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未成年の生成AI利用の危険性─映像制作現場で気づいた思考の喪失

更新日:1 日前

映像制作という仕事は、意図を読み取り、問いを立て、企画を構想し、迷いながら最適な構成を探り、意味を設計する仕事です。私は日々、この「考えるプロセス」を実行しつつ、そこに人間らしい「ゆらぎ」があることを自覚しています。そんな時、そのゆらぎを排除するために生成AIを利用することがあります。より「整然とした企画」にするためですが、同時に生成AIが吐き出すテキストの凡庸さや、感情的文脈の消失を目にして、元の自分の文章に戻すこともしばしばです。そして映像制作の現場に、こうした生成AIを活用するにつれ、私はある危機に気づきました。


AIに脳の仕事を意思的に代替化するイメージ
知識・思考の外部化



私はプロフェッショナルとして、長年この仕事に向き合ってきました。思考することの価値を知り、創造のプロセスに責任を持つ立場にいます。それでもなお、AIに思考を委ねたくなる誘惑を退けることは容易ではありません。では、まだ自分の思考や創造のスタイルが確立していない人々、とりわけ未成年の子どもたちは、この誘惑にどう向き合うのでしょうか。


かつて、自分が小学生だったころを思い出します。学校から与えられた宿題や読書感想文に悩まされた日々。何を書けばいいのかわからず、原稿用紙の前で途方に暮れたこともありました。今、目の前にある道具は、その苦闘を最も簡単に、瞬時に解決してくれます。


今、社会ではAI、なかでも大規模言語モデル(LLM)の利用について、さまざまな議論が交わされています。ビジネスにおける生産性向上、教育現場での活用方法、倫理的課題など、多角的な検討が進められています。しかし、私が映像制作の現場で実感した「思考を外部化しようとする衝動」と「それに抗うことの困難さ」という視点から考えるとき、未成年の生成AI利用については、より慎重な配慮が必要ではないかと考えるに至りました。



AIは便利な道具ではない──思考を代行する存在


私たちはAIを、過去の道具と同列に考えがちです。計算機や検索エンジンのように効率化を助けるものだと。しかし生成AIは、それらと根本的に異なります。生成AIは答えを出すだけでなく、問いさえも作り出してしまうのです。

道具

人間に残される役割

計算機

問題理解や式の設計

検索エンジン

何を検索するか決める意思

生成AI

問い、答え、理由、構成すべてを代行

つまり、AIは「思考の代行者」であり、人間から思考するプロセスを奪います。便利さの前に、私たちはこの点を理解しなければなりません。



「限定的な利用」は幻想である


教育現場や政策論では、「AIは限定的に使わせればよい」という意見がよく出ます。しかし私は想います。

人は便利さに抗えない」

生成AIの即効性と完成度は、未成熟な思考を持つ子供にとって圧倒的な誘惑となります。

年齢

自制心の発達

AI依存リスク

小学生

感情優位で衝動的

非常に高い

中学生

理性と感情が葛藤

高い

高校生

理性は育つが未熟

中~高

成人

自律的判断が安定

管理可能

あなたは、ほんとうに小中高生が、便利な道具の使用を自分で制御する能力を持つと考えますか? 自分が子供だった頃を思い出せば答えは明白です。性善説に基づいて「適切に使えば問題ない」と考えるのは、人間の現実を直視しない「幻想」です。



AIは未成年から「考える経験」を奪う


映像制作で痛感するのは、「迷い」「試行錯誤」「再構成」といったプロセスこそ、創造性と理解力を育てるということです。生成AIは、この遠回りのプロセスを丸ごと省きます。

人間が経験すべきプロセス

AIが代行する部分

問題を発見する

問いを生成

仮説を立てる

代替仮説を生成

試行錯誤する

一発で整った答えを提示

言葉で表現する

自動文章化

考え続ける

即時完結の提示

未成年の学習段階でこれが起きると、人格形成に不可欠な「思考する力」が育ちません。効率的に見えても、遠回りの中でしか身につかない「問いを立てる力」「試行錯誤の経験」「失敗耐性」を失います。



思考しない大人、責任を取らない社会の危険性


このまま未成年がAIに依存すれば、社会は次のように変質します。

  • 人間は「判断」ではなく「承認」を行う存在になる

  • 意思決定はAIに委ねられ、責任の所在が曖昧になる

  • 「なぜ?」と問う姿勢が消え、哲学・倫理・批判精神が衰退する


すでにLLMに便利さと最適化を追求する傾向は、日本の社会でも顕在化しています。私たちは、意思決定のプロセスを放棄する社会へ足を踏み入れつつあります。


脳の働きを全面的にAIに代替化するイメージ
内部化するAI



未成年に必要なのは「AI禁止」ではなく、思考基盤の形成


重要なのは、未成年期にAIとの接触を制限することです。禁止ではなく、“考える力を育む前に出会わせない”時間的制約を設けるべきです。生成AIは答えだけでなく、思考の過程を奪うため、時期を誤れば依存を習慣化します。


未成年向けAI利用ルール(提案)

段階

年齢

AIの役割

利用ルール

思考前段階

小1〜中1

思考土台形成

原則禁止/答えには使用不可

思考形成期

中2〜高2

比較・検証・分析

情報整理のみ、生成は禁止

思想形成期

高3〜大学

判断・創造

議論・分析・批判的利用を訓練

このルールの目的は、人間としての思考の基礎が完成する前に便利さに触れさせないことです。便利さの誘惑はあまりに強く、未成熟な子供には自制が不可能です。



終わりに──技術ではなく、人間の問題


私はAI研究者ではありません。映像制作という、意図・意味・感情を扱う仕事を通して知ったことは明確です。

  • AIは便利さだけでなく、思考そのものを代行する

  • 人は便利さに抗えず、習慣として依存する

  • 未成年がAIに早く触れるほど、思考経験と人格形成の機会を奪われる


つまり、問題は技術ではなく、人間の成長段階における特性です。教育期・成長途上である未成年期のAIの有効性は性善説に基づくものであり、実質的には「思考の放棄」を植え付けることになります。

映像制作の現場で日々実感するのは、便利さよりも大切なのは自分の頭で考える経験だということです。この経験だけは、AIに奪わせてはいけません。私は創作者・映像制作者であるからこそ、生成AIの未成年利用には明確な制限が必要であると確信しています。


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【執筆者プロフィール】

株式会社SynApps 代表取締役/プロデューサー。名古屋を中心に、地域企業や団体のBtoB分野の映像制作を専門とする。プロデューサー/シナリオライターとして35年、ディレクター/エディターとして20年の実績を持つ。

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