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カメラが捉える人の目と異なる世界

更新日:4月3日

緑色がかった町工場


今朝、NHKの番組を視聴していると、町工場の職人にインタビューしている背景で、工場内部が緑色の世界になっていました。よく見るとインタビューを受けている人の髪の毛や作業服の一部も緑がかっていました。

実は、私も工場で撮影をする機会が多いので何度もこうした経験をしています。「色が正しくない映像」を「仕方がないものだ」とNHKも受け入れていることに少し安堵しました。もちろんNHKの番組はドキュメンタリーでしたので、加工していない状態での映像はむしろリアリティにつながっていたとも言えます。



正しくない映像にリアリティを感じる視聴者


ところでこの、カメラが捉えた世界が緑色になってしまう理由は、町工場に差し込む太陽光と天井の照明器具の、光の成分(スペクトル)が異なるためです。ビデオカメラは「ホワイトバランス」の調整を行うことで、どの光の下で見た白を白とするかを定義します。多くの場合、より光が強い太陽光にホワイトバランスを合わせますので、意図せず照明器具の緑の成分が強調され、緑色が被ってしまうわけです。性質(成分)が異なる光が混ざっていると、ホワイトバランスのとりようがありません。

これを避けるためには、撮影時にどちらかの光を遮るか、光源にフィルターをかけるという方法があるのですが、大規模な作業になるため現実的ではありません。そのため、NHKの番組だけでなく、私たちが制作するPRビデオでも、同様の状況で撮影された「緑色に染まった工場内」は頻繁に登場します。


そうすると、この基本的には現実を捉えていない、「正しくない映像」にリアリティを感じるという逆転現象が生じていることに気づきます。工場内の陰影がほんのり緑がかった映像が「いかにも町工場らしい映像」というリアリティです。

TheTechno
緑色がかった町工場



他にもある「正しくない映像」いろいろ



フリッカー現象は、交流電源を利用する照明の周期的な明滅と、カメラの露光タイミングのずれによって生じる映像のちらつきです。交流電源は、日本では50Hzまたは60Hzの周波数で電流が流れ、照明もこの周波数で明滅を繰り返します。人間の目は、この高速な明滅を認識できませんが、カメラのセンサーは捉えることができます。

カメラのシャッター速度が照明の明滅周期と同期しない場合、映像のフレームごとに照明の明るさが変動し、明暗の縞模様やちらつきとして現れます。特に、蛍光灯やLED照明は、従来の白熱電球に比べて明滅の周期が速いため、フリッカー現象が発生しやすい傾向があります。

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フリッカー


ローリングシャッター現象とは、CMOSイメージセンサーを用いたカメラで発生する、動体撮影時に画像が歪む現象です。ヘリコプターやセスナ機のプロペラがグニャリと曲がったまま回転しているように見える、あれです。

従来のCCDセンサーがフレーム全体を同時に露光するグローバルシャッター方式であるのに対し、CMOSセンサーはライン単位で順次露光を行うローリングシャッター方式を採用しています。この方式では、センサーの読み出し速度よりも被写体の動きが速い場合、画像の上部と下部で時間差が生じ、歪みが発生します。

例えば、高速で移動する電車を撮影すると、実際には直線である車体が斜めに傾いて写ったり、回転するプロペラが湾曲して映ったりします。また、ストロボ撮影時に画像の一部が暗くなる現象も、ローリングシャッターによる時間差が原因です。

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ローリングシャッター現象

  1. モアレ(moiré)


モアレ現象とは、規則的な模様やパターンが重なり合う際に発生する、縞模様や干渉模様のことです。テレビ放送がSDだった時代には、ニュースキャスターが縞模様の服装をすることが御法度だったのは、このためです。

モアレが発生する主な原因は、2つの模様や配列のパターンがわずかにずれて重なり合うことで、それぞれのパターンが干渉し合い、新たな模様を生み出すためです。例えば、カメラで細かい模様の布を撮影すると、布の模様とカメラの撮像素子の画素配列が干渉し、本来ない縞模様が現れることがあります。また、ディスプレイで高周波の映像を表示する際にも、ディスプレイの画素配列と映像の周波数が干渉し、モアレが発生することがあります。

モアレ
モアレ

  1. スミヤ(smear)


高輝度な被写体を撮影した際に、その光がフィルムの感光層内や撮像素子内で溢れ出し、垂直方向に線状のノイズとして現れる現象です。今は主にCCDイメージセンサーで発生し、CMOSセンサーでは発生しにくいとされています。

CCDセンサーでスミヤが発生する原因は、その構造にあります。CCDセンサーは、光を電気信号に変換するフォトダイオードと、電荷を転送する垂直転送CCDで構成されています。強い光がフォトダイオードに入射すると、そこで発生した電荷が飽和し、垂直転送CCDに溢れ出してしまいます。この溢れ出した電荷が、垂直方向に線状のノイズとして現れます。

スミヤは、太陽光や、夜間に車のヘッドライトを撮影した場合などに、光が縦方向に長く伸びる現象として見られます。

スミヤ
スミヤ

  1. メガネに映る青い灯体


近年盛んなインタビュー撮影は、企業の会議室やオフィスの打合せテーブルで行うことが多いですが、こうした場所は外光(太陽光)を遮ることが難しく、影が強くでます。そこで撮影用の照明器具を使います。そうすると、灯体がインタビューを受ける人のメガネに映ることがあります。照明器具は太陽光とのずれが無いよう色温度を調整するのですが、特にIT企業で働く人の多くがブルーライトカットレンズ(青い光だけカット=反射する)の眼鏡をしているため、メガネに鮮やかなブルーの灯体が浮かび上がるのです。これ、人間の目には白く見えるため、反射角度さえ調整すれば気にならないことが問題です。現場でモニターを出しながら収録していれば気づくのですが、カメラの小さなファインダーだけを見て撮影していると、時々見逃してしまいます。

ブルーライトカットレンズ
ブルーライトカットレンズに映る緑の灯体

PR映像における「正しくない映像」の扱い


では、我々、PRや広告のための映像づくりにおいて、こうした正しくない映像=映像データの不具合をどう捉えるべきでしょうか。微妙な問題だと思います。

こういう技術的な理由で撮影された正しくない映像ですが、やりようによっては回避する技術や高額な修正法はあるものの、その映像の効果対費用・時間とのバランスから「仕方がない」ものとして世間に出回ります。「現実ではないものを捉えた映像」ですから、初めてこういう映像を見た人は違和感をもつかも知れませんが、それも度重なり、別の機会にも視聴する機会があると、やがて人は「これはこういうものだ」と受け入れるようになります。映像技術のマジックです。



映像技術マジックとして演出材料


さらに、「こういうものを撮影すると、こうなる」という学習機能によって、論理が逆転して「緑色に染まった工場=町工場」「歪んだプロペラ=高速回転」「差し込むスミヤ=夏本番」という意味を表現する素材にもなるのが、こうした映像技術マジックの面白いところです。

ただしフリッカーやモアレ、メガネレンズに映る青い灯体は、回避する技術や選択肢が用意されていることが多いので、定着しずらく、演出材料にはなりにくいです。


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