共済の仕組みと映像制作する時の注意点
- Tomizo Jinno
- 6 日前
- 読了時間: 14分
更新日:4 日前
BtoB映像制作会社のプロデューサー、シナリオライターが知っておきたいビジネス情報として「共済」を取り上げてみようと思います。その成り立ち・仕組みや、「保険」とは、どう違うのかといったことは、社会人としても、家庭人としても知っておきたいことです。
私は自らシナリオを書き、インフォグラフィックで共済商品の紹介動画を14本制作しました。その経験から共済は身近なものでありながら、さまざまな社会的な背景が見え隠れする、ちょっと興味深いものであることを知りました。そのさわりをご紹介します。
目次
1.1 共済の基本概念
1.2 保険との主な違い
1.3 共済の利点と不利な点
2.1 個人の生活に関わる共済
2.2 事業活動に関わる共済
3.1 「再保険」という形でのリスク引受
3.2 共済が「保険代理店」として保険会社商品を扱う仕組み
3.3 専門的なノウハウやシステムの提供
4.1 特定の「職業」を支える共済
4.2 特定の「目的」に特化した共済
4.3 共済の豆知識
5.1 厚生労働省が監督する共済
5.2 農林水産省が監督する共済
5.3 金融庁が監督する共済(特定保険業)
6.1 共済に適した人
6.2 保険が適している場合
7.1 相互扶助の精神を正しく伝える
7.2 保険との違いを明確にする
7.3 加入条件や制限事項の説明を丁寧に
7.4 セーフティネットの違いを正確に伝える
7.5 法的・倫理的配慮
7.6 改訂を想定したつくりにしておく
全トヨタ労働組合連合会「ゆうゆう共済」

1. 共済とは何か
「共済」とは、特定の地域や職域などに属する人々が互いにお金を出し合い、病気や災害、死亡といった万一の事態に見舞われた仲間を経済的に助け合う「相互扶助(そうごふじょ)」の精神で成り立っている仕組みです。
簡単に言うと、「みんなで少しずつお金(掛金)を集めておき、困った人が出たらそこからお金(共済金)を渡して助け合う」という、組合員による非営利の保障事業です。
1.1 保険との主な違い
共済と保険は、万一のリスクに備えるという点で似ていますが、その目的や仕組みにいくつかの違いがあります。
項目 | 共済 | 保険 |
目的 | 非営利(組合員の助け合い) | 営利(企業の事業活動) |
運営組織 | 協同組合(JA、生協、労働組合など) | 民間の保険会社 |
加入対象 | 組合員とその家族など(特定の範囲) | 不特定多数 |
用語 | 掛金(かけきん)、共済金(きょうさいきん) | 保険料(ほけんりょう)、保険金(ほけんきん) |
掛金/保険料 | 年齢や性別による差が少ない、または一律 | 年齢、性別、健康状態などのリスクに応じて変動 |
剰余金の還元 | 決算で余剰金が出ると「割戻金」として加入者に還元されることがある | 配当金付きの保険商品がある |
破綻時の保護 | 保護する仕組みは制度ごとに異なる | 「生命保険契約者保護機構」などにより一定額が保護される |
1.2 共済の利点と不利な点
利点
掛金が比較的割安
非営利事業であるため、一般的に民間の保険よりも手頃な掛金で加入できることが多いです。
仕組みがシンプルで分かりやすい
保障内容があらかじめパッケージ化されている商品が多く、保険の知識があまりなくても選びやすいです。
年齢による掛金の差が少ない
多くの共済では、一定の年齢層は掛金が一律になっており、若者でも年配者でも負担額が変わりません。
割戻金がある場合も
毎年の決算で余剰金が出れば、掛金の一部が「割戻金」として戻ってくることがあります。
加入時の条件が比較的緩やか
医師の診査が不要で、健康状態の告知のみで加入できる商品が多い傾向にあります。
不利な点
保障額が保険に比べて少なめ
手厚い保障を求める場合、共済だけでは不足する可能性があります。
商品の選択肢が少ない
パッケージ商品が中心のため、自分に合わせて保障内容を細かく設計する自由度は低めです。
高齢になると保障が手薄になる
一定の年齢を超えると保障額が減ったり、保障が終了したりする商品が多いです。
運営団体が破綻した場合の保護制度
生命保険契約者保護機構のような統一されたセーフティネットはありません。
2. 共済の主な種類
共済には、保障する対象によって大きく分けて「ひと」「いえ」「くるま」に関するものがあります。また、個人向けだけでなく、事業者向けの共済も存在します。
2.1 個人の生活に関わる共済
生命共済
死亡や後遺障害に備えるもの
医療共済
病気やケガによる入院・手術に備えるもの
火災共済・自然災害共済
火災や台風、地震などで建物や家財が受けた損害に備えるもの
自動車共済
自動車事故による損害賠償や自身のケガなどに備えるもの
主な運営団体:JA共済、こくみん共済 coop(全労済)、都道府県民共済、コープ共済など
2.2 事業活動に関わる共済
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)
取引先が倒産した際に、連鎖倒産などを防ぐための資金を借り入れできる制度
小規模企業共済
小規模企業の経営者や役員、個人事業主のための退職金制度
3. 保険会社との関係
共済と保険は成り立ちや目的が異なるため、保険会社が共済の経営や基本的な仕組み作りに直接参加することはありません。しかし、事業運営の安定化やサービスの多様化のために、間接的に、しかし非常に重要な形で関わっています。
3.1 「再保険」という形でリスクを引き受けている
これが保険会社と共済の最も重要な関わりです。
共済は、組合員から集めた掛金で万一の際の共済金を支払いますが、大地震のような広域災害が発生すると、支払う共済金が巨額になり、共済団体の経営だけでは支えきれなくなるリスクがあります。
そこで共済団体は、引き受けたリスクの一部を保険会社に「保険」として掛けています。 これを「再保険」と呼びます。
再保険の仕組み
組合員は共済団体に掛金を支払い、保障を得ます
共済団体は、万一のリスクに備え、集めた掛金の一部を保険料として**保険会社(再保険会社)**に支払います
大規模災害などが発生し、共済団体が多額の共済金を支払った場合、
保険会社(再保険会社)は、契約に基づいて保険金を共済団体に支払います
このように、保険会社は「保険の保険」のような役割を担うことで、共済の経営安定を裏側から支えています。これにより、共済団体は組合員に対して安定的に保障を提供できるのです。
3.2 共済が「保険代理店」として保険会社の商品を扱う
共済の保障はシンプルで分かりやすい反面、ラインナップが限られている場合があります。
そこで、共済だけではカバーしきれない組合員の多様なニーズに応えるため、共済組合自身が保険代理店となり、提携する保険会社の商品を販売することがあります。
この場合、保険会社は共済組合という販売チャネルを通じて自社の商品を提供しており、間接的に共済のサービス拡充に関わっていると言えます。
3.3 専門的なノウハウやシステムの提供
再保険の引き受けや、共済制度の設計に関するコンサルティングなど、保険・金融の専門知識を持つ企業(保険会社の子会社なども含む)が、共済団体に対して専門的なサービスを提供することもあります。
4. ユニークな共済の世界
一般的な生命共済や火災共済のほかにも、特定のコミュニティや目的に特化した、あまり知られていないユニークな共済が存在します。
4.1 特定の「職業」を支える共済
特定の職業に就いている人しか加入できない共済は、その仕事ならではのリスクやライフスタイルに寄り添った手厚い保障が特徴です。
トラック交通共済
運送業は事故のリスクが常に伴います。この共済は、トラック運送事業者のためのもので、対人・対物事故の保障はもちろん、荷物事故や燃料費高騰に対する見舞金制度など、事業そのものを支えるユニークな保障があります。まさに運送業界のセーフティネットと言えます。
教職員共済
先生とその家族のための共済です。一般的な死亡・医療保障に加え、結婚や出産、子どもの進学といったライフイベントごとにお祝い金が出るなど、福利厚生の色合いが強いのが特徴です。教育に携わる人々の生涯をサポートする仕組みです。
PTA・こども総合保険(共済)
PTAが運営主体となり、PTA会員(保護者や教職員)と、その子どもを対象とした共済です。PTA活動中に会員がケガをした場合の保障や、子どもが日常生活で他人にケガをさせたり、物を壊したりしてしまった際の個人賠償責任保障が手厚くなっています。
4.2 特定の「目的」に特化した共済
自治体の「交通災害共済」
お住まいの市区町村が運営していることが多い、非常に手頃な共済です。年間500円~1,000円程度の掛金で、交通事故(車だけでなく、自転車での転倒なども含む)でケガをして入院・通院した場合に、日数に応じた見舞金が支払われます。住民であれば誰でも加入しやすく、「ワンコインで入れるお守り」のような存在です。
火災共済の「類焼見舞費用共済金」
これは制度そのものではなく、多くの火災共済に含まれているユニークな保障です。もし自分の家が火元となって隣の家に燃え移ってしまっても、実は重大な過失がなければ法律上の賠償責任は問われません(失火責任法)。しかし、ご近所付き合いを考えると、何もしないわけにはいきません。この共済金は、そうした法律上の責任がない場合でも、お見舞いとして隣家などに支払われるものです。日本の「お互い様」という文化を反映した、共済らしい保障と言えます。
4.3 共済の豆知識
共済のルーツは江戸時代にある
現在の共済の原型は、江戸時代に存在した「頼母子講(たのもしこう)」や「無尽講(むじんこう)」だと言われています。これらは、村などの共同体でお金を出し合って積み立て、冠婚葬祭の費用にあてたり、お金が必要な人に融通したりと、仲間内で経済的に助け合う仕組みでした。この「相互扶助」の精神が、現代の共済にも受け継がれています。
5. 共済の監督体制
共済は、その根拠となる法律や事業の種類によって監督する省庁が異なります。主に厚生労働省、農林水産省、そして金融庁が監督を分担しており、それぞれ規制・監督の範囲も定められています。
5.1 厚生労働省が監督する共済
主に消費生活協同組合法(生協法)に基づいて設立された共済が対象です。これらは地域や職域の人々を組合員とする生活協同組合が行う共済事業です。
対象となる主な共済
こくみん共済 coop(全労済)
都道府県民共済・全国生協連
コープ共済
大学生活協同組合の共済
根拠法: 消費生活協同組合法(生協法)
規制・監督範囲
設立認可: 共済事業を始める際の認可を行います
事業の健全性確保:
財務の健全性: 責任準備金の積み立てや支払い余力(ソルベンシー・マージン比率)など、共済金の支払いが滞らないよう財務状況を監督します
商品の妥当性: 共済の掛金や保障内容が、組合員にとって不利益でないか、数理的に妥当かを審査・監督します
業務の運営指導:
募集活動の適正化: 強引な勧誘や不適切な説明が行われないよう、募集に関するルールを定めて指導します
情報開示: 事業の概況や財務状況などを組合員に適切に開示するよう指導します
法令遵守: 生協法やその他の関連法令が遵守されているか検査し、必要に応じて報告徴収や業務改善命令を出します
5.2 農林水産省が監督する共済
農業協同組合法(JA法)に基づいて、農業協同組合(JA)およびJA共済連が行う共済事業が対象です。
対象となる主な共済
JA共済
根拠法: 農業協同組合法(JA法)
規制・監督範囲
事業計画の認可: JA共済連の事業計画などを認可します
財務の健全性監督: 厚生労働省と同様に、責任準備金や支払い余力比率などを監督し、組合員の保護を図ります
業務の指導・検査:
JAおよびJA共済連に対し、法令等に基づいた適正な事業運営が行われているか、定期的に検査(農協検査)を行います
不祥事の防止や内部管理態勢の強化を指導します
都道府県との連携:
個別のJA(単位農協)の監督は、事業区域が都道府県内にある場合、都道府県知事が行います。農林水産省は、全国組織であるJA共済連を直接監督し、都道府県と連携してJAグループ全体の共済事業を監督する体制をとっています
5.3 金融庁が監督する共済(特定保険業)
2006年の保険業法改正により、これまで監督官庁のなかった一部の共済なども保険業法の規制対象となりました。これらのうち、保険会社とは異なる枠組みで事業を継続するものが「特定保険業者」として位置づけられ、金融庁の監督下にあります。
対象となる主な共済
主に企業の福利厚生制度の一環として行われる共済や、特定の団体内で行われる一定規模以上の共済などが該当します
認可特定保険業者として、特定の職域団体(例: 医師会、弁護士会など)が運営する所得補償や年金共済などがあります
根拠法: 保険業法
規制・監督範囲
認可・届出: 特定保険業を行うには、金融庁長官の認可(認可特定保険業者)または届出が必要です
保険業法に基づく監督:
財務の健全性: 保険会社に準じた財務基準の確保を求めます
情報開示: 契約者に対し、事業や財務に関する情報開示を義務付けています
募集・契約者保護: 保険募集に関するルール(意向把握義務、情報提供義務など)が適用され、契約者の利益保護を図ります
検査・監督: 金融庁による報告徴収や立入検査の対象となります
6. まとめ:どのような人に共済が向いているか
共済は、以下のような方に適していると言えるでしょう。
手頃な掛金で基本的な保障を確保したい方
保険の複雑な仕組みが苦手で、シンプルな保障を求めている方
すでに入っている保険に、少しだけ保障を上乗せしたい方
持病などがあり、民間の保険への加入が難しい方
一方で、家族構成やライフプランに合わせて手厚い保障をオーダーメイドで設計したい場合は、民間の保険が適している場合もあります。
共済と保険、それぞれの特徴を理解し、ご自身のニーズに合わせて賢く選ぶことが大切です。
7. 共済に関する映像制作で気をつけるべきこと
共済の映像制作においては、以下の点に特に注意を払う必要があります。
7.1 相互扶助の精神を正しく伝える
共済の本質は「相互扶助」にあります。単なる保険代替商品として紹介するのではなく、組合員同士が支え合う仕組みであることを、具体的なエピソードや事例を通じて分かりやすく伝えることが重要です。地域や職域のコミュニティの絆を強調し、営利目的ではない特性を明確にしましょう。
7.2 保険との違いを明確にする
一般視聴者にとって共済と保険の違いは分かりにくいものです。比較表や図解を活用し、目的、運営主体、加入対象、掛金体系などの違いを視覚的に分かりやすく説明することが必要です。特に「非営利」という点は重要なポイントです。
7.3 加入条件や制限事項の説明を丁寧に
共済は組合員という特定の範囲の人が対象であり、誰でも加入できるわけではありません。また、年齢制限や保障額の上限なども存在します。これらの制限事項について、視聴者が誤解しないよう丁寧に説明することが重要です。
7.4 セーフティネットの違いを正確に伝える
民間保険には生命保険契約者保護機構などの統一されたセーフティネットがありますが、共済にはそのような統一された保護制度がありません。この点について正確に説明し、視聴者が適切な判断ができるよう情報提供することが必要です。
7.5 法的・倫理的配慮
金融商品を扱う映像制作では、景品表示法、金融商品取引法、個人情報保護法などの関連法規を遵守する必要があります。
7.6 改訂を想定したつくりにしておく
法令改定や基準改定などにより、3つの監督省庁からは適宜通達や指導が入りますので、それに合わせて商品内容も改訂が必要になることをあらかじめ配慮しておく必要があります。あまりに複雑な編集や再現不能な表現は避けるべきです。同時に映像作成に使用した素材データは万全の体制で保管しておく必要があります。案外忘れがちなことが、シナリオの保管です。最新の版はもちろん、過去のデータも全て保管しておくと安心です。
名古屋の映像制作会社SynAppsは、共済商品のPRなどに精通したシナリオライターも在籍していますので、共済関係の映像制作をお考えの時は、ぜひご相談ください。
【制作事例】
全トヨタ労働組合連合会「ゆうゆう共済」
【執筆者】
本記事はこれまでにトヨタ自動車グループ、生活共同組合など、幅広い業界の共済PR動画を制作してきた、名古屋の映像制作会社 株式会社SynApps代表が執筆しました。
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