PR映像制作の「シナリオ」の役割と意義
- Tomizo Jinno

- 2月17日
- 読了時間: 8分
映像の力と誤解
新聞や雑誌、ポスターなどの静止した広告と比べて、映像は「情報量が多い」とよく言われます。確かに1秒間に数十枚の画像が流れる映像は、紙媒体より情報が多いように見えます。しかし、人間の目と脳はそんなに速く情報を処理できません。
実際のBtoBのPR映像制作では、1つのカットを視聴者がしっかり認識できるようにするために、概ね6秒以上同じ場面を見せます。結果的に、1分間で伝わる情報は、雑誌のページをめくる速度と大差ないこともあるのです。情報量が多いことが、かえって理解を妨げることもあるのです。
ただしお断りしておきますが、これは現在のSNSのショート動画などに多い、BtoCの視聴者を想定したコンテンツには全くあてはまりません。
今日のテーマは、BtoBのコミュニケーションにおけるPR映像制作の話題です。BtoBの映像は1カット1カットが重要な情報ですので、「認識できる」ことが重要です。
映像の本当の価値
では、映像の価値はどこにあるのでしょうか。
これはBtocのショート動画にも共通のお話です。それは「動く画像」「ナレーション」「音楽や効果音」を組み合わせ、視聴者の感情を動かし、理解から納得へと導く力にあります。特にB2B映像では、企業が伝えたい情報を確実に届け、視聴者に行動してもらうことが目的だからです。
ここで重要になるのが「シナリオ」です。情報が多すぎて視聴者が混乱しないよう、順番やテンポ、雰囲気づくりを設計するのがシナリオの役割です。
シナリオとは何か
映像制作におけるシナリオは、企画の具体化であり、クライアントと制作チームの共通認識を作るための「設計図」です。
ナレーション欄
映像で伝えたい言葉や説明
画像欄
どの場面をどの順番で見せるか
文章だけで作られる場合もありますが、今はだいたいは絵コンテ(簡単なイラストで場面を示したもの)を組み合わせて、作成されます。
絵コンテと現場の現実
しかし、絵コンテはあくまでスタッフ向けの共有手段であり、クライアントが見ても映像の全体像や効果は完全には想像できません。撮影現場では予定通りに進まないことも多く、編集で最適な効果を作り出す作業が半分以上を占めることもあります。
つまり、映像制作の「成功」は、シナリオと絵コンテだけで決まるわけではなく、現場での柔軟な対応と演出家(ディレクター)の判断に大きく依存するのです。
時代とシナリオ
最近は、BtoBの映像制作にもドローンやタイムラプス、デジタル一眼カメラを使った「かっこいい映像」が求められることも多く、そうした「映像美優先」の場合は、必ずしもシナリオが必要ではないケースも増えています。それでも、B2B映像の基本は、やはり「シナリオによる設計」です。
結論
映像は情報量だけでは語れません。
シナリオで情報の順番やテンポを設計する
絵コンテでイメージを共有する
現場で柔軟に最適化する
この3つがそろって初めて、映像は視聴者の理解と納得を生むツールとなります。PR映像制作において、シナリオは不可欠な要素であり、その重要性を理解することが、良い映像を作る第一歩です。

企画≒シナリオ
大きなプロジェクトの場合、まず「企画」を提案、策定するところから始めますが、ビジネス映像では「○○を映像でPRする」ということで、すでに企画は決まっているとも言えるため、よほど奇抜なアイデアを求められる場合を除き、実際には企画提案=シナリオ提案となります。
プロジェクトのスタートは共通認識づくり
超短尺映像ではない(1分以上くらいから?)企業映像は、制作する映像に盛り込むコンテンツ(情報)を整理して、クライアントと共通認識を得るところから、プロジェクトは始まります。
要件を箇条書きにたものをクライアントが用意する場合もありますが、そうした場合でもまず取り掛かるのは、その共通認識を得るため「シナリオ作成」です。このシナリオがクライアントと制作会社の制作契約の前提となる、仕様書となります。IT業界風に言えば「要件定義書」です。
共通認識=シナリオ
シナリオは「画像」欄と「ナレーション」欄に分けられていて、すべて文字・文章によって作成します。
演劇の脚本とそう変わりません。
シナリオの軸=ナレーション
ビジネスに供される映像を制作するためのシナリオは、多くの場合、「ナレーション文」を作文することから始まりますが、ナレーション欄に書いた文章が最後までそのままナレーションとなるとは限りません。いくつかの文章は画像が語ることになり、ナレーション文言は不要になることも多いからです。
シナリオライターという仕事
B2B映像のシナリオライターには2つのタイプがあり、ナレーション作成と同時に画像の流れを考えていて、カット割りに近い記述を映像欄に書き込む人と、画像のことはディレクターに任せることを前提に、ざっくりと画像が捉える対象、狙いだけを書き込む人がいます。
前者は自身も演出(ディレクター)や編集を行う人の場合、後者はシナリオライターだけに徹する人である場合です。
文字シナリオだけで契約成立
以前のB2B映像、VPと呼ばれる10分以上あるような映像のシナリオの場合、前者のタイプのシナリオライター(兼ディレクター)のような人でも、(頭の中には画像ができていても)シナリオの画像欄には大雑把な項目を書くだけで、後者タイプの場合も含め、こうした「文字シナリオ」を完成させればクライアントとの企画共有作業は終了。それを基に見積もり、契約を交わして受注成立でした。
絵コンテ
しかし、今はシナリオ+絵コンテを求められます。
さらに最初のシナリオ提案の段階から画像説明欄を実際の絵にして、「絵コンテシナリオ」を求められることも増えてきました。
こうなると、シナリオライター専業という人では絵コンテを作れないので、勢いこうした絵コンテシナリオの作成はディレクターが行うようになりました。時代背景として映像が3分前後と短尺であることが当たり前になってきたこともあり、シナリオ能力(構成力)はあまり必要がなくなってきたことも手伝っているでしょう。
絵コンテで映像が想像できますか?
ただし、絵コンテシナリオから、1コマ1コマのカットの尺は読み取れませんし、カットの切り替わりの効果編集、その時の音楽、台詞、ナレーションの相乗効果がどのようにそのシーンを印象づけるかは、一般の方では想像できないのではないでしょうか。

絵コンテはスタッフのためのもの
そもそも、絵コンテというのは、実は演出家(ディレクター)がカメラマンや照明マン、ADなどのスタッフと撮影する画像のイメージを共有するための「手段」として、専門知識をもっていることを前提とした表現物です。たった1シーンでもカメラ割り、カット割りによっては、何ページも費やさないと、編集後のシーンの全体像は表現しきれません。
提出物としての「絵コンテ」は異なる
クライアントに提案する「絵コンテシナリオ」を、こうした本物の絵コンテに替えたら、たぶん「もっとコマ数減らして!」と言われるに違いありません。
それ以前の問題として、映像の流れ(カット割りや効果)が完全のわかる絵コンテを、撮影前に作成するということは、実際の撮影は完全にその通り進めることができる・・・という前提が必要となり、企業映像の撮影現場の現実(時間の制約、予定の変更に臨機応変な対応を求められる)では実現不可能なことです。全シーン絵コンテ作成というのは、数千万円、数億円の予算を掛けて撮影するCMや映画の世界の話なのです。
映像の文法・文章の文法
映像の文法は文章の文法の逆であることが多々あります。
映像はまず結論を提示して、説明に入る場合が多いです。その方が視聴者を引きつけやすいからです。
ところがシナリオの文章で読んでいくと、この逆転している感じが、むしろ論理的でないように感じて、クライアントに「ここ直してください」と言われることが、多々あります。
絵コンテシナリオでは表現できない
昨日のトピックスで「マルチな情報をうまく調和させて、雰囲気や気分、時には「意味」を醸成し、情報量が多いことが「仇」とならないように、流れの速さや順番の指定も、シナリオが行っています。」と書きましたが、実はクライアントに提出する絵コンテシナリオを読み込んでも、こうしたことがどのように設計されているかは、わからないと思います。
正直に言えば、そのシナリオはディレクターの頭の中にしか無いのです。
いいえ、もっと正直に言えば、ビジネス映像の撮影現場は、ほとんどの場合目論見通りには行きません。想定していた効果も半分くらいは使えなくなります。ですから実際に撮影できた映像を見てから最善、最適な効果を生む編集を考える部分が5割以上なのです。
だから、撮影の現場では、できるかぎりバリエーションを考えて収録しています。
されどシナリオ。
されど絵コンテ。
これだけでクライアントと認識の一致に到るには、不完全。
「クライアントと、事前に制作する映像のイメージを一致させる」
この課題は、この道35年の僕が今も毎日、思案、研究を続けているテーマです。
シナリオの無い映像づくりの時代がきた
デジタル一眼カメラのボケみ映像やアクションカメラ、ドローン、タイムラプスなど、最新の撮影技術を駆使した「かっこいい」ことを第一目的に映像制作を求められる機会も多く、そうした場合はシナリオを提出しない、できないことも多々あります。
こうした案件の進め方については、改めて書こうと思います。

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