カメラ前
文字通りカメラの前、つまりレンズが向いている方向で画角内側に入る位置のことを指すと同時に、「映り込むから入るな」という意味で使うこともあります。
撮影中はもちろんですが、準備中の間もカメラマンやビデオエンジニア、照明技師等はビューファインダーやモニターを見ながら様々な調整をしていますし、ディレクターやプロデューサーが、スポンサーに構図の説明をしている場合もあります。
従って、「カット!」が掛かり、次の段取りに入る時以外には、スタッフが小道具の場所を調整したり、出演者の髪型を直すためにフレーム内に入る等の時は、「カメラ前失礼します」とか「カメラ前入ります」と、カメラマンやディレクターに了解を求めてから入るというルールがあります。
作業中の焦ったスタッフが不用意にカメラ前を横切ろうとすると、「カメラまえ!」と声が掛かります。プロデューサーであっても容赦なく叱責されます。
映像制作会社としての視点
ロケ現場の攻防戦「カメラ前を死守せよ」
ロケの現場において、カメラのレンズから被写体までの空間、いわゆる「カメラ前」は、スタッフが最も神経を尖らせるエリアです。
特に望遠レンズを使って遠くから狙っている場合、カメラと被写体の間には驚くほど広大な「空白地帯」が生じます。スタッフにとってはそこは「本番中のステージ」ですが、一般の方々から見れば、ただの「道」や「広場」に過ぎません。カメラの存在に気づかない通行人がふらりと横切ろうとしたり、好奇心旺盛な見学者が少しずつフレームの端へと吸い寄せられてくるのは、ロケにおける日常風景です。
このとき、ロケーションコーディネーターやADの腕の見せ所となります。彼らはカメラの画角を完璧に把握し、見えない境界線を守る「防波堤」となります。
しかし、ここで最も大切なのは「決して威張らないこと」です。
どれほど良いシーンを撮っていようと、公共の場所をお借りしているロケ隊は、あくまで「日常にお邪魔している立場」に過ぎません。「こら、入るな!」「止まって!」といった高圧的な態度は、現場の空気を悪くするだけでなく、作品そのものの品格を傷つけ、最悪の場合は撮影中止に追い込まれることもあります。
プロのスタッフは、カメラ前に入りそうな方に対し、柔和な笑顔と平身低頭な姿勢で「申し訳ありません、今あちらで撮影をしておりまして、あと数十秒だけこちらでお待ちいただけないでしょうか」と、丁寧に、かつ速やかに「ご協力」をお願いします。
「カメラ前を死守する」とは、単に物理的な空間を守ることではなく、地域の方々との信頼関係を守ること。スタッフ総出で行われるその「お願い」の連携プレーは、時に本編の撮影以上に、チームワークが試される瞬間です。
執筆者・神野富三
株式会社SynApps 代表取締役プロデューサー
大学時代のラジオ番組の構成演出に始まり、映像ディレクター・プロデューサーとして、40年以上の業界経験を基に映像業界に関する知見を発信しています。

