拝啓「ビジネス案件」を求める動画編集者様へ
- Tomizo Jinno

- 10月6日
- 読了時間: 4分
「企業案件」という言葉の誤解
近年、YouTuberやフリーランスの動画編集者の間で「企業案件」や「ビジネス案件」という言葉が広く使われているようです。弊社へのメールで一番多いのも、そういうビジネス案件を求める動画編集業の人たちです。日頃請け負っている仕事に比べると、桁違いのギャラが支払われることもある「ビジネス案件」は、垂涎の的だと言います。
しかし残念なことに多くの場合、みなさんが求める仕事は、商品のレビューやイベント告知、サービス紹介といったBtoC向けの動画を指しています。つまり、“より多くの人にウケる”ことを目的に制作される映像です。テンポよく編集され、明るい演出で、誰にでもわかる構成――これが評価基準となります。
しかし、私たちが生業としているビジネス案件は少し毛色が違います。企業が本当に求める映像はそれとは異なることが多いのです。特にBtoB領域では、限られたターゲットに正確に届き、特定のビジネス目的を達成する映像がほとんどです。研究開発紹介、技術PR、採用ブランディング、IR資料、展示会用映像、企業PRなど、一般視聴者向けではない専門的コンテンツも含まれます。ここに、YouTuber的な「案件」という概念との大きなズレがあります。

私が企業映像づくりを好きな理由
テレビ番組は基本的に“万人向け”を前提に作られています。「誰が見ても理解できる」「みんなが楽しめること」が絶対条件です。YouTubeも同様で、再生数やクリック率が評価の指標となり、広範な視聴者に訴求することが求められます。
しかし、私たち映像制作会社が手掛けるBtoB映像は、その逆です。特定のターゲットにだけ、必要な情報を確実に伝えることが目的です。例えば、製造業の技術紹介映像では、専門用語や工程の正確性が重要です。医療機器や金融サービスのPR映像では、法令やリスクへの配慮も欠かせません。つまり、「みんなにウケる」ことより、「ターゲットに正しく届く」ことが何より大切なのです。
「みんなにわかりやすく」という呪縛からの解放
現代日本では、価値観や関心は世代、職業、地域、経済状況などにより大きく異なります。「全員にわかる」映像など、もはや存在しません。むしろ、全方位に向けて作ったメッセージは、誰にも刺さらないことが多いのです。
だからこそ、BtoB映像ではターゲットを明確に設定し、その人たちに最適な表現を設計します。その対象者の業務知識や関心領域を理解し、具体的な行動や意思決定につなげる映像構成を組む。このプロセスを経ることで、単なる“動画”が企業の戦略を支える“ツール”に変わるのです。
時代がようやく追いついてきた
最近のゴールデンタイムのテレビドラマを見ても、制作側は「オールターゲット」をあきらめ、明確な視聴者層を想定した企画が増えています。これにより、少人数でも深く刺さるコンテンツを作ることの重要性が認識されつつあります。
企業映像制作におけるターゲット設計は、私たちは以前から当然のように実施してきました。「誰に向けて」「何を伝えるのか」を明確にすることが、ビジネス効果を最大化するカギです。テレビもYouTubeも、ようやくこの考え方に追いつきつつあるのだと感じます。
「映像を設計する」という考え方
企業映像の本質は、単に“見せる”ことではありません。企業が持つ「特有の事実」や「本質的価値」を見出し、それをターゲットに合わせて最も効果的に伝えることが求められます。
そのためには、以下のような工程が不可欠です。
目的に沿ったメッセージ設計:企業が伝えたいことを整理する
ターゲットに最適なトーン&マナー:業界特性や文化的背景に配慮
映像構成と演出の整合性:ストーリーやビジュアルの精度を高める
この設計プロセスこそが、プロとしてのビジネス案件の本質です。単なる撮影・編集は、この設計を形にする手段に過ぎません。
結論:「ウケる」より「届く」映像を
YouTuberや個人クリエイターの表現力、編集スキルは映像業界にとって大きな財産です。しかし、企業映像制作では、表現の自由よりも伝達の正確さが求められます。
「バズる」ことを目的とする動画と、「課題を解決する」ための映像――その違いを理解したとき、映像は単なるコンテンツではなく、企業と社会をつなぐ重要なコミュニケーション手段に変わります。
株式会社SynAppsは、BtoB領域における映像の本質を見つめ、“ウケる映像”ではなく、“届く映像”を追求しています。ターゲットに最適化された映像設計こそが、今後ますます重要になるでしょう。 【執筆者プロフィール】
株式会社SynApps 代表取締役/プロデューサー。名古屋を中心に、地域企業や団体のBtoB分野の映像制作を専門とする。プロデューサー/シナリオライターとして35年、ディレクター/エディターとして20年の経験。




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