初めてのビジネス案件。動画クリエーターが取り組み初頭に提出すべき制作スケジュール案
- Tomizo Jinno

- 11 時間前
- 読了時間: 8分
個人で活動する動画クリエーターが初めて企業からの制作案件を受注したとき、多くの人が「さあ、どんな映像を作ろうか」と企画内容から考え始めます。しかし、ビジネスの現場では、企画を考える前にスケジュール案を提出することが求められます。
なぜでしょうか。それは、企業PR映像の大半が「納期先行型」だからです。
ビジネス案件には「使用日」が先に決まっている
企業が映像制作を依頼する背景には、必ずその映像を使う具体的な場面があります。新商品の発表会、株主総会、採用イベント、周年記念式典——こうしたイベントの開催日は、映像制作の企画が始まる前にすでに確定しています。
つまり、納期は動かせない制約条件なのです。
個人制作では「完成するまで作り続ける」ことも可能ですが、ビジネス案件では「決められた日までに確実に納品する」ことが絶対条件です。この前提を理解していないと、クライアントとの信頼関係は築けません。
スケジュール案は「企画の自由度」を決める設計図
重要なのは、スケジュール案が単なる日程表ではないという点です。
スケジュール案は、限られた時間の中でどこまでの企画が実現可能かを示す設計図です。
たとえば、納期まで3ヶ月あれば複数回の撮影や凝った編集が可能かもしれません。しかし1ヶ月しかなければ、撮影は1日、編集期間も最小限に抑えた現実的なプランに収束させる必要があります。
つまり、「何を作るか」を考える前に、「何が作れるか」の枠組みを明確にすることが、プロフェッショナルな動画クリエーターの第一歩です。

クライアント企業には「決裁プロセス」がある
個人制作との最大の違いは、企業内には複数の承認プロセスが存在することです。
映像制作の工程では、以下のような決裁ポイントがあります。
これらの決裁が、担当者だけで完結するのか、部長や役員まで通す必要があるのかによって、必要な期間は大きく変わります。
初期ヒアリングでは、必ず「誰が、どの段階で、どこまでの承認権限を持っているか」を確認しましょう。大企業ほど決裁に時間がかかる傾向があり、これを見積もらないとスケジュールが破綻します。
スケジュール案作成の基本:納期からの逆算
スケジュール案は、納期から逆算して組み立てます。
【納期からの逆算イメージ】
◀── 納期(確定)
│
◀─────────┤ 最終チェック(3〜5日)
│ │
◀─────────┤ MA(2〜3日)
│ │
◀────────┤ 編集(1〜2週間)
│ │
─┤ 撮影(候補期間で設定)
│
▼
現在(スケジュール案提出日)
標準的な映像制作工程
小規模案件でも、企画からシナリオ承認までに数週間、編集確定には2〜4週間を要するのが一般的です。これを理解せずに「編集は3日でできます」といった個人感覚でスケジュールを組むと、必ず破綻します。一般的な工程は以下の流れになります。
括弧(カッコ)は、その期間の幅でスケジュールを見積るべき日数です。制作規模やクライアント事情に応じて幅があります。
撮影日程は「幅」を持たせて提示する
初回のスケジュール案で最も重要なのが、撮影日程に柔軟性を持たせることです。
❌ 悪い例:「○月○日に撮影」 ⭕ 良い例:「○月第2週〜第3週の間で調整」
なぜなら、撮影には多くの外部要因が関わるからです。
(もちろんイベントの撮影などの場合は日程が決まっていますので、逆に撮影日を起点にして、前後工程のスケジュールを設計します)
撮影に影響する外部要因
出演する社員の業務スケジュール
ロケ地・施設の使用可否
天候条件
関係者の承認タイミング
機材や人員の手配状況
特に企業PR映像では、出演者が現役の社員であることが多く、彼らの業務都合に合わせる必要があります。この段階で特定日に固定すると、後で調整が効かなくなり、プロジェクト全体が遅延するリスクが高まります。
工程間の依存関係を理解する
映像制作の工程は、それぞれが前の工程に依存しています。
構成が未確定
↓
[待機]
↓
撮影内容が決まらない → 撮影日が確定できない
↓
[待機]
↓
仮編集が完成しない → ナレーション原稿が最終調整できない
この依存関係を無視すると、「撮影日だけ先に決めたが、何を撮るか決まっていない」「編集が終わっていないのにナレーション収録を予約してしまった」といった事態に陥ります。
動かせる工程 vs 動かせない工程
調整可能な工程 | 調整困難な工程 |
企画、シナリオ、絵コンテ、香盤表提案日 | 企画/シナリオ/絵コンテ/香盤表作成/撮影/編集最低所要日数 |
撮影候補日 | クライアント事情、必須出演者、設備などの都合 |
MA候補日(納期が近いため選択肢は少ない) | 納品日 |
シナリオ、絵コンテ、編集といったクリエイティブ・技術作業は、最低限でも物理的に必要な時間が決まっています。一方、企画検討期間やチェック回数は、クライアントとの調整で短縮や延長が可能です。この違いを理解し、スケジュール調整の際に「どこが動かせて、どこが動かせないか」を明確に伝えることが重要です。
初期ヒアリングで確認すべきこと
スケジュール案を作成する前に、クライアントから以下の情報を確実に聞き取りましょう。
必須確認事項
納期(絶対に動かせない日付)
映像の使用目的と場面(イベント、Web公開、社内上映など)※企画変更余地の確認
撮影の有無と対象(人物、施設、製品など)
出演者の立場と人数(役員、社員、外部タレントなど)
決裁プロセス(誰が、どの段階で、どこまで承認するか)
過去の制作経験(初めてか、定期的に作っているか)
予算規模(工程の圧縮や拡張の判断材料)
特に撮影に関わる情報——出演者のスケジュール制約、撮影場所の使用条件、必要な許可申請——は詳細に把握しておく必要があります。多数の部署や人員が関与し、施設や設備の稼働状況との調整も必要になるからです。
スケジュール案は「共有された仮の地図」
初回のスケジュール案は、確定版ではありません。
実際の制作では、出演者の調整、撮影場所の確保、社内承認の速度など、多くの要素が後から動きます。そのため、スケジュール案は「概念図」として柔軟性を持たせることが基本姿勢です。
スケジュールの進化過程
初回案(概念図)
↓
クライアント側との調整
↓
修正版(調整後)
↓
実制作での微調整
↓
確定版(実行スケジュール)
↓
随時アップデート
重要なのは、「制作会社がどのような考え方で工程を組んでいるか」をクライアントに明確に伝えることです。映像制作は専門性が高いため、クライアント側では工程の必然性がイメージしづらいことがあります。
各工程に必要な理由や一般的な時間感覚を簡潔に説明し、進行上のボトルネックになりやすい工程については特に留意点を示しましょう。これにより、クライアントは自社の事情と照らし合わせながら調整しやすくなります。
スケジュール案はコミュニケーションツール
スケジュール案は、日付の一覧表ではありません。
制作プロセスの理解を共有し、クライアントとの協働をスムーズに進めるためのコミュニケーションツールです。
このスケジュール案があるからこそ、クライアントと制作者は「同じ前提」を持って企画検討や意思決定を進めることができます。逆に言えば、スケジュール案なしで企画だけを提案しても、それが実現可能なのか、納期に間に合うのかが不透明なまま話が進み、後で大きな混乱を招きます。
個人制作との決定的な違い
個人制作では、自分のペースで作業を進め、納得いくまで作り込むことができます。しかしビジネス案件では、限られた時間の中でビジネスとして成立させることが求められます。
手戻りや無駄な時間浪費は、コストの増大やクライアントの信頼損失に直結します。だからこそ、プロジェクトの最初にスケジュール案を提示し、実現可能な範囲での最高品質を目指すという姿勢が不可欠なのです。もちろん提示したスケジュールを守って作業をできることは、ビジネスクリエーターとして最低限の技能であることは言うまでもありません。
まとめ:スケジュール案作成の基本原則
初めてのビジネス案件で動画クリエーターが意識すべきポイントをまとめます。
✓ 納期から逆算して工程を配置する
✓ 標準的な作業期間をベースに設計する
✓ 外部要因の多い工程(特に撮影)は柔軟に設定する
✓ 工程間の依存関係を明示する
✓ 修正を前提とした柔軟性を保持する
✓ クライアントとの共有理解を重視する
✓ 企業の決裁プロセスを考慮した期間を確保する
スケジュール案は、あなたがプロフェッショナルな動画クリエーターとして、クライアントのビジネスを理解し、確実に成果を届けられることを示す最初の証明です。
企画内容の素晴らしさも重要ですが、それを「確実に納品できる」という信頼があってこそ、クライアントは安心してプロジェクトを任せられます。
初めてのビジネス案件だからこそ、まずはスケジュール案の作成から始めましょう。それが、プロとしての第一歩です。
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【執筆者プロフィール】
株式会社SynApps 代表取締役/プロデューサー。名古屋を中心に、地域企業や団体のBtoB分野の映像制作を専門とする。プロデューサー/シナリオライターとして35年、ディレクター/エディターとして20年の実績を持つ。(2025年11月現在)




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