カーボンニュートラル(脱炭素)におけるカーボンフットプリントとカーボンオフセットの理解
- Tomizo Jinno

- 8月14日
- 読了時間: 9分
更新日:10月11日
1. はじめに:なぜ映像制作者が環境知識を持つべきか
近年、企業の広報・PR活動では「サステナビリティ」や「環境経営」が重要なテーマになっています。特に、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出の実質ゼロ)は、多くの企業が経営計画や中長期ビジョンに掲げています。
いま企業PR映像の制作者にとって、このテーマは単なるトレンドではありません。企業が株主、顧客、社員、地域社会に対して環境責任をどう果たしているかを伝える重要な要素です。
しかし、その映像が「本当に正しい内容」かつ「信頼を損なわない構成」になっていなければ、逆に企業イメージを傷つけるリスクもあります。グリーンウォッシュ(実態以上に環境配慮を装う行為)を避けるためにも、制作者自身がカーボンフットプリントとカーボンオフセットの仕組みを理解し、正しい情報をもとに映像を企画・制作することが大切です。
2. カーボンニュートラルとは何か
2-1. 定義
カーボンニュートラルとは、温室効果ガス(主にCO₂)の排出量から削減・吸収量を差し引いて、実質的にゼロにすることを指します。排出をゼロにするのではなく、削減や吸収によって「差し引きゼロ」を達成する点が重要です。
2-2. 背景
国際的動き
パリ協定(2015年)により、世界各国が温室効果ガス削減目標を設定。2050年カーボンニュートラルは主要国の共通目標となっています。
日本国内
政府が「2050年カーボンニュートラル宣言」を行い、産業界にも削減努力を求めています。
この「世界的潮流」と「国内政策」が企業広報の背景にあることを理解しておく必要があります。
3. カーボンフットプリントの理解
3-1. 定義と基本的な考え方
カーボンフットプリント(Carbon Footprint)は、直訳すると「炭素の足跡」です。これは、製品やサービス、事業活動が誕生してから廃棄されるまでに排出する温室効果ガスの総量を、CO₂換算で可視化したものです。重要なのは、部分的な排出量だけでなく、ライフサイクル全体を通じたトータルの排出量を計算することです。
「ライフサイクル全体」というと抽象的ですが、次のような工程を含みます。
原材料の採取(鉱石の採掘、森林伐採など)
製造・加工(エネルギー消費、化学反応による排出)
輸送・配送(燃料燃焼によるCO₂排出)
使用段階(電力消費、燃料使用)
廃棄・リサイクル(焼却、埋立、再資源化)
これらの工程を正確に理解することで、どこで排出が多く、企業がどこに削減努力をしているのかを具体的に描けます。
3-2. 算定方法と基準
カーボンフットプリントは、GHGプロトコル(Greenhouse Gas Protocol)やISO 14067などの国際的な算定基準をもとに算出されます。日本では「CFPプログラム」(JEMAI:日本環境管理協会)による認証制度も存在します。
排出量はCO₂e(CO₂ equivalent)で表示されます。これはCO₂だけでなく、メタン(CH₄)や一酸化二窒素(N₂O)などの温室効果ガスを、CO₂に換算して合計する単位です。
映像で数値を扱う際は、必ず算定基準と単位を併記することが重要です。たとえば「当社製品のカーボンフットプリントは年間1,200トンCO₂e(ISO14067に基づく)」というように出典を示すことで信頼性が高まります。
3-3. 映像制作における活用ポイント
映像制作者はカーボンフットプリントの算定結果を、単なる「数字」ではなく「視覚的ストーリー」に変換する役割を担います。
ビジュアル化例
棒グラフや円グラフで工程別の排出割合を示す
製品のライフサイクルをアニメーション化し、各段階での排出量をポップアップ表示
現場映像(工場、物流、店舗など)と数値を重ねて、数字と現場をリンクさせる
視聴者理解の補助
「これはペットボトル1万本分の排出量に相当します」など、身近な物に例えてスケール感を伝える
過去数年の推移をグラフ化して「改善の成果」を示す
構成上の注意
カーボンフットプリントの数値だけを単発で見せるのではなく、「目標値との比較」や「業界平均との比較」を入れると説得力が増します。
3-4. 制作者が押さえるべき留意点
曖昧な表現は避ける
「おおよそ」「約」などの曖昧な数字は、根拠の開示なしには使わない。
算定対象の明確化
「自社工場のみ」なのか「製品のライフサイクル全体」なのかを明示する。
年度と期間の記載
排出量は年度ごとに変動するため、必ず「2024年度実績」のように記載。
4. カーボンオフセットの理解(詳細版)
4-1. 定義と目的
カーボンオフセットとは、削減努力を行ったうえで、それでも残る温室効果ガス排出を、他の場所での削減・吸収活動を支援して相殺する仕組みです。その活動によって生じた削減量はカーボン・クレジットという形で取引されます。
カーボンニュートラルの達成には、まず自助努力による排出削減が優先され、その不足分をオフセットで補います。映像でこの順序を誤ると、「お金で免罪している」という誤解を招くため注意が必要です。

4-2. カーボン・クレジットの種類
国連CDM(クリーン開発メカニズム)で発行される国際的クレジット。
民間認証機関が発行する自主的なクレジット(VCS、Gold Standardなど)。
日本政府が認証する国内クレジット制度で、省エネや再エネ導入による削減量、森林吸収量などが対象。
これらのクレジットの認証ロゴや証明書の映像を挿入すると、信頼性が高まります。
4-3. オフセットに使われるプロジェクト例
再生可能エネルギー
太陽光発電所や風力発電所の建設支援
森林保全・植林
熱帯雨林の伐採防止や、新規植林による吸収量増加
エネルギー効率改善
発展途上国に高効率調理器具を提供し、薪の消費とCO₂排出を削減
メタン回収・利用
埋立地や畜産業由来のメタンを回収し発電に利用
これらの現場映像を実際に撮影、または提供映像を活用することで、視聴者にリアリティを与えられます。
4-4. 映像での伝え方の工夫
ストーリー構造
「削減努力をしても残った排出量」→「その量に見合ったクレジットを購入」→「プロジェクト支援」→「相殺完了」という流れを視覚化。
数値の明確化
例:「当社の排出量のうち○○t-CO₂を、南米の森林保全プロジェクトでオフセットしました。」
プロジェクト現場映像
可能であれば現地取材や、プロジェクト運営団体からの公式映像素材を利用。
追加性(Additionality)の説明
「この活動は、クレジット購入による資金がなければ実現しなかった」という条件を簡単に説明すると、理解度が上がります。
4-5. 制作者が避けるべき誤解の演出
「オフセット=免罪符」的な印象
を与えない削減努力の映像とオフセット活動の映像の比率バランスに注意。
抽象的すぎる自然映像
だけで構成しない実際のプロジェクトの事実性が感じられる映像を組み込む。
5. 制作者が避けるべき落とし穴
5-1. グリーンウォッシュ表現
「完全に環境負荷ゼロ」など、実態以上の表現は避けます。映像は印象操作が強力なため、誇張は企業リスクになります。
5-2. 数値の曖昧さ
削減量やオフセット量が推定値である場合、必ず注記を入れます。「昨年度比〇%削減」といった比較は出典を明確にします。
5-3. ビジュアルの誤解
映像素材と企業活動の関連性が低い場合、視聴者は「やらせ感」や「演出過剰」と感じます。必ず事実に基づく素材を使用します。
6. 映像に盛り込むべき構成要素
6-1. ストーリーの流れ
導入:企業の環境理念や背景
現状の課題:カーボンフットプリントの現状データ
削減努力:省エネ、再エネ、輸送効率化など
オフセット活動:具体的プロジェクトの映像
成果と今後の目標:数値とロードマップ
メッセージ:トップや社員の言葉で締める
6-2. 視覚的工夫
インフォグラフィックで排出量の推移をわかりやすく
プロジェクト現場の空撮やタイムラプス映像でスケール感を演出
ナレーション+字幕で多言語対応
7. 実務的アドバイス
7-1. 事前ヒアリングの重要性
企業の環境部門やサステナビリティ担当者と密に情報共有します。数字や表現の正確さは、事前の情報整理でほぼ決まります。
7-2. 二次利用を見据えた制作
同じ映像素材を、環境報告書、株主総会、採用活動、SNS短尺動画など、多用途に展開できる構成にします。
7-3. 定期更新前提
環境施策は毎年進化するため、「毎年更新する映像」のベースとして編集しやすい構造にしておくと効率的です。
8. まとめ
カーボンニュートラル、カーボンフットプリント、カーボンオフセットは、企業PR映像制作者にとって、正しい企業メッセージを映像化するための必須知識です。正確な情報と透明性をもって制作すれば、企業の環境姿勢を効果的に伝え、視聴者の信頼を獲得できます。逆に、表面的な演出や不正確な情報は、ブランドイメージを損なうリスクがあります。
映像は事実と物語を融合させる力を持っています。制作者が環境知識を正しく理解し、企業の努力と成果を誠実に伝えることで、企業と社会をつなぐ信頼の架け橋となります。
名古屋でカーボンニュートラルに関連する映像コンテンツを制作する時は、株式会社SynAppsにご相談ください。
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【この記事について】
本記事は、名古屋の映像制作会社・株式会社SynAppsが執筆しました。私たちは「名古屋映像制作研究室」を主宰し、さまざまな業界の知見を収集・分析しながら、企業や団体が抱える課題を映像制作の力で支援することを目指しています。BtoB領域における映像には、その産業分野ごとの深い理解が不可欠であり、その知識と経験をもとに制作に取り組んでいます。
【執筆者プロフィール】
株式会社SynApps 代表取締役/プロデューサー。名古屋を中心に、地域企業や団体のBtoB分野の映像制作を専門とする。プロデューサー/シナリオライターとして35年、ディレクター/エディターとして20年の実績を持つ。




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