企業PR映像制作とグリーンウォッシュ
- Tomizo Jinno
- 2 日前
- 読了時間: 6分
ビジネスとして企業のPR映像制作を行う私たちは、クライアントが大企業やグローバル企業の場合、企画・シナリオを作成する段階で、ほぼ必ずSDGsやGXに関する項目を入れるよう求められます。そして多くの場合、関連する活動に関する記録写真やビデオを支給されて編集に盛り込んでいます。しかし、中にはエビデンスとなる写真や映像がない場合もあり、そんな時はストック写真やストックフッテージを使用して映像表現しています。
温室効果ガスを大量排出する経済社会構造から、クリーンエネルギー中心の構造へと変革すること。脱炭素化と経済成長の両立を目指し、産業・生活様式全般にわたる抜本的な転換を指す用語です。

グリーンウォッシュへの厳しい目
グリーンウォッシュとは、“ホワイトウォッシュ”から派生した言葉で、企業が実際には環境に配慮していないにもかかわらず、あたかも環境に優しい取り組みを行っているかのように見せかける行為を指します。
現在、欧州を先頭にして、このグリーンウォッシュの監視、取り締まりが強化されてきていて、この日本でも具体的な動きがあります。
EU(欧州連合)
2024年3月に発効し、企業が環境に関する主張をする際に、科学的根拠の提示と第三者機関による検証、消費者への開示を義務付ける厳しいルールが定められました。加盟国は今後、国内法として導入することが求められます。
日本
景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)の観点から、優良誤認表示としてグリーンウォッシュを摘発する動きが見られます。実際に、生分解性プラスチック製品に関する景品表示法違反(優良誤認)で措置命令が出された事例があります。
元金融庁長官が「投資家をグリーンウォッシュから保護するためにグリーン・クレームの監視を強化する」と発言するなど、金融分野におけるESGウォッシュへの警戒が強まっています。
グリーンウォッシュへの監視が高まっている理由
企業の環境に関する主張が急増した
社会や投資家の環境意識の高まりを受けて、多くの企業が自社の製品やサービス、あるいは企業活動全体が「環境に優しい」「サステナブルである」といったアピールを盛んに行うようになりました。しかし、その中には、具体的な根拠が乏しいものや、実態が伴わない「見せかけ」の環境配慮も含まれていることが明らかになってきました。
情報アクセスの容易化と市民社会の監視能力の向上
インターネットやSNSの普及により、消費者は企業の発信する情報だけでなく、企業の環境活動に関する批判的な情報や、科学的なデータにも容易にアクセスできるようになりました。また、環境NGOや市民団体も、企業の環境パフォーマンスを独自に調査・分析し、その結果を広く社会に発信する能力を高めています。これにより、企業のグリーンウォッシュが発覚しやすくなり、一度明るみに出れば、瞬く間に情報が拡散され、企業のブランドイメージに深刻なダメージを与える事態に繋がりかねません。
ESG投資の進展と投資家のデューデリジェンスの強化
デューデリジェンス:
投資や買収、契約などの重要な経済取引を行う前に、対象となる企業や案件について詳細な調査・検証を行うこと
ESG投資の拡大に伴い、投資家は企業のESG情報開示をより厳しく評価するようになっています。表面的な「グリーン」な主張だけでなく、その裏付けとなる具体的なデータや目標、進捗状況、そして第三者による検証を求める傾向が強まっています。グリーンウォッシュは、投資家にとって投資リスクであり、企業の情報開示の信頼性を損なうものであるため、投資家はこれを厳しく監視し、不適切な情報開示に対しては投資を引き揚げる可能性すらあります。
企業PR映像がグリーンウォッシュに加担する可能性
企業が自社のGXへの取り組みを社会に伝える上で、企業PR映像は強いメッセージ力を持っています。感動的なストーリー、視覚的な美しさ、そして情報の伝達力において、PR映像は他のメディアにはない影響力を持っています。しかし、その強力な影響力ゆえに、PR映像が意図せず、あるいは意図的にグリーンウォッシュに加担してしまう可能性があります。
見せかけの美化や部分的な切り取りによる誤解の誘発
企業PR映像は、限られた時間の中で視聴者にポジティブな印象を与えることを目的としています。そのため、企業が行っている数ある取り組みの中から、特に環境に配慮しているように見える部分だけを抽出したり、美しい自然の映像を多用したりすることで、視聴者に「この企業は非常に環境に優しい」という印象を植え付けてしまうことがあります。しかし、実際には、その企業の事業全体で見れば環境負荷が高い部分が大部分を占めていたり、宣伝されている環境配慮がごく一部の取り組みに過ぎなかったりするケースも少なくありません。映像の持つ視覚的訴求力の高さは、客観的な事実よりも感情的な印象を先行させがちであり、このギャップがグリーンウォッシュに繋がる温床となり得ます。
具体的な根拠の欠如
PR映像では、多くの場合、具体的な数値データや第三者機関による検証結果が詳しく示されることは稀です。「地球に優しい」「持続可能」といった抽象的な言葉が多用され、その裏付けとなる情報が不足しているケースが散見されます。視聴者は、映像が伝えるメッセージを鵜呑みにしてしまいがちですが、その主張の根拠が明確でなければ、それは「印象操作」に近く、結果的にグリーンウォッシュに加担していると見なされる可能性があります。
例えば、ストックフッテージやストック写真の利用は、印象操作との指摘を受けるリスクがあります。
理想と現実の乖離を隠蔽する
企業が実際に直面している環境課題や、脱炭素化への道のりで抱える困難を隠し、あるいは過小評価し、あたかもスムーズに環境配慮が進んでいるかのように描く映像も存在します。例えば、多額のGHG(Greenhouse Gas・温室効果ガス)を排出する工場が、最新の環境技術を導入した一部門だけを強調して見せたり、将来的な目標をあたかも現状であるかのように表現したりするケースです。企業の自己正当化や、投資家や社会からの批判をかわすための手段として、PR映像が悪用される可能性があります。
求められる対応
透明性と誠実さを何よりも重視する必要があります。環境に関する主張を行う場合は、その具体的な根拠や数値、目標達成に向けたロードマップを示すべきでしょう。また、ポジティブな側面だけでなく、直面している課題や今後の取り組みにおける困難な点についても、正直に開示する姿勢が、長期的な信頼関係の構築に繋がると考えるべきです。
映像制作会社の責任
事実確認と情報収集
企業のGXに関する主張が事実に基づいているのか、その裏付けとなるデータや資料があるのかを確認するべきです。曖昧な表現や、根拠不明な主張については情報開示の透明性を高めるよう促す役割も担っています。
誤解を招く表現を避ける倫理観
視覚的な美しさや感動を追求することは重要ですが、それが事実の歪曲や誇張に繋がってはなりません。部分的な取り組みを全体像であるかのように見せたり、達成されていない目標をあたかも達成されているかのように表現したりすることは慎むべきです。
健全なアドバイザリー
映像制作会社はプロとして、グリーンウォッシュの危険性を明確に伝え、より誠実で透明性の高い表現方法を提案する責任があります。クライアント企業の長期的な信頼性やブランド価値を守る視点を持つことが重要です。
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