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名古屋の映像制作会社が知っておくべき自動車産業の今 - その1

更新日:5 日前

私たちBtoBのPR映像制作会社にとって、名古屋市を中心とした中部地方は日本の製造業の中心地であり、特に自動車産業に関連する企業からの用命による映像制作案件が、全体の三分の一を締めていると言っても過言ではありません。

しかし、承知の通り今、自動車産業は「100年に一度の大変革期」と言われる転換点に直面しています。関連する製造業のみなさんが変革を迫られているということは、私たち協力企業にもその対応を迫れられていると考えるべきです。

どう対応するべきなのか考えるために、その前提となる現状認識をまとめてみました。


日本の自動車産業は、戦後復興から高度経済成長期を経て、現在に至るまで日本経済の屋台骨を支え続けてきました。2022年の自動車製造業の製造品出荷額等は62兆7942億円に達し、全製造業の17.4%を占める巨大産業となっています。また、自動車関連産業の就業人口は558万人に上り、裾野の広い産業として多くの雇用を創出しています。


しかし今、電気自動車(EV)の普及、自動運転技術の発展、デジタル化の加速、消費者行動の変化など、従来のビジネスモデルを根本から見直すことが求められる状況となっています。

特に、トヨタ自動車を筆頭とする自動車メーカーが集積する名古屋周辺地域は、これらの変化の影響を最も直接的に受ける地域です。愛知県は1977年以来、製造品出荷額等で日本一を誇り続けており、その競争力の源泉は自動車産業にあります。しかし、この産業構造の特化は、同時に自動車産業の変化に対する脆弱性も抱えていることを意味します。


株式会社SynApps・名古屋映像制作研究室が日本の自動車関連産業が現在直面している課題を多角的に観察し、それらが名古屋周辺の製造業に与える影響について検討します。


  1. 電動化の波と技術転換の課題 - EVシフトの遅れ、内燃機関からの脱却、充電インフラの課題

  2. 自動運転技術の発展と競争構造の変化 - 技術開発の現状、データ活用能力、MaaSの台頭

  3. 国際競争の激化と市場シェアの変動 - 中国市場での競争、欧州での規制強化、新興国での価格競争

  4. 人材不足と技術継承の問題 - 熟練技術者の高齢化、IT人材不足、国際的な人材獲得競争

  5. サプライチェーンの構造変化 - 系列システムの限界、電動化に伴う調達変化、半導体不足

  6. 名古屋周辺地域への影響 - 愛知県の自動車産業の現状、部品メーカーへの影響、雇用構造の変化

  7. 技術革新への対応 - 研究開発投資、産学連携、人材育成

  8. 政策支援と産業振興 - 国レベルの政策、地域振興政策、産学官連携

  9. 今後の展望と課題 - 2030年に向けた技術ロードマップ、競争構造の変化、地域の将来像

  10. 株式会社SynAppsが、名古屋の映像制作会社としてできること


    製造業の中部の名古屋


第1章:電動化の波と技術転換の課題



1.1 電気自動車(EV)シフトの現状と遅れ


世界的な脱炭素化の流れの中で、自動車産業における電動化は避けて通れない課題となっています。欧州では2035年までにガソリン車の新車販売を禁止する方針が決定され、中国では新エネルギー車(NEV)の普及が急速に進んでいます。アメリカでも電動車への転換を推進する政策が打ち出されており、世界的なEVシフトの潮流は確実に加速しています。

しかし、日本の自動車メーカーは、この電動化の波に対して十分な対応ができているとは言い難い状況にあります。特に、純電気自動車(BEV)の分野では、テスラや中国のBYDなどの新興企業に大きく水をあけられています。日本メーカーは長年にわたってハイブリッド車(HV)の技術開発に注力してきましたが、世界市場ではBEVへの移行が主流となっており、この技術的な方向性の違いが競争力の低下を招いています。

トヨタ自動車をはじめとする日本の自動車メーカーは、「マルチパスウェイ」と呼ばれる多様な電動化技術への取り組みを表明していますが、市場の要求する純電気自動車の開発と量産化においては、欧米や中国の競合他社に比べて明らかに出遅れています。この遅れは、単に技術開発の問題にとどまらず、サプライチェーン全体の構造変化を伴う根本的な課題となっています。


1.2 内燃機関からの脱却に伴う技術者・技術資産の再配置


電動化の進展は、従来の内燃機関に関わる技術者や設備、サプライチェーンの大幅な再編を必要とします。エンジン、トランスミッション、排気系統など、内燃機関車に特有の部品や技術は、電気自動車では不要となるか、大幅に簡素化されます。これにより、長年にわたって蓄積してきた技術的優位性や製造ノウハウが陳腐化する可能性があります。

一方で、電気自動車に必要な電池技術、パワーエレクトロニクス、モーター制御技術などの分野では、従来の自動車メーカーが必ずしも優位性を持っているわけではありません。これらの技術分野では、むしろ電子機器メーカーや新興企業の方が先進的な技術を持っている場合が多く、自動車メーカーは新たな技術の習得と人材の確保に苦慮しています。

特に、電池技術については、中国のCATLやBYD、韓国のLGエナジーソリューションやSKイノベーションなど、アジアの電池メーカーが世界市場を席巻しており、日本の自動車メーカーは競争力のある電池の調達に課題を抱えています。パナソニックをはじめとする日本の電池メーカーも技術開発を進めていますが、コスト競争力や生産規模の面で海外勢に劣勢を強いられています。


1.3 充電インフラの整備と社会システムの変革


電気自動車の普及には、充電インフラの整備が不可欠です。しかし、日本の充電インフラの整備状況は、欧米や中国に比べて大幅に遅れています。特に、高速充電器の設置数や充電スピードの向上において、国際的な水準に達していないのが現状です。

充電インフラの整備には、電力会社、通信事業者、不動産業者、自治体など、多様なステークホルダーの協調が必要です。また、電力系統の安定化や再生可能エネルギーとの連携も重要な課題となります。これらのシステム全体の変革には、個々の自動車メーカーの努力だけでは限界があり、国家レベルでの戦略的な取り組みが求められています。

さらに、電気自動車の普及は、従来のガソリンスタンド事業者やメンテナンス事業者にも大きな影響を与えます。電気自動車はガソリン車に比べて可動部品が少なく、メンテナンスの頻度や内容が大幅に変わるため、自動車整備業界全体の構造変化も避けられません。


第2章:自動運転技術の発展と競争構造の変化


2.1 自動運転技術の現状と日本の位置付け


自動運転技術は、自動車産業の将来を決定づける重要な技術領域の一つです。完全自律走行の実現により、自動車の役割は単なる移動手段から、移動する空間やサービスプラットフォームへと変化することが予想されています。この技術革新は、従来の自動車メーカーの競争優位性を根本から変える可能性を秘めています。

現在、自動運転技術の開発では、アメリカのテスラ、ウェイモ(Google)、中国のバイドゥなどが先行しており、日本の自動車メーカーは後塵を拝している状況です。特に、人工知能(AI)技術やビッグデータの活用において、IT企業が自動車メーカーを上回る技術力を持っているケースが増えています。

日本の自動車メーカーは、従来の機械工学を中心とした技術開発から、情報技術やソフトウェア開発を重視した技術開発への転換を迫られています。しかし、この転換には組織文化の変革や人材の確保、開発プロセスの見直しなど、多くの課題が伴います。特に、ソフトウェア開発においては、従来の自動車業界の開発サイクルとIT業界の開発サイクルには大きな違いがあり、この調整が重要な課題となっています。


2.2 データ収集・解析能力の重要性


自動運転技術の発展には、大量の走行データの収集と解析が不可欠です。機械学習やディープラーニングによる自動運転システムの学習には、多様な走行環境やシチュエーションでのデータが必要となります。この点において、既に多くの車両を市場に投入している既存の自動車メーカーは、データ収集の面で一定の優位性を持っています。

しかし、データの収集だけでなく、その解析と活用において、日本の自動車メーカーは十分な能力を持っているとは言えません。特に、クラウドコンピューティングやビッグデータ解析の技術において、アメリカや中国のIT企業に大きく劣っているのが現状です。また、データの収集と活用に関する法的な枠組みや個人情報保護の観点からも、日本は欧米に比べて規制が厳しく、技術開発の足かせとなっている側面があります。

さらに、自動運転技術の開発には、単独のメーカーだけでは限界があり、異業種との連携や協業が不可欠です。しかし、日本の自動車メーカーは、従来の垂直統合型のビジネスモデルに慣れ親しんでおり、外部との協業や技術の共有に対して消極的な傾向があります。この閉鎖的な姿勢が、技術開発の遅れを招いている一因となっています。


2.3 モビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)の台頭


自動運転技術の発展と並行して、モビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)という新しいビジネスモデルが注目されています。MaaSは、個人が自動車を所有するのではなく、必要に応じて移動サービスを利用するという概念であり、カーシェアリング、ライドシェアリング、公共交通機関との統合などを含む包括的な移動サービスを指します。

このMaaSの普及により、自動車の販売台数そのものが減少する可能性があります。従来の自動車メーカーのビジネスモデルは、車両の販売による売上に大きく依存していましたが、MaaSの普及により、この前提が崩れる可能性があります。代わりに、移動サービスの提供や、車両の稼働率向上によるサービス収益が重要になると予想されています。

日本の自動車メーカーも、この変化に対応するため、モビリティサービス事業への参入を表明していますが、既存のサービス事業者や新興企業に比べて、サービス設計や顧客接点の構築において経験不足が否めません。また、従来の製造業中心の組織構造や企業文化から、サービス業中心の組織構造や企業文化への転換も大きな課題となっています。




第3章:国際競争の激化と市場シェアの変動


3.1 中国自動車市場の急成長と新興メーカーの台頭


中国は現在、世界最大の自動車市場であり、その規模は年々拡大しています。特に、電気自動車の分野では、中国政府の強力な政策支援により、BYD、NIO、XPeng、Li Autoなど、多くの新興メーカーが急速に成長しています。これらの中国メーカーは、最新のEV技術や自動運転技術を積極的に導入し、従来の自動車メーカーに対して強力な競争圧力をかけています。

中国市場における日本車のシェアは、近年減少傾向にあります。従来、日本車は品質の高さや燃費の良さで中国市場でも高い評価を受けていましたが、中国の消費者の嗜好変化や、中国メーカーの技術力向上により、その優位性が薄れてきています。特に、若い消費者層では、最新の技術を搭載した中国ブランドの車を選ぶ傾向が強まっており、日本車の将来的な市場シェアに懸念が生じています。

また、中国メーカーは国内市場での成功を基盤として、海外市場への展開も積極的に進めています。BYDは既にヨーロッパ市場に参入しており、今後はアメリカ市場や東南アジア市場への展開も予想されています。これらの中国メーカーは、コスト競争力と最新技術の組み合わせにより、従来の日本メーカーの海外市場でのシェアを脅かす存在となっています。


3.2 欧州市場での環境規制強化と競争力の低下


欧州市場では、環境規制の強化により、電気自動車の普及が急速に進んでいます。欧州連合(EU)は2035年までに内燃機関車の新車販売を禁止する方針を決定しており、自動車メーカーには電動化への対応が強く求められています。また、炭素国境調整メカニズム(CBAM)の導入により、製造過程での炭素排出量も競争力に大きく影響するようになっています。

日本の自動車メーカーは、欧州市場において従来から一定のシェアを維持してきましたが、電動化の遅れにより、そのシェアが徐々に減少しています。特に、プレミアムセグメントでは、ドイツの自動車メーカーやテスラなどのEV専業メーカーに対して劣勢を強いられています。また、欧州の消費者は環境意識が高く、ブランドの環境への取り組みを重視する傾向があるため、日本メーカーの環境技術への対応の遅れが市場での評価に直結しています。

さらに、欧州では地域内での雇用創出や技術移転を重視する政策が取られており、現地生産や現地調達への圧力が高まっています。日本メーカーにとって、欧州での事業展開は、単に製品を輸出するだけでなく、現地での包括的な事業展開が求められる状況となっています。


3.3 新興国市場での価格競争の激化


インド、東南アジア、南米などの新興国市場では、価格競争が激化しています。これらの市場では、所得水準の制約により、低価格車への需要が高く、日本メーカーの得意とする高品質・高価格帯の車種は必ずしも競争力を持っていません。特に、中国や韓国のメーカーが、コスト競争力のある車種を投入しており、日本メーカーのシェアを侵食しています。

インド市場では、2022年に新車販売台数で日本を上回り、世界第3位の自動車市場となりました。この急成長するインド市場において、日本メーカーのシェアは限定的であり、現地メーカーのマルチ・スズキ(スズキとの合弁)を除けば、他の日本メーカーの存在感は薄いのが現状です。また、インドでは電動三輪車や電動二輪車の普及が進んでおり、これらの新しいモビリティ分野での日本メーカーの対応も課題となっています。

東南アジア市場では、トヨタやホンダが一定のシェアを維持していますが、中国メーカーの積極的な市場参入により、競争が激化しています。特に、タイやインドネシアなどの主要市場では、現地生産の拡大と現地調達の推進が求められており、日本メーカーにとって投資負担が増大しています。

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