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メディアリテラシーと認知バイアスの間で - 映像制作という仕事

更新日:10月4日

今は義務教育でもメディアリテラシー学習の時間があるそうです。しかし、その重要性を知らないうちは、あまり楽しい時間とは言えないでしょう。今回は人みなさんが日頃目にしている映像コンテンツが、いかに視聴者の裏を掻く悪辣なものかを告白します。決して楽しい話ではありませんが、メディアリテラシーについて真剣に取り組むきっかけになってもらえれば幸いです。



美しい女性
この写真の意図は?!

1. メディアリテラシーにおける「メディア」とはなにか


メディアという言葉は、現代では非常に幅広く使われるため、文脈によってその意味合いが変わることがあります。注意が必要なことは、メディアリテラシーが論じる「メディア」は、単にテレビ局やウェブサイトといった情報が流れる「場所」だけを指しているのではありません。実は、文字や映像といった「表現形式」そのものも、情報を伝えるための重要な「媒体」として捉えています。



1.1 文字は、情報を構造化し、意味を伝える媒体


文字は、私たちの思考やメッセージを視覚的に形にするための基本的な道具です。新聞記事、書籍、ウェブサイトの文章、SNSの投稿など、私たちが日々触れるあらゆるテキスト情報がこれに当たります。

ここで大切なのは、文字が単なる記号の列ではないということです。例えば、


  • フォントの選び方や文字の大きさは、情報の重要性や雰囲気を伝えます。

  • 太字や斜体は、特定の単語やフレーズを強調し、読み手の注意を引く媒体として機能します。

  • 段落の区切り方や行間は、情報の論理的な流れや階層構造を伝える媒体となります。


このように、文字は情報を載せるだけでなく、その表示方法自体がメッセージの一部となり、読み手の理解や印象に直接影響を与える「媒体」として働いているのです。文字がなければ、私たちは「文章」という形で複雑な情報を詳細に、論理的に伝えることができません。



1.2 映像は、視覚と聴覚を通じて複合的に情報を伝える媒体


映像は、動き、色彩、音、そして物語の構成を通じて、情報を多感覚に伝える効果的な手段です。テレビ番組、映画、YouTubeやショート動画などがその代表例です。

映像もまた、単なる出来事を映し出すものではなく、その「表現形式」そのものが情報を伝える媒体となります。例えば、


  • カメラが切り取るフレームは、登場人物や状況への印象を操作する媒体です。

  • カット割は、事実を再編成して作者の意図に沿った事実のような世界を描き出します。

  • 使用されるBGMや効果音、色彩のトーンは、視聴者の感情を揺さぶり、メッセージを強化する媒体として機能します。


映像は、言葉だけでは伝えきれない情報や、直感的な感情、雰囲気を伝える能力に優れています。これらの映像表現の選択が、視聴者が受け取るメッセージやその印象を大きく左右します。



1.3 文字や映像を「メディア」(媒体)として捉える理由


情報の多角的分析を促すため

メディアリテラシーでは、情報の内容だけでなく、「どのような手段(例:テレビ、SNS)で、そしてどのような表現形式(例:文字、映像)を使って情報が伝えられているか」という視点で、情報を多角的に分析する能力が求められます。


情報の操作性を見抜くため

同じ事実を伝える場合でも、文字の言い回し一つ、映像の編集方法一つで、受け手の印象は劇的に変わります。例えば、特定の言葉だけを強調したり、映像の一部を切り取ったりすることで、情報が意図的に操作される可能性があります。文字や映像を媒体として認識することで、こうした情報の操作性や偏りを見抜く力が養われます。


より深い理解へと導くため

情報を表面だけでなく、それがどのような「媒体の特性」を活かして、どのように「表現されているか」まで考察することで、送り手の意図やメッセージの真髄をより深く理解できるようになります。


このように、メディアリテラシーにおける「メディア」という概念は、情報を流通させるプラットフォームだけでなく、そのプラットフォーム上で情報が具体的にどのような「形」で表現されているか、つまり文字や映像といった「表現形式」そのものも、情報を伝える「媒体」として包含していると理解することが、その本質を捉える上で不可欠です。私たちは、コンテンツを通じて伝えられるメッセージを多角的に分析し、その背後にある意図や影響を深く考察する能力が求められているのです。




2. メディアリテラシーとは何か


社会において個人が情報とどのように向き合うべきかを包括的に示す概念であり、単なる情報の読み書き以上の多角的な能力と定義できます。具体的には、メディアリテラシーは以下の要素から構成される人間の能力です。


2.1 メディアの理解能力


メディアの多様性と特性の認識

活字、音声、映像、デジタルといった多様なメディア形態が存在すること、そしてそれぞれのメディアが持つ独自の表現方法、強み、限界を理解する能力です。例えば、テレビは視覚と聴覚に訴える力がある一方で、情報の深掘りには限界があること、SNSは速報性がある一方で情報の真偽が確認しにくいことなどを認識します。


メディアの制作意図・背景の把握

情報が誰によって、どのような目的(報道、広告、プロパガンダ、エンターテインメントなど)で、どのようなプロセスを経て制作・発信されたのかを理解する能力です。これには、メディア組織の構造や経済的基盤、所有関係、そして情報の送り手の意図を推察する視点が含まれます。


メディアが社会に与える影響の認識

メディアが個人の価値観、集団の意見形成、社会全体の動向にどのように影響を与えるかを認識する能力です。特に、情報の偏りや操作が社会に与える影響を批判的に考察する視点が含まれます。



2.2 情報の分析・評価能力


情報の正確性・信頼性の判断

提示された情報が事実に基づいているか、信頼できる情報源から得られているか、統計データが適切に用いられているかなどを多角的に検証する能力です。フェイクニュースや誤情報を見抜くための批判的思考力が中心となります。


情報の偏り・意図の識別

報道や意見の中に存在する偏向、特定の視点への誘導、感情的な操作などを識別する能力です。これには、異なる情報源を比較検討し、多角的な視点から情報を捉える視点が含まれます。


事実と意見の区別

メディアで提示される内容が客観的な事実なのか、それとも個人的な意見や解釈なのかを明確に区別する能力です。



2.3 情報の発信・表現能力


適切な情報発信の実践

自身が情報を発信する際に、その情報が他者に与える影響を考慮し、正確性、公平性、倫理性を意識して表現する能力です。これには、プライバシー保護や著作権の尊重、差別的な表現の回避などが含まれます。


多様な表現手法の活用

目的や対象に応じて、最適なメディア形式や表現手法を選択し、効果的にメッセージを伝える能力です。


メディアリテラシーとは、単に情報を「受け取る」だけでなく、情報を「分析し」「評価し」、さらには自ら「発信する」ことまで含めた、情報社会を主体的に生き抜くための総合的な能力です。これは、複雑化・多様化する情報環境の中で、個人が健全な判断を下し、社会と円滑に関わるための基盤となるものです。



3. メディアリテラシーが必要なコミュニケーション媒体


「メディアリテラシー」が求められるメディアには以下のようなものが挙げられます。


3.1 伝統的メディア


テレビ (地上波、BS/CS)

ニュース番組、報道ドキュメンタリー、ドラマ、バラエティ番組、CMなど、幅広い情報とエンターテインメントを提供します。情報の信頼性、偏向報道、表現の意図などを読み解くリテラシーが必要です。


ラジオ (AM/FM)

ニュース、音楽、トーク番組など、音声による情報伝達媒体です。パーソナリティの発言の意図、情報の正確性などを判断するリテラシーが求められます。


新聞 (一般紙、専門紙、地方紙)

社会情勢、経済、文化など、活字による詳細な情報を提供します。記事の論調、情報源の信頼性、事実と意見の区別などを理解するリテラシーが重要です。


雑誌 (総合誌、専門誌、週刊誌など)

特定のテーマについて深く掘り下げた情報やエンターテインメントを提供します。記事の専門性、広告との区別、雑誌の論調などを理解するリテラシーが必要です。


書籍 (小説、ノンフィクション、専門書など)

知識や物語を提供する媒体です。著者の意図、情報の正確性、多様な視点の理解などが求められます。



3.2 デジタルメディア


インターネットニュースサイト・アプリ

速報性のあるニュースをリアルタイムで提供します。情報の速さと信頼性のバランス、フェイクニュースの見分け方、運営主体の意図などを理解するリテラシーが必要です。


ソーシャルメディア (SNS) (例: Twitter, Facebook, Instagram, TikTok, LINEなど)

個人や企業が情報発信やコミュニケーションを行うプラットフォームです。情報の拡散力、匿名性、感情的な表現、アルゴリズムによる情報フィルタリングなどを理解し、批判的に利用するリテラシーが不可欠です。


動画共有サイト・アプリ (例: YouTube, Vimeoなど)

個人や企業が制作した様々なジャンルの動画コンテンツを視聴できます。制作者の意図、情報の正確性、広告との区別、コメント欄の情報の信頼性などを判断するリテラシーが必要です。


ブログ、個人ウェブサイト

個人の意見や専門知識を発信する媒体です。情報の独自性、信頼性、筆者の立場などを考慮するリテラシーが求められます。


オンライン百科事典 (例: Wikipediaなど)

多くの人が編集に関わる情報源です。情報の網羅性、客観性、情報源の確認を行うリテラシーが必要です。


ポッドキャスト、音声配信サービス

音声による情報やエンターテインメントを提供する媒体です。配信者の意図、情報の正確性、多様な意見の理解などが求められます。


オンライン広告 (ウェブ広告、SNS広告、動画広告など)

企業が製品やサービスを宣伝する媒体です。広告の目的、ターゲティングの仕組み、誇大広告の見分け方などを理解するリテラシーが必要です。


ゲーム (オンラインゲーム、ソーシャルゲームなど)

エンターテインメントを提供するだけでなく、コミュニケーションの場や情報発信の媒体となることがあります。ゲーム内の情報、他のプレイヤーとのコミュニケーションにおけるリテラシーが求められます。


メタバース、仮想空間

アバターを通じて他者と交流したり、情報を得たりする場です。仮想空間内でのコミュニケーション、情報の信頼性、プライバシー保護などに関するリテラシーが重要になります。



3.3 その他広義のメディア


映画

物語やメッセージを映像で伝える媒体です。監督や製作者の意図、表現方法、社会的影響などを読み解くリテラシーが必要です。


音楽 (楽曲、ミュージックビデオなど)

感情やメッセージを音や映像で伝える媒体です。歌詞の内容、表現方法、社会的背景などを理解するリテラシーが求められます。


広告 (テレビCM、ラジオCM、新聞広告、雑誌広告、屋外広告、交通広告など)

企業が製品やサービスを宣伝する媒体です。広告の目的、表現手法、ターゲット層などを理解し、批判的に受け止めるリテラシーが必要です。


パンフレット、チラシ

特定の情報やイベントを告知する媒体です。情報の正確性、発行元の信頼性などを確認するリテラシーが必要です。


口コミ、レビューサイト

商品やサービスに関する個人の意見を集めた媒体です。情報の主観性、信頼性、偏りなどを考慮するリテラシーが必要です。


これらの「メディア」は相互に影響し合い、情報の伝達や人々の認識形成に大きな役割を果たしています。そのため、現代社会においては、これらの多様なメディアに対して批判的に向き合い、情報を適切に取捨選択し、活用する「メディアリテラシー」が不可欠です。



4. メディアリテラシーの核心は人間の認知バイアスを理解すること


極言すると、メディアリテラシーを会得するための学習は、自分自身がもつ認知バイアスを把握する作業に他なりません。そのことを理解いただくために、好材料があります。それは、私たちPR映像制作者がどのようにシナリオを書き、映像を制作しているのか。そのプロセスを知ることです。


4.1 映像制作におけるシナリオと認知バイアスの深層解析


多様な映像コンテンツ、コマーシャル、企業VP、ウェブ動画など、これらの映像は人間の認知プロセスを意図的に設計する、心理操作の仕掛けとしての側面を持っています。


4.1.1 認知バイアスの三層構造とその機能


認知バイアスは3つの階層で機能します。シナリオは、これらすべての階層に同時に働きかけることで、その影響力を発揮します。


  1. 知覚レベル: 情報の受け取り方に影響を及ぼします。

  2. 処理レベル: 受け取った情報の解釈や統合に影響を及ぼします。

  3. 判断レベル: 意思決定や行動選択に影響を及ぼします。



4.1.2 シナリオにおける認知バイアス活用法


映像制作におけるシナリオでは、以下のように認知バイアスを活用します。


a. 時間軸操作による認知バイアス活用

時間割引バイアス(現在バイアス)

未来の利益よりも現在の利益を過大評価する人間の傾向を利用します。「今すぐ」「限定」「期間限定」といった緊急性の演出は、このバイアスを効果的に活用する典型例です。また、フラッシュバック技法を用いて過去の成功体験を現在に重ね合わせることで、視聴者に即時的な価値を訴求することが可能です。


時系列効果の操作

情報提示の順序が印象に与える影響を活用します。


初頭効果

最初の情報が強く記憶に残る特性を利用し、冒頭で強いインパクトを与え、視聴者の関心を惹きつけます。


最新効果

最後の情報が記憶に残りやすい特性を利用し、エンディングで明確なアクションを促します。


順序効果

情報提示の順序により印象が変わる特性を利用し、シナリオ全体の構成を戦略的に設計します。



b. 感情的認知バイアスの深層活用

感情伝染効果

登場人物の感情が視聴者に「伝染」する現象を利用します。感情の強度とタイミングを計算した演出設計は、音楽、色彩、リズムとの連動により、感情の増幅を図ります。


感情の誤帰属

現在の感情状態を特定の対象に結び付ける傾向を利用します。心地よい背景音楽や映像美を用いることで、製品やサービスへの好感度を向上させたり、緊張感のある演出により、問題解決への渇望を増大させたりすることが可能です。


ムード一致効果

現在の感情状態と一致する情報を重視する傾向を活用します。視聴者の心理状態に合わせたトーンの調整や、段階的な感情変化による共感の深化を図ります。



c. 社会的認知バイアスの戦略的活用

社会的証明の多層化

人が他者の行動を参考に意思決定する傾向を利用します。


・数値的証明

「○○万人が選択」といった具体的な数字。


・質的証明

「業界リーダーが採用」といった権威付け。


・感情的証明

「満足の声」といった体験談。


・行動的証明

「実際の利用シーン」といった視覚的証拠。

これらの多角的な証明を提示することで、信頼性と説得力を高めます。


内集団バイアス

視聴者が所属する集団との同一化を促進します。業界特有の言葉遣いや価値観の共有、共通の課題や目標を持つコミュニティの形成感を演出することで、視聴者との結びつきを強化します。


権威の段階的構築

専門家や有識者の意見を重視する傾向を利用します。


・専門性

技術的な知識やスキルに基づく権威。


・経験値

実績や歴史に基づく権威。


・社会的地位

組織的または社会的な立場に基づく権威。

信頼性: 人格や誠実さに基づく権威。



4.1.3 深層心理バイアスの活用


シナリオでは、無意識レベルでの認知操作も重要な要素となります。


a. 無意識レベルでの認知操作

プライミング効果の活用

無意識レベルで特定の概念を活性化させます。色彩、音響、視覚的シンボルによる暗示は、視聴者の潜在的な欲求や不安を喚起し、その後の情報解釈に影響を与えます。


アンカリング効果の高度活用

最初に提示する情報(アンカー)が後の判断に影響を与える現象を利用します。価格設定、性能比較、期待値設定における戦略的なアンカー提示、あるいは複数のアンカーによる判断範囲の操作を行います。


利用可能性カスケード

情報の反復により、その情報の重要性が過大評価される現象を利用します。キーメッセージの戦略的反復や、異なる文脈での同一メッセージの再提示を通じて、情報の定着と重要性の認識を促進します。



b. 認知的負荷の管理

認知負荷理論の応用

人間の情報処理能力の限界を考慮した情報設計を行います。複雑な情報を段階的に提示する構成や、視覚的・聴覚的情報の最適配分により、視聴者の理解を促進します。


処理流暢性効果

理解しやすい情報は真実と判断されやすい特性を利用します。シンプルな表現による信頼性向上や、視覚的・聴覚的な流暢性の設計により、情報の受け入れやすさを高めます。




4.2 分析・ショート動画が利用している認知バイアス


ショート動画は、その短い尺と無限スクロールという特性から、視聴者の特定の認知バイアスを極めて巧みに利用しています。


4.2.1 ショート動画が利用する主な認知バイアス


現在バイアス(時間割引バイアス)

ショート動画は、数秒から数十秒という極めて短い時間で完結するため、未来のより大きな情報や深い理解よりも、「今すぐ」得られる即座のエンターテインメントや情報を過剰に評価する人間の傾向を最大限に利用しています。長尺の動画では得られない「すぐに満足したい」という欲求に応え、次の動画へスワイプするたびに小さな報酬(ドーパミン)を提供することで、視聴を継続させます。



注意散漫バイアス(注意持続時間の短縮)

現代人は情報過多の環境にあり、集中力が持続しにくい傾向があります。ショート動画は、この短い注意持続時間に合わせてコンテンツが設計されています。冒頭の1〜3秒で視聴者の興味を掴む「フック」が必須とされており、これにより視聴者が無意識に次の動画へスワイプする指を止めさせます。視覚的なインパクト、急な展開、予測不能な要素などが用いられ、常に新しい刺激を提供し続けます。



利用可能性ヒューリスティック/カスケード

簡単に思いつく情報や、繰り返し見聞きする情報ほど重要である、あるいは真実であると判断しやすい傾向を利用しています。ショート動画では、特定のBGM、ダンス、ミーム、チャレンジなどが繰り返し拡散されることで、それらの情報やトレンドが非常に重要であるかのように感じさせます。これにより、視聴者は「みんなが見ているから自分も見なければ」「流行に乗らなければ」といった心理状態になりやすいです。



バンドワゴン効果(同調バイアス)

「多くの人が支持しているものは良いものだ」「流行しているものには乗っておきたい」という心理を利用します。ショート動画では、再生回数や「いいね」の数、コメントの多さが視覚的に表示されるため、人気のある動画を無意識のうちに優先して視聴する傾向が強まります。特に若年層においては、「みんながやっているから」という理由で、特定のダンスやチャレンジに参加する動機にもつながります。



新奇性バイアス

人間は、新しい情報や刺激に強く惹かれる性質を持っています。ショート動画のプラットフォームでは、アルゴリズムによって常にパーソナライズされた「新しい」コンテンツが次々と提示されます。これにより、視聴者は「次は何が来るだろう?」という好奇心を刺激され続け、無限スクロールを続けてしまいます。



感情伝染効果

短い時間の中に感情の起伏を凝縮し、視聴者の感情を揺さぶることで、強い印象を与えます。特に、共感や笑い、驚き、感動といった感情を素早く引き出すコンテンツが多く見られます。感情的なコンテンツは記憶に残りやすく、シェアされやすいため、バイラル(拡散)に繋がりやすい特性があります。



処理流暢性効果

理解しやすい情報は、真実である、あるいは信頼できると判断されやすい傾向です。ショート動画は、簡潔な表現、分かりやすいビジュアル、テンポの良い編集により、情報処理の負担を極力減らしています。複雑な思考を必要としないため、視聴者は「ながら見」でも内容を理解しやすく、スムーズな視聴体験が提供されます。



限定性バイアス/希少性バイアス

「今しか見られない」「この瞬間にしか存在しない」といった限定感を演出することで、視聴者の行動を促します。ライブ配信の切り抜きや、期間限定のチャレンジ、一瞬のハプニングなどを強調することで、見逃したくないという心理に働きかけます。



4.2.2 シナリオにおける具体的な活用例


冒頭のフック

最初の数秒でインパクトのある映像、問いかけ、または予期せぬ展開を提示し、注意散漫バイアスを回避し、視聴者の指を止めさせます。


高速な展開

カットの切り替えを速くし、情報量を詰め込むことで、視聴者の飽きを防ぎ、現在バイアスを満たします。


流行のBGMや視覚効果を多用し、感情伝染効果や新奇性バイアスを刺激し、動画の魅力を高めます。


短いテロップと字幕

処理流暢性を高め、音が出せない環境でも内容が理解できるように配慮し、認知負荷を軽減します。


チャレンジやミーム

バンドワゴン効果を利用し、視聴者が参加したくなるような共通の体験や流行を創出し、コミュニティ感を醸成します。


ループ構造

動画の終わりと始まりが自然につながるように編集することで、次の動画へ移行する際の摩擦を減らし、無限スクロールを促進します。


ショート動画は、これらの認知バイアスを複合的に、かつ無意識レベルに訴えかける形で活用することで、短時間で強烈な印象を与え、視聴者のエンゲージメントを持続させることに成功しています。


5. 無意識に働く認知バイアスと、意識的な視聴の重要性


メディアリテラシーが「メディア」という広範な概念を理解し、情報を分析・評価し、さらには適切に発信するための総合的な能力であること、そして文字や映像といった表現形式そのものが情報を伝える「媒体」として機能することを説明してきました。

そして、映像コンテンツの作られ方を一例に、皆さんが日ごろ目にしているあらゆるメディアコンテンツが、人間の認知バイアスという思考のクセを巧みに利用して作られていることをお伝えしました。


実は、この認知バイアスが私たちの脳内で無意識のうちに働くのと同様に、私たちPR映像の制作者も、そして日常的にショート動画を投稿している多くのクリエイターも、往々にして無意識のうちにこれらの認知バイアスを利用してコンテンツを制作していると言えます。



5.1 制作者の「無意識」と視聴者の「意識」の重要性


私たち制作者は、常に「どうすればこのメッセージが伝わるか」「どうすれば視聴者に響くか」と考えながら、シナリオを書き、映像を構成します。その過程で、過去の成功事例や直感、そして流行している表現方法を無意識のうちに取り入れることが多々あります。そこに組み込まれているのが、まさに認知バイアスを利用した心理的な仕掛けです。必ずしも悪意があるわけではなく、むしろ「効果的に伝えるため」という純粋な意図から、これらのバイアスが自然とシナリオに組み込まれていくのです。


だからこそ、メディアに触れる視聴者の皆さんが、常に意識的な視聴を心がけることが極めて重要になります。私たちが映像制作のプロセス、特にシナリオがどのようにして作られているかというその「設計図」の存在を知ることは、単に舞台裏を覗き見るだけでなく、皆さんが受け取る情報の質を大きく左右するからです。



  • 「みんなが使っている」と感じるのは、巧妙な社会的証明やバンドワゴン効果の演出があるためかもしれません。

  • カット割りの多さやテンポの速さは、単にスタイリッシュなだけでなく、認知負荷を調整し、処理流暢性を高める意図があるのです。

  • 権威のある専門家や有名人が製品を推薦していると、信頼性が高く感じるのは、権威バイアスが作用しているからです。

  • 「今週だけの特別企画」や「残りわずか!」といった表現を見ると、急いで行動しようと思うのは、希少性バイアスや限定性バイアスが働いているからです。

  • 視聴者自身が抱える悩みや問題を具体的に提示され、「まさしく自分のことだ」と感じる場面では、確証バイアスや自己奉仕バイアスが働いている可能性があります。


これらの仕掛けは、私たちが意識的に分析しない限り、無意識のうちに私たち自身の感情や判断、行動に影響を与え続けます。



5.2 意識的な視聴が培うメディアリテラシー


映像制作のプロセス、特にシナリオがどのようにして認知バイアスを組み込んでいるかを意識することは、皆さんがメディアリテラシーを深めるための最も実践的な訓練となります。

「この映像は、どんな感情を呼び起こそうとしているのだろう?」「なぜこの部分が強調されているのだろう?」「この情報は、どんなフィルターを通して伝えられているのだろう?」といった問いを常に持ち、送り手の意図や使われている表現形式(文字や映像の操作性)を意識的に分析する習慣をつけることで、皆さんは情報の真偽や偏りを見抜き、フェイクニュースや誤情報に惑わされることなく、より健全な判断を下せるようになるでしょう

無意識に情報を受け取るのではなく、意識的に情報を「読み解く」。この能動的な姿勢こそが、情報過多の現代において、私たち一人ひとりが賢く、主体的に社会と関わっていくための真のメディアリテラシーを獲得するために大切です。

もちろん社会で起こっていること理解するための情報を更新し続けることも大切です。


【執筆者プロフィール】

株式会社SynApps 代表取締役/プロデューサー。名古屋を中心に、地域企業や団体のBtoB分野の映像制作を専門とする。プロデューサー/シナリオライターとして35年、ディレクター/エディターとして20年の実績を持つ。

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