内定辞退をゼロへ:入社までの「空白」を埋める心理戦とクロージング術【連載 Vol.3】
- Tomizo Jinno

- 3 時間前
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はじめに
「内定を出した優秀な人材が、競合他社に行ってしまった」
「承諾してくれたはずなのに、入社直前で辞退連絡が来た」
これほど採用担当者の心を折る出来事はありません。現在のような売り手市場において、求職者は平均して2〜3社の内定を持っています。つまり、内定を出した後こそが、本当の意味での「自社を選んでもらうための戦い(クロージング)」の始まりなのです。
第3回となる本記事では、候補者が抱える「内定ブルー」を払拭し、確実に入社へと導くためのコミュニケーション設計とフォロー施策について考えます。
1. 「内定ブルー」の正体と継続的な接点構築
内定承諾後、候補者は喜びと同時に、「本当にこの会社でよかったのか?」「やっていけるだろうか?」という猛烈な不安(内定ブルー)に襲われます。この不安が増幅する最大の原因は、企業からの「連絡の空白期間」です。

① オウンドメディアでの「意味づけ」強化
選考中は企業の「良い面」を見ていますが、内定後はよりリアルな情報を求めます。
社員インタビュー記事、創業ストーリー、社内報の共有などのオウンドメディアコンテンツを定期的に送ることで、「自分が選んだ会社は間違っていない」という確信(意味づけ)を持たせ続ける必要があります。
メールマガジン形式で定期的に情報を届けるだけでなく、LINEやSlackのコミュニティ招待など、気軽に質問できるチャネルを開設する企業も増えています。
② 内定者フォローコンテンツ:動画と「形」に残るもの
テキストだけの連絡では感情が伝わりにくい場合があります。
動画メッセージ(社長や配属先メンバーからの「待ってるよ」動画)は、非常に強力な動機付けになります。また、「企業紹介ブック」や「カルチャーガイド」といった、冊子やPDFとして形に残る資料を渡すことも有効です。これらは候補者本人だけでなく、その家族(親や配偶者)を安心させるための「オヤカク(親確認)」ツールとしても機能します。
2. 「誰と働くか」を可視化するイベント企画
条件面での差別化が難しい場合、最終的な決定打になるのは「人」です。「この人たちと一緒に働きたい」と思わせることが、最強の辞退防止策となります。
① 懇親会・座談会:ヨコのつながりとタテの安心
内定者懇親会は、同期となる仲間との絆(ヨコのつながり)を作り、「自分は一人じゃない」という安心感を醸成します。
一方で、先輩社員との座談会(タテのつながり)も重要です。ここでは、キラキラした活躍社員だけでなく、あえて「入社1〜2年目で苦労している社員」や「等身大の先輩」を合わせることで、入社後のリアリティ・ショックを軽減し、具体的な働くイメージを持たせることができます。
② ワークショップ式オリエンテーション
単なる飲み会や食事会だけでなく、グループワーク形式のオリエンテーションを行う企業も増えています。
簡単な課題解決ワークなどを通じて、会社のカルチャーや仕事の進め方を体験してもらうことで、入社前の「お客様気分」から、徐々に「当事者意識」へとマインドを切り替えさせることができます。
3. SynApps's Insight:内定通知は「事務連絡」ではなく「ラブレター」であれ
多くの企業が見落としている「最大の演出ポイント」について提言します。
それは「オファーレター(内定通知書・労働条件通知書)の渡し方」です。
多くの企業が、給与や勤務地が書かれた書類を、事務的にメールや郵送で送るだけで済ませています。しかし、これは候補者にとって人生の岐路となる重要な書類です。
ここに、「オファーレターの別紙(手紙)」を添えることを強くお勧めします。
なぜ、数ある候補者の中からあなたを選んだのか。
あなたのどんなスキルや人柄に惚れ込んだのか。
あなたが入社することで、会社はどう変わると期待しているのか。
これらを、担当者や経営者の「生身の言葉」で綴った手紙です。
条件(給与)で選んだ会社は、より良い条件(給与)の会社が現れれば簡単にひっくり返されます。しかし、「自分への期待」と「感情」で選んだ会社は、簡単には揺らぎません。
最後の最後で人の心を動かすのは、ロジックではなく「あなたが必要だ」という熱烈なメッセージです。クロージングとは、説得することではなく、「相思相愛を確認し合う儀式」であるべきです。
【次号予告】
無事に入社を迎えても、そこで終わりではありません。実は、入社後3ヶ月(90日)が最も離職リスクが高い期間と言われています。
次回は「④ 入社・オンボーディング・定着支援」について。新人が早期に戦力化し、組織に馴染むための「受け入れの仕組み」と、HRツールを活用した定着支援の具体策に迫ります。
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【この記事について】
本記事は、名古屋の映像制作会社・株式会社SynAppsが執筆しました。私たちは「名古屋映像制作研究室」を主宰し、各業界の知見を収集・分析しながら、企業が抱える課題を映像制作の力で支援することを目指しています。BtoB領域における映像には、産業ごとの深い理解が不可欠であり、その知識と経験をもとに制作に取り組んでいます。
【執筆者プロフィール】
株式会社SynApps 代表取締役/プロデューサー。名古屋を中心に、地域企業や団体のBtoB分野の映像制作を専門とする。プロデューサー/シナリオライターとして35年、ディレクター/エディターとして20年の実績を持つ。




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