ペッパーズ・ゴースト
「ペッパーズ・ゴースト(Pepper's ghost)」とは、背景の前に置いたハーフミラーに映像を投影することで、まるで虚像がそこにあるかのように見せる特殊な映像演出装置を指します。博物館や資料館などの、展示施設などで「映像展示」として使われる「展示映像」の技術のひとつです。
1980、90年代には「マジックビジョン」「ファンタスビジョン」とも呼ばれ、これらの用語は、それぞれこの映像展示を企画した人たちが主張したネーミングと言われています。
「ペッパーズ・ゴースト:Pepper's ghost」の由来はこちらを参照ください。
箱物行政時代に盛んに
1980年代から90年代に箱物行政が盛んだった頃、日本中で博物館や資料館が建設され、その展示方法のひとつとしてよく採用されました。
展示テーマの背景をジオラマや描き割で置き、観客との間に設置したハーフミラー(半透過鏡)に、床面(あるいは天面)に置いたモニターの映像を反射させます。こうすることで、観客からはジオラマの中に映像が浮いているように見えます。映像の多くは、キャラクターが喋りながら状況解説するものでした。
ジオラマや描き割だけでなく、什器の制作、キャラクターのクロマキー撮影など、大掛かりな制作プロジェクトになるため、大きな予算を獲りやすかったことが、この展示映像が流行った理由でもありました。
陳腐化・故障・更新不能
この時代のビデオ技術は、NTSC(SD)の時代でしたので、解像度も悪く、アスペクト比も4:3という、非常に制約が多い(キャラクターの芝居範囲、表現が狭くなる)ものでした。やがてハイビジョンの時代が来ると、画像品位の陳腐化が著しくなると同時に、改修、更新するにも、装置がすべてカスタマイズされているため、事実上改修、更新は不可能でした。
バブル崩壊、公共施設の管理費削減のため、この時代の展示は「一代限り」のもとして消えていきました。
新しい時代のペッパーズ・ゴースト
現在は高解像度モニター(プロジェクター)も普通に利用できますので、キャラクターの演出も多彩になりました。
大阪ガス科学館 「エネルギーマジカル劇場 ~エネルギーについて学ぼう
また、3DCG技術の普及高度化、低価格化も手伝って、映像化できるテーマの範囲も広がりました。さらには、この仕組みをステージ上で再現できる装置をパッケージで販売(レンタル)する事業を展開している会社もあるようです。この会社は、「ペッパーズ・ゴースト技術によるホログラム」と表現してます。さらにはこれを「3D映像」と表現している人もいます。
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【関連情報】
1. プロジェクションマッピング
建物や立体物、空間などに映像を投影し、あたかもそのものが動いているかのように見せる技術です。大規模な空間全体を演出できるため、エンターテイメント性の高い体験を提供できます。歴史的建造物や展示物自体に、その歴史や背景を示す映像を投影することで、より物語性を高めることができます。
例
博物館の壁面全体に、過去の街並みや自然の風景を映し出し、タイムスリップしたような感覚を演出する。
展示されている骨格標本に、生きていた頃の姿を投影し、動きを再現する。
2. VR(バーチャルリアリティ)
ヘッドマウントディスプレイなどを装着することで、仮想空間に入り込んだような体験ができる技術です。現実には存在しない場所や、過去の出来事を仮想的に体験できます。危険な場所や、実際に立ち入ることが難しい場所(宇宙空間、深海、遺跡の内部など)を安全に探索できます。
例
恐竜が生きていた時代の環境を360度で体験し、恐竜の生態を学ぶ。
歴史的な建造物が完成した当時の姿をVRで再現し、その中を自由に歩き回る。
国立科学博物館の「おうちで体験!かはくVR」のように、自宅から展示室をバーチャル体験できるサービスも増えています。
3. AR(拡張現実)
現実世界にデジタル情報を重ね合わせて表示する技術です。スマートフォンやタブレットのカメラを通して見ることが多いです。現実の展示物に、解説動画や3Dモデルを重ねて表示することで、より詳細な情報を提供できます。インタラクティブな要素を取り入れやすく、来館者が能動的に展示を楽しめます。
例
展示されている化石にスマートフォンをかざすと、生きていた頃の恐竜の姿がARで表示される。
古い絵画にARアプリをかざすと、その絵画が描かれた背景や画家についての解説動画が流れる。
東京国立博物館のガイドアプリ「トーハクなび」のように、ARマーカーにカメラをかざすとバーチャルの人物が現れて解説してくれるものもあります。
4. ホログラム
レーザー光線などを用いて、実物のように立体的な像を空間に再現する技術です。物理的な実物がなくても、立体的な展示物を提示できます。透明感のある映像で、幻想的な雰囲気を演出できます。
例
展示室に実物大の歴史上の人物をホログラムで登場させ、語りかけさせる。
失われた文化財の復元像をホログラムで展示する。
群馬県立歴史博物館では、埴輪の3Dホログラムを展示しています。
5. 全天周映像・ドームシアター
ドーム型のスクリーン全体に映像を投影することで、来館者が映像に包み込まれるような体験ができるシステムです。視野全体が映像で覆われるため、非常に臨場感があります。宇宙や自然現象など、広大なスケールのテーマに適しています。
例
プラネタリウムでの星空解説だけでなく、宇宙の誕生や地球の歴史などを迫力ある映像で体験させる。
日本科学未来館のドームシアターなどが代表的です。
6. マルチディスプレイ/大型LEDビジョン
複数のディスプレイを組み合わせたり、非常に大きなLEDスクリーンを使用したりして、高精細で迫力ある映像を表示する技術です。高解像度で鮮明な映像を提供でき、細かい情報も伝達できます。視覚的なインパクトが大きく、多くの来館者の注目を集めます。
例
展示物の詳細な拡大映像や、関連資料、CGアニメーションなどを大画面で表示する。
デジタルサイネージとして、展示物の解説やインタラクティブな情報提供に活用される。

