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「消費の壁」を乗り越えブルーエコノミーへ:日本の漁業の現況と課題に対する映像提案

はじめに


今回は「漁業」を考えます。

現代社会では第2次産業(製造業)、第3次産業(サービス業)、第4次産業(情報産業)が注目されがちですが、農業・林業・漁業・鉱業からなる第1次産業こそが、すべての産業と社会の基盤となっています。

なぜなら、第1次産業は自然から直接資源を採取・生産する唯一の産業だからです。人間の生存に不可欠な食料資源、工業製品の原材料となる鉱物資源、エネルギー資源、木材や繊維などの天然素材まで、あらゆる産業活動の出発点となる資源を供給しています。

つまり、第2次産業以降のすべての産業は、第1次産業が提供する原材料なしには成立し得ないのです。


特に今日、国際関係の不安定化により物資の流通にゆらぎが生じている状況において、自国の第1次産業の重要性は一層高まっています。資源の安定供給は国家安全保障の根幹であり、第1次産業の強化は国家の自立と国民生活の安定に直結します。

加えて、適切な資源管理により環境保全と国土保全の役割も果たしています。


このように、不確実性が増す現代だからこそ、第1次産業はすべての産業と私たちの生活を支える不可欠な存在として、国民すべてがその価値を再認識すべきです。私たち映像制作会社は、映像の力を通じて第1次産業の現場を伝え、その価値と重要性を広く社会に発信することで、この再認識を支援します。


目次

1. 漁業が日本経済・社会に果たす多面的な機能

2. 報告書の目的と構造

1. 水産資源の変動と持続可能な漁業への転換

2. 気候変動による魚種変化と消費者行動の課題(消費の壁)

3. スマート漁業・養殖業におけるICT活用事例と技術的ボトルネック

1. 漁業の構造的課題:市場の硬直化と技術の現場落とし込み

2. 課題の根源と映像介入の論点整理

3. 映像制作会社が担うべき役割の特定

1. 映像制作戦略の基本方針

2. 【人材採用・定着支援】(全産業共通:ネガティブイメージ払拭と技能継承)

提案1:ハイブリッド・リアリティ・リクルートメント動画

提案2:技能継承のためのVR/AR教育コンテンツ

3. 【スマート技術導入・効率化支援】

提案3:ローカル・テック・チュートリアル(技術的ボトルネック解消)

提案4:技術デモンストレーション・ケーススタディ動画(BtoB/自治体向け)

4. 【ブランディング・市場開拓支援】

提案5:食の未来ドキュメンタリー:気候変動適応と消費文化の再構築

出典一覧


大漁旗を掲げる日本の小型漁船


I. 序論


1. 漁業が日本経済・社会に果たす多面的な機能


漁業は、国民生活に不可欠な食料資源の安定供給という基本的な役割に加え、生態系の保全や海域環境モニタリング、海難救助機能、国境監視ネットワークの維持、そして地域社会・文化の形成といった多面的な機能を担っています [1][7]。これらの非市場的価値を持つ機能は、水産業・漁村の活動が持続することで初めて適切かつ十分に発揮されるものであり、その生産基盤の停滞は、これらの公益的な機能が失われるという社会全体のリスクを増大させています [1]。


2. 報告書の目的と構造


本報告書は、日本の漁業が直面する構造的課題を詳細に調査・分析し、その解決に向けて映像制作会社が提供可能な具体的な戦略的ソリューションを提案することを目的としています。



II. 漁業の現況調査と構造的課題の明確化


1. 水産資源の変動と持続可能な漁業への転換


日本の水産業は、資源量の変動や海洋環境の変化に対応し、持続可能な漁業の実現を目指しています。これは、資源の枯渇を防ぎつつ、経済的な発展を目指す「ブルーエコノミー」の実現と密接に関わる概念です [8]。漁業を中心とした持続可能な社会を目指すこの取り組みは、国内ではまだ認知が広がり切っていない状況にあります [8]。


2. 気候変動による魚種変化と消費者行動の課題(消費の壁)


水産業が直面する構造的な課題として、気候変動への適応と市場の非適応性とのミスマッチが挙げられます。地球温暖化の影響により、各地の漁場ではこれまで水揚げされなかった魚種が増加し、逆に伝統的な魚種が減少する現象が起きています(例:北海道でサケに代わってブリが多く獲れるようになった) [9]。


漁業者は環境変化に対応して漁獲対象を変えていますが、市場(消費者)側には大きな障壁が存在します。消費者は「見慣れない」魚種を敬遠し、結果として、年越しの食材として輸入サケを選ぶといった、慣習的な購買行動を維持しています [9]。これは、漁業者が資源変動に適応し、持続可能な利用を目指す努力が、最終的な市場において経済的価値として評価されにくい「消費の壁」を形成していることを示しています。漁業経営を持続可能にするためには、新しい魚種の認知度向上、調理法の普及、そして食味の優位性を効果的に訴求するマーケティング戦略が不可欠となります [9]。


3. スマート漁業・養殖業におけるICT活用事例と技術的ボトルネック


水産業分野においても、ICTを活用したスマート化が進行しています。具体的な事例としては、ドローンによる空撮とAI(機械学習)を用いた有害赤潮のリアルタイム判別システム [4]、サバ養殖の効率化、牡蠣養殖の事業化 [3]、そして給餌作業の効率化による負担軽減 [3] などがあります。


しかし、これらの高度な技術の現場導入にはボトルネックが存在します。最大の課題は、技術がまだ成熟しておらず、全国12万人の漁師の現場に落とし込めていない点にあります [8]。技術的な要件として、円滑な情報連携手段の確保、そして海洋環境特有の課題として、耐塩性や耐水性に優れた安価なハードウェア、および情報ネットワークの整備が求められています [4]。この技術提供側と現場利用側の要求仕様のミスマッチを解消し、技術の現場での有効性を検証するためには、テクノロジー企業、ベンチャー企業、地場の企業、自治体/有識者間の連携を促進するための「共通の情報基盤」が必要です [4]。



III. 課題構造分析と映像制作による介入可能性


1. 漁業の構造的課題:市場の硬直化と技術の現場落とし込み


漁業が抱える課題は、「情報(市場)」と「モノ(技術)」の側面に構造化できます。漁業の課題の根源は、消費者の慣習的な行動による市場の硬直化と、持続可能性に関する概念(ブルーエコノミー [8])の認知不足にあります [9]。また、スマート技術の導入が進んでいるにも関わらず、その技術が全国の漁師の現場にまで落とし込めていない点が最大の課題です [8][4]。


2. 課題の根源と映像介入の論点整理

産業

主要構造的課題(根源)

映像制作が担うべき役割

具体的課題解決(論点)

漁業

気候変動適応と消費文化のミスマッチ [9]

新規市場の創出・文化啓発

未利用魚の付加価値化、食育、持続可能性の国際的な訴求。


映像介入の論点は、温暖化に対応して魚種を変更するなどの漁業者の努力 [9] や、持続可能な資源管理(海のエコラベル [8])の取り組みが消費者には認知されていない、というコミュニケーションギャップを埋めることです。新しい地場魚種の食育・レシピ動画を通じて消費文化を創造し、さらに資源管理への取り組みを国際基準で紹介することで、国内外でのブランド価値を向上させることです [9]。


3. 映像制作会社が担うべき役割の特定


映像制作会社は、漁業の構造的な課題を深く理解し、そのコミュニケーションギャップを埋めるための戦略的ツールを提供する「戦略的ソリューションプロバイダー」としての役割を果たすべきです。具体的には、以下の3つの主要機能を果たします [8][9][4][6]。


  1. 啓発・教育機能: 複雑な技術やノウハウを平易化し、技術導入の障壁を低減します [4]。

  2. 採用促進機能: 漁業の現代的な魅力と労働の意義を伝え、人材確保を支援します [6]。

  3. ブランド構築機能: 製品や生産活動の付加価値(環境貢献、機能性)を市場に訴求し、新規市場開拓を支援します [9]。



IV. 映像ソリューション提案:課題解決に特化したコンテンツ戦略


1. 映像制作戦略の基本方針


映像ソリューションは、ターゲットとするステークホルダーによって訴求内容を明確に区分する必要があります。


消費者/一般層

安心・安全、環境負荷の低さ、食育、地域文化の維持といった多面的な価値を伝えるドキュメンタリーやCMが有効です [9]。


取引先/専門家(BtoB/BtoG)

技術的優位性、具体的な成功事例、および円滑な情報連携を促進するためのコンテンツを提供します [4]。


制作されたコンテンツは、採用イベント、企業公式サイト、SNSを通じてリーチを最大化します [6]。特に、技術啓発コンテンツについては、技術の検証・導入を主導する自治体、有識者、テクノロジー企業などのネットワーク [4] を活用し、オフライン視聴可能な形態も含めて現場への浸透を図る戦略が重要となります。



2. 【人材採用・定着支援】(全産業共通:ネガティブイメージ払拭と技能継承)


提案1:ハイブリッド・リアリティ・リクルートメント動画


漁業の仕事の「きつさ」を隠蔽するのではなく、それを上回る「働く意義」と「現代的な魅力」を訴求します。持続可能な資源管理に取り組む若手・新規参入者に密着し、彼らの挑戦、技術活用(ドローン、ICT)、そして地域経済に貢献するリアリティを描きます。これにより、仕事への情熱と活気のある職場環境 [6] を伝え、ネガティブな労働イメージを払拭し、特に若年層の入社意欲を高めます。


提案2:技能継承のためのVR/AR教育コンテンツ


熟練漁師の網さばきや漁のノウハウなど、身体知を伴う技能をVR/AR技術を用いて再現します。360度カメラで撮影された現場映像を活用することで、学習者は現場にいるかのような感覚で、繰り返し安全に技術を習得できます。これにより、高齢者層が抱えるITリテラシーへの不安や、複雑なマニュアルを読む負担を大幅に軽減し、技能の形式知化と効率的な世代間継承を可能にします。



3. 【スマート技術導入・効率化支援】


提案3:ローカル・テック・チュートリアル(技術的ボトルネック解消)


スマート漁業の具体的な技術操作(例:センサーデータの入力、有害赤潮のリアルタイム判別システム [4])を、対象地域の漁師でも直感的に理解できるよう、極めて平易な言葉と視覚的な構成で解説します。海洋環境特有の課題である耐塩性・耐水性 [4] を考慮したハードウェアの扱いを含めて解説することで、導入の初期段階における障壁を解消し、技術の現場での定着を強力に後押しします。


提案4:技術デモンストレーション・ケーススタディ動画(BtoB/自治体向け)


新規技術導入の投資対効果を具体的に示すためのコンテンツを制作します。サバ養殖の効率化 [3] やヒラメ陸上養殖 [3] において、ICT技術導入前後で、給餌作業の負担軽減、コスト削減、収益性の向上といった定量的な変化をデータとインフォグラフィックで可視化します [3]。これらの動画は、技術提供者、地域課題解決を目指す地場企業、および導入を検討する自治体や漁協などのステークホルダー [4] 間で、技術の有効性を検証し、円滑な情報連携と投資判断を促進するための共通言語として機能します。



4. 【ブランディング・市場開拓支援】


提案5:食の未来ドキュメンタリー:気候変動適応と消費文化の再構築


温暖化によって水揚げが増加した新魚種(例:北海道のブリ [9])に焦点を当て、消費者が抱く「見慣れない」という心理的障壁を打破する戦略的ドキュメンタリーを制作します。漁師が環境変動に適応するストーリー、そして一流シェフによる新しい魚種の革新的な調理法の提案と食味の魅力を伝えます [9]。このコンテンツは、食育の場や小売店の鮮魚コーナーでのプロモーション、SNSでのレシピ共有を通じて流通させ、漁業の持続可能な取り組み(ブルーエコノミー [8])と、家庭の食卓の未来を繋げ、新しい消費文化の創造を目指します。



V. 結論:漁業の持続可能性に貢献する映像戦略


映像制作会社が日本の漁業に提供できる支援策は、単なる広報活動の枠を超え、構造的な課題の解決、すなわち生産性の向上と市場価値の再構築に直接的に貢献する戦略的ツールです。


映像は、情報、教育、および感情の三層において、漁業が抱える最も根深い「市場の硬直化」「技術導入の壁」という課題を克服するための強力な武器となります。特に、環境適応と資源管理への努力を市場に訴求するブランディングコンテンツは、生産側の努力が市場に経済的価値として反映される仕組みを構築します [9]。


映像制作会社は、この戦略的提案を実現するため、自治体や技術ベンチャーとの協力を積極的に図ることで、地域課題解決の核となるソリューションプロバイダーとしての地位を確立できます [4]。この戦略的な映像介入を通じて、日本の漁業のレジリエンス(回復力)と持続可能性の確保に貢献することが可能になります。


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【この記事について】

本記事は、名古屋の映像制作会社・株式会社SynAppsが執筆しました。私たちは「名古屋映像制作研究室」を主宰し、各業界の知見を収集・分析しながら、企業が抱える課題を映像制作の力で支援することを目指しています。BtoB領域における映像には、産業ごとの深い理解が不可欠であり、その知識と経験をもとに制作に取り組んでいます。


【執筆者プロフィール】

株式会社SynApps 代表取締役/プロデューサー。名古屋を中心に、地域企業や団体のBtoB分野の映像制作を専門とする。プロデューサー/シナリオライターとして35年、ディレクター/エディターとして20年の実績を持つ。

株式会社SynApps 会社概要はこちら → [当社について] [当社の特徴] [当社の実績]


出典一覧

引用ID

出典情報

[1]

第一次産業の多面的機能(国土保全、防災機能) https://regionalstrategy-lab.com/industry-manufacturing-worldbank/

[3]

スマート養殖事例(ヒラメ陸上養殖の効率化、給餌作業の効率化)、ICT活用事例(サバ養殖の効率化、牡蠣養殖の事業化) https://www.jfa.maff.go.jp/j/kenkyu/pdf/attach/pdf/sf_hrb-73.pdf

[4]

ICT活用事例(有害赤潮リアルタイム判別システム)、技術的ボトルネック(耐塩性・耐水性ハードウェア、ネットワーク)、連携の必要性(テクノロジー企業、自治体など) https://www.jfa.maff.go.jp/j/kenkyu/pdf/attach/pdf/sf_hrb-15.pdf

[6]

採用ブランディング事例(働く社員の個性や情熱、職場環境を伝える動画の活用) https://emeao.jp/ikkatsu-column/company-introduction-video-examples/

[9]

気候変動による魚種変化(サケに代わってブリ)、消費者行動の課題(見慣れない魚の敬遠、輸入サケの選択) https://www.nippon-foundation.or.jp/journal/2025/112241/resource-depletion

[7]

水産業・漁村の多面的な機能(安定供給、生命・財産の保全、生態系の保全、交流の場の形成、漁業集落の活動、海難救助機能、海域環境モニタリング機能) https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/tamenteki/attach/pdf/index-3.pdf

[8]

ブルーエコノミーの概念、スマート漁業技術の未成熟さ(現場への落とし込みの課題) https://fisheryjournal.jp/79262/

[10]

漁業の多面的な機能(自然観の形成機能、教育機能、魚食文化の継承機能) https://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/shimon-19-1-2.pdf


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