インフォグラフィックス「よくわかった」とはどういうこと?
- Tomizo Jinno

- 11月27日
- 読了時間: 4分
更新日:11月27日
インフォグラフィックスは“理解の入口”
企業や行政、金融、ITサービスなど、実体のない仕組みやプロセスを説明する映像制作では、実写で撮影する対象が存在しないことがよくあります。たとえば「データの流れ」「サービスの特徴」「業務プロセス」「リスク回避の仕組み」「ビジネスモデル」などは、目で見ることができません。
そこで活用されるのが、モーショングラフィックスやインフォグラフィックスです。図形・アイコン・線・ピクトグラム・メタファーなどに置き換えて、その概念を“見える形”にし、さらに動き(Motion)を与えることで、時間軸の中で理解を促す──これがこの手法の強みです。
なぜモーショングラフィックスは「わかりやすい」と感じられるのか?
人の頭上に「!」が点灯すれば「理解」「気づき」。グラフが右肩に伸びれば「成長」「拡大」。人物がつまずけば「リスク」「想定外の事態」。こうした視覚記号(ビジュアルシンボル)は、言葉だけで説明するよりも、早く、直感的に意味が伝わります。
加えて映像では、ナレーションやテロップが補足されることで、視覚と聴覚が同じ方向の情報を受け取り、視聴者に「なるほど、わかった!」という感覚が生まれます。これはモーショングラフィックスが得意とする“理解した気分をつくる力”です。
しかし、それは本当に“理解”でしょうか?
ここで重要な問いがあります。
視聴者は、本当に理解したのでしょうか?それとも、理解した気分になっただけでしょうか?
動画視聴後に、“自分の言葉で説明できるか?”という視点で考えると、答えは変わってきます。「なんとなくわかった気はするが、説明はできない」──そんな経験はありませんか?
モーショングラフィックスには、「情報を正しく理解させる力」と「理解した気分を演出する力」の、両方が存在しています。
抽象概念を映像化することの限界
抽象的な仕組みを映像にすることは可能ですが、映像にした瞬間、それは“あらかじめ解釈された形”になってしまいます。つまり、「こう理解すべき」という視点が映像内で固定されやすく、視聴者の思考や想像力の余地が狭くなってしまう場合もあります。
わかりやすくすることと、思考を促すことは似ていて、実は違うこと。「わかりやすい映像」には、その両立が求められます。
クライアントと制作側で、共有しておくべき認識
インフォグラフィックスは、“説明を代行する映像”ではありません。
あくまでも、“理解への入口をつくる映像”です。
派手な動きや美しいデザインが目的ではありません。
視聴者が「自分の言葉で説明できる状態になる」ことこそがゴールです。
そのためには、制作する映像に以下の要素が必要になります:
映像に求められること | 内容 |
構造化 | 情報の順序・因果関係・位置づけが整理されている |
意味付け | “なぜそれが重要なのか”が説明されている |
関与感 | 視聴者が自分ごととして考えられる |
記憶性 | キーワードや概念が、映像として記憶に残る設計になっている |
インフォグラフィックスの役割を、正しく捉える
インフォグラフィックスは、抽象的な情報を見える形に変え、“伝わる入口をつくる”優れた手段です。しかし、「これさえあれば伝わる」という万能ツールではありません。
映像制作で本当に目指すべきなのは、「わかった気になる映像」ではなく、「説明できるようになる映像」です。
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【執筆者プロフィール】
株式会社SynApps 代表取締役/プロデューサー。名古屋を中心に、地域企業や団体のBtoB分野の映像制作を専門とする。プロデューサー/シナリオライターとして35年、ディレクター/エディターとして20年の実績を持つ。




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