「利用の壁」を打ち破り国産材利用を復興:日本の林業の現況と課題に対する映像提案
- Tomizo Jinno

- 11月11日
- 読了時間: 10分
はじめに
今回は「林業」を考えます。
現代社会では第2次産業(製造業)、第3次産業(サービス業)、第4次産業(情報産業)が注目されがちですが、農業・林業・漁業・鉱業からなる第1次産業こそが、すべての産業と社会の基盤となっています。
なぜなら、第1次産業は自然から直接資源を採取・生産する唯一の産業だからです。人間の生存に不可欠な食料資源、工業製品の原材料となる鉱物資源、エネルギー資源、木材や繊維などの天然素材まで、あらゆる産業活動の出発点となる資源を供給しています。
つまり、第2次産業以降のすべての産業は、第1次産業が提供する原材料なしには成立し得ないのです。
特に今日、国際関係の不安定化により物資の流通にゆらぎが生じている状況において、自国の第1次産業の重要性は一層高まっています。資源の安定供給は国家安全保障の根幹であり、第1次産業の強化は国家の自立と国民生活の安定に直結します。
加えて、適切な資源管理により環境保全と国土保全の役割も果たしています。
このように、不確実性が増す現代だからこそ、第1次産業はすべての産業と私たちの生活を支える不可欠な存在として、国民すべてがその価値を再認識すべきです。私たち映像制作会社は、映像の力を通じて第1次産業の現場を伝え、その価値と重要性を広く社会に発信することで、この再認識を支援します。
目次
1. 林業が日本経済・社会に果たす多面的機能
2. 報告書の目的と構造
1. 木材自給率の回復トレンドと市場動向
2. 公共建築物等における木材利用推進策と成功事例
3. 林業従事者の高齢化と人材確保の必要性
1. 林業の構造的課題:専門性の高いノウハウの共有不足
2. 課題の根源と映像介入の論点整理
3. 映像制作会社が担うべき役割の特定
1. 映像制作戦略の基本方針
2. 【人材採用・定着支援】(全産業共通:ネガティブイメージ払拭と技能継承)
提案1:ハイブリッド・リアリティ・リクルートメント動画
提案2:技能継承のためのVR/AR教育コンテンツ
3. 【ブランディング・市場開拓支援】
提案3:機能的価値訴求プロモーション(林業・建築分野向け)
出典一覧

I. 序論
1. 林業が日本経済・社会に果たす多面的機能
林業は、国民生活に不可欠な木材資源の供給源であるという基本的な役割に加え、国土保全、水源涵養、生物多様性の維持、および地域文化・景観の維持といった多面的な機能を担っています [1]。これらの非市場的価値を持つ機能は、生産活動が持続することで初めて維持されるものであり、現在の第一次産業の生産基盤の停滞や耕作放棄地の増加は、これらの公益的な機能が失われるという社会全体のリスクを増大させています [1]。
2. 報告書の目的と構造
本報告書は、日本の林業が直面する構造的課題を詳細に調査・分析し、その解決に向けて映像制作会社が提供可能な具体的な戦略的ソリューションを提案することを目的としています。
II. 林業の現況調査と構造的課題の明確化
1. 木材自給率の回復トレンドと市場動向
日本の林業は、国産材利用の復興傾向が見られます。2020年の木材自給率は41.8%に回復し、48年ぶりに40%台を達成しました [5]。この回復は、国産材活用の拡大、バイオマス発電燃料の需要増加、および「ウッドショック」による輸入停滞が複合的に影響した結果であると分析されています [5]。
この自給率の回復は歓迎すべき動向ですが、長期的な林業の持続可能な発展のためには、需要の「質的な転換」が必要です。すなわち、単なる燃料としての利用に留まらず、高付加価値な建築材として、木材の機能的・構造的価値を最大限に活かした利用の定着が求められています。
2. 公共建築物等における木材利用推進策と成功事例
国土交通省は、公園整備や河川事業などにおいて木材利用を積極的に推進しています [3]。特に注目すべきは、大規模な建築物における木材利用を阻む法規上の課題を克服した事例です。
熊本県立球磨工業高等学校の事例では、規模の大きな校舎を全て木造とした場合の耐火建築物の要件に対し、中央部分に鉄筋コンクリート造の校舎を挟むことで「別棟解釈」を適用しました [2]。これにより、木造部分を耐火・準耐火とする必要がなくなり、部材の断面が小さい一般流通材の活用が可能となった結果、材料費を抑えつつ地元木材の活用につながりました [2]。
この成功事例は、木材利用の促進が技術や材料の問題だけでなく、法規を遵守しつつも創造的に設計する「設計者の知恵」に大きく依存していることを示唆しています。この技術的・法規的ノウハウが、建築業界全体に十分に共有されていないことが、更なる木材利用拡大を阻む「利用の壁」となっているのです [2]。
また、木材は資材以上の多機能性を持っています。沖縄のような湿度の高い気候においても、内装の木質化が調湿作用を発揮し、適度な湿度環境を確保するだけでなく、床の結露防止にも効果があることが確認されています [2]。これらの機能的な優位性を、データと事例に基づき訴求する必要があるのです。
3. 林業従事者の高齢化と人材確保の必要性
林業も他の第一次産業と同様に、労働力不足と高齢化が深刻な問題です。林業の持続可能な発展のためには、伐採後の再造林を確実に進める必要があり、そのためには若年層の新規参入が不可欠です。従来の「きつい、危険」といったネガティブなイメージを払拭し、ICT化された現代的な林業、および環境貢献という社会的意義を強調した採用戦略の展開が求められています。
III. 課題構造分析と映像制作による介入可能性
1. 林業の構造的課題:専門性の高いノウハウの共有不足
林業が抱える課題は、「ヒト(人材)」と「情報(市場)」の側面に構造化できます。林業の課題の根源は、国産材利用を阻む技術的・法的なノウハウの伝達不足にあります [2]。特に、木造建築を拡大するためには、法規対応の成功事例や、木材の調湿効果などの機能的優位性を、建築家やエンドユーザーに対し、科学的根拠とともに戦略的に訴求する必要があるのです [2]。この専門性の高いノウハウの共有不足が「利用の壁」を形成しているのです [2]。
2. 課題の根源と映像介入の論点整理
産業 | 主要構造的課題(根源) | 映像制作が担うべき役割 | 具体的課題解決(論点) |
林業 | 専門性の高いノウハウの共有不足 [2] | BtoB向け技術的優位性の証明 | 大規模木造建築における法規対応の設計ノウハウを業界内に普及させる。 |
林業における映像介入の論点は、技術的・法的な専門知識を視覚化し、建築家、設計者、および公共発注者といった専門性の高いBtoB市場に対し、正確かつ戦略的に訴求することで、国産材の高付加価値利用を促進することです [2]。
3. 映像制作会社が担うべき役割の特定
映像制作会社は、林業の構造的な課題を深く理解し、そのコミュニケーションギャップを埋めるための戦略的ツールを提供する「戦略的ソリューションプロバイダー」としての役割を果たすべきです。具体的には、以下の3つの主要機能を果たします [2][6]。
啓発・教育機能: 複雑な技術や法規ノウハウを平易化し、利用の障壁を低減します [2]。
採用促進機能: 林業の現代的な魅力と労働の意義を伝え、人材確保を支援します [6]。
ブランド構築機能: 製品の付加価値(機能性、環境貢献)を市場に訴求し、新規市場開拓を支援します [2]。
IV. 映像ソリューション提案:課題解決に特化したコンテンツ戦略
1. 映像制作戦略の基本方針
映像ソリューションは、ターゲットとするステークホルダーによって訴求内容を明確に区分する必要があります。
求職者(若年層・移住希望者)
映像は、労働環境の過酷さではなく、ICT化された現代的な側面、環境貢献という社会的意義を伝えることに焦点を当てるべきです [6]。
取引先/専門家(BtoB/BtoG)
技術的優位性、具体的な成功事例、科学的なデータに基づく機能性、および法規的な課題克服ノウハウの解説に特化した、専門性の高いコンテンツを提供します [2]。
制作されたコンテンツは、採用イベント、企業公式サイト、SNSを通じてリーチを最大化します [6]。専門性の高いコンテンツは、建築関連の展示会や、設計事務所への提案資料としての活用が重要となります。
2. 【人材採用・定着支援】(全産業共通:ネガティブイメージ払拭と技能継承)
提案1:ハイブリッド・リアリティ・リクルートメント動画
林業の仕事の「きつさ」を隠蔽するのではなく、それを上回る「働く意義」と「現代的な魅力」を訴求します。再造林や持続可能な森林管理に取り組む若手・新規参入者に密着し、彼らの挑戦、技術活用(ドローン、高性能林業機械)、そして地域経済・環境貢献するリアリティを描きます。これにより、仕事への情熱と活気のある職場環境 [6] を伝え、ネガティブな労働イメージを払拭し、特に若年層の入社意欲を高めます。
提案2:技能継承のためのVR/AR教育コンテンツ
熟練林業家の伐採技術や、高性能林業機械の操作ノウハウなど、身体知を伴う技能をVR/AR技術を用いて再現します。360度カメラで撮影された現場映像を活用することで、学習者は現場にいるかのような感覚で、繰り返し安全に技術を習得できます。これにより、従来の非効率な技能継承の課題を軽減し、効率的な世代間継承を可能にします。
3. 【ブランディング・市場開拓支援】
提案3:機能的価値訴求プロモーション(林業・建築分野向け)
林業における付加価値を最大化するため、木材の機能的優位性(調湿作用、結露防止、防災機能) [1][2] を科学的データと実際のユーザー(学校、公共施設 [3])の体験談を通じて訴求するBtoBコンテンツを制作します [2]。
さらに、大規模木造建築を阻む「利用の壁」を打ち破るため、熊本県立球磨工業高等学校の事例で適用された「別棟解釈」 [2] のような、法規をクリアしつつコストを抑える設計ノウハウを、建築家やエンジニア向けに詳細に解説する専門動画を制作・流通させます。これにより、国産材の高付加価値利用を促進します。
V. 結論:林業の持続可能性に貢献する映像戦略
映像制作会社が日本の林業に提供できる支援策は、単なる広報活動の枠を超え、構造的な課題の解決、すなわち生産性の向上と市場価値の再構築に直接的に貢献する戦略的ツールです。
映像は、情報、教育、および感情の三層において、林業が抱える最も根深い「人材不足」「専門ノウハウの伝達不足」という課題を克服するための強力な武器となります。特に、木材の機能的優位性や、大規模木造建築を可能にする法規対応ノウハウを専門家間で共有する技術啓発コンテンツは、国産材の需要拡大と高付加価値化に決定的な役割を果たします [2]。
映像制作会社は、この戦略的提案を実現するため、クライアントが活用可能な公的な支援制度との連携を提案し、自治体や建築設計事務所との協力を積極的に図ることで、地域課題解決の核となるソリューションプロバイダーとしての地位を確立できます。この戦略的な映像介入を通じて、日本の林業のレジリエンス(回復力)と持続可能性の確保に貢献することが可能になります。
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【この記事について】
本記事は、名古屋の映像制作会社・株式会社SynAppsが執筆しました。私たちは「名古屋映像制作研究室」を主宰し、各業界の知見を収集・分析しながら、企業が抱える課題を映像制作の力で支援することを目指しています。BtoB領域における映像には、産業ごとの深い理解が不可欠であり、その知識と経験をもとに制作に取り組んでいます。
【執筆者プロフィール】
株式会社SynApps 代表取締役/プロデューサー。名古屋を中心に、地域企業や団体のBtoB分野の映像制作を専門とする。プロデューサー/シナリオライターとして35年、ディレクター/エディターとして20年の実績を持つ。
出典一覧
引用ID | 出典情報 |
[1] | 第一次産業の多面的機能(国土保全、防災機能) https://regionalstrategy-lab.com/industry-manufacturing-worldbank/ |
[2] | 大規模木造建築の成功事例(熊本県立球磨工業高等学校の「別棟解釈」)、木材の機能性(調湿作用、結露防止) https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/mokuzai/__icsFiles/afieldfile/2014/07/25/1349367_01.pdf |
[3] | 公共建築物等における木材利用推進策(国土交通省の取組事例) https://www.mlit.go.jp/tec/content/001712966.pdf |
[5] | 木材自給率の回復トレンド(41.8%に回復)、ウッドショックの影響 https://www.rinya.maff.go.jp/j/rinsei/singikai/attach/pdf/220907se-3.pdf |
[6] | 採用ブランディング事例(働く社員の個性や情熱、職場環境を伝える動画の活用) https://emeao.jp/ikkatsu-column/company-introduction-video-examples/ |




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