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エネルギー業界はどう変わるのか|AI時代の電力需要と脱炭素・安定供給

2026年8月改稿

本記事は2025年に公開しました。その後、第7次エネルギー基本計画が策定され、AI・データセンターなどによる電力需要の増加が現実的な課題として浮上してきました。2026年現在の状況を踏まえ、内容を全面改稿しました。



「電力需要は減っていく」という前提が変わった


日本では長い間、人口減少や省エネルギーの進展によって、将来の電力需要は減少していくと考えられてきました。実際、家庭部門を中心に電力需要は減少傾向をたどり、電力業界も大幅な需要増を前提としない時代が続いてきました。

ところが、その前提が変わり始めています。


大きな要因の一つが、AIをはじめとするデジタル技術の急速な普及です。生成AIを動かすためには膨大な計算処理が必要で、その処理を担うデータセンターは大量の電力を消費します。半導体工場の新設、EVの普及、製造工程の電化なども電力需要を押し上げます。

2025年に閣議決定された第7次エネルギー基本計画でも、DXやGXの進展によって今後の電力需要が増加する可能性が示されています。


これまでのエネルギー政策では、省エネルギーによって消費量を減らすことが重要なテーマでした。もちろん省エネの重要性がなくなるわけではありません。しかし、これからは省エネを進めながら、同時に増加する電力需要にも対応しなければならなくなります。


LNGタンカー


AIは大量の電力を使う


生成AIというと、コンピューターの中だけで完結するデジタル技術のように感じます。しかし、その基盤は非常に物理的です。


AIを動かすためには多数のGPUなどを備えたサーバーが必要で、それを収容する巨大なデータセンターが必要になります。サーバーそのものだけでなく、冷却設備も大量の電力を消費します。その電力を届けるためには、発電所、送電線、変電所などの電力インフラも必要です。

AIが社会へ広く普及するほど、それを支える物理的なエネルギー基盤も大きくしなければなりません。


しかもデータセンターでは、単に大量の電力があればよいわけではありません。24時間安定して供給されることが重要です。瞬間的な停電や電圧変動が大きな損失につながるため、供給の信頼性も求められます。

デジタル産業の競争力とエネルギー政策が、これまで以上に直接結びつく時代になってきました。



脱炭素と電力需要増を同時に解決する


ここに現在のエネルギー問題の難しさがあります。

AIやデータセンター、半導体工場、EV、製造業の電化によって電力需要は増える。一方、日本は2050年のカーボンニュートラルを目標としており、発電に伴うCO₂排出量は減らさなければなりません。


電力をもっと必要とする社会をつくりながら、同時にCO₂を減らす必要があります。

そのためには、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを増やすだけではなく、原子力、水力、蓄電池、送電網、需要側のエネルギーマネジメントなどを含め、電力システム全体を考える必要があります。


第7次エネルギー基本計画が、再生可能エネルギーか原子力かという二者択一ではなく、脱炭素電源を最大限活用する方向を示しているのもそのためです。


再生可能エネルギーには天候によって発電量が変化するという特性があります。発電量が多い場所と電力を必要とする場所が離れていることもあります。発電設備を増やすだけでなく、送電網を増強し、蓄電池などで需給を調整し、電力を必要な場所へ必要なときに届ける仕組みも必要になります。


これからのエネルギー政策は、どの発電方式を選ぶかという問題だけではなく、電気を「つくる・送る・ためる・使う」まで含めた巨大なシステムの再構築になっていきます。



東海地方ではエネルギーが産業競争力を左右する


SynAppsが拠点とする東海地方には、自動車、鉄鋼、工作機械、化学、窯業など、日本を代表する製造業が集積しています。

こうした産業では大量のエネルギーを使用します。製造工程の脱炭素化を進めるために、化石燃料を電力へ置き換えれば、さらに電力需要が増える可能性があります。

今後は企業にとって、単に電気を安く購入できることだけでなく、必要な量の脱炭素電力を安定して確保できること自体が競争力の一つになっていくでしょう。


これは企業誘致にも関係します。半導体工場やデータセンターの建設地を決める際、土地や交通条件だけでなく、大量の電力を安定して確保できるかどうかが重要になります。実際、データセンターなど大規模な電力を必要とする施設からの系統接続申込みが増え、電力会社側でも設備形成や接続方法の見直しが始まっています。

エネルギーインフラは、地域の産業を支える裏方ではなく、どの産業を地域へ呼び込めるかを左右する存在になりつつあります。



ガス会社も「ガスを売る会社」ではなくなる


変化しているのは電力業界だけではありません。

都市ガス会社も大きな転換期を迎えています。天然ガスは石炭や石油に比べて燃焼時のCO₂排出量が少なく、エネルギー転換期に一定の役割を担います。しかし2050年のカーボンニュートラルを考えれば、天然ガスをそのまま使い続けるだけでは十分ではありません。

そこで研究・実証が進められているのが、水素、e-メタン、バイオガス、CO₂の回収・利用・貯留などです。

東邦ガスでも、知多地域におけるe-メタン製造やCO₂循環、水素製造・供給などの取り組みを進めています。


こうした動きを見ると、「電力会社は電気を売る会社」「ガス会社はガスを売る会社」という従来の区分は、実態と合わなくなってきています。

電力会社も再生可能エネルギー、蓄電池、エネルギーマネジメントなどへ事業を広げ、ガス会社も電力、水素、e-メタン、再生可能エネルギーなどへ領域を広げています。

両者とも、さまざまなエネルギーを組み合わせながら顧客のエネルギー利用全体に関わる企業へ変わろうとしています。



エネルギー会社の仕事が需要家側へ広がる


従来のエネルギー事業では、大規模な発電所で電気をつくって送り届ける、あるいは海外からLNGを調達して都市ガスとして供給するといった、大規模で一方向の流れが中心でした。

しかし太陽光発電や蓄電池が普及すると、需要家自身が電気をつくり、ためるようになります。EVも、大きな蓄電池を積んだ移動体と考えることができます。


工場では、生産設備の稼働状況、電力価格、太陽光発電量、蓄電池残量などを見ながらエネルギー使用を制御することも可能になります。

こうなるとエネルギー会社の仕事は、エネルギーを供給するだけではありません。顧客がどのようにエネルギーをつくり、ため、使うかまで含めて支援する仕事へ広がっていきます。

エネルギーの流れそのものが、一方向から双方向へ変わりつつあります。



それでも変わらない「安定供給」


ここまで新しい技術や事業について書いてきましたが、エネルギー業界には、どれだけ時代が変わっても変わらない仕事があります。

安定供給です。


家庭でスイッチを入れれば照明が点き、工場では予定どおり設備を動かせる。私たちは普段、それを当然のこととして生活しています。

しかし、その「当然」を維持するために、エネルギー事業者は発電設備、送配電網、LNG基地、ガス導管など巨大なインフラを維持し、需要と供給を常に合わせています。

再生可能エネルギーが増えれば、天候によって変動する発電量への対応が必要になります。世界情勢が不安定になれば、LNGや石油などの燃料調達にも影響します。地震や台風などの自然災害、設備の老朽化、サイバー攻撃への備えも必要です。


脱炭素化を進めながら、価格を抑え、しかも供給を止めない。そこへ今度は電力需要の増加が加わります。

エネルギー業界が直面している難しさは、何か一つの課題を解決すればよいのではなく、相反するように見える条件を同時に満たさなければならないことにあります。



エネルギーの変化を映像でどう伝えるか


私は約20年間、あるエネルギー事業者の社内広報映像制作に携わってきました。その間にも、エネルギー業界を取り巻く環境は大きく変化しました。

エネルギーは映像にするのが難しいテーマです。

発電所、LNG基地、送電設備、ガスタンクなど、巨大な設備には映像としての迫力があります。しかし、現在エネルギー業界で起きている変化の多くは、設備を撮影しただけでは見えてきません。


電力の需給調整、再生可能エネルギーの変動、蓄電池による調整、工場のエネルギーマネジメント、水素やe-メタンのサプライチェーン、データセンターの電力需要。これらはすべてつながっています。

たとえば「水素製造設備が完成しました」という映像をつくるだけなら、設備を撮影し、その仕組みをCGで説明することができます。しかし、その設備がなぜ必要なのかを伝えるためには、日本のエネルギーがどこから来て、産業や生活でどのように使われ、これから何を変えなければならないのかまで理解する必要があります。


AIやデータセンターによって電力需要が増える。製造業も脱炭素化しなければならず、そのための電化によってさらに電力が必要になる。一方でCO₂排出量は減らさなければならず、電力やガスの供給を止めることもできません。

この一見矛盾する課題に対して、エネルギー事業者がどのような答えを出そうとしているのか。

個々の設備や新技術を紹介するだけでなく、その背景にある社会や産業の変化まで描くことで、初めて現在のエネルギー業界を伝える映像になるのではないでしょうか。

映像制作を発注する企業担当者のための情報発信です。

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執筆者・神野富三
名古屋の映像制作会社 株式会社SynApps 代表取締役プロデューサー

シナリオ・演出・編集まで一貫して手がける映像プロデューサー・ディレクターとして、JR東海・トヨタ自動車など200社以上の映像制作に携わる。

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