同録
映像収録において映像撮影と音声録音を同時に行うことを「同録」と言います。
撮影における同録
スタジオ収録、ロケーション撮影に関わらず、さまざまな理由で映像の収録と音声の収録を同時に行うことは、比較的手間がかかる作業です。マイクなどがカメラに映り込むことや、外部の騒音が入り込むことが多いためです。そのため、あえて同時に行うことを「同録で」という言葉で表現しています。
出演者にとっては、撮影時に同録を行わず、セリフの別撮り(アフレコ)は気が楽ではありますが、撮影時の口パクやリップシンクに苦労することもあります。
放送法に定められた「同録」
テレビ局、ラジオ局において、オンエアソースを放送と同時に記録したデータを「同録」と呼びます。
放送局は「法定同録システム」を設置して、放送した映像・音声一定期間保存することが義務付けられていますが、「同録」は必ずしもこの装置が保存したデータだけでなく、例えばスポンサー企業に放送した内容をコピーして渡すことも「同録を提出する」と言います。
映像制作会社としての視点
同録は、単に「現場の音を録る」という作業以上に、物理法則や制御不能な環境との果てしない戦いです。視聴者が普段何気なく聞いているクリアな音声の裏には、録音部による執念とも言える苦労が隠されています。
物理的な「静寂」の確保という不可能への挑戦
現代社会において、完全な無音の場所を探すのは極めて困難です。同録の最大の敵は、日常に溶け込んでいる「環境ノイズ」です。
低周波の振動: 遠くを走る大型トラックのロードノイズや、地下鉄の振動は、マイクが敏感に拾ってしまいます。
空調と電気ノイズ: ロケ先の冷蔵庫、自動販売機、エアコンのファン音などは、現場では気にならなくても録音データでは巨大な騒音となります。録音部は本番の直前、これらを一時的に停止させるために奔走し、終われば戻し忘れないよう神経を削ります。
自然界の「空気を読まない」音: 時代劇の撮影中に飛行機が通過したり、感動的なシーンでカラスが鳴いたりといった、制御不能な音との戦いは日常茶飯事です。
衣装とマイクの「摩擦」という微細な戦い
俳優のセリフを拾うために服の中に仕込む「ピンマイク」は、録音部にとって悩みの種です。
衣擦れ(ころもずれ): 俳優が動くたびに、衣装の生地とマイクが擦れて「ガサガサ」というノイズが発生します。これを防ぐため、医療用テープや特殊なクッション材を使い、ミリ単位でマイクの固定位置を調整します。
衣装の制約: シルクなどの薄い生地や、逆に硬い革ジャンなどはノイズが出やすく、録音部にとっては「天敵」です。しかし、演出上その服を着なければならない場合、あらゆる工夫を凝らして「音の死角」を探り当てます。
「画角」と「マイクブーム」の境界線上の攻防
長い棒の先にマイクをつけた「ブームマイク」を操る音声スタッフは、常にカメラマンとの高度な心理戦を行っています。
見切れるか、拾えないか: 良い音を録るにはマイクを口元に近づけたいのですが、近づけすぎると画面に映り込んで(見切れて)しまいます。特に4Kなどの高精細な映像や、広角レンズを使った「引きの映像」が増えた現代では、マイクを入れずに声を拾う難易度は飛躍的に上がっています。
影の映り込み: マイクそのものが映らなくても、照明によってマイクの「影」が背景や役者の顔に落ちることがあります。音声スタッフは、常に照明の光の筋を読み、中腰のまま数分間、静止し続ける筋力と集中力を要求されます。
撮影隊という「身内」が出すノイズの制御
皮肉なことに、録音部にとっての敵は外部の騒音だけではありません。
スタッフの足音や衣擦れ: 緊迫したシーンでカメラが動く際、カメラマンや特機スタッフの靴音、衣服の擦れる音が混じらないよう、現場全体が忍び足での行動を強いられます。
「音の待ち」によるプレッシャー: 飛行機の通過待ちなどで撮影が中断した際、現場の全スタッフの視線が「いつまで待つのか」と録音部に注がれます。クオリティを妥協せず、かつ進行を止めすぎないという精神的なタフさが求められる瞬間です。
執筆者・神野富三
株式会社SynApps 代表取締役プロデューサー
大学時代のラジオ番組の構成演出に始まり、映像ディレクター・プロデューサーとして、40年以上の業界経験を基に映像業界に関する知見を発信しています。
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関連用語など
1. アフレコ
アフレコとは、映像作品において、映像に合わせて後から音声を録音する作業のことを指し、「アテレコ」もアフレコに含まれます。アニメ、ドラマ、映画など、様々な映像作品で利用されており、例えば、アニメーションであれば、完成した絵に声優が声を当てていくことで、キャラクターに命が吹き込まれます。ドラマや映画では、撮影時に収録できなかったセリフや、後から変更になったセリフなどを、スタジオで改めて録音します。
2. アテレコ
アフレコの中でも、特に既存のキャラクターや登場人物など「自分以外」の動きに対して、声を当てていく手法です。「当てる」という日本語が語源となっているこの技術は、様々な場面で活用されています。最も一般的な例が、海外映画やドラマの吹き替えです。原語の音声を別の言語に置き換える際、俳優の口の動きに合わせながら、自然な会話の流れを保つ必要があります。また、特撮作品におけるスーツアクターの演技に声を付ける場合や、動物の動きに人間の声を当てる場合なども、アテレコの一例です。
アフレコとは逆の手順で制作を行う手法です。まず音声を収録し、その後でそれに合わせて映像を制作していきます。この方法は、特に海外のアニメーション制作で主流となっています。プレスコの大きな利点は、声優が自由に演技できることです。映像に縛られることなく、感情の起伏や間の取り方を自然に表現できるため、より生き生きとした演技が可能になります。また、音声が先にあることで、アニメーターは声の抑揚やリズムに合わせて、より細かい表情やモーションをつけることができます。
4. ダビング
一般に使用されるメディアをコピーする行為ではなく、完成した映像に音声を重ねる作業全般を指します。MAとほぼ同義です。セリフの吹き替えはもちろん、効果音、BGM、ナレーションなどを追加する工程も含みます。作業は専用のスタジオで行われ、高品質な収録環境と正確な映像同期が必要です。特にアニメーション作品では、キャラクターの声をすべてダビングで収録するため、演技と映像の同期が特に重要になります。
5. ボイスオーバー
映像作品において、画面に映る人物や物とは異なる人物が、まるでその場にいるかのように、自分の声で何かを語る表現手法です。日本語では「ナレーション」と呼ばれることもありますが、ボイスオーバーはより広義で、様々な場面で使用されます。

