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「入社」はゴールではない:早期離職を防ぎ、90日で戦力化するオンボーディング戦略【連載 Vol.4】

はじめに


「採用活動」のゴールはどこでしょうか? 内定でも入社でもありません。「入社した人材が定着し、成果を出して活躍すること」こそが真のゴールです。

しかし、多くの企業で入社後3ヶ月以内の「早期離職」が後を絶ちません。この期間は、新人が新しい環境に適応しようともがく、最も脆弱な時期です。ここで適切なサポート(オンボーディング)ができるかどうかが、その後の活躍を決定づけます。

第4回となる本記事では、精神論ではなく「仕組み」と「データ」で定着率を高める、現代のオンボーディング手法を考えます。



1. 仕組みによる「早期戦力化」のインフラ整備


「背中を見て覚えろ」という職人芸的な教育は、現代社会が求めるスピード感にはそぐいません。ツールを活用し、誰でも最短距離で業務を習得できる環境(インフラ)を整える必要があります。


① オンボーディングツールとタレントマネジメント


SmartHR、カオナビ、HRBrainなどのツールは、単なる人事データベースではありません。

新人のスキル、経歴、性格診断の結果などを現場マネージャーに共有することで、「どんな指導をすれば伸びるか」「誰と組み合わせれば相性が良いか」という戦略的な配置・育成が可能になります。また、入社手続きなどの事務作業をDX化することで、その分の時間を「対話」に充てることができます。



② 研修プログラムの標準化


業務知識やマナー研修に加え、e-learningや動画研修の導入が進んでいます。

基本的な知識を動画で予習・復習できる環境を作ることで、対面での研修(OJT)では「実践的な指導」や「フィードバック」に集中できます。これにより、トレーナー社員の負担を減らしつつ、教育の質を均一化できます。


孤立する女性社員



2. 心理的安全性を高める「居場所づくり」


新人が辞める最大の理由は「業務ができないこと」ではなく、「ここに自分の居場所がない(孤独感)」と感じることです。


① メンター制度:斜めの関係を作る


直属の上司や先輩(OJT担当)は、業務の指導者であるため、弱音を吐きにくい相手でもあります。

そこで、他部署の先輩社員を「メンター」として設定する制度が有効です。利害関係のない「斜めの関係」の相談相手がいることで、人間関係の悩みや漠然とした不安を解消し、心理的安全性を担保します。



② エンゲージメント診断:心の健康診断


「Wevox」や「Geppo」などのパルスサーベイ(簡易アンケート)を定期的に実施し、新人のコンディション変化を定点観測します。

「最近元気がないな」と気づいてからでは手遅れです。データの変化から離職の予兆(SOS)を早期に察知し、傷口が広がる前に1on1などのケアを行う「予防医療」的なアプローチが定着率を劇的に改善します。



3. SynApps's Insight:オンボーディングの敵は「リアリティ・ショック」


オンボーディング失敗の最大の要因、それは入社前のイメージと入社後の現実にギャップを感じる「リアリティ・ショック」です。

「自由な会社だと聞いていたのに、意外とルールが細かい」「裁量があると言われたが、最初は雑用ばかりだ」。こうした小さな失望の積み重ねが、早期離職の引き金になります。

これを防ぐためには、採用段階(①母集団形成)での「正直な情報開示」が不可欠ですが、同時に「オンボーディングを現場任せにしないこと」が重要です。


人事は「採用して終わり」にしがちですが、現場マネージャーは「忙しいのに新人の面倒まで見られない」と思っていることが多いものです。この認識のズレが新人を孤立させます。

オンボーディングは、人事と現場がタッグを組んで行う「総力戦」です。人事は現場マネージャーに対し、「新人の受け入れ方」や「フィードバックの技術」をトレーニングする責任があります。

「お客様」として入社してきた新人を、90日間で「かけがえのない仲間」へと変える。そのプロセスこそが、組織文化を強くする最大のチャンスです。


【次号予告】

採用難易度が高まる中、これら全ての業務を自社だけで完結させるのは限界に来ています。 次回は「⑤ 総合的な採用戦略・アウトソーシング」について。採用コンサルティングやRPO(採用代行)、外部プロ人材をどう活用し、経営戦略としての人事を構築するか、その全体像に迫ります。


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【この記事について】

本記事は、名古屋の映像制作会社・株式会社SynAppsが執筆しました。私たちは「名古屋映像制作研究室」を主宰し、各業界の知見を収集・分析しながら、企業が抱える課題を映像制作の力で支援することを目指しています。BtoB領域における映像には、産業ごとの深い理解が不可欠であり、その知識と経験をもとに制作に取り組んでいます。


【執筆者プロフィール】

株式会社SynApps 代表取締役/プロデューサー。名古屋を中心に、地域企業や団体のBtoB分野の映像制作を専門とする。プロデューサー/シナリオライターとして35年、ディレクター/エディターとして20年の実績を持つ。

株式会社SynApps 会社概要はこちら → [当社について] [当社の特徴] [当社の実績]



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