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第6章 職業映像制作者という仕事

更新日:10 時間前

最初は、10分5,000円の動画編集の話でした。

そこから企業映像の編集へ進み、素材が一本もないところから始まる映像制作、プロデューサー、シナリオ、予算、社会常識、企業組織との付き合い方まで話が広がりました。

ずいぶん遠くまで来たように見えます。

しかし、私たちが企業から映像制作を一式で請け負うときには、これらがすべて一つの仕事の中に入っています。


私は長年、この仕事をしてきました。

テレビ番組を作ってきたわけではありません。映画でもありません。CMを専門にしてきたわけでもありません。

企業や官公庁、団体などから目的を預かり、それを実現する映像を企画し、必要な専門家を集め、制作し、完成させる。

世の中には、こういう映像の仕事があります。

私はこのシリーズで、その仕事を担う人を職業映像制作者と呼んできました。


職業映像制作者という仕事


まず、自分がどこにいるのか


ここで、最初の「動画クリエーター」の話へ戻ります。

YouTuberから撮影済みの素材を受け取り、不要部分をカットし、テロップ、BGM、効果音を入れて納品する。

それを仕事にしている人は、確かに映像の仕事をしています。

ただし、映像制作という大きな仕事の中で見れば、担当している領域は限定されています。

映像制作工程の中の「編集」を担当している。

さらに言えば、その編集の中でも、YouTubeという特定のコンテンツで発達した編集方法を主に扱っている。

まず、自分の現在地をここまで正確に認識してみることには意味があると思います。

これは、その仕事を低く評価しているという話ではありません。

あなたの現在の立ち位置です。

現在地が分からなければ、次にどちらへ進むのかも決められません。



映像の仕事は一つの階段でつながっているわけではない


10分5,000円の編集を続ける。

腕が上がって1万円になる。

さらに上達して5万円になる。

しかし、その先に10万円、50万円、100万円の企業映像編集があり、さらに数百万円、1,000万円の映像制作があると考えるのは間違いです。


YouTube編集を深く極める道はあります。

しかし、ほかにも、

モーショングラフィックスを専門にする道があります。

企業映像のプロエディターになる道もある。

カメラマンになる道もある。

CGクリエーターになる道もある。

ディレクターになる道もある。

そして、企業から目的を預かり、制作全体を引き受けるプロデューサーになる道もあります。

これらは単純な上下関係ではありません。

違う職能です。



「できる作業」と「任せられる仕事」は違う


映像制作会社の仕事を見ると、

「カット編集なら自分にもできる」

「テロップなら入れられる」

「BGMなら付けられる」

「モーションなら自分の方がうまい」

と思う仕事があるかもしれません。

実際、その作業だけを取り出せば、できるでしょう。

しかし、映像制作会社が外部の専門家へ仕事を任せるとき、求めているのは操作だけではありません。


プロのエディターなら、素材を見て自分で判断します。

どのカットを使うのか。

どこで切るのか。

どこまで見せるのか。

シナリオの意図をどう映像にするのか。

そして、こちらが思いつかなかった方法があれば提案する。

プロデューサーやディレクターが知らなかった技法を持ち込み、期待していた以上のものを返してくれる。

それが専門家へ仕事を任せる意味です。


映像制作会社が外部のエディターへ任せる仕事の中で、

「素材を渡すので、ここを切って、ここにテロップを入れて、このBGMを付けてください」

という仕事がどれくらいあるのか。

私の経験では、ほとんどありません。

もちろん統計ではありません。それくらい少ない、という意味です。

私たちが外部へ仕事を出すのは、作業をしてもらうためではなく、その専門領域を任せるためだからです。



編集の外側には、さらに大きな「制作」がある


そして、編集の外側には制作があります。


素材がまだない。

シナリオもない。

何を撮るのかも決まっていない。

そんなところから仕事を始めます。

クライアントから目的を聞く。

何を伝えるべきかを考える。

手法を選ぶ。

予算を組む。

必要な専門家を集める。

シナリオを作る。

撮影する。

編集する。

音を作る。

CGを作る。

クライアント企業の中で確認してもらう。

問題が起きれば解決する。

そして、納期までに完成させる。

この仕事の中心にいるのがプロデューサーです。


Premiere Proをどれくらい使えるかという話からは、かなり遠いお話です。

しかし、これが皆さんが思っているビジネス案件に取り組む職業映像制作者の仕事です。

企業から映像制作を一式で請け負う場合には、こちらが仕事の本体です。



映像を知らなければできない。映像だけ知っていてもできない


職業映像制作者には、映像について広い知識が必要です。

撮影、照明、録音、編集、CG、アニメーション、音楽、ナレーション、さまざまな映像表現。

全部を自分で一流にできる必要はありません。

しかし、知らなければ選べません。

手法を一つしか知らなければ、すべての問題をその手法で解こうとしてしまいます。

クライアントの目的から最適な方法を選ぶためには、映像手法を全方位に持っていなければならない。


一方で、映像だけ知っていてもできません。

社会を知らなければならない。

企業を知らなければならない。

クライアントの業界について調べなければならない。

新しい技術にも関心を持たなければならない。

組織の中で人がどう動くのかも理解しなければならない。

そして、知らないことに出会ったとき、何を調べ、誰に何を質問すればいいのかを考えなければならない。

映像の専門家なのに、映像の世界だけに閉じこもっていてはできない。

これが、この仕事の厄介なところであり、面白いところでもあります。



作りたいものではなく、必要なものを作る


職業映像制作者には、もう一つ大きな特徴があります。

基本的に、自分が作りたいものを作る仕事ではありません。

クライアントから目的と条件を預かります。


予算がある。

納期がある。

撮影できる場所がある。

出演できる人がいる。

使える素材がある。

企業側の事情がある。

その条件の中で最善の方法を考えます。

与えられた条件から100%ではなく120%を引き出したい。

クライアントが想像していた以上に目的を満たし、さらに映像としての魅力や感動まで加えられたら最高です。

私は、それができる人は、映像制作者の中でもプロ中のプロだと思っています。

しかし、それは技術が優れているというだけの意味ではありません。



「誰が悪いか」より先に、「では、どうするか」


映像制作では、予定通りにいかないことがいくらでもあります。

予定していた画が撮れない。

出演者がうまく話せない。

天候が変わる。

撮影場所が使えなくなる。

クライアントから途中で新しい要求が出る。

シナリオに書かれていたことが、実際には撮影できないと分かる。

カメラマンが期待した画を撮っていない。

編集してみたら、予定していた構成ではうまくつながらない。


そのとき、

「クライアントが悪い」

「シナリオが悪い」

「カメラマンが下手だった」

と言うことはできます。

実際、その通りのこともあります。

しかし、制作途中でそれを言っても映像は完成しません。


職業映像制作者が最初に考えるべきことは、

「では、どうするか」です。

撮れていないなら、別の素材で成立させられないか。

追加撮影できないか。

CGで補えないか。

構成そのものを変えられないか。

出演者が予定通り話せなかったなら、実際に話した言葉の中から何を生かせるのか。

クライアントから条件変更が出たなら、何を守り、何を変えれば目的を失わずに済むのか。

シナリオに問題が見つかったなら、誰が書いたのかを問題にする前に、完成映像を成立させる方法を考える。


もちろん、原因究明は必要です。

次の仕事で同じことを起こさないための検証も必要です。

責任の所在を明らかにしなければならない場合もあります。

しかし、まず目の前の仕事を完成させる。

企業から映像制作を一式で請け負うということは、予定された作業を遂行することではありません。

予定外のことまで含めて、目的を達成するところまで引き受けることです。



「会社から与えられた仕事」ではない


これは、経営者やフリーランスだけの話ではありません。

制作会社に勤めるプロデューサーにも同じことが言えます。

会社から案件を担当するよう命じられた。

給料をもらって仕事をしている。

雇用という意味では、確かに「与えられた仕事」です。

しかし、その姿勢のまま制作をしていたら、何か問題が起きるたびに、自分の外側に原因を探すようになります。


クライアントが悪い。

ディレクターが悪い。

シナリオが悪い。

カメラマンが悪い。

エディターが悪い。

会社の体制が悪い。

原因分析としては正しいこともあるでしょう。

しかし、プロデューサーの仕事は原因を指摘して終わることではありません。

案件を引き受けた瞬間から、

「会社から与えられた仕事」を「自分が完成させる仕事」に変えられるか。

ここには、技術とは別の職業意識が必要です。

職業映像制作者という仕事は、知識と技術だけでは成立しません。

最後の最後に必要になるのは、完成させる側に立ち続けることです。



ただし、責任には値段がある


ここまで書くと、精神論に聞こえるかもしれません。

何が起きても責任を持て。

プロなのだから何とかしろ。

私は、そんなことを言いたいわけではありません。

責任を引き受けるためには、その責任に見合った報酬が必要です。

プロデューサーは、企画書を書いている時間だけ働いているわけではありません。

クライアントから相談を受けた瞬間から案件について考え、制作が始まれば、その都度判断し、スタッフと調整し、クライアントと話し、問題が起きれば解決方法を探し、納品まで責任を持ちます。


スタッフも同じです。

プロのエディターに、

「もっと良い方法があれば提案してほしい」

と求める。

カメラマンに、

「現場を見て、自分で判断して最善の画を撮ってほしい」

と求める。

CGクリエーターに、

「こちらが考えている以上の表現を提案してほしい」

と求める。

それなら、その能力と判断に対して報酬を払わなければなりません。

プロフェッショナルに判断を求めるなら、プロフェッショナルとして扱い、プロフェッショナルとしての報酬を払う。

これは当然のことです。



そして制作会社には、必要な制作費をいただく責任がある


プロデューサーやスタッフへ支払う報酬は、どこから出るのか。

クライアントからいただく制作費です。

制作会社が十分な制作費を受け取らなければ、プロデューサーにもスタッフにも十分な報酬を払えません。

予算が足りなければ、人を減らす。

準備時間を減らす。

撮影日数を減らす。

編集時間を減らす。

経験のあるスタッフではなく、安く請け負う人を使う。

一人のプロデューサーが、同時にいくつもの案件を抱える。

そうやって数字を合わせることはできます。


しかし、その状態で、

「目的を深く理解してください」

「もっと良い方法を提案してください」

「予定外のことにも対応してください」

「期待を超える映像を作ってください」

と要求するのには無理があります。

削っているのは単なる作業時間ではありません。

考える時間、判断する余裕、専門家を使う力、そして不測の事態に対応する余力です。


だから、制作会社はクライアントから必要な予算をいただかなければならない。

できないものは、できないと言う。

予算を下げるなら、何を変えるのかを説明する。

ここには費用をかけるべきだと思えば、その理由を説明する。

必要な制作費をクライアントに提示し、理解してもらうことまで含めて、プロデュースです。



5,000円には、5,000円で成立する仕事がある


ここで、シリーズの最初へ戻ります。

10分の動画編集5,000円。

私は、この価格そのものを批判したいわけではありません。

5,000円で引き受ける仕事には、5,000円で成立する仕事の構造があります。

撮影済み素材を受け取り、決められた方法で編集し、指定された形で納品する。

発注する側と受注する側が、その仕事の範囲と価格に納得しているのであれば、それは一つの市場です。


しかし、そこへ、

「素材を見て自分で考えてください」

「もっと良い構成があれば提案してください」

「こちらが気づいていない問題も見つけてください」

「何か起きたら解決してください」

「最後まで責任を持ってください」

という仕事まで載せることはできません。

それは別の仕事です。


そして、別の仕事には別の対価が必要です。

映像制作会社が数百万円、ときには1,000万円を超える制作費をクライアントからいただくのは、5,000円の仕事を何百倍も豪華にやっているからではありません。

人を使う。

時間を使う。

専門家の判断を使う。

不測の事態に備える。

そして最終的に、クライアントの目的を達成するところまで責任を引き受ける。

そのための制作体制を作っているからです。



まず、自分の現在地を知ってほしい


ここまで読んだからといって、全員が職業映像制作者を目指す必要はありません。

YouTube編集を専門にして、その世界で腕を磨くのも一つの仕事です。

モーショングラフィックスの専門家になる道もある。

プロのエディターを目指す道もある。

カメラマンになる道もある。

ディレクターになる道もある。


大切なのは、自分がいま映像の仕事のどこにいて、その外側にどんな仕事があるのかを知ることです。

ジャンプカットができる。

Jカット、Lカットができる。

テロップを作れる。

モーションを付けられる。

そこで、

「映像編集はできるようになった」

と考えるのか。

「編集という巨大な世界の入口に立った」

と考えるのか。

その違いは大きいと思います。


第1章で、動画クリエーターが知っている編集技術は、編集全体から見れば1%くらいではないか、と書きました。

それなら悲観する必要はありません。

残り99%があるからです。

そして、その編集のさらに外側には、映像制作という仕事があります。



私たちは、どこでこの仕事を覚えたのか


私は、この仕事を学校で習ったわけではありません。

現場で覚えました。

先輩のプロデューサーを見る。

ディレクターを見る。

カメラマンを見る。

編集室でエディターを見る。

クライアントとの打ち合わせに同席する。

失敗する。

叱られる。

次の仕事で直す。

少しずつ任される範囲が増える。

そうやって身につけてきました。


映像技術は、以前よりはるかに学びやすくなりました。

カメラの使い方も、編集ソフトも、照明も、CGも、モーショングラフィックスも、YouTubeやオンライン講座で学べます。

しかし、

クライアントの目的をどう読み取るのか。

何を提案するのか。

どこへ予算を使うのか。

誰をスタッフに選ぶのか。

どこまで自分で判断するのか。

問題が起きたとき、何を優先するのか。

そして最後までどう責任を持つのか。

こうした職能は、簡単には教材にできません。

長い間、現場の中で人から人へ渡されてきました。



地図と一緒に、職業を成立させる仕組みも残したい


映像制作の入口は、昔よりはるかに広くなりました。

カメラも編集ソフトも手に入る。

映像技術を独学できる。

インターネットで仕事も取れる。

「動画クリエーター」という新しい仕事も生まれました。

その一方で、私たちが現場で受け継いできた職業映像制作者の職能を、次の世代へ渡す仕組みは細くなっているように感じます。


だから、まず地図を残しておきたい。

映像の仕事には、こんな領域がある。

編集の中にも、こんな世界がある。

その外側には制作がある。

制作の中にはプロデュースがある。

そして、そこではこんな能力と責任が必要になる。


同時に、もう一つ残さなければならないものがあります。

この職業を成立させる仕組みです。

プロデューサーが考える時間を持てること。

スタッフが専門家として判断できること。

その能力に見合った報酬を受け取れること。

制作会社が、その報酬を支えられるだけの制作費をクライアントからいただけること。

職業映像制作者という仕事は、個人の情熱や責任感だけでは続きません。

職能と、それを職業として成立させる経済的な仕組みは、セットです。



ビジネス案件が欲しい動画クリエーターのみなさんへ


「ビジネス案件ありませんか?」

この一言から、このシリーズを書き始めました。

もし、その意味が、

「YouTubeより単価の高い編集案件が欲しい」

ということなら、企業映像の世界は少し想像していたものと違ったかもしれません。

しかし、ここまで読んで、

「こんな仕事もあるのか」

「やってみたい」

と思った人がいるなら、話は変わります。

いま持っている技術を捨てる必要はありません。

むしろ持ってきてください。

私たちが知らない新しい技法を知っているなら、それも持ってきてください。


その上で、もっと多くの映像を知る。

編集を知る。

制作を知る。

企業を知る。

社会を知る。

人を知る。


そして、目的と条件を渡されたとき、

「では、こういう映像を作りましょう」

と言えるところまで来る。

さらに、予定していたことが崩れたとき、

「誰が悪い」

で止まらず、

「では、どうする」

と言えるようになる。

そこには、YouTube動画の編集とはかなり違う仕事があります。


テレビでもない。

映画でもない。

CMでもない。

しかし、企業や社会のさまざまな場所で必要とされ、長い間、誰かが担ってきた映像制作の仕事です。


職業映像制作者という仕事。

私は、この職能を私たちの世代だけで終わらせたくありません。

そのためには、技術やノウハウだけでなく、仕事に対する責任の持ち方も、プロフェッショナルが正当な報酬を得られる仕組みも含めて、次の世代へ渡していく必要があると思っています。


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映像制作を発注する企業担当者のための情報発信です。

TomizoJInno.jpeg

執筆者・神野富三
名古屋の映像制作会社 株式会社SynApps 代表取締役プロデューサー

シナリオ・演出・編集まで一貫して手がける映像プロデューサー・ディレクターとして、JR東海・トヨタ自動車など200社以上の映像制作に携わる。

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