CONTINUITYの歴史を紐解く
- 神野富三

- 38 分前
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映像制作業界で仕事をしている人でも「絵コンテ」のコンテを、画材のコンテと思い込んでいる人は意外といます。知っている人は知っているとおり、正しくはコンティニュイティ Continuity が語源です。
ところが、映画・映像の世界で使われる CONTINUITYという言葉は、時代によって指しているものがかなり変化しています。
CONTINUITY
この言葉は現在では絵コンテの語源というよりも、映像制作の専門的知識として「映像や動作の連続性」という意味で理解されることが多いのですが、映画史を遡ると、面白い変遷がみてとれます。
映画制作が産業として成立していく過程では、「映画をあらかじめ設計するための方法と文書」を指した時代がありました。

1900年代――まだCONTINUITYは必要なかった
映画が短かった時代、撮影前に用意されるものは簡単なストーリーやシナリオで十分でした。
映画そのものが短く、現在ほど職能も分業されていません。プロデューサー、脚本家、監督、撮影者といった仕事を、一人の映画人が兼ねることも珍しくありませんでした。
ところが映画が長くなり、一つの場面を複数のショットに分けて撮影するようになると事情が変わります。
撮影前に、「どんなショットを撮るのか」「どの順番につながるのか」「どれくらいの長さになるのか」まで決めておかなければ、大規模な映画制作を管理できなくなってきたのです。
1910年代――CONTINUITY SCRIPTの登場
そこでアメリカ映画界に登場したのが continuity script です。特にトーマス・インスらが進めたスタジオ型の映画制作では、撮影前に映画を詳細に設計する必要がありました。
1913~14年ごろには、従来のscenarioよりはるかに詳細なcontinuity scriptが使われるようになります。そこにはショットごとのアクション、撮影予定、フィルム尺、タイトル、さらには予算や制作管理に必要な情報まで記載されることがありました。ウィスコンシン大学の映画史資料は、これを映画制作の 「complete blueprint」 と表現しています。
ここでいうCONTINUITYは、単に「つながりがおかしくならないようにする」という意味ではありません。
完成する映画を時間軸に沿って分解し、撮影可能な形に設計したものだったのです。
1920~40年代――撮影台本としてのCONTINUITY
ハリウッドのスタジオシステムが確立すると、continuityは映画制作を管理する重要な手段になります。
映画をショット単位まで設計しておけば、撮影順が物語の順番とは違っていても制作できます。セット、俳優、衣装などの都合に合わせて効率よく撮影し、あとから編集によって物語の順序へ戻せるからです。
一方、ここからCONTINUITYにはもう一つの意味が強くなっていきます。
「前のショットと次のショットが正しくつながること」です。
俳優が右手に持っていたグラスを次のショットでも右手に持っている。人物が画面右へ歩き出したなら、次のショットでもその移動方向を維持する。
こうした連続性を管理する仕事が必要になります。アメリカでは continuity clerk、continuity girl などと呼ばれ、後の script supervisor につながっていきます。
つまりCONTINUITYは、映画をどう連続させるかという「設計」と、その連続性を撮影現場でどう維持するかという「管理」の両方に関係する言葉になっていきました。
同じ頃――CONTINUITY EDITINGが映画の文法になる
さらに別の流れがあります。
映画がショットをつないで物語を語るようになると、観客にその切れ目を強く意識させず、時間と空間が連続しているように見せる編集方法が発達します。
これが後に continuity editing と呼ばれる体系です。
マッチ・オン・アクション、アイライン・マッチ、180度ルール、ショット/リバースショットなども、この大きな考え方に属します。
目的は、ショットが変わっても観客が、「誰がどこにいるのか」「誰が何を見ているのか」「どちらへ動いているのか」を見失わないことです。古典的ハリウッド映画では、こうしたcontinuity editingが物語映画の基本的な文法として発達しました。
同じCONTINUITYという言葉が、撮影前の設計→ 撮影現場でのつながりの管理→ 編集による時間・空間の連続性を貫いていることが見えてきます。
日本――「コンティニュイティ」から「コンテ」へ
この映画制作の考え方は日本にも入ってきました。
英語のcontinuityは「コンティニュイティ」と呼ばれ、それを縮めた日本独特の業界語として「コンテ」が使われるようになります。
ここで重要なのは、もともとの「コンテ」が必ずしも「絵」を意味していなかったことです。CONTINUITYとは、映画をカットへ分解して具体化する撮影設計でした。したがって、
CONTINUITY→ コンティニュイティ→ コンテという流れがあります。
「絵コンテ」のコンテがcontinuityに由来することは、映画史研究の講義資料でも明示されています。
1950~60年代――CONTINUITY SCRIPTからSHOOTING SCRIPTへ
戦後になると、アメリカ映画では脚本の書き方そのものが変化します。
スタジオシステムの時代には、脚本の段階からショットまで細かく指定するcontinuity形式が大きな役割を果たしました。しかし1950~60年代にスタジオシステムが変質すると、脚本家が書く脚本では、ショットを細かく規定しない master scene script が主流になっていきます。ショットをどう割り、どう撮るかは、監督を中心とする撮影段階の仕事へ移っていきます。つまり、かつて一つのcontinuity scriptが担っていた機能が、
脚本+ shooting script+ storyboard+ 撮影現場でのcontinuity管理などへ分化していったと見ることができます。
1950~60年代の日本――「絵コンテ」が独自に発達する
日本では「コンテ」という言葉が残り、さらに各カットを絵によって示すものを「絵コンテ」と呼ぶようになります。
ここから映画だけでなく、アニメーション、テレビ、テレビCMへと広がっていきます。
特にテレビCMでは、絵コンテは単なる撮影指示書ではありません。企画者、コピーライター、演出家、制作会社、広告代理店、スポンサーなどが、まだ存在していない映像を撮影前に共有するための媒体として大きな意味を持つようになります。
初期の映画におけるcontinuityが「これから作る映画を事前に設計するもの」だったとすれば、テレビCMの絵コンテにも、その性格はかなり色濃く残っていると考えられます。
現代――CONTINUITYは「連続性」という意味が前面に出た
現在の映画・映像制作で英語の continuity と言えば、多くの場合、時間の連続性空間の連続性人物の動作の連続性衣装・小道具などの連続性ショット間の視覚的な連続性といった「つながり」を指します。
continuity editing、continuity error、continuity supervisor といった使われ方です。
一方、かつての continuity script が担っていた「映像全体を撮影前に設計する」という意味は、shooting script、shot list、storyboardなど別の制作文書へ分散しました。日本では、その古いcontinuityの痕跡が意外なところに残っています。
「コンテ」です。
現在「絵コンテ」と聞いて、英語の continuity を連想する映像制作者は少ないでしょう。英語なら storyboard ですから、なおさらです。しかし歴史を遡れば、
映画を物語の順番に分解して設計する→ CONTINUITY→ コンティニュイティ→ コンテ→ 絵によって示す「絵コンテ」という系譜が見えてきます。
そして興味深いのは、CONTINUITYという言葉が消えたわけではないことです。映画を撮影可能な形へ分解すること、撮影時につながりを維持すること、編集によって時間と空間を再構成すること――使われる場所と意味を変えながらも、「分割して撮影された映像を、一つの連続したものとして成立させる」という思想は、初期映画から今日の映像制作まで一貫して残っています。



