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CASEの現況把握と進化のための映像制作会社の役割

更新日:17 時間前

エグゼクティブサマリー


CASEとは、自動車産業における4つの主要なトレンド「Connected(コネクテッド)」「Autonomous(自動運転)」「Shared & Services(シェアリングサービス)」「Electric(電動化)」を表しています。


2016年にダイムラーAGが提唱した、このCASE概念は、自動車産業が直面する複合的な課題に対する包括的な戦略的枠組みとして、瞬く間に業界標準の概念へと発展しました。21世紀に入り、地球温暖化、都市化、デジタル革命、消費者価値観の変化といった要因が重なり、従来の自動車産業モデルの根本的変革が求められていた背景があります。


世界各国は、CASEの各要素に対し、それぞれの経済的・政治的・文化的背景に応じた多様なアプローチで推進しています。欧州は厳格な環境規制を軸に電動化を加速させ、米国は市場主導で技術革新とサービス展開を進めていますが、現在のトランプ政権下では、EV推進政策の大幅な転換が見られます。中国は政府主導の国家戦略として強力に推進し、電動車市場で圧倒的なシェアを確立しました。アジア太平洋地域では、各国がそれぞれの強みを活かした多様な発展を見せています。


主要グローバルメーカーは、CASEへの対応として、ソフトウェア開発力の強化、垂直統合型ビジネスモデルの構築、新たなモビリティサービスの提供に注力しています。ドイツ系メーカーは統合的なプラットフォーム戦略を、米国メーカーは市場適応と革新的な技術導入を、中国系メーカーは革新的なビジネスモデルと垂直統合を追求しています。

一方、日本の自動車メーカーは、ハイブリッド技術での成功体験が純電動車(BEV)への転換を遅らせた側面があり、電動化とソフトウェア開発において構造的な課題に直面しています。国内の規制環境が相対的に緩やかであったことも、グローバル競争力低下の一因として指摘されています。


今後の自動車産業は、CASEの各要素が収束し、従来の業界境界が曖昧になる中で、単一技術の優位性ではなく、統合されたエコシステムの構築能力が成功の鍵を握ります。地政学的要因がサプライチェーンの分断や技術標準の分裂を招き、社会インフラとの協調や持続可能性の観点からの評価も不可欠となります。日本の自動車メーカーには、従来の強みを活かしつつ、電動化とソフトウェア技術の遅れを早急に取り戻し、モビリティサービス提供企業への大胆な変革が喫緊の課題として求められています。


注意

本記事は、特定の情報源と期間に限定された調査結果に基づき作成されています。そのため、全ての最新動向や詳細を網羅しているわけではありませんのでご留意ください。



CASE


1. CASE概念の生成経緯と背景


1.1 時代背景と自動車産業変革の必要性


21世紀に入り、自動車業界を取り巻く環境は前例のない激変を経験しました。地球温暖化への対応、都市化による交通渋滞の深刻化、エネルギー安全保障への懸念、そして消費者の価値観の多様化といった複合的な課題が、従来の自動車産業モデルの根本的な変革を強く求めていました。特に2000年代後半から2010年代初頭にかけて、これらの要因により、従来の自動車製造業が抱える限界が明らかになったのです。


環境問題は、この変革の最も強力な推進力の一つでした。2015年のパリ協定採択により、世界各国がカーボンニュートラル達成に向けた取り組みを強化し、運輸部門における二酸化炭素(CO2)排出量削減が喫緊の課題となりました。特に欧州では、内燃機関車に対する厳格な排出規制が導入され、従来のガソリン車やディーゼル車を中心とした自動車産業は、そのビジネスモデル自体を根本的に見直すことを余儀なくされました。さらに、2015年に発覚したフォルクスワーゲンのディーゼル不正問題(ディーゼルゲート)は、自動車業界全体の信頼を大きく失墜させ、電動化への転換圧力を一層高める結果となりました。


デジタル革命もまた、自動車産業に大きな影響を与えました。スマートフォンの普及により、消費者は常にネットワークに接続されたデジタル体験を当然のことと考えるようになりました。このような背景において、自動車だけがオフラインでアナログな存在であることへの違和感が生まれ、車両のコネクテッド化(常時接続性)への要求が急速に高まりました。同時に、Google、Apple、Facebook、Amazonといった巨大IT企業(GAFA)が自動車産業への参入を表明したことは、従来の自動車メーカーにとって新たな競合の脅威となり、既存の競争環境を大きく変える可能性を示唆しました。


都市化の進展と消費者価値観の変化も、自動車産業の変革を促す重要な要素でした。特に若年層を中心に、自動車を「所有する」ことよりも、必要な時に「利用できる」ことを重視する「所有から利用へ」という価値観の転換が進みました。Uberに代表されるライドシェアサービスの急速な拡大は、この価値観の変化を象徴するものであり、自動車の役割が単なる移動手段からモビリティサービスへと多様化する兆しを示しました。


これらの複数の要素が同時に作用したことで、自動車産業は単なる技術改良では対応できない、根本的な事業モデルの再構築を迫られることになりました。環境規制、デジタル化、都市化、そして消費者行動の変化という、一見すると異なる圧力源が、実は相互に連携し、従来の自動車産業の枠組みを揺るがす「完璧な嵐」を生み出したのです。


この状況下では、個別の技術革新だけでは不十分であり、自動車の役割とモビリティのビジネス全体を再定義する必要性が高まりました。特に、IT企業や新たなモビリティサービス提供者の台頭は、既存の自動車メーカーに対し、ソフトウェアやデータ、サービス提供能力が将来の競争力を決定づけることを明確に示し、自社の事業を加速的に変革する動機付けとなりました。



1.2 ダイムラーによるCASE戦略の発表とその意義


このような複合的な変革の必要性が高まる中、2016年のパリモーターショーにおいて、当時のダイムラーAG(メルセデス・ベンツの親会社)会長兼CEOであったディーター・ツェッチェ氏が、画期的な「CASE戦略」を発表しました。


この戦略は、Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared & Services(シェア&サービス)、Electric(電動化)という4つの軸を統合的に推進することで、ダイムラーを従来の自動車製造業から、より広範なモビリティサービス企業へと転換させることを目指すものでした。


ダイムラーがこの戦略を打ち出した背景には、高級車メーカーとしての強い危機感がありました。当時、テスラの急成長は、電動化分野においてダイムラーが後れを取っていることを浮き彫りにし、また若年層の高級車離れも深刻な問題として認識されていました。さらに、Google(現Alphabet)の自動運転プロジェクトであるWaymoや、Appleの自動車産業参入の噂など、IT企業の脅威が現実味を帯びており、従来の自動車メーカーのビジネスモデルが根底から覆される可能性が指摘されていました。


CASE戦略の最も革新的な側面は、これら4つの領域を単なる個別の技術として捉えるのではなく、相互に密接に連関する統合的なエコシステムとして位置づけた点にありました。例えば、コネクテッド技術は車両からリアルタイムデータを収集し、これが自動運転システムの精度向上に不可欠な情報源となります。また、シェアリングサービスは電動車の稼働率を向上させ、これにより電動車のコスト競争力を高めることができます。このような相乗効果を追求することで、CASE戦略は単なる技術革新に留まらず、事業モデルそのものの変革を目指しました。


この戦略の発表は、ダイムラーが単に自動車を販売する企業から、モビリティソリューションを提供する企業へと自らを再定義しようとする強い意志を示しました。これは、将来の自動車産業において、ハードウェアの提供だけでなく、ソフトウェア、データ、そしてサービスが価値創造の中心となることを見越した、企業の存続をかけた戦略的転換でした。従来の自動車メーカーが、ソフトウェア主導の未来において単なるハードウェアサプライヤーに成り下がるリスクを回避するための、先手を打った動きであったと言えます。この統合的なアプローチは、業界全体に大きな影響を与え、その後の各社の戦略策定に大きな影響を与えることになります。



1.3 業界への波及と標準概念化


ダイムラーのCASE戦略発表後、この概念は瞬く間に自動車業界全体に広がり、その後の業界の方向性を決定づけるものとなりました。その急速な普及の背景には、CASEが当時業界が直面していた複合的かつ複雑な課題を包括的に整理し、将来に向けた明確な道筋を示したことが挙げられます。これまで各自動車メーカーは、電動化や自動運転といった個別の技術領域にそれぞれ取り組んでいましたが、CASEという統一的な枠組みが提示されたことで、各技術がどのように相互作用し、全体としてどのような戦略を構築すべきかという全体像が可視化されました。


ダイムラーの発表に続き、他の主要自動車メーカーも相次いで類似の戦略を発表しました。例えば、BMWは「ACCESS」(Autonomous, Connected, Electrified, Shared, Services)という独自の頭字語を用いて、CASEと同様の方向性を示しました。


また、トヨタは「コネクテッド、自動運転、シェア、電動化」という要素に加え、MaaS(Mobility as a Service)という概念を戦略に組み込み、より広範なモビリティサービスへの展開を強調しました。これらの動きにより、CASEは単一企業の戦略的ビジョンから、自動車産業全体が共有する標準的な概念へと発展しました。


CASEが業界の共通言語として定着したことは、変革の議論と戦略策定を加速させました。このフレームワークは、企業間のコミュニケーションを円滑にし、各社が自社の立ち位置や進捗をベンチマークする上での基準を提供しました。これにより、変革の必要性そのものに関する議論から、CASEの各柱をいかに効果的に実装するかという具体的な議論へと焦点が移り、業界全体の変革スピードが加速しました。


特に、「Shared & Services」の概念がトヨタのMaaSへの言及に見られるように、「シェア」から「サービスとしてのモビリティ」へと深化していったことは、業界の理解の成熟を示しています。単に車両を共有するだけでなく、公共交通機関、ライドシェア、カーシェアなど、様々な交通手段を統合し、ユーザーにシームレスなオンデマンドの移動体験を提供するという、より広範なビジョンが共有されるようになりました。これは、将来の収益モデルが、一度きりの車両販売から、継続的なサービス利用料へと移行する可能性を示唆するものです。




2. 世界各国のCASE推進状況


2.1 欧州:規制主導型のアプローチと電動化の加速


欧州は、CASE推進、特に電動化において、厳格な環境規制を軸とした先駆的なアプローチを取っています。欧州連合(EU)は2021年に「Fit for 55」パッケージを発表し、2035年までにガソリン車およびディーゼル車の新車販売を実質的に禁止する方針を決定しました。この決定により、電動化(E)は単なる戦略的選択肢ではなく、法的義務となり、欧州系自動車メーカーは積極的な電動化戦略を推進せざるを得ない状況にあります。


ドイツは、特に包括的なアプローチでCASEを推進しています。政府は「Digital Strategy 2025」の中でコネクテッド化を強力に推進し、自動運転に関しては2022年に世界で初めてレベル3自動運転の公道走行を合法化しました。これは、特定の条件下でシステムが運転を担い、ドライバーは監視義務を負うものの、即座の介入は不要となる画期的なステップです。


シェアリングについても、都市部でのカーシェアリングを優遇する政策を実施しており、ダイムラー(メルセデス・ベンツ)、BMW、フォルクスワーゲンといった主要メーカーは、このような政策環境を最大限に活用し、統合的なCASE戦略を推進しています。ドイツがレベル3自動運転の先行的な法整備を行ったことは、この複雑な技術領域において主導権を握り、自国メーカーに競争優位性をもたらす戦略的な意図があると考えられます。これは単なる技術開発だけでなく、法規制の整備を通じて実証データを蓄積し、将来的な商用化に向けた基盤を構築する試みと言えます。


フランスは電動化に重点を置き、2040年までの内燃機関車販売禁止を宣言しています。ルノー・日産・三菱アライアンスは、この方針に沿って「Alliance 2030」戦略を策定し、2030年までに35の電動車モデルを投入する計画を進めています。


イタリアも自動運転技術の実証実験に積極的であり、ミラノやトリノなどの主要都市で大規模な実験を実施しています。フィアット・クライスラー(現ステランティス)は、グループ全体で2030年までに電動化に3兆円を投資する計画を打ち出しています。


欧州の強力な規制主導型アプローチは、電動化の加速には寄与するものの、一方で課題も抱えています。厳格な排ガス規制やEVシフトの義務化は、欧州メーカーに迅速な技術転換を促し、先進的な電動車市場を形成する力となります。

しかし、もし他の主要市場(例えば、アジアの一部や米国の一部州)が同様の積極的なEV移行スケジュールを採用しない場合、欧州メーカーは急速に電動化された製品ポートフォリオをグローバルに販売する際に、市場の需要とのミスマッチに直面する可能性があります。これは、世界市場が異なる速度で電動化を進める「二層構造」となる可能性を示唆しており、製品ポートフォリオの管理をより複雑にする要因となります。



2.2 北米:市場主導型発展から政策転換期へ


米国は、CASEの各領域において市場主導型の発展を遂げてきましたが、2025年1月のトランプ政権発足以降、EV推進政策に大きな転換期を迎えています。


トランプ政権のEV政策転換


2025年1月20日、ドナルド・トランプ大統領は、バイデン政権下で導入された主要なEV政策を撤回する計画を発表しました 。これは、自動車メーカーに対するEV生産義務の撤廃、連邦税額控除の縮小、そして自動車産業を政府の介入ではなく市場の需要に委ねる「自由市場アプローチ」への移行を意図するものです 。


EV生産義務と目標の撤廃

トランプ政権は「電気自動車義務を撤回する」と公約し、自動車メーカーに特定のEV生産ノルマを課す要件を実質的に削減または排除する方針です 。また、バイデン政権が掲げた「2030年までに新車販売の50%を電動車とする」という目標も撤回されます。


連邦税額控除の終了

2025年7月4日にトランプ大統領が署名した「One Big, Beautiful Bill (OBBB)」と呼ばれる大規模な税制改革法案により、バイデン政権のインフレ抑制法(IRA)で制定された連邦EV税額控除およびその他のクリーンエネルギー関連の税額控除が実質的に廃止されます。


  • 新車EVに対する最大7,500ドルの連邦税額控除は、2025年9月30日以降に引き渡されるほとんどの車両で終了します。

  • 中古EVに対する4,000ドルの税額控除も、2025年9月30日以降の購入で廃止されます 。

  • 商用EVやリース車両が税額控除の対象となる「リース抜け穴」も今秋に終了します。

  • 自宅用EV充電ステーション設置に対する最大1,000ドルの税額控除は、2026年6月30日以降に廃止されます。

  • これらの変更により、消費者は既存の税額控除を利用しようとEV購入を急ぐ可能性があります 。


充電インフラ整備の停止

バイデン政権が2030年までに50万箇所の新規充電ステーション設置を目指し、割り当てた数十億ドルの資金は停止されました。連邦政府による充電インフラへのインセンティブも廃止されます。


燃費基準(CAFE基準)の緩和

2025年1月28日、運輸長官は国家幹線道路交通安全局(NHTSA)に対し、CAFE基準の見直しと改訂を指示しました。既存の基準が内燃機関車の生産中止を強制し、市場を歪めていると主張し、より柔軟な排出基準への移行を目指しています。これにより、ガソリン車の規制障壁が取り除かれる可能性があります。


関税の影響

2025年1月以降、中国製EVバッテリーやリチウム、コバルト、ニッケルといった重要原材料に対する新たな関税が導入され、自動車メーカーの生産コストを押し上げています 。特に2025年7月18日には、中国製グラファイト(EVバッテリーに不可欠な原材料)に93.5%という高率の関税が課されました 。これにより、EVの価格が上昇し、消費者のEV購入意欲が低下する可能性があります。



市場主導の継続と州レベルの動向

連邦政府の政策転換にもかかわらず、米国市場は引き続き市場主導型の発展を遂げています。


カリフォルニア州は、2035年までに新車販売におけるガソリン車の段階的廃止(実質的な販売禁止)を決定しており、他の10以上の州がこれに追随しています。これにより、米国市場の約3分の1が電動化義務の対象となっており、連邦政府の目標を上回るペースで電動化が進む可能性を示しています。州レベルの税額控除やガソリン車規制は、現時点では影響を受けない見込みです。


自動運転分野では、GoogleのWaymoがフェニックスやサンフランシスコで商用ロボタクシーサービスを展開し、世界最先端の技術実証を行っています。テスラも独自のFSD(Full Self-Driving)システムで差別化を図っていますが、その機能や安全性については議論が続いています。


トランプ政権は、2025年4月24日にNHTSAの新たな「自動運転車(AV)フレームワーク」を発表しました 。これは、不要な規制障壁を取り除き、イノベーションを促進し、AVの商業展開を可能にすることを目的としています。事故報告の要件を合理化し、国内生産車両も対象とする自動運転車免除プログラム(AVEP)を拡大するなど、規制緩和の姿勢を示しています。


シェアリング分野では、UberやLyftが世界最大規模のライドシェア市場を形成しており、これらのサービスは電動車の導入にも積極的で、2030年までに保有車両の100%電動化を目指す目標を掲げています。


米国自動車メーカーの対応も積極的です。

ゼネラルモーターズ(GM)は「Everybody In」キャンペーンのもと、2025年までに30の電動車モデルを投入し、2035年には軽量車のカーボンニュートラル実現を目標としています。GMの子会社であるCruiseは、サンフランシスコで無人タクシーサービスを開始していますが、2023年後半に安全性に関する問題が発生し、事業展開を見直しています。


フォードも電動化に注力しており、特に商用車市場でF-150 LightningやE-Transitといったモデルで先行しています。同時に、Ford Pro商用車サービス部門を通じて、フリート顧客向けの統合ソリューションを提供し、新たな収益源の確立を目指しています。



2.3 中国の国家戦略としての強力な推進と市場支配


中国は、政府主導でCASEを国家戦略として強力に推進している点で、他のどの国とも異なるアプローチを取っています。中国政府は「新エネルギー車発展計画(2021-2035年)」を策定し、2035年までに新車販売の50%を新エネルギー車(NEV、電気自動車、プラグインハイブリッド車、燃料電池車の総称)とする野心的な目標を設定しました。同時に、「スマートカー発展戦略2020」により、コネクテッドカーの普及も国策として推進されており、インフラ整備から技術開発、市場導入までを一貫して政府が主導しています。


電動化においては、中国は世界最大の市場を形成しています。2023年のNEV販売台数は800万台を超え、世界のNEV市場シェアの60%以上を占めるまでに成長しました。BYD、NIO、XPeng、Li Autoといった新興メーカーが急速に成長し、テスラを凌駕する勢いを見せています。この「チャイナスピード」と呼ばれる急速な発展は、政府の強力な補助金政策、充電インフラの整備、そして大規模な国内市場の存在によって支えられています。これにより、中国の国内企業は短期間で大規模な生産能力を構築し、膨大なユーザーデータを得ることで、技術開発を加速させています。


自動運転分野では、中国のIT大手である百度(Baidu)が「Apollo計画」を全国規模で展開しており、複数の都市で無人タクシーサービス「萝卜快跑(Apollo Go)」を運営しています。これは、米国Waymoと同様に、ソフトウェアファーストのロボタクシーサービスを目指すものです。コネクテッド分野では、テンセント、アリババ、華為(Huawei)などの巨大IT企業が、自動車メーカーと積極的に連携し、独自のコネクテッドエコシステムを構築しています。特に華為は、自動車事業を重要な成長分野と位置づけ、問界(AITO)ブランドでスマートEVを展開するなど、自動車産業への直接的な影響力を強めています。


中国市場における競争は、単なる自動車メーカー間の競争に留まらず、IT企業が主導する統合的なテクノロジーエコシステム間の競争へと進化しています。これは、ソフトウェア、AI、デジタルサービスが車両の価値を決定する上で、従来の自動車工学と同等、あるいはそれ以上に重要になっていることを示唆しています。外国の自動車メーカーは、このような政府の影響が強く、国内プレイヤーが優位に立つ市場において、データ所有権やサイバーセキュリティといった課題にも対処しながら、競争力を維持する必要があります。



2.4 アジア太平洋地域の多様な発展


アジア太平洋地域では、各国がそれぞれの地理的・産業的特性を活かし、CASEの特定の側面に焦点を当てた多様な発展を見せています。


韓国は、自動運転技術の開発と産業育成に力を入れています。「K-City」と呼ばれる自動運転実証都市を建設し、現代自動車を中心とした国内産業の育成を進めています。現代自動車グループは、2025年までに23の電動車モデルを投入し、年間170万台の生産を計画するなど、電動化への積極的な投資を行っています。韓国のアプローチは、研究開発インフラの整備と国内チャンピオン企業の育成を組み合わせることで、特定の技術領域でのリーダーシップを確立しようとするものです。


シンガポールは、都市国家という特性を最大限に活かし、全島でのスマートモビリティ実現を目指しています。陸上交通庁(Land Transport Authority)が主導し、2040年までにカーボンニュートラルな陸上交通システムの構築を目標としています。シンガポールは、高密度な都市環境におけるモビリティ課題の解決策として、自動運転シャトルやオンデマンド交通サービスの実証実験を積極的に行い、都市型スマートモビリティのモデルケースとなることを目指しています。


オーストラリアでは、連邦政府レベルよりも州政府レベルでの電動車普及策が進んでいます。ニューサウスウェールズ州やビクトリア州では、電動車購入補助金制度を導入し、急速充電インフラの整備を推進しています。これは、広大な国土を持つオーストラリアにおいて、地域ごとの特性に応じた政策が展開されていることを示しています。


これらのアジア太平洋諸国の動向は、CASEの実装に唯一の正解があるわけではないことを示しています。大規模な経済圏や国家戦略を持つ国々とは異なり、これらの国々は、自国のユニークな状況(例えば、都市の密度、産業構造、資源の有無)に合わせて政策を調整し、特定のCASE領域でニッチなリーダーシップを確立しようとしています。これは、グローバルな自動車メーカーが、アジア太平洋地域内でさえも、高度に地域化された市場条件や規制の枠組みに適応する柔軟性が必要であることを意味します。


表1: 主要国・地域のCASE推進アプローチ比較

地域/国

主要な推進力

主要な政策/イニシアチブ

主な焦点領域

特筆すべき傾向/特徴

欧州

規制主導型

Fit for 55、2035年ICE車販売禁止

電動化、自動運転(L3)

厳格な環境目標、法規制による強制力

ドイツ

規制主導型

Digital Strategy 2025、2022年L3自動運転合法化

コネクテッド、自動運転、シェアリング

包括的アプローチ、L3自動運転の先行

北米

市場主導型から政策転換期へ

トランプ政権によるEV政策撤回、税額控除終了、CAFE基準緩和、AVフレームワーク

自動運転、シェアリング、電動化(市場主導)

連邦政府のEV推進後退、州レベルの継続、関税強化

中国

国家戦略型

新エネルギー車発展計画、スマートカー発展戦略

電動化、自動運転、コネクテッド

政府主導、世界最大のEV市場、テック企業参入

韓国

産業育成型

K-City(自動運転実証都市)、現代自動車グループEV目標

自動運転、電動化

R&Dインフラ整備、国内産業の強化

シンガポール

都市課題解決型

2040年カーボンニュートラル陸上交通システム

スマートモビリティ、コネクテッド

都市国家の利点活用、都市型ソリューション

オーストラリア

州政府主導型

EV購入補助金、急速充電インフラ整備

電動化

州レベルでの普及促進、地域特性への適応



3. 主要グローバル自動車メーカーの戦略


3.1 ドイツ系メーカー:統合的プラットフォーム戦略


ドイツの主要自動車メーカーは、CASEへの対応において、統合的なプラットフォーム戦略を重視しています。これは、電動化、自動運転、コネクテッド技術を共通の基盤上で開発し、規模の経済と効率性を追求するアプローチです。


フォルクスワーゲングループは、「NEW AUTO戦略」を掲げ、2030年までにグループ販売の70%を電動車とする野心的な目標を設定しました。この目標達成のため、同社はソフトウェア子会社CARIADを設立し、グループ内の全ブランドに共通するソフトウェアプラットフォームの開発を進めています。自動運転に関しては、当初は米国のArgoAIへの投資を通じてレベル4技術の実用化を目指していましたが、2022年に方針を転換し、独自開発に回帰しました。この方針転換は、ソフトウェアと自動運転技術が自動車の未来において中核的な競争力となることを認識し、外部依存ではなく自社でその技術スタックを完全にコントロールすることの重要性を強調するものです。これは、レガシーメーカーが、従来のハードウェア中心の企業文化から、ソフトウェア中心の企業へと変革する上での「自社開発か、外部提携か」というジレンマに直面し、最終的に自社開発を選択した事例として注目されます。


ダイムラー(メルセデス・ベンツ)は、CASE戦略の提唱者として、最も統合的なアプローチを取っています。2022年には商用車事業を分離し、高級乗用車事業に特化することで、CASE技術への投資を集中させる戦略を明確にしました。同社は、高級EVセダン「EQS」をはじめとする電動車ラインナップを拡充しており、自動運転では、2021年に世界で初めてレベル3システム「DRIVE PILOT」を量産車に実用化しました。これは、特定の条件下でドライバーが運転から解放されることを可能にする画期的な技術であり、メルセデス・ベンツがこの分野で技術的リーダーシップを発揮しようとする姿勢を示しています。


BMWは「ACCESS戦略」のもと、電動化とデジタル化を同時進行で推進しています。iXやi4といった電動車を投入しつつ、独自のインフォテインメントシステムであるiDriveを進化させ、コネクテッド体験の強化に力を入れています。ドイツ系メーカー全体として、ソフトウェア開発能力の強化は喫緊の課題であり、自社開発、M&A、提携など、様々なアプローチを試みながら、この新たな競争領域での優位性確立を目指しています。




3.2 米国メーカー:市場適応と技術革新


米国自動車メーカーは、市場の特性と技術革新のトレンドに柔軟に適応する戦略を展開しています。


テスラは、CASE概念の各要素を早期から統合的に実現していた企業であり、この分野における真のパイオニアと言えます。電動車専業メーカーとして、バッテリー技術からソフトウェア、充電インフラに至るまで、垂直統合型のビジネスモデルを構築しています。この垂直統合は、品質管理、イノベーションの加速、コスト削減、そしてシームレスなユーザー体験(例:OTAアップデート、充電ネットワーク)の提供を可能にし、従来の自動車メーカーのサプライチェーンモデルに大きな課題を突きつけました。自動運転においては、独自のニューラルネットワーク技術を基盤としたFSD(Full Self-Driving)システムで他社との差別化を図っています。テスラの成功は、ソフトウェアとバッテリー技術を自社で深く統合することが、CASE時代における強力な競争優位性となることを明確に示しています。しかし、トランプ政権に参加したことによる欧州での不買運動や嫌イーロン・マスクによる販売の落込み、さらにトランプ政権との対立が、今後どのような影響をもたらすかに注意が必要です。


ゼネラルモーターズ(GM)は、「Everybody In」キャンペーンのもと、傘下の全ブランドで電動化を推進する大規模な戦略を展開しています。独自のUltiumバッテリープラットフォームを基盤として、高級車のキャデラック・リリックから大衆車のシボレー・ボルトまで、幅広い価格帯の電動車を投入しています。自動運転分野では、子会社のCruiseがサンフランシスコで無人タクシーサービスを開始しており、モビリティサービスとしての自動運転の実用化を積極的に進めています。


フォードは、特に商用車市場での電動化に重点を置いています。ベストセラーのピックアップトラック「F-150」の電動版であるF-150 Lightningや、商用バン「E-Transit」で先行しており、フリート顧客からの需要を取り込むことを目指しています。同時に、Ford Proという商用車サービス部門を通じて、フリート顧客向けの車両管理、充電ソリューション、ソフトウェアサービスといった統合的なソリューションを提供しており、車両販売だけでなく、サービスからの継続的な収益確保を戦略の柱としています。GMとフォードの異なる電動化への注力点は、それぞれの市場における強みを活かし、将来の収益源を確保するための戦略的な多様化を示しています。フォードの商用車への注力は、B2B市場における早期のEV需要と、フリート運用における予測可能なルートでの充電といった利点を捉える賢明な動きと言えます。



3.3 中国系メーカー:革新的ビジネスモデルと垂直統合


中国の自動車メーカーは、政府の強力な支援と巨大な国内市場を背景に、革新的なビジネスモデルと垂直統合を武器に急速な成長を遂げています。


BYDは、もともと電池メーカーとして培った技術力を活かし、電動車市場で世界トップクラスの販売台数を誇る企業へと成長しました。同社は、バッテリーから車両の主要部品、そして完成車に至るまで垂直統合型のビジネスモデルを構築しており、これにより高いコスト競争力と迅速な技術革新を両立させています。この垂直統合は、テスラと同様に、サプライチェーンのコントロールと効率化を可能にし、市場での優位性を確立する要因となっています。


NIOは、「Battery as a Service(BaaS)」という画期的なビジネスモデルを提示し、電動車の新たな利用形態を提案しています。これは、バッテリーを車両とは別にサブスクリプション形式で提供し、バッテリー交換ステーションネットワークを通じて、ユーザーが短時間でバッテリーを交換できるサービスです。BaaSモデルは、バッテリーの初期購入費用を抑え、航続距離への不安を軽減し、バッテリー劣化のリスクを低減することで、電動車の利便性と普及を促進することを目指しています。これは、技術革新だけでなく、ビジネスモデルの革新がEV市場における重要な差別化要因となることを示しています。


Xpengは、自動運転技術に重点を置き、独自のXPilotシステムを開発しています。同社は、中国特有の複雑な交通環境に最適化された自動運転技術で差別化を図っており、中国国内の膨大な走行データを活用してシステムの精度向上に努めています。これは、自動運転技術が特定の地域環境に最適化されることの重要性を示しており、グローバルな展開においては、各地域の交通状況や規制に合わせたローカライズが不可欠となる可能性を示唆しています。


表2: 主要グローバル自動車メーカーのCASE戦略概要

メーカー

全体戦略/焦点

電動化における主要イニシアチブ

自動運転における主要イニシアチブ

コネクテッド/シェアードにおける主要イニシアチブ

ユニークな強み/アプローチ

フォルクスワーゲングループ

NEW AUTO戦略

2030年までに販売の70%をEV化

CARIADによるソフトウェアプラットフォーム開発、自社開発回帰

全ブランド共通SWプラットフォーム

ソフトウェアへの大規模投資、プラットフォーム戦略

ダイムラー(メルセデス・ベンツ)

CASE戦略提唱者、高級車特化

EQSなどEVラインナップ拡充

2021年世界初L3「DRIVE PILOT」量産実用化

高級車特化、統合的アプローチ

L3自動運転の先行、ブランド価値

BMW

ACCESS戦略

iX、i4などEV拡充

-

iDriveシステム進化、コネクテッド体験強化

電動化とデジタル化の同時推進

テスラ

統合型パイオニア

バッテリー技術、垂直統合型ビジネスモデル

独自のFSD(Full Self-Driving)システム

ソフトウェア、生産技術まで垂直統合

垂直統合、ソフトウェア主導、先行者利益

ゼネラルモーターズ(GM)

Everybody In

Ultiumバッテリープラットフォーム、2025年までに30EVモデル

子会社Cruiseによる無人タクシーサービス

-

広範なEVポートフォリオ、モビリティサービス展開

フォード

商用車電動化、サービス重視

F-150 Lightning、E-Transit

-

Ford Pro商用車サービス部門による統合ソリューション

商用車市場での先行、フリート向けサービス

BYD

バッテリー駆動型支配

電池事業で培った技術、EV世界トップシェア

-

垂直統合型ビジネスモデル

バッテリー技術からの垂直統合、コスト競争力

NIO

革新的ビジネスモデル

Battery as a Service(BaaS)モデル

-

バッテリー交換ステーションネットワーク

BaaSによる利便性向上、新たなビジネスモデル

Xpeng

自動運転焦点

-

独自のXPilotシステム開発

-

中国市場に最適化された自動運転技術



4. 日本の自動車メーカーの現状と課題


4.1 トヨタのCASE戦略:多角的なアプローチとハイブリッド再評価の波


トヨタは、自動車業界の大きな変革期であるCASE(Connected, Autonomous, Shared & Services, Electric)への対応として、独自の「全方位戦略」を推進しています。特に電動化においては、長年にわたり培ってきたハイブリッド技術(HEV)の豊富な経験を基盤とし、プラグインハイブリッド車(PHEV)、純電動車(BEV)、燃料電池車(FCEV)といった多様な電動パワートレインを展開しています。


特にハイブリッド技術においては、依然として世界をリードする技術力を誇り、年間200万台以上を販売し続けています。このHEV分野での圧倒的な成功は、トヨタがこれまでグローバル市場で優位性を確立してきた主要な要因の一つであることは間違いありません。

しかしながら、純電動車(BEV)への本格的な対応では、市場の期待に応えられていない現状が指摘されてきました。2022年に投入されたbZ4Xの販売は現状、期待を下回っています。豊田章男前社長(現会長)が「カーボンニュートラルは手段であり、目的ではない」と発言し、多様な技術による選択肢の重要性を強調してきたことは、トヨタのハイブリッド技術への強いコミットメントと、性急なBEVシフトへの慎重な姿勢を示してきました。

この慎重な姿勢は、近年の市場環境の変化によって、むしろ合理的な戦略として再評価されつつあります。具体的には、


  • テスラをはじめとする先行EVメーカーの販売不振と株価低迷: EV市場の成長鈍化や競争激化により、テスラなどの販売が伸び悩み、純粋なEV戦略のリスクが顕在化しています。

  • 米国のEV政策の見直しとハイブリッドへの再注目: 米国ではEV補助金の縮小や、充電インフラ整備の遅れなどからEVシフトのペースが鈍化。フォードやGMといった米国メーカーも、EV投資計画の見直しやハイブリッド車への投資拡大に舵を切っています。消費者のハイブリッド車への需要が想定以上に強いことも背景にあります。

  • 欧州メーカーのEV投資計画の減額: 欧州市場でもEV需要の伸びが鈍化し、一部の欧州自動車メーカーはEVへの大規模投資計画を見直し、ハイブリッドや内燃機関車とのバランスを再検討する動きが見られます。


これらの世界的な動向は、トヨタの長年の「全方位戦略」が、単なる「イノベーターのジレンマ」ではなく、不確実性の高い市場におけるリスク分散戦略として有効であることを示唆しています。膨大なリソースと組織構造がハイブリッド技術に最適化されているという構造的な課題は残るものの、現在の市場状況においては、むしろ強みとして作用する可能性が高まっています。


自動運転分野では、レベル2+の先進運転支援システム「Toyota Safety Sense」を多くの車種に標準装備し、安全技術では世界トップレベルを維持しています。しかし、レベル3以上の高度な自動運転については、慎重なアプローチを取っており、2025年頃の実用化を目指すとしています。この慎重な姿勢は、トヨタの安全に対する強いコミットメントの表れではありますが、同時に、ロボタクシーサービスや高度なADASサブスクリプションといった、将来の付加価値の高いモビリティサービス市場において、先行する企業との技術的・商業的なギャップを生む可能性があります。


コネクテッド分野では、「Toyota Connected」を通じて車両データの活用基盤を構築しています。また、ソフトバンクとの合弁会社MONETを通じてMaaSプラットフォームの開発を進めており、モビリティサービス企業への変革を目指す姿勢を示しています。



4.2 ホンダの技術革新アプローチ


ホンダは、2050年にカーボンニュートラル実現を目標とし、2040年までにガソリン車の販売を終了する方針を表明するなど、電動化への明確なコミットメントを示しています。電動化戦略においては、ゼネラルモーターズ(GM)との戦略的提携により、GMのUltiumプラットフォームを活用したEV開発を進める一方で、独自の「e:Architecture」プラットフォームも開発しており、多様なアプローチでEVシフトに対応しようとしています。


自動運転分野では、2021年に世界で2番目にレベル3自動運転システム「Honda SENSING Elite」を量産車(レジェンド)に搭載し、実用化を果たしました。これは技術的な快挙でしたが、販売台数は限定的であり、商業的な成功には至っていません。この事例は、高度な自動運転技術の早期実用化が、必ずしも市場での普及や収益化に直結しないという、商業化の難しさを示しています。レベル3のシステムは、特定の条件下でのみ機能し、ドライバーは常に介入準備を整える必要があるため、その実用性や利便性が消費者に十分に評価されていない可能性があります。また、システム自体の高コストも普及の障壁となっています。


さらに、ホンダは航空機事業で培った技術を活かし、eVTOL(電動垂直離着陸機)の開発も進めており、2030年代の事業化を目指しています。これは他の日本の自動車メーカーには見られないユニークな取り組みであり、ホンダが陸上モビリティに留まらず、より広範な「空のモビリティ」領域での将来的な役割を模索していることを示しています。この戦略的多角化は、将来のモビリティが道路に限定されない可能性を見据え、既存の強みを活かして新たな市場を創造しようとする試みと言えます。



4.3 日産の復活戦略


日産は、ルノー・日産・三菱アライアンスの枠組みの中で、「Nissan Ambition 2030」戦略を推進しています。この戦略では、電動化を重点領域と位置づけ、2030年代早期にEVとe-POWER搭載車の合計で新車販売の75%を目標としています。


自動運転技術では、レベル2の先進運転支援システム「ProPILOT」を幅広い車種に展開しています。2021年にはスカイラインに「ProPILOT 2.0」を搭載し、高速道路での手放し運転を実現するなど、技術の進化を図っています。


電動化の旗艦モデルとして、クロスオーバーEV「アリア」を投入し、特に欧州市場でのブランド復活を図りました。しかし、アリアは生産遅延や販売不振に見舞われ、計画の修正を余儀なくされています。これは、アライアンスによる技術共有や規模の経済といった戦略的メリットがある一方で、個別の製品投入においては、生産能力、市場投入タイミング、競争力のある価格設定、そして魅力的な製品力といった、基本的な実行力が成功に不可欠であることを示しています。日産が直面する課題は、単にEVをラインナップに加えるだけでなく、それをいかに効率的に生産し、市場で競争力を持って販売するかという点にあります。



4.4 その他の日本メーカーの状況


マツダは、独自の「マルチソリューション」アプローチを取っています。これは、内燃機関の効率向上(SKYACTIV技術)を継続しながら、電動化にも対応するというものです。純電動車としてはMX-30を投入しましたが、航続距離の短さから市場での評価は限定的でした。このマルチソリューション戦略は、多様な市場ニーズに対応しようとする柔軟性を持つ一方で、BEV市場が急速に拡大し、航続距離や充電速度が重要な購買決定要因となる中で、BEVへの投資が分散し、特定の技術領域で後れを取るリスクを抱えています。


スバルは、トヨタとの技術提携を強化し、トヨタのbZ4Xの兄弟車である「ソルテラ」を投入しています。これにより、自社単独での大規模なEV開発投資を抑えつつ、電動化に対応しています。また、独自の先進運転支援システム「EyeSight」を進化させ、自動運転技術の向上を図っています。


三菱自動車は、ルノー・日産・三菱アライアンス内での電動車技術共有により、アウトランダーPHEVなどで一定の成果を上げています。しかし、企業規模の制約により、独自の大規模投資は困難な状況であり、アライアンス内での役割分担と技術共有が、今後のCASE対応の鍵となります。


これらの小規模な日本メーカーにとって、CASE技術開発に必要な莫大な研究開発費と設備投資は、単独では賄いきれないレベルに達しています。そのため、トヨタやアライアンスといった大企業との戦略的パートナーシップは、生き残りのための不可欠な選択肢となっています。これにより、リスクとリソースを共有し、個社ではアクセス困難な技術を獲得できる一方で、ブランドの独自性や戦略的自律性といった課題も生じます。



4.5 日本メーカーが直面する構造的課題


日本の自動車メーカーは、CASEへの対応において、複数の構造的な課題に直面しています。これらの課題は相互に関連し、複雑な形で競争力に影響を与えています。


最も深刻な課題は、電動化の遅れです。長年のハイブリッド技術での成功体験が、純電動車(BEV)への本格的な転換を遅らせた側面があることは否定できません。特にバッテリー技術においては、中国のCATLや韓国のLG化学、SKイノベーションといった企業に大きく後れを取っており、車載用大容量バッテリー市場の大部分を海外企業が支配しています。パナソニック、東芝、ソニーといった日本のバッテリー関連企業も存在しますが、自動車産業の要求する規模とコスト競争力を持つ車載用バッテリーの供給体制が十分に確立されていない状況があります。


次に、ソフトウェア開発力の不足が挙げられます。日本の自動車メーカーの企業文化は、長らく機械工学を中心として発展してきました。このため、ソフトウェアやエレクトロニクスを中心とした開発体制への転換が遅れています。トヨタが「モビリティカンパニー」への変革を掲げ、ソフトウェア部門の強化に乗り出しているものの、GAFAやテスラといったソフトウェア主導の企業との技術格差は依然として大きく、優秀なソフトウェア人材の確保も課題となっています。従来のハードウェア開発に最適化された組織構造や開発プロセスが、アジャイルで反復的なソフトウェア開発のスピードに対応しきれていない現状があります。


規制環境への対応も、日本のメーカーにとって不利に働いています。欧州で導入されているような厳格な環境規制に対して、日本の国内規制が相対的に緩やかであったため、グローバル市場での競争力低下を招いています。国内市場の特殊性が、世界市場で求められる電動化や環境性能への対応を遅らせる要因となっている可能性が指摘されます。特に、米国の燃費基準緩和は、日本メーカーが内燃機関車の開発・販売を継続する余地を与える一方で、グローバルな電動化競争における遅れをさらに広げるリスクも孕んでいます 。


最後に、サプライチェーンの再構築が喫緊の課題です。従来の自動車産業は、機械部品を中心とした強固なサプライヤーネットワークを構築してきましたが、CASE時代においては、電子部品、半導体、ソフトウェア企業との連携強化が不可欠です。デンソーやアイシンといった大手サプライヤーも電動化対応を進めていますが、産業全体の変革のスピードに追いつくためのさらなる迅速な対応が求められています。米国の関税政策、特に中国製バッテリー部品や重要原材料への高関税は、日本の自動車メーカーを含むグローバルサプライチェーンに大きな影響を与え、生産コストの増加や調達戦略の見直しを迫っています 。


これらの課題は単独で存在するのではなく、相互に影響し合っています。例えば、電動化の遅れはバッテリー技術の不足を招き、ソフトウェア開発力の不足はコネクテッド機能や高度な自動運転の実装を阻害します。また、緩やかな国内規制は、グローバル市場で求められる技術革新へのインセンティブを弱め、サプライチェーンの変革も遅らせる可能性があります。この連鎖的な課題構造を打破するためには、個別の技術開発だけでなく、企業文化、組織体制、政府政策、そしてサプライチェーン全体を巻き込んだ、包括的かつ同期的な戦略が求められます。


表3: 日本の自動車メーカーのCASE対応状況と課題

メーカー

全体戦略/アプローチ

CASEにおける強み

CASEにおける主要課題

戦略的パートナーシップ/アライアンス

トヨタ

全方位戦略

世界トップのハイブリッド技術、L2+安全技術、MaaSプラットフォーム構築

純BEVへの対応遅れ、バッテリー技術の遅れ、ソフトウェア開発力

ソフトバンク(MONET)

ホンダ

技術革新アプローチ

2040年ガソリン車販売終了目標、L3自動運転の実用化(技術的快挙)

L3自動運転の商業的成功の限定性、BEVプラットフォーム開発

GM

日産

アライアンス戦略

ProPILOT技術(L2+)、アライアンス内での電動化目標

フラッグシップEV「アリア」の生産・販売不振

ルノー・日産・三菱アライアンス

マツダ

マルチソリューション

SKYACTIV技術による内燃機関効率向上

純EV(MX-30)の航続距離の短さ、BEVシフトの遅れ

-

スバル

提携強化

EyeSight技術の進化

BEV開発におけるトヨタへの依存

トヨタ

三菱自動車

アライアンス活用

PHEV技術(アウトランダーPHEV)

企業規模の制約、独自大規模投資の困難さ

ルノー・日産・三菱アライアンス



5. 今後の展望と課題


5.1 技術収束による新たな競争構造とエコシステムの重要性


CASEの4つの要素(Connected, Autonomous, Shared & Services, Electric)は、それぞれが独立した技術トレンドではなく、相互に密接に連携し、最終的には統合的なモビリティプラットフォームへと収束しつつあります。この技術の収束は、従来の自動車メーカー、IT企業、エネルギー企業、通信企業といった業界の境界を曖昧にし、新たな競争構造を生み出しています。


この新たな競争環境において、成功の鍵は、単一技術の優位性ではなく、いかに統合されたエコシステムを構築できるかという能力にあります。テスラの成功は、バッテリーからソフトウェア、充電インフラまでを垂直統合し、シームレスなユーザー体験を提供するこの統合アプローチの有効性を明確に示しています。今後は、各企業が単に車両を製造・販売するだけでなく、充電、インフォテインメント、自動運転機能、ライドシェア、エネルギー管理など、多岐にわたるサービスを統合した包括的なモビリティソリューションをいかに提供できるかが、競争の分岐点となるでしょう。


これは、競争の焦点が「製品そのもの」から「製品が提供するエコシステムとサービス」へと移行していることを意味します。自動車が「ソフトウェア定義の車両」となるにつれて、価値は物理的なハードウェアから、コネクテッド機能、データ活用、そして継続的なソフトウェアアップデートによって提供されるデジタル体験へとシフトします。したがって、企業は自社のコアコンピテンシーを再定義し、必要に応じて異業種とのパートナーシップを積極的に構築し、データ管理と収益化、そしてシームレスなユーザー体験の提供能力を強化する必要があります。エコシステムを構築できない企業は、将来的に単なるハードウェアサプライヤーとなり、価値連鎖の主導権をソフトウェアやサービスプロバイダーに奪われるリスクに直面します。



5.2 地政学的要因の影響拡大とサプライチェーンの強靭化


CASE技術は、その性質上、国家安全保障と密接に関連するため、地政学的要因の影響が拡大しています。特に米中間の技術摩擦は、サプライチェーンの分断や技術標準の分裂を加速させています。これにより、自動車メーカーは、単一のグローバルな技術標準に準拠するだけでなく、複数の地域標準に対応する必要性に迫られています。これは、製品開発の複雑性を増し、コスト上昇につながる可能性があります。


また、電動車の普及に不可欠な重要鉱物(リチウム、コバルト、レアアースなど)の調達における地政学的リスクも高まっています。これらの鉱物の供給は特定の国や地域に偏っており、供給途絶のリスクや倫理的な問題が指摘されています。持続可能で安定的なサプライチェーンを構築することは、もはや単なるコスト効率の問題ではなく、企業の競争力を左右する重要な要因となっています。


これにより、企業はこれまでのような「最も効率的なグローバルサプライチェーン」にのみ依存するわけにはいかなくなります。国内生産の強化、調達先の多様化、そして特定の国への依存度低減といった「レジリエンス(回復力)」を重視したサプライチェーン戦略が求められます。これは短期的なコスト増につながる可能性もありますが、長期的な事業継続性と政治的リスクの低減には不可欠な投資となります。



5.3 社会インフラとの協調と官民連携の推進


CASEの完全な実現には、車両側の技術革新だけでなく、それを支える社会インフラの整備が不可欠です。電動車普及のための充電インフラ、コネクテッドカーや自動運転に必要な5G通信網、そしてデジタル道路インフラなど、大規模な投資が必要とされます。これらのインフラ整備は、民間企業単独では賄いきれない規模であり、政府や地方自治体との官民連携による大規模投資が不可欠です。


各国政府の政策支援の質と規模は、自国の自動車産業の競争力を決定する重要な要因となります。例えば、充電インフラの整備が遅れれば、消費者のEV購入意欲は低下し、電動化の進展が阻害されます。自動運転技術も、法規制の整備やデジタルマップの精度向上といったインフラがなければ、その実用化は困難です。


これは、インフラ整備と技術普及の間にある「鶏と卵」の問題を浮き彫りにします。消費者は充電インフラがなければEVを購入せず、企業は需要がなければインフラ投資をためらいます。このジレンマを解消するためには、政府が明確な政策目標を設定し、インフラ投資を主導または支援することで、民間投資を呼び込み、市場の成長を加速させる役割が極めて重要です。官民が一体となって取り組むことで、初めてCASEが目指すモビリティ社会が実現可能となります。



5.4 持続可能性の観点からの評価と新たな課題


CASE概念の登場は、当初、環境負荷削減、特に運輸部門のCO2排出量削減という明確な目標を掲げていました。しかし、電動化の進展に伴い、バッテリー製造やレアメタル(リチウム、コバルト、レアアースなど)の採掘・精製による環境影響、そして電動車を動かす電力供給における化石燃料への依存といった、新たな課題も顕在化しています。


真の持続可能性を実現するためには、車両の走行時だけでなく、原材料の調達から製造、使用、そして廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体での環境影響評価と対策が求められています。例えば、バッテリーのリサイクル技術の確立や、再生可能エネルギー由来の電力供給への転換は、電動モビリティの真の環境性能を左右する重要な要素となります。


これは、「グリーン」の定義が、単なる排ガスゼロから、製品のライフサイクル全体における環境フットプリントへと拡大していることを示しています。自動車メーカーは、サプライチェーン全体での環境責任を負い、倫理的な調達、持続可能な製造プロセス、そして責任あるバッテリーリサイクルといった側面にも取り組む必要があります。このような包括的なアプローチを実践できる企業が、将来的に消費者や規制当局からの信頼を獲得し、競争優位性を確立するでしょう。



6. まとめ


CASE概念の登場から約8年が経過し、自動車業界は間違いなく変革の道を歩んでいます。しかし、その進展速度と方向性は、地域や企業によって大きく異なっているのが現状です。欧州の規制主導型、北米の市場主導型から政策転換期へ、中国の国家戦略型、そして日本の技術継承型という、それぞれ異なるアプローチが並存しており、これらがグローバルな競争環境を複雑にしています。


日本の自動車メーカーにとって、現在はまさに正念場にあります。長年にわたり培ってきたハイブリッド技術や生産技術といった従来の技術的優位性を活かしつつ、電動化とソフトウェア技術という新たな競争軸において、他国・他社に後れを取っている現状を早急に克服する必要があります。

特に、バッテリー技術の遅れやソフトウェア開発力の不足は、構造的な課題として認識されており、これらを克服するためには、従来の機械工学中心の企業文化から、ソフトウェア・エレクトロニクス中心への大胆な転換が求められます。単なる技術のキャッチアップに留まらず、統合的なモビリティソリューション提供企業への変革を図ることが喫緊の課題です。


CASE概念は、単なる技術トレンドの集合体ではなく、自動車産業の枠を超え、社会システム全体の変革を促す包括的な枠組みです。その完全な実現には、個々の企業の努力だけでなく、産業エコシステム全体、すなわちサプライヤー、IT企業、エネルギー企業、通信企業、そして政府や地方自治体といった多様なステークホルダー間の協調と連携が不可欠です。


CASEの完全実現は、技術革新、規制整備、社会インフラ構築、そして消費者意識の変革という、多層的な要因の同期が求められる複雑なプロセスです。この変革プロセスにおいて、各ステークホルダーが連携し、持続的な投資を行うことで、真に持続可能で利便性の高いモビリティ社会の実現が期待されます。

今後10年間は、自動車産業の未来、そして各国の自動車産業の国際競争力と立ち位置を決定づける、極めて重要な期間となるでしょう。日本の自動車産業がこの変革の波を乗り越え、再び世界のリーダーシップを発揮できるかどうかが問われています。



ご依頼ありがとうございます。企業活動における映像コンテンツのプロデューサー兼ディレクターとして、BtoBのあらゆるテーマの映像ニーズを熟知されていることと存じます。CASE時代における名古屋の映像制作会社が提供できる価値を明確にするため、以下の小見出しを挿入しました。



7. 名古屋の映像制作会社がCASE時代に提供できる価値


7.1. 研究開発・技術紹介のための映像コンテンツ


CASE技術は、その複雑さゆえに、専門家以外には理解が難しい側面があります。映像制作会社は、このギャップを埋める**「技術翻訳者」**としての重要な役割を担うことができます。


愛知県や名古屋市で行われている自動運転の実証実験(高速バス、ガイドウェイバスなど)は、その進捗や成果を記録し、技術的な課題解決プロセスを可視化する映像ニーズを生み出しています。


例えば、実証実験の様子をドキュメンタリー形式で記録し、技術者が直面する課題とそれを乗り越える過程を追うことで、技術開発のリアルな側面を伝えることができます。また、自動運転システムの内部動作、センサーデータ処理、AIの意思決定プロセスなど、目に見えない複雑な技術を、高度な3Dアニメーションやリアルタイムシミュレーション映像で分かりやすく解説する需要が高まります。これにより、研究者、エンジニア、そして一般の人々が技術の仕組みと信頼性を深く理解できるようになります。


新素材や新部品の分野では、EVバッテリーに不可欠なグラファイトなどの原材料の特性、その製造プロセス、そして品質管理の厳格さを伝える映像が、部品サプライヤーや自動車メーカーにとって非常に重要です。特に、米国で高関税が課され、国内生産の重要性が増す中で、高品質な原材料の供給能力や技術開発の進捗をアピールする映像は、投資誘致やサプライチェーン構築において決定的な役割を果たします。


さらに、トヨタが愛知県田原工場で導入を計画しているギガキャストや自走組立ラインといった革新的な生産技術は、その効率性、品質向上、環境負荷低減といったメリットを視覚的に解説する映像が求められます。これらの映像は、投資家へのアピール、パートナー企業との連携促進、そして将来の従業員への魅力的な採用ブランディングに繋がります。



7.2. プロモーション・マーケティングのための映像コンテンツ


EVのプロモーションは、国際的な政策変更により新たな課題に直面しています。米国のEV税額控除廃止や高関税による価格上昇の懸念がある中、EVのプロモーションは、単なる「経済性」だけでなく、「環境性能」「優れた走行性能」「静粛性」「先進性」「デザイン性」といったEV本来の魅力を深く掘り下げて訴求する必要があります。


愛知県が提供する独自のEV補助金や税制優遇、充電インフラ補助制度を活用し、EV購入の具体的なメリットを地域住民に分かりやすく訴求する地域密着型のプロモーション映像は非常に有効です。また、愛知県自動車販売店協会が推進するカーボンニュートラルへの取り組みと連携し、EVが持続可能な社会にどのように貢献するかを強調する企業PR映像や啓発コンテンツも重要性を増します。


MaaSやカーシェアサービスにおいては、名古屋市で展開されているmobiのような新しいモビリティサービスは、その利用方法、アプリの操作性、利便性、多様な料金プランのメリットを分かりやすく伝える映像が不可欠です。特に、家族での利用、通勤・通学、買い物、塾の送迎など、具体的な利用シーンを想定した体験型映像は、潜在顧客の共感を呼び、サービスの利用促進に繋がります。カーシェアリングやライドシェアリングの「所有から利用へ」という新しい価値観を、ライフスタイル提案型の映像で訴求することで、環境意識の高い層や経済性を重視する層にアピールできます。


CASEへの対応は、企業の技術力、革新性、環境意識、そして未来へのビジョンを示す重要な要素です。企業がCASE領域でどのような研究開発、製品開発、社会貢献活動を行っているかを伝える企業ブランディング映像は、投資家、採用活動、そしてパートナーシップ構築において不可欠なツールとなります。愛知県の中堅・中小自動車関連企業がCASEやMaaSへの対応を進める中で、自社の強みや新しい事業展開をアピールする映像は、競争力強化と新たなビジネス機会の創出に直結します。


地球温暖化対策推進法に基づく事業者の責務、ESG投資の拡大、そして若い世代を中心に企業の環境問題への取り組みを購買行動の判断基準とする傾向が強まる中、カーボンニュートラルへの取り組みは企業の社会的評価と競争力に直結します。温室効果ガス排出量の把握、省エネ活動、社用車の電動化、再生可能エネルギーの活用といった具体的な取り組みを映像で示すことで、企業の環境意識と経営体質の強化をアピールし、ステークホルダーからの信頼を獲得できます。



7.3. 教育・トレーニングのための映像コンテンツ


自動車産業の変革に伴い、従業員には新しい技術に関する知識とスキルが継続的に求められます。EVの整備、自動運転システムの操作、コネクティッド技術の活用など、これらのトレーニングを効果的に行うための映像コンテンツは、効率的な学習と標準化された知識習得に貢献します。


例えば、EVのバッテリー交換手順、自動運転車の診断方法、新しいソフトウェアの操作方法などを視覚的に分かりやすく解説する映像は、研修コストの削減と学習効果の向上に繋がります。自動運転車両の導入が進む中で、セーフティドライバーや運行管理者向けの具体的な操作手順、緊急時対応プロトコル、安全運転に関する教育映像の需要が高まります。


また、mobiのような新しいMaaSサービスや、カーシェアリングサービスの利用方法、アプリ操作、トラブルシューティングなどを分かりやすく解説する映像は、ユーザーの利便性を高め、サービスの普及を促進します。初心者向けのチュートリアル映像や、よくある質問(FAQ)をまとめた映像なども有効です。



7.4. 地域連携・社会受容性醸成のための映像コンテンツ


自動運転技術の社会実装には、地域住民の理解と受容が不可欠です。実証実験の目的、安全性への配慮(例:セーフティドライバーの役割、緊急停止システム)、地域にもたらすメリット(交通の利便性向上、ドライバー不足解消、公共交通の維持など)を丁寧に説明し、住民の不安を払拭するための広報映像が重要です。名古屋市のガイドウェイバスへの自動運転導入のような公共交通への適用は、特に住民への丁寧な説明と信頼構築が求められるため、映像による透明性の確保が不可欠です。


愛知県が提供するEV導入補助金制度や、自動車販売店協会が推進するカーボンニュートラルアクションプランを、企業や個人に広く周知するための広報映像は、政策の浸透と目標達成に貢献します。補助金の申請方法、対象車両、メリットなどを分かりやすく解説することで、利用促進を図ることができます。


CASEの各要素(ギガキャスト、新型電池、高度な自動運転AI、コネクティッドデータなど)は、その技術的原理や仕組みが非常に複雑であり、専門家以外には理解が難しい側面があります。この技術的な複雑性が、一般社会への普及や投資家からの理解、そして企業間の連携における大きな障壁となっています。自動車メーカーや部品サプライヤー、研究者だけでなく、消費者、政策立案者、地域住民、投資家、そして未来の従業員など、CASEの進展に関心を持つステークホルダーは多岐にわたります。それぞれの理解度や関心は異なり、一律のコミュニケーションでは効果が得にくい状況です。専門家が持つ深い知識と、非専門家が直感的に理解できるレベルとの間に大きなギャップが存在し、このギャップを埋めなければ、技術の社会実装やビジネス展開は停滞します。


映像は、視覚と聴覚に訴えかけることで、このギャップを埋める最も強力なツールです。複雑な概念をアニメーション、シミュレーション、実写、そして分かりやすいナレーションと組み合わせることで、直感的かつ感情的に理解させることが可能となります。例えば、自動運転のAIの判断プロセスをフローチャートアニメーションで示したり、ギガキャストの製造工程をハイスピードカメラとCGで再現したりすることで、文字情報だけでは伝わらない深い理解を促すことができます。


したがって、映像制作会社は、単に顧客から提供された情報に基づいて映像を制作するだけでなく、高度な技術や複雑な政策を、それぞれのターゲットオーディエンスの理解度に合わせて「翻訳」し、共感や理解を促す「技術翻訳者」としての役割を担うことができます。この役割を果たすことで、単なる受託制作から、より戦略的なコンサルティングを含む高付加価値ビジネスへと進化し、CASE時代の自動車産業における不可欠なパートナーとしての地位を確立できるでしょう。


CASE関連映像や技術解説映像をお考えの時は、名古屋の映像制作会社・株式会社SynAppsまでご連絡ください


【弊社プロデューサー自動車関連制作実績】


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【この記事について】

本記事は、製造品出荷額日本一を誇る東海圏・名古屋に拠点を置く株式会社SynAppsが執筆しました。私たちは「名古屋映像制作研究室」を主宰し、各業界の知見を収集・分析しながら、企業が抱える課題を映像制作の力で支援することを目指しています。BtoB領域における映像には、産業ごとの深い理解が不可欠であり、その知識と経験をもとに制作に取り組んでいます。


【執筆者プロフィール】

株式会社SynApps 代表取締役/プロデューサー。名古屋を中心に、地域企業や団体のBtoB分野の映像制作を専門とする。プロデューサー/シナリオライターとして35年、ディレクター/エディターとして20年の実績を持つ。

株式会社SynApps 会社概要はこちら → [当社について] [当社の特徴]


出典

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  • 経済産業省. (2021). 2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略.

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