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映像制作を発注する企業担当者のための言葉の解説です。
三分割構図-二分割構図
写真や映像の「良い構図」とされる、初心者指導法の定番です。画面を縦横それぞれ3つ(三分割構図)または2つ(二分割構図)に分割し、その交点や線上に被写体を配置することで、安定感があり、かつ視覚的にバランスの取れた構図を作ることができる、とされています。
ただし、私が知る限りプロの現場で、この構図法が指針として語られるのを聞いたことはありません。
どういう役割があるとされているのか
視覚的な安定感: 人間の目は、自然と画面を3分割したり、2分割したりして見ています。そのため、これらの構図に沿って被写体を配置すると、自然で安定感のある印象を与えることができます。
視線の誘導: 交点や線上に被写体を配置することで、視聴者の視線を自然とそこへ誘導することができます。
構図の多様性: 縦構図、横構図、斜め構図など、様々な構図に対応できます。
黄金比: 三分割構図は、黄金比と呼ばれる美しい比率に基づいています。黄金比は、自然界にも見られる美しい比率で、視覚的に安定感を与えます。
ルールオブサーズ: 三分割構図は、ルールオブサーズとも呼ぶ構図の必勝法です。
9マスに分割: 画面を縦横3等分し、9つのマスに分割します。被写体を4つの交点のいずれかに配置したり、線上に配置したりすることで、バランスの取れた構図を作ることができます。

執筆者・神野富三
名古屋の映像制作会社 株式会社SynApps 代表取締役プロデューサー
シナリオ・演出・編集まで一貫して手がける映像プロデューサー・ディレクターとして、JR東海・トヨタ自動車など200社以上の映像制作に携わる。
映像制作会社としての視点
プロのカメラマンが「三分割構図」や「二分割構図」という言葉を現場で口にしないのは、それが「結果としてそうなっていることはあっても、思考の出発点ではない」からです。
アマチュアにとっての構図は「迷った時のガイドライン」ですが、プロにとっての構図は「被写体の力学と、情報の優先順位を整理した結果」に過ぎません。
1. 「グリッド」ではなく「力学」で捉えている
プロは画面の中に、目に見えない「力のベクトル」を見ています。
視線の誘導: 被写体の向き、光の差し込む方向、背景にある直線の消失点など、画面内の要素が視聴者の視線をどこへ運ぶかを計算します。
バランスの均衡: 三分割のラインに置くことが目的ではなく、画面全体の「重み」のバランスをとります。例えば、右側に重い被写体があれば、左側の空間に何らかの「意味」や「光」を配置して均衡を保ちます。結果的に三分割に近くなることはあっても、それは数学的な分割ではなく、視覚的な安定を求めた結果です。
2. 「被写体との対話」が優先される
「三分割に当てはめる」という思考は、被写体を枠(フレーム)に従わせる行為です。
プロの思考: 被写体が最も魅力的に見える角度や、背景との位置関係を先に探ります。被写体が持つ本来のフォルムや感情を優先した結果、グリッドから外れることは多々あります。
予定調和の回避: 黄金律に従いすぎた構図は、美しくても「どこかで見たような、既視感のある退屈な絵」になりがちです。プロはあえてその均衡を崩すことで、緊張感や違和感を生み出し、視聴者の目を釘付けにする手法(演出)を多用します。
3. 「情報の優先順位」による消去法
ビジネス映像の現場では、構図は「何を伝えたいか」という目的から逆算されます。
機能的配置: 「ここにテロップが入る」「ここに製品のロゴを置く」といった、後工程や情報のプライオリティが構図を決定します。
コンテクストの重視: 背景にある状況(オフィスの活気、工場の規模感など)をどの程度見せるべきかという「文脈(コンテクスト)」がフレームと構図を決めます。三分割法という単純なフィルターでは、こうした複雑な情報整理には対応できません。
プロにとっての「構図」の正体
プロのカメラマンが用語を口にしないのは、それが呼吸をするのと同じくらい当たり前の基礎であり、かつ「表現の限界を決める不自由な檻」でもあると知っているからです。
