ジャンプカットの牢獄からモンタージュの扉を開けよう
- Tomizo Jinno
- 6月24日
- 読了時間: 8分
更新日:6月25日
まず、毎日膨大な素材と向き合い、視聴者を飽きさせないよう一秒一秒を吟味しながら編集作業に取り組むYouTube動画編集の皆さんの努力に、心から敬意を表します。
ジャンプカットとテロップ入れ、これらは確かに現在のWEB動画制作において欠かせない技術です。視聴者の離脱を防ぎ、情報を効率的に伝える。決して軽視されるべき技術ではありません。しかし今日は皆さんに、もう一つの扉についてお話ししたいと思います。それは「モンタージュ」という、映像制作の深淵に触れる表現技法への扉です。
※この文章は、弊社宛に「動画編集します」と営業メールをくださる人・動画編集で思うように先が見通せない人のために書きました。
あなたたちは既に「意味」を作っている
実は皆さんは日々の編集作業の中で、すでにモンタージュの片鱗を体験しています。YouTuberが話している映像から突然商品のクローズアップに切り替わる瞬間―その瞬間、視聴者の心の中では何かが起こっています。「この人がこの商品を大切に思っているんだ」「これは特別な商品なんだ」という理解が、言葉による説明なしに生まれています。これが、モンタージュの最も基本的な力です。
ジャンプカットは時間を短縮しますが、その過程で皆さんは無意識のうちに「意味の選択」を行っています。どの瞬間を残し、どの瞬間を切り取るか。その選択自体が映像の意味を決定づけています。只の画像に「新たな意味を加えている」のです。

「効率」から「深み」へ、感動と共感を生み出すモンタージュの力
YouTubeの世界では「効率」が重視されます。いかに短時間で多くの情報を伝えるか、いかに視聴者を引きつけ続けるか。これらは確かに重要な要素です。
しかしモンタージュを学ぶことで、皆さんは「効率」を保ちながら「深み」を加えることができるようになります。
なぜある映像は私たちの心を激しく揺さぶり、別の映像は素通りしてしまうのでしょうか。技術的に完璧で美しい映像であっても、観る者の心に深く刻まれない作品がある一方で、一見シンプルな映像でありながら、観終わった後も長く心に残り続ける作品があります。
この違いを生み出している最も重要な要素の一つが、モンタージュです。
感情は「間」に宿る
人間の感情は、実は映像そのものではなく、映像と映像の「間」に生まれます。一枚の写真がいくら美しくても、それだけでは物語は生まれません。しかしその写真の前後に別の映像を配置した瞬間、そこに時間の流れが生まれ、変化が生まれ、そして感情が生まれます。
例えば子どもの笑顔の映像を考えてみてください。それ単体では「可愛い」という印象にとどまるかもしれません。しかしその直前に母親が心配そうに見つめている映像を置くと、その笑顔は「安堵」や「愛情」を表現するものになります。一方、病院のベッドの映像の後に子どもの笑顔を置くと、それは「回復への希望」や「生命力」を表現するものになります。
映像素材は全く同じでも、モンタージュによって全く異なる感情的意味が生まれるのです。

記憶と感情の操作術
モンタージュが強力なのは、それが人間の記憶と感情のメカニズムを直接的に利用するからです。私たちの脳は前のカットの記憶を保持したまま次のカットを処理し、その間に無意識的な関連付けを行います。この認知プロセスを理解することで、映像制作者は観客の感情を精密に誘導することができます。
「インサイド・ヘッド」(2015)では、主人公ライリーの記憶の球体が色あせていくシーンで、幸せな過去の記憶映像と現在の寂しげな表情を交互に映すことで、観客自身の失われた記憶への郷愁を呼び覚まします。これは単に「悲しい場面」を描写しているのではなく、観客一人ひとりの個人的な記憶と共鳴させることで、普遍的な感動を生み出しています。
時空の伸縮による感情の増幅
モンタージュは時間と空間の感覚を自由に操作します。同じ10秒間でも、短いカットを次々と繋げれば緊張感と興奮を、長回しのカットを使えば静寂と重厚感を演出できます。この時空感覚の操作が、観客の感情状態をコントロールします。
「ダンケルク」(2017)では、海上、陸上、空中という三つの異なる空間で進行する物語を、モンタージュによって一つに収束させていきます。それぞれ異なるテンポで進行していた物語が、クライマックスで同じリズムに合流する瞬間、観客は計り知れない緊張と解放を体験します。これは脚本や演技だけでは決して達成できない、モンタージュならではの感情的効果です。
感動の持続性
モンタージュによって生み出された感動は、単発的なものではなく、観客の記憶に長く残り続けます。なぜならそれが観客自身の認知プロセスを通じて「発見」された感動だからです。制作者から一方的に与えられた感情ではなく、映像を見る過程で観客自身が「見つけた」感情は、より深く、より持続的なものになります。
優れた映像作品を見終わった後、なぜか胸に残り続ける感情、時間が経ってもふと思い出してしまう映像の断片―これらはすべて、巧妙に設計されたモンタージュが観客の心の深層に刻み込んだ痕跡です。
モンタージュは映像制作者が持つ最も強力な武器の一つです。それは技術的な操作を超えた、人間の心に語りかける映像言語です。

モンタージュの基本原理と種類
モンタージュには様々な手法があります。代表的なものを紹介しましょう。
対比モンタージュ
相反する要素を並置することで強いインパクトを生む技法です。豪華な食事の映像の直後に空の皿を映すことで、格差や欠乏を表現できます。
並行モンタージュ
同時に起こっている複数の出来事を交互に見せることで、緊張感や関連性を生み出します。
象徴モンタージュ
抽象的な概念を具体的な映像で表現する技法です。鳥の飛翔映像で自由を、時計の映像で時間の経過を表現します。
感情モンタージュ
登場人物のクローズアップや特定の感情を想起させるショットの連続で、視聴者の感情を伝えます。
リズムモンタージュ
カットの長さやテンポを調整することで、映像全体に音楽的なリズム感を与えます。

モンタージュ習得のための実践的アプローチ
第一段階:観察と分析
現代の優れた映像作品を意識的に分析してください。一つのシークエンスを選び、各カットがなぜその順序で配置されているか、なぜその長さなのか、前後のカットとどのような関係性を持っているかを分析してください。メモを取りながら、同じシーンを複数回視聴することが重要です。
第二段階:制約条件での創作練習
限られた素材を使って、異なる感情や意味を表現する練習を行います。例えば同じ10個のカットを使って、「希望」「絶望」「緊張」「安らぎ」という4つの異なる感情を表現してみてください。使用する素材は同じでも、順序、長さ、トランジションを変更することで、全く異なる印象を作り出せることを実感できます。
第三段階:素材の意味的関係性の理解
映像素材を集める際に、その素材が持つ「意味的可能性」を意識してください。一つの映像は複数の意味を持ち得ます。花の映像は美しさを表現できると同時に、儚さ、新しい始まり、自然の力強さなど、様々な概念と結びつくことができます。
第四段階:感情曲線の設計
物語や説明の流れを「感情曲線」として設計し、それに合わせてモンタージュを構成する練習をします。視聴者の感情がどのように変化していくかを事前に設計し、それを実現するためのカットの組み合わせを考案します。
結び
職業映像制作者にとって、モンタージュは必須の技法です。それは単なる編集技術ではなく、視聴者の心に語りかける映像言語の文法です。
この技法を利用することで、皆さんの映像作品は確実に新しい次元へと、階段を登るはずです。しかし肝心なことは、あなた自身があなたの感情や感覚を信じ、それを伝えたいと願う熱意です。そして、視聴者への信頼です。
「どうせ離脱されるし」
「どうせ倍速再生されるし」
「映像に意味を持たせることに意味があるのか?」
今は、そう反論する人が大勢います。
しかし、そこでとどまっている限りステップアップはありません。
映像の可能性は無限です。モンタージュという素敵な道具を手に入れることで、その無限の可能性を現実のものとしてください。
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