツを様々なビットレート(低画質から高画質まで)で複数バージョンにエンコードし、それぞれを小さなセグメント(数秒単位の短いファイル)に分割して準備します。
視聴環境の検出と切り替え
視聴側のデバイス(PC、スマートフォンなど)やインターネット回線速度(Wi-Fi、モバイルデータ通信など)をリアルタイムで検出し、それに応じて最適なビットレートの動画セグメントを自動的に選択して再生します。
流れ
プレイヤーはまず、利用可能なストリームのリストとそれぞれのビットレートが記述されたマニフェストファイル(HLSの.m3u8ファイルやMPEG-DASHの.mpdファイルなど)をダウンロードします。
通常、最初は低ビットレートのセグメント(かたまり)から再生を開始します。
ネットワークのスループット(データ転送速度)が安定して高い場合、プレイヤーは自動的に高ビットレートのセグメントに切り替えて、より高画質でスムーズな再生を提供します。
逆に、ネットワークが混雑したり不安定になったりしてスループットが低下した場合、プレイヤーは低ビットレートのセグメントに切り替えることで、バッファリング(先のデータを一時的にため込む処理。このために途中で再生が止まる)を最小限に抑え、途切れることなく再生を継続します。
特徴
快適な視聴体験
視聴者のネットワーク状況やデバイスの性能に左右されず、常に可能な限り最高の画質で、かつ途切れることなく動画を視聴できます。
バッファリングの軽減
ネットワーク状況が悪化しても、自動的に低画質に切り替わることで、バッファリングによるストレスを大幅に減らします。
帯域幅の効率的な利用
必要以上に高いビットレートで配信することなく、効率的に帯域幅を利用できます。
エンコード処理の複雑化とコスト
複数のビットレートでエンコードする必要があるため、エンコード処理にかかる時間やストレージ容量が増加します。
配信インフラの複雑化
複数のファイルを管理し、視聴状況に応じて適切に配信するためのサーバー側の仕組みが必要になります。

【関連用語】
1. ビットレート (Bit Rate)
1秒間あたりのデータ量を表す単位で、bps(Bit Per Second)で示されます。動画や音声の品質に直結し、数値が高いほど高画質・高音質ですが、ファイルサイズも大きくなります。
2. VBR (Variable Bit Rate)
動画や音声の圧縮において、データの情報量(ビットレート)をデータの情報量に応じて変動させる方式です。VBR(可変ビットレート)では、動きが激しいシーンや複雑な音声部分には多くのビットレートを割り当て、動きが少ないシーンやシンプルな音声部分には少ないビットレートを割り当てることで、全体の品質を最適化します。
3. CBR (Constant Bit Rate)
固定ビットレートの略。エンコード時に常に一定のデータ量(ビットレート)で圧縮する方式です。ファイルサイズが予測しやすく、ストリーミング配信の安定性に優れますが、シーンによっては画質が低下します。
4. エンコード (Encode)
動画や音声などのデータを、ファイルサイズを小さくするために圧縮する処理のこと。元の情報を効率的な形式に変換し、保存や伝送に適したデータを作成します。
5. デコード (Decode)
エンコードされた圧縮データを、元の状態に戻して再生可能な形式に復元する処理のこと。プレイヤーやデバイスがこの処理を行い、動画や音声を視聴できるようにします。
6. ストリーミング (Streaming)
データをダウンロードしながら同時に再生する技術。完全にダウンロードを待つ必要がなく、リアルタイムで視聴できるため、オンライン動画や音楽サービスで広く利用されています。