母集団形成の最前線:「待ち」から「攻め」へ進化する採用マーケティング【連載 Vol.1】
- Tomizo Jinno

- 3 時間前
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はじめに
かつて、企業の採用活動といえば、大手求人媒体に広告を出し、応募者が来るのを待つスタイルが主流でした。しかし、生産年齢人口の減少と働き方の多様化により、この「待ち」の姿勢だけでは優秀な人材に出会うことが困難な時代が到来しています。
今求められているのは、マーケティング思考を取り入れた「攻め」の母集団形成です。現代の採用担当者が押さえておくべき広報・集客のチャネルと、その本質的な活用戦略について考えます。
1. 多様化する採用チャネルの最適解
「どこに求人を出せばいいのか?」という問いに対し、唯一の正解はありません。重要なのは、自社が欲しいターゲット層(ペルソナ)が普段どこに生息し、どのような情報を求めているかに合わせた「メディアミックス」です。
① 求人広告媒体:依然として強力な認知の入り口
リクナビ、マイナビ、Greenなどの掲載型メディアは、依然として母集団形成のベースです。しかし、単に掲載するだけでは埋もれてしまいます。
近年では、Indeedや求人ボックスといった「求人特化型検索エンジン(アグリゲーションサイト)」の台頭が著しく、SEO(検索エンジン最適化)の知識が採用担当者にも求められています。「どんなキーワードで検索されるか」を徹底的に分析し、原稿を運用・改善していく姿勢が不可欠です。
② ダイレクトリクルーティング:潜在層への一点突破
「いい人がいれば転職したい」と考えている潜在層や、希少なエンジニア、ハイクラス層には、求人広告は届きません。そこで主流となっているのが、BizReach(ビズリーチ)、LinkedIn、Wantedly、OfferBoxなどのデータベースに対し、企業が直接スカウトを送る「ダイレクトリクルーティング」です。
ここでの勝負は「特別感」です。定型文のコピー&ペースト(一斉送信)は見抜かれます。「あなたの経歴のここが、弊社のこの課題解決に必要です」という、1to1の熱量あるラブレターだけが、心を動かすことができます。
③ 採用サイト・LP制作:情報の「受け皿」を磨く
どんな経路で興味を持ったとしても、候補者は必ず企業の公式サイトや採用サイトを訪れます。ここで「情報が古い」「スマホ対応していない」「魅力が伝わらない」状態であれば、離脱されてしまいます。
最近のトレンドは、動画をファーストビューに使った没入感のあるサイトや、特定の職種・プロジェクトに特化した「採用LP(ランディングページ)」の制作です。企業のブランド価値を直感的に伝え、応募ボタンを押す心理的ハードルを下げる設計が求められます。
④ SNS採用・イベント:カルチャーフィットを醸成する
Instagram、TikTok、YouTubeなどのSNSは、企業の「日常」や「空気感」を伝えるのに最適です。飾らない社員の姿やオフィスの様子を発信することで、求職者は自分が入社した後の姿を想像(シミュレーション)できます。
また、合同説明会や逆求人フェスなどのイベントは、リアルな接点を持つ貴重な場です。オンライン全盛だからこそ、オフラインでの対話や熱量が差別化要因となります。
2. 「数」より「質」への転換:採用ブランディング
母集団形成において最も危険な罠は、「エントリー数(母集団の大きさ)」だけをKPI(重要業績評価指標)にしてしまうことです。
誰でもいいから集めようとすれば、「アットホームな職場です」「残業なし」といった耳障りの良い言葉ばかりが並びます。その結果、自社のカルチャーに合わない人材からの応募が殺到し、選考工数がパンクするだけでなく、入社後のミスマッチ(早期離職)を引き起こします。
ここで重要になるのが「採用ブランディング」です。
これは、単におしゃれなロゴやパンフレットを作ることではありません。「自社は何のために存在し、どこを目指しているのか」「どんな苦労があるが、どんな喜びが得られるのか」という、企業のアイデンティティを言語化・ビジュアル化することです。
強固な採用ブランドは、フィルターの役割を果たします。「この理念に共感できない人は応募しなくていい」というスタンスを明確にすることで、数は減っても、熱量の高い、自社にマッチした人材だけを集めることが可能になります。
3. SynApps's Insight:AI時代の母集団形成はファン作り
採用広報の本質は、「集客」ではなく「ファン作り」にシフトしています。
テクノロジーの進化により、求職者は企業の評判(クチコミサイト等)を簡単に調べられるようになりました。嘘や誇張はすぐに露見します。だからこそ、「RJP(Realistic Job Preview:現実的な仕事情報の事前開示)」が重要になります。
「うちは成長スピードが速い分、変化についていくのが大変です」
「制度はまだ整っていませんが、自分たちで作る面白さがあります」
このように、ネガティブな側面も含めて誠実に情報開示を行う企業に対し、求職者は信頼を寄せます。そして、「その課題を一緒に解決したい」と思ってくれる人こそが、貴社が真に求める人材であるはずです。
母集団形成とは、単に人を集める作業ではなく、「未来の仲間に対する最初のプレゼンテーション」です。
ツールや手法は進化し続けますが、その根底にある「自社のありのままの魅力を、それを必要とする人に正しく届ける」という情熱こそが、成功の鍵を握っています。
【次号予告】
次回のテーマは、集めた母集団をどう見極め、効率的に選考を進めるか。
「② 選考プロセスの効率化・質向上(TechとTouchの融合)」について、ATS(採用管理システム)の活用法やAI面接、そして面接官トレーニングの重要性を掘り下げます。
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【この記事について】
本記事は、名古屋の映像制作会社・株式会社SynAppsが執筆しました。私たちは「名古屋映像制作研究室」を主宰し、各業界の知見を収集・分析しながら、企業が抱える課題を映像制作の力で支援することを目指しています。BtoB領域における映像には、産業ごとの深い理解が不可欠であり、その知識と経験をもとに制作に取り組んでいます。
【執筆者プロフィール】
株式会社SynApps 代表取締役/プロデューサー。名古屋を中心に、地域企業や団体のBtoB分野の映像制作を専門とする。プロデューサー/シナリオライターとして35年、ディレクター/エディターとして20年の実績を持つ。





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