映像制作会社が高度化するセキュリティ要請の対応とSIerの進化を支援します
- Tomizo Jinno

- 1 時間前
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信頼性を創造する「システム・インテグレーター・プロデューサー」という役割
情報システムは、企業活動の中枢を担う社会インフラとなり、その信頼性は経営判断、ブランド価値、さらには社会的責任そのものと直結しています。
一方で、日本の情報システム開発の現場では、「誰が、どこまで責任を負うのか」という根本的な問いが、長らく曖昧なまま運用されてきました。要件定義は発注側、実装は受注側という分業構造の中で、安全性や継続性は慣習的に“共同責任”として扱われ、いざ問題が発生した際の説明責任や最終判断の主体が見えにくい状態が続いてきたのが実情です。
しかし近年、サイバー攻撃は高度化・常態化し、システム障害は単なるITトラブルでは済まなくなっています。政府はITベンダーの責務を整理し、設計・開発・運用を含むライフサイクル全体での責任の所在を明確化する方針を打ち出しました。これは一過性の注意喚起ではなく、情報システムに関わる専門家の役割そのものを問い直す動きだと私たちは受け止めています。

こうした制度的・社会的な変化を踏まえ、従来のSIer像を超える存在として「システム・インテグレーター・プロデューサー(SIP)」という職務を提案します。それは開発手法論ではなく、IT産業が信頼性を設計し、引き受け、それを社会や関係者に説明し続ける主体へ進化するための要諦となります。
私は映像制作会社のプロデューサーの立場から、「信頼性をどう説明し、どう共有し、どう納得させるか」という課題に対して、映像設計、映像制作の専門性がどのように貢献できるのかを解説します。
1. 従来の商習慣が抱えてきた構造的な限界
従来の情報システム開発では、システム障害やセキュリティインシデントが発生した際の責任分担が、契約上も実務上も曖昧になりがちでした。
要件は顧客企業が定め、ベンダーはそれを実装する。この分業自体は合理的に見えますが、稼働後のセキュリティ維持や想定外の事態への対応に関しては、誰が最終的な判断と説明を行うのかが不明確になります。結果として、専門知識を持たない顧客側に運用リスクや説明責任が集中する構造が定着してきました。
この構造は、システムが社内業務を支える道具であった時代には、かろうじて成立していたのかもしれません。しかし、現在のように情報システムが社会インフラ化し、停止や漏えいが社会的影響を及ぼす時代においては、明らかに限界を迎えています。
実際、サイバー攻撃を起因とする大規模障害が相次ぎ、ITベンダーが補償や解決金を支払う事例も増加しています。政府が責務の整理に踏み出した背景には、「誰がどこまで責任を負うのかを社会として共有できていない」という問題意識があります。
2. AI時代に求められる役割の変化と「説明」の重み
AI技術の進展により、設計段階でのリスク分析、脆弱性の検出、運用中の監視や自動対応は高度化しています。セキュリティはもはや後付けの対策ではなく、最初から組み込まれるべき設計要件になりました。
しかし、技術的に高度な対策が講じられていることと、それが関係者に理解され、納得されていることは別の問題です。「なぜこの設計なのか」「どこまで対策しているのか」「残るリスクは何か」――これらを説明できなければ、信頼性は成立しません。
ここで重要になるのが、「説明」という行為の位置づけです。説明は付随業務ではなく、信頼性を成立させるための中核的な仕事になりつつあります。
3. システム・インテグレーター・プロデューサー(SIP)という人材像
こうした環境下で求められるのが、システム・インテグレーター・プロデューサー(SIP)という役割です。
SIPとは、技術、ビジネス、信頼性を横断的に理解し、プロジェクト全体の最終責任を引き受ける存在です。単に進行管理を行うのではなく、設計判断の背景やリスクを整理し、社内外に説明し続ける役割を担います。
セキュリティやレジリエンスを理解し、設計に反映できること
経営層と同じ言語で、リスクと価値を語れること
判断の根拠を構造化し、合意形成を行えること
これらは、従来の分業体制では可視化されにくかった能力です。しかし、責任の明確化が進むほど、こうした資質の重要性は高まっていきます。
信頼性を「説明できる形」にするための映像・構成支援
映像制作会社がSIerやシステム開発の現場に関わる理由は、システムそのものを作るためではありません。作られたシステムの信頼性を、理解可能な形に翻訳するためです。
高度なセキュリティ設計や運用体制は、専門家同士であれば共有できます。しかし経営層、利用部門、取引先、あるいは社会に対して、その内容と責任範囲を正確に伝えることは容易ではありません。ここに、SIPが一人で背負いきれない「説明の負荷」が生じます。
私たちが提供できる具体的な支援内容
1. セキュリティ設計・運用体制の可視化映像
システム全体像、セキュリティ対策の考え方、運用フローを、図解・ナレーション・映像構成として整理します。
経営層向けの説明、社内利用部門への理解促進、監査やステークホルダー対応において、「説明が必要な場面でそのまま使えるコンテンツ」を設計します。
2. インシデント対応・責任範囲の説明コンテンツ
万が一の事態に備え、「何が起きたら、誰が、どう対応するのか」を事前に共有するための映像・資料を制作します。
初動対応フローの可視化、顧客・取引先向け説明、危機対応訓練(机上訓練)用映像など、説明責任を果たす準備としてのコンテンツを提供します。
3. SIPの判断を支える構成設計支援
プロジェクトの要点や判断の背景を、「説明に耐えるストーリー」として再構成します。
経営会議・役員会向け説明資料、提案フェーズでの補助映像などを通じて、SIPが意思決定に集中できるよう、説明負荷を軽減する役割を担います。
4. 信頼性を企業価値として伝える広報・採用映像
セキュリティや信頼性への取り組みは、顧客獲得だけでなく、人材採用や企業評価にも直結します。
技術力の誇示ではなく、責任をどう引き受けている企業なのかを伝えるためのコーポレート映像や採用向けコンテンツを設計します。
映像制作会社としての立ち位置
私たちは、SIerやSIPの代わりに責任を負うことはできません。しかし、引き受けた責任を正しく説明し、共有し、理解してもらうための設計を支援することはできます。
高度化するセキュリティ要請の時代において、信頼性は「実装されたかどうか」だけでなく、「伝えられているかどうか」によって評価されるようになります。
映像制作のプロデューサーとして、私たちはその接点に立ち、SIPの実践を支える存在でありたいと考えています。
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情報システム業界の基礎知識と映像制作会社からの提案 【この記事について】
本記事は、名古屋の映像制作会社・株式会社SynAppsが執筆しました。私たちは「名古屋映像制作研究室」を主宰し、さまざまな業界の知見を収集・分析しながら、企業や団体が抱える課題を映像制作の力で支援することを目指しています。BtoB領域における映像には、その産業分野ごとの深い理解が不可欠であり、その知識と経験をもとに制作に取り組んでいます。
【執筆者プロフィール】
株式会社SynApps 代表取締役/プロデューサー。名古屋を中心に、地域企業や団体のBtoB分野の映像制作を専門とする。プロデューサー/シナリオライターとして35年、ディレクター/エディターとして20年の実績を持つ。




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