読解力低下社会におけるビジネスPR映像制作
- Tomizo Jinno
- 6 日前
- 読了時間: 5分
多くの人々が「文章では伝えにくい情報を、映像によってわかりやすく伝えられる」と漠然と考えています。しかし、BtoBビジネスにおいて企画制作される映像は、一般向けコンテンツとは比較にならないほど難解で大量の情報を伝達する使命を担っています。
このとき「わかりやすく」することは、短い1カットに情報を集約することを意味するわけではありません。むしろ多くの場合、複数のシーンを連続させ、論理的な説明を展開します。つまり視聴者は内容を理解するために、映像の意図を解釈する思考プロセスを必要とします。
ところが現在、若年層のみならず、ビジネス社会全体において「読解力の低下」が深刻な問題となっています。
読解力低下を象徴する倍速再生、ファスト動画、ショート動画
文章の読解力低下の証左が「キーワード読み」という飛ばし読みであるのと同様に、映像コンテンツにおいても「倍速再生」や「ファスト動画」、1テーマで完結する「ショート動画」などの流行が、映像に関する読解力低下を端的に示しています。
文章の読解力と映像作品の視聴能力は、一見異なるスキルのように思われますが、実際には密接な関連性があります。国語における文章読解力は、単に文字を追う能力にとどまらず、文章の構造を把握し、筆者の意図や感情を読み取り、行間の情報を推測し、論理的なつながりを理解する総合的な思考力です。この能力は、映像作品を視聴する際にも同様に発揮されます。
映像作品では、台詞、表情、行動、カット割り、BGMなど多様な要素が組み合わされて表現されます。これらの要素は、文章における単語や接続詞、段落や構文に相当し、それぞれが特定の情報や意味を担っています。登場人物の性格、物語の伏線、因果関係、展開の予兆などを読み取るには、相応の読解力が必要となります。
ビジネスPR映像における読解力低下への対応
BtoBのPR動画がターゲットとする「顧客候補」は、一般消費者ではありません。彼らは特定のニーズや課題を抱き、解決策を探している人々、あるいは特定の業界やビジネスに関心を持つ人々です。しかし、この「顧客候補」層であっても、現代社会における情報過多と情報処理能力の変化による影響は避けられません。
BtoBにおけるビジネスPR動画の企画制作において、かつては詳細なホワイトペーパーや技術資料を読み込み、論理的に比較検討する担当者が多数を占めていたかもしれません。しかし現代では、企業担当者もまた多忙を極め、膨大な情報の中から瞬時に必要なものを見つけ出し、効率的に判断を下すことが求められています。彼らもまた、複雑な情報を読み解く時間や集中力が限られている可能性があります。
つまり「顧客候補」であっても、以前ほど深い読解力や情報処理能力を前提としたコミュニケーションでは、メッセージが伝わりにくくなっているという状況は共通しています。

「顧客候補」に対応したPR動画の戦略
この現状を踏まえると、BtoBのPR動画における対策は、「一般消費者向け」の単純化とは異なる、より戦略的なアプローチが必要になります。
1.「痛点(ペインポイント)」と「解決策」の明確化
顧客候補は、漠然とした情報ではなく、自分たちが抱える具体的な課題(痛点)に対する解決策を探しています。PR動画では、彼らが直面している痛点を明確に提示し、自社の製品やサービスがそれをいかに迅速かつ効果的に解決するかを、視覚的・聴覚的に強力に訴求する必要があります。複雑な機能説明よりも、「この課題が、このように解決される」という未来のビジョンを伝えることに注力します。
2.「信頼性」と「成果」の直感的提示
ビジネスにおける購買決定では、信頼性と実績が重視されます。これは論理的な判断を伴う部分ですが、その提示方法を工夫します。顧客の声(成功事例)を短いインタビュー形式や数値を視覚的に強調して示す、権威ある賞の受賞歴をロゴなどで直感的に表現する、といった手法です。長文の導入事例を読ませるのではなく、「自分と同様の課題を抱える企業が、このように成功した」というストーリーを、簡潔かつ分かりやすく見せることで、共感と信頼を獲得します。
3.「次のステップ」への明確な誘導
ビジネスPR動画は、視聴に満足して終了するものではありません。重要なのは、顧客候補に「次の行動」を促すことです。資料請求、無料トライアル、ウェビナー登録、問い合わせなど、具体的な行動を促すコールトゥアクション(CTA)を、動画の最後だけでなく、適切なタイミングで視覚的に大きく、明確に提示します。Webサイトへの誘導であれば、QRコードや短縮URLを大きく表示するなど、手間をかけずにアクセスできる工夫が効果的です。
4. 情報の「レイヤー化」と「深度の選択」
動画で伝達できる情報には限界があります。そこで、動画は「関心の入り口」として機能させ、詳細な情報はWebサイトや資料に委ねる「情報のレイヤー化」を意識します。読解力が高い顧客候補は、動画で関心を持った後、自ら詳細な情報を探索に向かいます。読解力が限定的、あるいは時間に制約のある顧客候補でも、動画で最低限の情報を理解し、「もっと知りたい」という動機付けができれば、次のステップ(例:営業担当との商談)に進む可能性があります。動画はあくまで「関心を引きつけ、詳細情報への導線を構築する」役割を重視します。
結論
ビジネスPR動画は、顧客候補層の情報処理能力の変化に対応し、「課題解決」「信頼性」「具体的な成果」を、効率的かつ直感的に伝達することに焦点を当てるべきです。複雑な情報を一から十まで説明するのではなく、「最も伝えたい核心となるメッセージを、最も伝わりやすい形で提示し、次の行動へ誘導する」戦略が、現代のビジネスPR動画には不可欠です。
Comments