企業PRビデオのシナリオ「あてがき」主義
- 神野富三

- 12 分前
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「あてがき」という言葉は、本来、ドラマや演劇の台本制作における手法を指します。出演者の個性や話し方、存在感に合わせてセリフや構成を設計し、無理なく自然に演じられる状態をつくる考え方です。もちろん、セリフが先にあって役者がそれを演じるという手法も、一方で定番です。エンターテーメントであれば本質的に「創作」ですから、セリフが先にあるのは当たり前とも言えます。
では、企業PR映像を制作するための台本(シナリオ)を考えてみましょう。現在日本社会で多く制作される企業PR映像の多くは、あらかじめ用意された「伝えるべき内容」に、社員や現場を当てはめていく構造になっています。つまりセリフが先にあり、創作物を作る構造です。
会社の強み、理念、将来性。これらを整理し、それを分かりやすく語らせる。一見すると合理的な手順ですが、この時点で「あてがき」とは逆のことが起きています。

内容に人を合わせる構造
多くのPRビデオでは、「何を伝えるか」が先に決まっています。そのうえで、「誰に話させるか」が選ばれる。
この順序では、出演する社員は“役割”を担うことになります。本来の言葉ではなく、「企業として正しい言葉」を話すことになるため、わずかなズレが生まれます。
大きな違和感ではありませんが、そのズレは確実に映像に現れます。整ってはいるが、どこか借り物に見える。多くのPRビデオが同じ印象に収束する理由はここにあります。
あてがきに置き換える
本来のあてがきの思想に替えると、設計の起点は大きく変わります。
この人はどんな言葉なら自然に話せるのかどの経験なら実感を持って語れるのか。このナレーションに相応しい事実が、ほんとうにこの会社にあるか。ここからシナリオを組み立てます。すると、伝えられる内容は一見制限されるように見えますが、その代わりに現場とのズレが消えます。
結果として、語られる内容と実態(映像)が一致します。この一致が、そのまま説得力になります。
テンプレートが生む均質化
現在の制作現場では、効率のために一定の型が存在します。インタビュー、業務風景、メッセージ、それらをシネマティックな映像で繋いでいく・・・という構成は、現在多くのPRビデオで共通しています。
問題は、その型に企業を当てはめてしまうことです。
同じ構成、同じ語り口、同じリズム、同じトーン。その中に企業の情報を流し込めば、一定の完成度には到達します。しかしそれ以上にはなりません。他社との違いは、構造の段階で消えてしまいます。
説得力は「無理のなさ」から生まれる
映像において最も避けるべきは、嘘っぽさです。
社員が用意された言葉を話すとき、ナレーターがよくある美辞麗句を語るとき、視聴者はその違和感を正確に感じ取ります。内容が正しくても、言葉に重さが乗らない。映像がそれを語っていないからです。
一方で、本当の言葉として成立している場合、多少粗くても伝わります。視聴者が受け取っているのは情報ではなく、その言葉の裏にある実感だからです。
あてがきは、この「無理のなさ」を設計する手法です。
映像表現は後から決まる
映像のクオリティ(質感)は重要ですが、それは設計の後に決まるものです。
誰が、どの言葉で、何を語るのか。カメラで何を捉えるか。この前提が定まっていれば、必要な表現は自ずと決まります。逆にここが曖昧なままでは、どれだけ質感を整えても、映像からは肝心のメッセージは生まれません。
シナリオが差別化を決める
企業PR映像の目的は、極論すれば他社との違いを伝えることです。その差は、映像の見た目ではなく、シナリオの段階で決まります。
その内容が、他の企業でも成立してしまうものであれば、それは差別化になっていません。
「あてがき」は、その企業でしか成立しない状態をつくるための方法です。誰(企業・社員)が語るのかを起点に設計することで、他では再現できない構造になります。
まとめ
企業PRビデオは、うまく見せるものではなく、ズレなく見せるものです。
企業PR映像制作に、あてがきの思想を取り入れることで、内容と語り手の一致が生まれます。その一致こそが、映像の説得力であり、他社との違いになります。
映像制作を検討する際は、「このシナリオは、この会社・人が自然に語れるものか」を基準にしてみてください。その一点が、仕上がりを大きく左右します。
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