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映像につけるナレーションの文字数と読むスピード

更新日:10月25日

近年ではビジネスのPR映像を制作する場合、我々のような映像制作業者を使わず、企画・シナリオから撮影、編集まで、社内で行うことも多いことと思います。実際、我々の仕事も、クライアント社内で作成した企画・シナリオをもとに、撮影以降の作画、編集、録音といった工程をお手伝いすることが増えてきました。


なぜこのような変化が起きているのでしょうか。PRしたい商材やプロジェクトには、その開発や企画に至った経緯、他部署との関係性、取引先や市場の動向など、実にさまざまな事情に配慮する必要があるためです。これらの事情は外部の人間ではなかなかわからないこと、また説明しようとしても非常に難しいことが多いのです。だからこそ、「シナリオは自分でつくってしまおう!」という判断になるわけですね。



事情を説明するのは難しい


社内の複雑な事情を外部の人に正確に説明するためには、まず、さまざまな背景や関係性を整理して明文化する作業が必要になります。そしてそれ以前に、もっと重要な工程として、さまざまな事情に関する会社としてのコンセンサスを形成する手続きも必要です。この初期段階から外部業者を交えると、説明のための資料作成や認識のすり合わせなどで、さらに作業量が増えて大変になってしまいます。このプロセスを自社内で完結できれば、おそらく1ヶ月以上はプロセスを短縮できるに違いありません。時間的にも、コスト的にも、大きなメリットがあるのです。



情報量が多すぎる問題


ところが、社内でシナリオを作成するとき、よく起こる問題があります。それは、情報がてんこ盛りになって映像の時間(尺)が当初の想定を遥かに超えてしまうことです。社内の事情をよく知るが故に「これは入れなければ誤解を招く」「これは切れない重要事項だ」「これは言わないと関係者に申し訳ない・・・」と、どんどん文章が増え、結果として尺が伸びてしまうのです。内部事情に精通しているからこその、ジレンマとも言えるでしょう。



読みを速くしてはダメ


全体の尺を短くしたい、あるいはカットシーンの一コマにナレーションが収まらないときに、「読み方を速くしてしまえば収まるだろう!」という考えだけは、絶対に起こさないでください。これは最も避けるべき選択肢です。


シナリオを書いた本人は内容を完全に理解できていても、視聴者は初見(初耳?)なのです。ですから、NHKのアナウンサーのように、ゆっくりと、噛んで含めるくらいのスピードでなければ、人は言葉や文脈が頭に入りません。アナウンサーの喋りがあれほどゆっくりなのには、明確な理由があるのです。早口言葉を練習するのは滑舌を良くするためであって、決して速く喋るための訓練ではありません。もし字余りしてしまうならば、文章そのものを短くするか、映像の尺を長くするか、どちらかしか方法はありません。


映像につけるナレーションの文字数と読むスピード
映像につけるナレーションの文字数と読むスピード

適切な文字数は1分間に250〜300文字です


これは具体的にどのくらいの分量かというと、「400字詰め原稿用紙」に、「文の頭は1文字下げる」とか「文脈を区切る時は改行する」という基本的なルールを守って書いたくらいの文字数です。つまり、かなりスッカスカに感じる原稿です。この原稿を人の耳にしっかり届くように読むと、だいたい1分になるのです。


人の脳みそは、これ以上の速度での理解スピードをもっていません。ですから、これを超えるペースでナレーションを詰め込むと、せっかく言いたい、伝えたいと思っている言葉が、ぜんぜん視聴者に伝わらなくなってしまいます。通常のPRビデオにおいては、「ナレーションは1分に250〜300文字」というのは、守るべき不文律と考えてください。



視聴離脱はどうして起こるのか


「動画は短尺に」と言われる昨今、もうひとつよく行われる施策が「無駄な言葉を省く」というものです。しかし、これは映像業界外の一般世間でよく勘違いされているのですが、そもそも短尺にしたい理由は、長すぎるために視聴者が途中で離脱してしまうことを避けるためです。


ところが、ナレーションから無駄を省く、つまり重要な情報(商品名やスペック、価格など)だけを残すと何が起こるかというと、ストーリーが完全に無くなってしまいます。ストーリーのないPR動画は、情報の並列的な列挙となり、視聴者はすぐに飽きて視聴離脱してしまうのです。短尺に収めるために情報だけを残した結果、かえって離脱を招くという、まさに本末転倒な事態になってしまいます。




まとめ:伝わる映像制作こそが大切


社内でPR映像のシナリオを作成するとき、最も陥りやすい罠は「情報を詰め込みすぎること」とです。しかし、PR映像制作において重要なのは、視聴者の理解速度に合わせることです。

もしシナリオが予定の尺に収まらないのであれば、それは情報設計を見直すべきサインです。本当に伝えるべき核心は何か、ストーリーでどう視聴者を引き込むか。こうした本質的な問いに向き合うことで、単に短いだけでなく、心に残るPR映像が生まれます。


完璧な映像を作ろうとするあまり、すべての情報を盛り込もうとする気持ちはよくわかります。しかし、映像制作の醍醐味は、限られた時間の中で、いかに効果的にメッセージを届けるかという挑戦にあります。制約の中で最高の表現を追求する。それこそが、プロとアマチュアの違いなのかもしれません。



【執筆者プロフィール】

株式会社SynApps 代表取締役/プロデューサー。名古屋を中心に、地域企業や団体のBtoB分野の映像制作を専門とする。プロデューサー/シナリオライターとして35年、ディレクター/エディターとして20年の実績を持つ。(2025年10月現在)

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