「映像は情報量が圧倒的に多い」は本当ですか?
- Tomizo Jinno
- 9月6日
- 読了時間: 4分
更新日:10月25日
「映像は情報量が圧倒的に多い」という通説は、正確であり、同時に大きな誤解を含んでいます。なぜなら、映像の真の強みは「情報量の多さ」そのものではなく、複数の情報を組み合わせることで生まれる「伝達の強さ」にあるからです。
映像が持つ情報伝達の「多層性」
まず、映像が圧倒的な情報量を一度に伝達できる、という通説の根拠は以下の点にあります。
多次元的な情報
動画は、文字、画像、音声、音楽、時間軸といった複数の情報形式を同時に提供します。
視覚情報: 色、形、動き、空間、そして人物の表情や仕草といった非言語的情報。これらは文章では表現しきれない、ニュアンスや雰囲気を伝えます。
聴覚情報: BGM、効果音、そして話し手の声のトーンや抑揚。これらが映像に臨場感や感情的な深みを与えます。
時間軸: 出来事の進行や変化を、時系列に沿ってダイナミックに表現できます。
脳への同時的な働きかけ
映像と音声は、脳の異なる領域を同時に刺激します。これにより、単一の情報ソースよりも効率的に情報を処理し、記憶への定着も高まると言われています。
情報伝達の効率性
忙しい現代人にとって、短時間で多くの情報を視覚的に把握できる動画は、極めて効率的なツールです。また、文字を読めない人や言語の壁を越えて情報を届けるユニバーサルな力も持っています。
「情報過多」の罠と、真の強み
しかし、この「情報量」という言葉を額面通りに受け取るのは間違いです。
情報が多ければ多いほど、伝わる力が強くなるわけではないからです。
映像、文字、音声、音楽がそれぞれ全く異なる意図を持っていたら、視聴者は混乱し、何も理解できません。では、同じ意図の情報をただ4つ重ねたらどうなるでしょうか?
情報は「4倍」にはなりません。
情報はあくまでも「1」であり、その伝達の圧力が「4倍」になるのです。
これは、複数の楽器が異なるパートを奏でながら、一つの楽曲を創り上げるようなものです。それぞれが独立しながらも、互いを引き立て合い、響き合うことで、全体として一つの強力なメッセージを形成します。
優れた映像クリエイターは、この「共鳴の原理」を理解しています。本当に伝えたいメッセージを一つに絞り込み、それを補強するために映像、音、文字を効果的に配置する。情報一つひとつが互いに「水先案内人」となり、視聴者を自然に理解へと導くのです。
映像制作における「引き算」の重要性
この考え方は、BtoBの映像コンテンツ制作において特に重要です。
制作の過程で使われる絵コンテは、時に「情報過多」の罠を招くことがあります。 絵コンテにすべての情報が詰め込まれているからといって、「OK」を出してはいけません。なぜなら、絵コンテは静止画の羅列であり、本来の映像が持つ「時間」と「音」のダイナミズムを完全に表現することはできないからです。
プロのナレーターが、噛んで含めるように話すスピード。このスピードは、人が情報を無理なく理解できる、いわば「脳みそが心地よく歩く」速度です。良い映像とは、この理解の速度に合わせて、映像、文字、音楽が絶妙にアシストするものです。
優れた映像作品は、決して情報を詰め込みません。むしろ、余白や間を大切にし、視聴者の想像力を掻き立て、最も伝えたいメッセージを際立たせます。
映像は、「情報の量」ではなく「伝わる強さ」で勝負するメディアです。 複数の情報を有機的に組み合わせることで、たった一つのメッセージが、視聴者の心に深く、力強く刻まれるのです。

2025.9.6 改稿
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【執筆者プロフィール】
株式会社SynApps 代表取締役/プロデューサー。名古屋を中心に、地域企業や団体のBtoB分野の映像制作を専門とする。プロデューサー/シナリオライターとして35年、ディレクター/エディターとして20年の実績を持つ。(2025年10月現在)
