なめる
カメラと主要な被写体の間に意図的に別の要素を配置することで、画面に奥行き与える独特の構図法です。よく使われるのは「肩なめ」と呼ばれる技法で、前景に置いた人物の肩越しに主な被写体を収めることで、自然な距離感と空間的な広がりを表現します。被写体同士の関係性も暗示的に伝えることができます。
効果
位置関係の提示
なめる対象と、構図の主体との位置関係を示します。
奥行き感の演出
被写体の奥行きを強調し、立体的な映像表現に繋がります。
視線の誘導
視聴者の視線を、前景のオブジェクトからメインの被写体へと自然に誘導することができます。
ドラマチックな効果
フォーカスが移動する場合は、ドラマティックな印象を与え、視聴者の注目を集めます。
ミステリアスな雰囲気
フォーカスがぼやけている間は、メインの被写体が何であるか分かりづらく、ミステリアスな雰囲気を演出できます。
活用例
人物撮影
人物の顔にピントを合わせる前に、手前の髪やアクセサリーにピントを合わせることで、神秘的な雰囲気を演出できます。
商品撮影
商品の表面の質感や細部を強調したい場合に有効です。
風景撮影
遠景にピントを合わせながら、徐々に手前の花や木にフォーカスを移すことで、奥行きのある映像を撮影できます。
映像制作会社としての視点
「関係性の可視化」が「なめる」という行為の本質であり、この手法を採用する最大の理由です。単独のアップショットでは、「それがそれである」ことしか伝わりません。そこに別の何かを「なめる」ことで、「それがどうなのか」という文脈(ストーリー)が生まれます。
具体的にどのような関係性を示しているのか、よくあるパターンに分解してみると分かりやすくなります。
1. 人と人の「対話の力学」
内容: Aさんの肩をなめてBさんを撮る。
関係性: 「今、この二人は対峙している」という空間的なつながりを示します。手前の肩が画面にあることで、視聴者は「自分もその会話の輪のすぐそばにいる」という、当事者間の距離感を肌で感じることができます。
2. 人と物の「執着・関心」
内容: 積み上げられた資料の山をなめて、頭を抱える社員を撮る。
関係性: 単に「悩んでいる人」を撮るのではなく、手前に資料をなめることで、「悩みの原因(資料)」と「影響を受けている人(社員)」の因果関係を1枚の絵で説明できます。
3. 現在と未来(あるいは目的地)
内容: 窓枠やビルの影をなめて、その先の建設予定地を撮る。
関係性: 「ここ(現在地)」から「あそこ(目的地)」を見ているという視線のベクトルを示します。手前の物体が「フレーム(額縁)」の役割を果たし、「視線の先にあるものがいかに重要か」という強調を生みます。
なぜ「なめる」必要があるのか?
もし「なめ」ずに別々に撮って編集で繋ぐと、視聴者の脳は「Aさんのカット」と「Bさんのカット」を頭の中で合成して関係性を理解しなければなりません。
しかし「なめーの」の構図であれば、一つの画面の中に「主体」と「客体」が共存しているため、説明不要で直感的に関係性が伝わります。
つまり1カットで見せる「モンタージュ」とも言えます。
執筆者・神野富三
株式会社SynApps 代表取締役プロデューサー
大学時代のラジオ番組の構成演出に始まり、映像ディレクター・プロデューサーとして、40年以上の業界経験を基に映像業界に関する知見を発信しています。
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関連用語など
1. パンニング
「なめる」動きの代表的な手法の一つで、風景や動く被写体を追いかける際によく使用されます。スムーズな動きを実現するには、三脚の雲台の固さを適切に調整し、一定の速度で回転させることが重要です。特に広角レンズでは動きが目立ちにくく、望遠レンズでは動きが強調されるため、レンズの焦点距離に応じた速度調整が必要です。最後は必ず意味のある構図で止めることが基本とされています。
2. トラッキングショット
カメラを水平に移動させながら撮影する技法です。被写体に並走するように「なめる」ような動きで追従します。ドリーやスライダー、スタビライザーなどの機材を使用して、滑らかな動きを実現します。歩く人物に寄り添うように撮影したり、風景の中を移動していくような表現が可能です。移動速度の一貫性と、安定した水平維持が重要なポイントとなります。
3. クレーンショット
クレーンを使用して、カメラを上下左右に自由に移動させる撮影技法です。大きな空間を「なめる」ように移動しながら、ダイナミックな映像を作り出します。観客の視点を劇的に変化させることができ、場面の導入や盛り上がりのシーンでよく使用されます。操作には熟練の技術が必要で、クレーンオペレーターとカメラマンの緊密な連携が重要です。
4. ジンバル撮影
電動式の安定化機構を使用して、滑らかな動きを実現する撮影技法です。手持ちでも安定した「なめる」ような動きが可能で、特に狭い場所や複雑な動きが必要なシーンで重宝されます。最新のジンバルは高度な電子制御により、様々なカメラワークを一人で実現できます。ただし、機材のバランス調整や操作の習熟が必要で、バッテリー管理も重要な要素となります。

