ビジネス映像制作における試写スタイルの変化がもたらしたこと
- Tomizo Jinno

- 10月15日
- 読了時間: 4分
近年の「試写」にまつわる変化
映像制作の現場では、ここ数年で「試写」のスタイルが完全に変わりました。以前は、完成映像をみんなで集まって一緒に観るのことも多かったのですが、現在では動画データをWEB上で共有し、担当者や上司の方々がそれぞれの都合の良い時間に視聴される、という形がほとんどになってしまいました。
この変化には制作側としても感じることが多く、良い点もあれば、少し寂しい点もあります。ここでは、そんな「試写」スタイルの変化から見える、制作現場のリアルをご紹介しようと思います。
①感想を言っていただけない
まず感じるのが、「感想を言っていただけない」ことです。
これは少し説明しないと誤解されそうですが、「何も言われない=問題がない」「つまり非常に良い」というケースが多いのです。
なぜ感想を控えられるのかというと、「自分は良いと思うけれど、上司や会社が後で『ダメだ』と言った時に、前言撤回になっては困るから」という理由が多いようです。なるほど、企業の中での意思決定プロセスを考えれば、確かにうなずける話です。
ただ、私たち制作サイドからすれば、「私は良いと思う」とその一言をいただけるだけでも、実は大変ありがたいのです。
まず「当方の方向性に間違いがなかった」と確認できるからです。
その上で、後から会社のご意見が変わったとしても、それはそれ。
私たちは「話が違うじゃないですか!」なんて言いません。
むしろ、会社の方針変更や上司の判断も当然あると理解していますし、可能な限り対応させていただきます。
ですので、どうぞ遠慮なく、「良い」「少し違う」など率直な感想を口にしていただければと思います。制作側としては、その一言が次のステップへ進む大きな指針になるのです。
②一緒に視聴しない
もうひとつの大きな変化は、「一緒に観なくなった」ことです。
クラウドやファイル転送サービスの普及によって、動画データをオンラインで共有し、各自が好きな時間・場所で視聴できるようになりました。
これは効率面では大きな進歩です。試写のためにスケジュールを合わせたり、編集後に何日も寝かせたりする必要がなくなり、制作期間を短縮できるというのは、クライアント・制作会社双方にとってメリットです。
ただし、制作側の本音を言えば――お客様の表情が見えないのは、やっぱり心細いのです。どんな表情で観ているのか、どのシーンで笑ってくれたのか、あるいは首を傾げたのか。そうした反応が見えない状態でフィードバックを待つのは、なかなか落ち着かないものです。
同席が当たり前だった時代の試写
かつての試写は、まさに「真剣勝負の場」でした。
クライアント、広告代理店、制作会社、それぞれの担当者と上司が一堂に会し、暗い試写室で映像を観ながら、プロデューサーやディレクターが額に汗をにじませて説明をする。
「ここはこういう意図でこうしました」「ここはまだ仮のナレーションです」
そんなやりとりが飛び交いながら、お互いの理解を深めていく。いま思えば、あれは単なる確認作業ではなく、“共同作業”の延長線上だったのかもしれません。
その分、昔の初回試写はかなりラフでも通りました。ナレーションや音楽、テロップが入っていなくても、「まだ途中なんですね」と理解してもらえたのです。
ところが、現在のように「送りっぱなし」「解説なし」「制作者不在」で視聴される場合、お客様は非常に冷静に、完成品としての映像を評価されます。そのため、私たち制作側も「初回からほぼ完成形」に近い状態で見ていただくよう心掛けるようになりました。
制作スタッフも人間
私たちは、自分たちなりに「これが一番良い」と思うシナリオを作り、「最高の表現」を目指して撮影し、編集しています。もちろん、最終的にはお客様のために、喜んでいただくために全力を尽くしています。時には夜を徹して作業することもあります。
だからこそ、初回試写の瞬間というのは、毎回ものすごく緊張します。「この表現で合っていたかな?」「想定していたイメージとズレていないだろうか?」そんな不安を抱えながら、心の中で静かに反応を待っています。
ですので、どうかお願いです。「いい」でも「だめ」でも構いません。映像をご覧になった時の率直な感想を、表情や言葉で伝えていただけると本当に助かります。
良いのか悪いのかわからないまま次の作業に進むのは、方向性に自信が持てず、「もう一歩踏み込もう」というエネルギーがかけにくくなってしまうのです。逆に、明確な意見をいただければ、改善も深掘りもすぐにできます。
どうか、このあたり――少しだけご忖度いただければ幸いです。

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【執筆者プロフィール】
株式会社SynApps 代表取締役/プロデューサー。名古屋を中心に、地域企業や団体のBtoB分野の映像制作を専門とする。プロデューサー/シナリオライターとして35年、ディレクター/エディターとして20年の実績を持つ。(2025年10月現在)




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