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第2章 編集の外側にある「制作」という仕事

第1章では、企業映像の編集について書きました。

編集だけでも、かなり広い世界があります。

しかし、企業から映像制作を一式で請け負う仕事では、編集は制作工程のひとつにすぎません。

編集室に素材が届いたときには、すでに仕事のかなりの部分が進んでいます。


その素材を、誰かが撮影しています。

何を撮影するのかを、誰かが決めています。

なぜそれを撮影するのかという理由があります。

さらに、その前には「何を伝えるのか」が決められています。


もっと遡れば、

「そもそも、何のために映像を作るのか」

というところから仕事は始まっています。

ここから先が、動画編集とは別の「制作」という仕事です。


工作機械の稼働する様子を編集するエディター

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最初にあるのは、映像ではない


企業から最初に持ち込まれる相談は、必ずしも「こういう映像を作ってください」という形をしていません。


「新しい製品を展示会で紹介したい」

「学生に会社の仕事を理解してほしい」

「この技術がなかなか営業先に伝わらない」

「研究成果を一般の人にも分かるように説明したい」

「社員に新しい制度を理解してもらいたい」

こうした相談から始まることがあります。


この段階では、映像の形はまだありません。


撮影するのか。

CGを使うのか。

インタビューをするのか。

ナレーションで説明するのか。

アニメーションにするのか。

そもそも何分の映像にするのか。

何も決まっていません。


場合によっては、映像を作ること自体が本当に最適なのか、というところから考える必要があります。

つまり、制作の出発点にあるのは映像ではありません。

クライアントが達成したい目的です。



「何を作るか」は、目的から決まる


たとえば、メーカーから、「新しい技術を紹介する映像を作りたい」という相談があったとします。

ここで、すぐに、

「では工場を撮影しましょう」

とはなりません。

まず、その技術を誰に見せるのかを考えます。


技術者なのか。

経営者なのか。

営業先なのか。

一般消費者なのか。

展示会の来場者なのか。

相手が違えば、伝える内容も変わります。


さらに、

その技術の何が新しいのか。

従来技術と何が違うのか。

実物を見れば分かるものなのか。

目に見えない現象なのか。

企業秘密があって撮影できない部分はないのか。

映像をどこで使うのか。

どれくらいの時間、見てもらえるのか。

そうした条件を整理して、初めて映像の形が見えてきます。


工場を撮影した方がいいかもしれない。

技術者へのインタビューが必要かもしれない。

実写では説明できないので、CGが必要かもしれない。

図解アニメーションの方が分かりやすいかもしれない。

実物をほとんど見せず、利用者側のメリットから構成した方がいい場合もあります。

映像の手法が先にあるのではありません。目的に応じて、手法を選びます。


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「撮れるもの」と「伝えるべきもの」は同じではない


企業映像では、ここを混同すると失敗します。

工場へ行けば、機械があります。

研究所へ行けば、研究者がいます。

会社へ行けば、オフィスがあります。

だから、それを撮れば映像になる。

確かに映像素材にはなります。

しかし、そこにあるものを撮っただけでは、クライアントが伝えたいことが伝わるとは限りません。


大きな装置を撮影しても、その会社の技術力が伝わるとは限らない。

社員が働いている姿を撮影しても、その会社で働く魅力が伝わるとは限らない。

製品を美しく撮影しても、その製品を選ぶ理由が伝わるとは限りません。

映像制作では、

「何が撮れるか」より先に、「何を伝えなければならないか」を考えます。

そして、伝えるべきものがそのまま撮影できないのであれば、別の方法を考えます。

これが制作です。



制作では、まだ存在しないものを設計する


編集には素材があります。

撮影には被写体があります。

しかし、制作の初期段階には、完成映像を構成するものがまだ何もないことがあります。

そこから、


誰に見せるのか。

何を伝えるのか。

何分にするのか。

どういう順番で伝えるのか。

何を撮影するのか。

誰に出演してもらうのか。

どこで撮影するのか。

CGが必要なのか。

ナレーターを使うのか。

音楽をどうするのか。

どんなスタッフが必要なのか。

それらを決めていきます。


つまり、制作とは、すでに存在する映像素材を加工する仕事ではありません。

まだ存在していない完成映像を想定し、そこへ到達するための方法を設計する仕事です。

当然、設計しただけでは終わりません。

その設計を実際に成立させなければなりません。



「できるかどうか」も考える


映像制作では、やりたいことを考えるだけでは足りません。

実現できるかどうかを判断する必要があります。


たとえば、

「工場の製造工程を全部見せたい」

と言われても、撮影できない工程があるかもしれません。

「社員100人を登場させたい」

と言われても、撮影日程が組めないかもしれません。

「世界中の拠点を撮影したい」

と言われても、予算や納期に収まらないかもしれません。

「製品内部の動きを見せたい」

と言われても、カメラでは撮れないかもしれません。


そこで、

撮れないならCGで見せる。

全拠点へ行けないなら、現地で撮影してもらう方法を考える。

100人を一度に撮れないなら、構成そのものを変える。

限られた日数で撮れるように撮影計画を組む。


制作では、理想だけではなく、

目的、予算、納期、技術、現場条件を同時に見ながら、実現可能な答えに変えていきます。



予算は、最後に付ける値札ではない


ここで重要になるのが予算です。

映像制作では、「まず最高の企画を考えて、最後に値段を付ける」というわけにはいきません。企業には必ず予算計画があるからです。

100万円の予算と1,000万円の予算では、選べる方法が違います。


撮影日数。

スタッフの人数。

使用する機材。

ロケーション。

出演者。

CG。

美術。

音楽。

編集にかけられる時間。

いろいろなものが変わります。


しかし、予算が少ないから悪い映像になる、という話でもありません。

100万円なら、100万円という条件の中で最も効果の高い方法を考える。

1,000万円なら、その予算を使う意味のある方法を考える。

重要なのは、豪華にすることではありません。

目的に対して、どこへお金を使えば最も効果があるのかを考えることです。

映像制作では、予算も制作条件の一つです。


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一人で全部やることが「制作」ではない


最近では、一人で撮影し、一人で編集し、一人で納品する映像制作も珍しくありません。

案件によっては、それが最適なこともあります。

しかし、一人で全部できることと、制作全体を考えられることは別です。

案件によっては、専門のカメラマンが必要です。

照明技師が必要です。

録音技術者が必要です。

エディターが必要です。

CGクリエーターが必要です。

アニメーターが必要です。

ナレーターが必要です。

スタイリストやヘアメイク、美術スタッフが必要になることもあります。


重要なのは人数ではありません。

その目的を実現するために、何が必要なのかを判断できることです。

一人で十分なら一人でやる。

専門家が必要なら、その専門家を使う。

自分でできるから自分でやる、ではなく、その案件にとって何が最適なのかで決めます。



制作は、専門家の仕事をつなぐ仕事でもある


撮影、照明、録音、編集、CG、音楽。

それぞれに専門家がいます。

そして、第1章で書いたように、専門家に仕事を任せるということは、単なる作業を頼むことではありません。

それぞれの専門家が持つ知識、技術、経験、判断を使います。

ただし、優れた専門家を集めれば、それだけで一本の映像が完成するわけでもありません。


カメラマンは撮影の専門家です。

エディターは編集の専門家です。

CGクリエーターはCGの専門家です。

それぞれが自分の専門領域で最高の仕事をしても、それらが別々の方向を向いていたら、一つの映像にはなりません。

全員が、


何を作るのか。

誰に伝えるのか。

何を最も重要とするのか。

どこまでの表現を目指すのか。

それを共有している必要があります。


制作とは、専門家を集める仕事であると同時に、それぞれの専門性を一つの目的へ向けて組み合わせる仕事でもあります。



編集より次元が高い仕事、という意味ではない


ここは誤解してほしくないところです。

制作は編集より「上流」の仕事だ、と言っているわけではありません。

優れたエディターには、プロデューサーの想像を超えた編集ができます。

優れたカメラマンには、プロデューサーの期待を超えた画が撮れます。

CGクリエーターにも、録音技術者にも、それぞれ専門家としての領域があります。

制作と編集は、上下ではありません。

役割が違います。

第1章で書いた100万円の編集仕事と、1,000万円の映像制作一式を単純に比べられないのも、このためです。

1,000万円の映像制作が、100万円の編集より10倍高度な編集をしているわけではありません。

そもそも価格に含まれている仕事の範囲が違います。



では、誰がこれを考えるのか


ここまで書いてきたことを、もう一度最初から見ると、かなり多くの判断があります。


クライアントの目的を理解する。

誰に何を伝えるのかを整理する。

映像の手法を選ぶ。

実現可能性を判断する。

予算を配分する。

必要な専門家を選ぶ。

それぞれの専門家を一つの目的へ向ける。

そして、まだ存在しない映像を完成へ持っていく。

では、制作会社の中で、誰がこの仕事をするのでしょう。


中心にいるのが、

プロデューサーです。

プロデューサーは、単にスタッフを手配したり、スケジュールを管理したりする人ではありません。

では、何をしているのか。

次章では、企業映像制作におけるプロデューサーという仕事について書きます。


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映像制作を発注する企業担当者のための情報発信です。

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執筆者・神野富三
名古屋の映像制作会社 株式会社SynApps 代表取締役プロデューサー

シナリオ・演出・編集まで一貫して手がける映像プロデューサー・ディレクターとして、JR東海・トヨタ自動車など200社以上の映像制作に携わる。

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