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日経新聞が報じた動画制作トラブルから考える、映像制作ビジネスの標準的な進め方

2 時間前
読了時間: 12分

映像制作では、構成やシナリオを設計図として、工程ごとにクライアントの承認を得ながら制作を進めます。こうした制作マネジメントを省略すると、認識の相違や際限のない修正、費用・納期をめぐるトラブルが生じます。制作会社を選ぶ際には、価格や実績に加え、合意形成と工程管理の能力を見極めることが重要です。

SynAppsは40年以上の実務経験を基に、企画・制作仕様の策定から段階的な承認、最終納品まで一貫して管理し、安心できる企業映像制作を提供します。



動画制作をめぐる業務委託トラブル


2026年10月16日付の日本経済新聞に、「大事な取引先との初仕事、納期当日に混乱 外注先が音信不通に」という記事が掲載されました。(有料記事)


大手人材会社からPR動画の制作を受注したデザイン会社が、実制作を委託した小規模な映像制作会社との間でトラブルになり、裁判に至ったという内容です。


外注先の代表者は、当初予定されていた納期当日に音信不通となり、3日後に交通事故で入院していたと説明しました。元請けの経営者は事情を理解し、スケジュールを変更して制作を継続しました。


その後、外注先からデザイン会社に映像データが提出されると、元請けの経営者は「動画めっちゃいいです!」と高く評価しました。しかし、クライアントから修正要求が出されると、外注先に5日間での対応を求め、双方の関係は悪化しました。


最終的に元請けは別の制作会社に仕事を依頼し、約200万円の損害賠償を求めて提訴しました。


東京地裁は2026年6月、外注先の連絡・報告義務違反を認定しましたが、賠償額は約20万円にとどまりました。裁判では、交通事故という説明が作り話だったことも明らかになりました。



この争議が起きた理由は、容易に想像できます


この記事を読んで、映像制作に40年以上携わってきた私には、なぜこのような争議が起きたのかが容易に想像できます。と同時に、この記事の書きようを見て、映像制作というビジネスが社会からどのように見られているのかについて、強い危惧を抱かずにはいられませんでした。


記事によれば、元請けは納期以前からナレーターの手配などが進んでいない気配を感じていました。しかし、制作途中で構成やシナリオ、仮編集などを確認したという記述はありません。

また、元請けのデザイン会社の経営者が、提出された映像を「動画めっちゃいいです!」と高く評価していた点にも注目したいと思います。


デザイン会社は、映像制作を外注したからといって、単なる仲介業者になるわけではありません。クライアントから制作を受託した以上、完成する映像の品質や制作工程について責任を負い、仕事全体をプロデュースする立場にあります。

その経営者が「めっちゃいい」と評価したのであれば、制作会社としては、元請けによる内容確認を終え、クライアントに提示できる水準に達したと受け止めても不思議ではありません。


ところが、その後クライアントから大幅な修正要求が出されました。少なくとも、元請けのデザイン会社が事前に把握し、制作会社に伝えていた要求とは異なるものが含まれていた可能性があります。

そうであれば、元請けには、その要求が従来の合意内容に含まれるのか、新たな仕様変更に当たるのかを判断し、必要な費用や納期についてクライアントと協議する責任があります。クライアントから出された要求を、そのまま制作会社の負担として引き受けさせることには問題があります。


一方、記事では外注先の代表者が、元請けの経営者を映像制作の「素人」と評しています。もし、そのように認識していたのであれば、制作会社にも果たすべき役割があったはずです。

映像制作に不慣れな元請けに対しては、構成やシナリオの承認、仮編集の確認、クライアントによる試写、修正対応といった工程をあらかじめ説明し、どの段階で誰の判断が必要なのかを共有しておくべきです。


記事から実際の契約内容や承認の経緯は分かりません。しかし、制作内容について客観的な合意に基づいて仕事が進められていた様子は、少なくとも記事からは伝わってきませんでした。こうした杜撰な仕事の進め方には、ただ呆れるほかありません。



建設業界の争議だったら、どう報じられたでしょうか


今回の日経新聞の記事は、業務委託をめぐる民事裁判を紹介したものです。その趣旨からすれば、映像制作の実務を詳しく説明する必要はないのかもしれません。

しかし、もし同じような争議が建設業界で起きたとしたら、どうでしょうか。


施主との設計内容の合意はどうなっていたのか。元請けは工事の進捗をどのように管理していたのか。完成後の変更要求は、当初の契約内容に含まれるものだったのか――。

記者であれば、間違いなくこうした経緯や構造にまで踏み込んで取材し、確認するのではないでしょうか。


建設工事には「設計図面」があり、施主による承認と厳格な「工程管理」があります。そして映像制作にも、本来それとまったく同じ仕組みが存在します。

ところが、今回の記事からは、そうした仕組みの存在がほとんど感じられません。

私は、記者自身が「映像制作という仕事は、もともとその程度のものだ」と認識しているのではないか感じました。


「動画を注文し、制作会社が作って納品する。気に入らなければ修正を求める。」

映像制作とは、そうした曖昧な感覚のやり取りで成り立っているビジネスだという先入観があるのではないでしょうか。


記者が実際にどう考えていたかは分かりません。ただ、こうした報道によって「映像制作とは、客観的な基準もマネジメントもない曖昧な業界だ」というイメージが社会的に定着してしまうことには、強い懸念があります。



映像制作にも「設計図」があります


そこで、これから映像制作を発注する企業の皆様に、プロの映像制作会社が本来どのように仕事を進め、制作内容と品質、費用、納期を管理しているのかをご説明したいと思います。


建設工事では、施主に設計図を示し、建物の構造や間取り、設備などについて合意してから施工を始めます。工事途中にも必要な確認や検査を行い、設計変更があれば費用や工期について協議します。


映像制作も基本的には全く同じです。

映像制作における「設計図」に相当するのは、構成案やシナリオ、絵コンテなどです。

何を、どのような順序で、どのような映像と音声によって伝えるのか。制作会社は、その内容をクライアントに示し、承認を得てから次の工程に進みます。


代表的な工程と承認の内容は次のとおりです。


工程

主な業務

クライアントの確認・承認事項

① 企画・要件確認

制作目的、視聴対象、用途、予算、納期の確認

制作目的・基本方針の合意

② 構成・シナリオ制作

全体構成、シナリオ、必要に応じた絵コンテの制作

構成・シナリオの承認

③ 制作仕様・見積確定

撮影方法、出演者、CG、音声、制作工程、費用の確定

制作仕様・金額・納期の承認

④ 撮影・素材制作

撮影、ナレーション収録、CG・アニメーション素材制作

必要に応じて撮影内容や素材を確認

⑤ 仮編集

シナリオに基づく映像・音声の仮編集

映像内容・構成・尺の承認

⑥ 本編集・仕上げ

色調整、音声仕上げ、テロップ、CG合成など

完成映像の試写・修正指示

⑦ 最終確認・納品

最終修正、品質検査、指定形式での書き出し

最終承認・検収後、完成映像を納品


実際の工程や承認のタイミングは案件によって異なります。重要なのは、必要な段階で合意を形成し、その合意を基準に次の作業を進めることです。


建設工事で設計図の承認を得ずに施工を始めれば、完成した建物が施主の希望と違っていた場合、深刻な問題になります。

映像制作でも、構成やシナリオについて承認を得ないまま撮影や編集を進めれば、まったく同じことが起こります。


クリエイティブ会議のストーリーボード検討


修正作業にも明確な基準があります


映像制作では、制作途中で修正要求が出ることは珍しくありません。

そのとき重要なのは、修正の根拠となる「事前の合意」が存在することです。

例えば、承認されたシナリオと異なる映像が制作されていれば、制作会社が責任を持って修正する義務があります。


一方、シナリオ承認後にクライアントが方針を変更し、撮影のやり直しや構成の大幅な変更を求める場合には、それは「要件変更」であり、追加費用や納期の変更が必要になります。


建設工事でいえば、「設計図と異なる施工を直すこと」と、「施主の都合によって間取りを変更すること」の違いです。

この区別を明確にできるのは、承認された設計図(シナリオ)があるからです。


元請けが「めっちゃいい」と主観で評価したから完成、クライアントが気に入らないと言ったから修正――という仕事の進め方では、完成基準が個人やその場の感情に左右されてしまいます。

何を、どこまで、いくらで制作するのか。客観的な合意に基づいて仕事の範囲と責任を定めることが、映像制作をビジネスとして成立させる基本です。

制作マネジメントとクライアントコミュニケーションは、この基本を実行するための専門的な業務なのです。




確認・承認工程を簡略化できる場合もあります


制作工程ごとの確認や承認には時間と費用がかかります。そのため、これらを簡略化することで制作費を抑える方法にも合理性があります。


例えば、発注者が企業の経営トップであり、自ら映像の内容を決定できる場合です。また、担当者に映像制作に関する全権が委ねられている場合も同様です。

こうした条件であれば、制作途中の確認を最小限にとどめ、制作者の判断に任せて完成まで進めることも可能です。制作費の削減にもつながります。


ただし、制作内容と費用、納期について、誰が最終判断するのかは明確にしておく必要があります。

一方、社内の複数の部署や役職者による承認が必要な場合には、事情が異なります。

担当者が良いと評価した映像でも、最終決裁者が承認するとは限りません。完成に近づいてから別の意思決定者が変更を求めれば、大きな手戻りが発生します。


そのため、どの段階で誰の承認が必要なのかを制作開始前に決め、必要な関係者の合意を得ながら進めることが重要です。


映像制作のマネジメントでは、発注企業の意思決定の仕組みに応じて、必要な確認・承認工程を設計することが求められます。



なぜ、映像制作会社によって見積金額が大きく違うのでしょうか


近年、比較的安価な予算で動画制作を請け負う新興企業が増えています。

現実に、私が100万円と見積もった仕事を50万円で請け負う会社をいくつも見てきました。

その実態は、長年の経験から、安価に請け負う制作会社が、制作工程の管理や段階的な承認を十分に行わず、受注から納品まで進めている会社も少なくないと感じています。


私たちの見積には、企画・構成の検討、シナリオの作成、クライアントとの合意形成、各工程の確認、制作進行の管理などが含まれています。50万円と見積もる会社の多くは、そうしたプロセスを「たぶんうまくいく」という感覚で見積もっています。


もちろん、制作費の違いには、撮影内容や技術、制作体制など、さまざまな要因があります。安価な制作会社が必ずしも工程管理を省略しているわけではありません。

また、前述したように、発注者自身が全権を持ち、制作途中の承認工程を簡略化できる場合には、その分の費用を抑えることもできます。


しかし、一定規模以上の企業で、複数の関係者による承認が必要な案件で、制作マネジメントを省略すれば、制作途中や完成段階での認識の違いが大きな問題になる可能性があります。


発注者から見れば、どちらも同じ「動画制作」の見積に見えるかもしれません。しかし、そこに含まれる業務と責任の範囲が違えば、同じ条件で比較していることにはなりません。

建設工事に例えるなら、設計図の作成や承認、工程管理を行う会社と、そうした手続きを省いて工事を始める会社を価格比較するようなものです。



制作会社を選ぶときに確認していただきたいこと


映像制作会社を選ぶ際には、実績や価格とともに、制作の進め方(マネジメント体制)を確認していただきたいと思います。



  • 構成案やシナリオは提示されるのか。


  • どの工程で誰の承認を得るのか。


  • 修正要求が出た場合、どのような基準で追加費用や納期を判断するのか。



これらについて具体的に説明でき、実際にその手順を遂行できる会社を選ぶことが重要です。


もう一つ、私が注意していただきたいのは、映像のジャンルやタイプによって制作方法を断定的に語る会社です。


例えば、「採用動画は社員インタビューが効果的」「会社案内は3分が最適」「SNS動画は短いほどよい」といった説明です。

こうした一般論には一定の根拠がある場合もあります。しかし、企業によって課題も目的も視聴者も異なります。


同じ採用動画でも、企業文化を伝えるべき場合もあれば、仕事の具体的な内容を説明する必要がある場合もあります。会社案内でも、展示会で上映する映像と、営業担当者が商談で使用する映像では、適切な構成や長さが異なります。


映像制作の専門家であれば、まず発注者の目的や条件を把握し、その企業に必要な表現方法を検討するはずです。

ジャンルやタイプだけで制作方法を決めつける会社については、個々の企業の課題をどこまで理解し、企画や構成を考えているのか、確認してみることをお勧めします。



おわりに:社会は映像制作ビジネスを何だと思っているのか


動画制作の技術は身近になり、企業が映像を活用する機会も増えました。


しかし、冒頭の問いに戻りましょう。

「社会は映像制作ビジネスを何だと思っているのでしょうか」


単に「カメラを回して映像を切り貼りし、感覚で納品する仕事」と思われているのだとすれば、それは大きな間違いであり、私たち制作者の側もその専門的な価値を伝えきれてこなかった反省が必要です。



映像制作業は撮影・編集代行ではありません。


発注者の目的を「設計図(シナリオ)」という形に落とし込み、関係者の意向を調整して段階的な合意を形成し、クオリティ・費用・納期というリスクをコントロールして完成へと導く、初めに提案して、その提案を約束通り形にする高度なマネジメント・ビジネスなのです。


発注者が全権を持つ案件なら、確認や承認を簡略化して費用を抑える方法もあります。多くの関係者が意思決定に参加する案件なら、それに応じた工程管理と合意形成が必要です。

どの方法が適切かを判断し、提案・実行することこそが、プロの映像制作会社の専門性にほかなりません。


これから映像制作を発注する企業の皆様には、ぜひ自社の意思決定の仕組みを理解し、必要な承認工程と制作マネジメントを明確に説明・実行できるパートナーを選んでいただきたいと思います。


それが、無用なトラブルを防ぎ、安心して映像制作を発注し、期待する成果を得るための唯一確実な条件です。


映像制作を発注する企業担当者のための情報発信です。

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執筆者・神野富三
名古屋の映像制作会社 株式会社SynApps 代表取締役プロデューサー

シナリオ・演出・編集まで一貫して手がける映像プロデューサー・ディレクターとして、JR東海・トヨタ自動車など200社以上の映像制作に携わる。

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