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360°映像をVRと言わないで

更新日:11月26日

360°カメラの特性と限界


360°カメラは、民生用から高度な業務用まで、様々な種類が市場に出回っています。これらのカメラの共通点は、現実世界の全方位を捉える能力です。しかし、その名前(カメラ)が示すように、これらのカメラは単に「そこに存在するものを撮影する」だけです。つまり、現実の世界を360度の視野で記録することはできますが、架空や仮想の世界を創造したり、撮影したりすることは不可能です。この点は、多くの人々が誤解しがちな重要な特徴です。



Virtual Realityの本質


一方、Virtual Reality(VR)は日本語で「仮想現実」と訳されますが、その本質は「仮想の世界に現実の要素を反映させる」技術です。VRは、コンピューターが生成した3D環境の中に、ユーザーを引き込み、体験させることができます。確かに、360°映像を視聴するためのゴーグル型モニターは、ある意味で「仮想的な空間モニター」と呼べるかもしれません。そのため、360°カメラで撮影した映像をVRゴーグルで見ることを「VRを体験している」と表現しても、完全な間違いとは言えないかもしれません。しかし、これは厳密にはVRの一部の機能を利用しているに過ぎません。



なぜ360度カメラで撮った映像がVRである、と言う誤解が生まれたのか?


この誤解が広まった背景には、主に以下の技術的な要素マーケティング的な要素が複合的に影響しています。


1. 視聴体験の類似性(ゴーグルとの結びつき)

360°映像を専用のヘッドマウントディスプレイ(HMD、いわゆるVRゴーグル)で視聴すると、ユーザーは視線に合わせて映像の中の景色を全方位見回すことができます。この「頭の動きに映像が追従する」という体験は、従来の二次元映像にはない「あたかもその場にいるかのような感覚」を生み出します。VRの主要な特徴が「強い臨場感や一体感」であったため、HMDで視聴する360°映像は、ユーザー体験として最もVRに近いものとして捉えられ、同一視されるようになりました。


2. 「VRゴーグル」の普及

360°映像の視聴に、一般的に「VRゴーグル」と呼ばれるデバイスが使われます。デバイス名に「VR」という言葉が入っているため、そのデバイスを通して見るコンテンツ全てが「VR」である、という言葉の連想が強く働きました。


3. マーケティング上の戦略

新しい体験を普及させる際、より魅力的で先進的なイメージを持つ「VR」という言葉が、単なる「360°映像」よりも販促上有利に働きました。コンテンツ制作者やデバイスメーカーが、その体験を**「手軽なVR体験」**として宣伝し、結果として両者の境界線が曖昧になってしまいました。

これらの要因が重なり、VRの本質的な特徴である「コンピュータが生成した仮想空間での自由な操作・移動」という要素が抜け落ち、「HMDで見る臨場感のある映像」という表層的な特徴が「VR」として広く認識されるに至ったと考えられます。



誤解の連鎖と拡大解釈の危険性


このような拡大解釈が重なると、技術の本質を見誤ります。特に問題となるのは、360°カメラで撮影した映像で「自由な仮想体験」ができると誤解することです。具体的には、360°カメラの映像をゴーグルで視聴すれば、まるでその場所を自由に歩き回れるかのような錯覚に陥る人がいます。

例えば、視線を変えると新たな場所(例:階段)が見えて、そこへ移動できると考える人もいます。しかし、これは360°カメラの機能を大きく超えた期待です。実写のみの360°映像では、撮影時のカメラ位置以外からの視点を提供することは不可能です。



VRと360°映像の根本的な違い


真の意味でのVR体験、つまり自由に移動や探索ができる環境を作るには、360°カメラではなく3DCGツールを使用して、完全な仮想空間を構築する必要があります。例えば、ある壁の向こう側を見たいなら、その壁の向こう側のデータも事前に作成しておく必要があります。これは360°カメラの能力を完全に超えています。

実写データをCGに変換して仮想体験を可能にする方法もありますが、これは非常に労力のかかる作業です。そのため、単純な360°映像とVRを混同すると、技術的な限界に直面し、大きな失望を味わう可能性があります。



誤解の現実と注意点


驚くべきことに、「VRコンテンツを撮影して作りたい」と考えるクライアントの中には、このような誤解に基づいて壮大な計画を立てる方がいらっしゃいます。しかし、360°カメラは革新的な技術ですが、決して魔法のようなカメラではありません。

VRと360°映像の違い、それぞれの技術の可能性と限界を正しく理解してください。。


VRと360°映像は別なお話ですよ

 

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【執筆者プロフィール】

株式会社SynApps 代表取締役/プロデューサー。名古屋を中心に、地域企業や団体のBtoB分野の映像制作を専門とする。プロデューサー/シナリオライターとして35年、ディレクター/エディターとして20年の実績を持つ。

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