ドリーズーム
ビデオカメラのレンズをズームしながら、ドリーすることで被写体を一定の大きさに保ちながら、背景だけを変化させる撮影方法です。被写体はほとんど動かないのに、背景だけが連続的に変化することで、被写体が飛んで行ったり、近づいてきたりしているような錯覚を生じさせる映像表現ができます。
撮影方法
ドリーズームは、以下の2つの動きを同時に行うことで実現します。
カメラのズーム操作: レンズの焦点距離を変化させ、画角を狭めたり広げたりします。
カメラのドリーイン/アウト: カメラ自体を被写体に対して前後に移動させます。
ドリーズームではズーム操作とドリー操作を逆方向に同時に行います。例えば、①ズームイン(画角を狭める)しながらドリーバック(カメラを後ろに引く)する、あるいは②ズームアウト(画角を広げる)しながらドリーイン(カメラを前に進める)といった具合です。
映像効果
①の場合、被写体は動いていないのに、被写体が迫ってくるように見える。
②に場合、被写体は動いていないのに、被写体が遠ざかっていくように見える。
被写体が人物であれば、視聴者に対して、その人の内面(精神)が急激に影響を受けているような印象を与えることができます。
心理的圧迫感
背景が迫りくるような映像により、被写体の心理的な圧迫感を表現することができます。
不安感や混乱
背景の歪みにより、観る人に不安感や混乱を与えることができます。
異世界感
現実世界とは異なる、非日常的な空間を作り出すことができます。
映像制作会社としての視点
ドローンでドリーズーム(通称:ヒッチコック・ズーム)をつくる
現在の空撮現場でも非常によく使われるテクニックです。
1. 撮影ステップ:4K以上の高解像度で「ただ進む/引く」
まず、ドローン側で複雑な操作をする必要はありません。被写体を中心に捉え続け、一定の速度で真っ直ぐ前進(または後退)することに集中します。
設定: 4K、あるいは5Kなどの高解像度で撮影します。後でデジタルズーム(拡大)をかけるため、最終納品がフルHD(1080p)なら、4Kで撮っておくことで画質の劣化を防げます。
動き: パターンA(背景が迫る効果): 被写体から大きく離れながら(ドリーアウト)撮影。
パターンB(背景が遠のく効果): 被写体に近づきながら(ドリーイン)撮影。
2. 編集ステップ:キーフレームで「逆方向」にズーム
編集ソフトで、カメラの物理的な動きと逆の動きをデジタルズームで加えます。
パターンA(ドリーアウト + デジタルズームイン)
カメラが後ろに下がる映像に対し、編集ソフトで「スケール」を上げていきます。
ポイントは、画面内の被写体の大きさが、カットの最初から最後まで変わらないようにスケール数値を調整することです。
効果: 背景だけがグーッと被写体に迫ってくる、圧迫感のある映像になります。パターンB(ドリーイン + デジタルズームアウト)
カメラが前に進む映像に対し、編集ソフトで「スケール」を下げて(100%から元に戻していく)調整します。
効果: 背景が奥へ突き抜けていき、足元が崩れるような「めまい」の効果が得られます。
3. より精度を上げるためのコツ
擬似ドリーズームは、少しのズレで「ただのズーム」に見えてしまいます。以下の2点を意識してください。
「中心」を外さない:カメラが移動する際、被写体が画面の中央からズレると、ズームした時に軸がブレて不自然になります。撮影時はドローンのガイド線(グリッド)を使い、被写体をど真ん中に固定してください。
レンズ歪み補正:ドローンの広角レンズ特有の歪みがあると、デジタルズーム時に四隅が不自然に歪むことがあります。編集ソフトの「レンズ補正」機能をオンにしてから作業するのが鉄則です。
ドローンでの「擬似」ドリーズームは、「解像度の余裕を、奥行きの変化に変換するという贅沢な手法です。
この手法は、ドローンのレンズが単焦点(ズームできないタイプ)であっても、編集だけで映画のような効果を生み出せるのが最大の強みです。
執筆者・神野富三
株式会社SynApps 代表取締役プロデューサー
大学時代のラジオ番組の構成演出に始まり、映像ディレクター・プロデューサーとして、40年以上の業界経験を基に映像業界に関する知見を発信しています。
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関連用語など
1. ドリー (Dolly)
カメラを乗せてスムーズに移動させるための車輪付きのプラットフォームです。
様々なサイズや種類があり、撮影内容や規模に合わせて選択されます。
鉄道のレールのようなものを使用し、より正確で滑らかな移動を可能にする場合もあります。
2. ドリーレール (Dolly Track)
ドリーをスムーズに走らせるために敷かれるレールです。
直線レールだけでなく、カーブを描くレールもあります。
ドリーの移動距離や撮影アングルに合わせて、必要な長さを設置します。
3. クレーン (Crane)
カメラを高い位置に持ち上げたり、上下に移動させたりするための機材です。
ドリーに取り付けて使用する場合もあります。
俯瞰撮影や、ダイナミックなカメラワークを実現するのに役立ちます。
4. ジンバル (Gimbal)
カメラを安定させるための装置です。
手持ち撮影や、動きのある撮影でも、ブレを軽減することができます。
ドリーと組み合わせて使用することで、よりスムーズで安定した映像を撮影できます。
5. ドローン
被写体に対して直線的な移動撮影をした素材に対して、編集時にエフェクトによるズームイン、ズームアウトを使用して被写体の大きさを一定にすると、ドリーズーム同様の効果が得られます。

