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名古屋の映像制作者が知っておくべき東海地方における工作機械メーカーの現況、課題、展望


工作機械は、なんとしても重量があり大型なものが多いため、セールスマンが持って歩くことができません。しかし、稼働して工作している様子を見せなくては、製品の特長が説明できません。そこで、VHSビデオが普及し始めた頃から、映像によるプロモーションが盛んに行われてきました。現在では内製で撮影、編集、さらには3DCGを制作する工作機械メーカーも数多くあります。しかし、今でも私たち映像制作会社のチカラも見せ所であることには変わりがありません。



1. はじめに


東海地方は、日本の製造業の中核を担う地域であり、特に自動車産業を筆頭とする基幹産業の集積地として知られています。この地域の「モノづくり」を根底から支える工作機械産業は、その中核を形成しています。東海地方には、旋盤、マシニングセンタ、研削盤、複合加工機、自動旋盤など、多岐にわたる種類の工作機械を製造する企業が本社を構えており、その中には国内外で高い評価を得ている大手企業から、特定のニッチ分野で卓越した技術力を持つ企業まで、多様なプレイヤーが存在します 1


東海地方の工作機械メーカーの動向は、日本の製造業全体の健全性を示す指標であり、グローバルサプライチェーンにも大きな影響を及ぼします。特に、この地域が自動車産業と密接な関係にあることは、その特性を決定づける重要な要素です。現在進行中の電気自動車(EV)へのシフトは、自動車部品の製造プロセスに根本的な変革をもたらし、工作機械の需要構造に大きな変化を引き起こすと予測されています 7。この変革は、東海地方の工作機械メーカーにとって特に重要な課題であり、その対応が今後の成長軌道を左右すると考えられます。

東海地方の主要工作機械メーカーの現況


2. 東海地方の主要工作機械メーカーの現況



主要企業の概要と事業内容


東海地方は、工作機械製造において国内外で高い評価を得ている企業が多数存在する地域です。これらの企業は、日本の製造業の多様なニーズに応え、その発展を支えています。


オークマ株式会社(愛知県丹羽郡大口町)

1918年設立のオークマは、NC旋盤、マシニングセンタ、複合加工機、NC研削盤などを製造・販売する東証プライム上場企業です 1。同社は特にNC工作機械、NC装置、FA製品、サーボモータを手掛け、船舶や航空機などの大型部品生産向けに強みを持っています 9。


ヤマザキマザック株式会社(愛知県丹羽郡大口町)

1919年設立のヤマザキマザックは、マルチタスキングマシン、CNC旋盤、CNC装置、レーザ加工機などを製造しています 1。同社は未上場企業でありながら、複合加工機で最大級の市場シェアを誇り、他のメーカーが海外に事業展開する以前からシンガポールやイギリス、中国などの国々に目をつけ、早期に海外市場への拡大を成功させてきました 10。この柔軟な経営判断は、短期的な株主からの圧力を受けずに、より大胆な投資や戦略を実行できる未上場企業ならではの利点であり、同社の競争優位性の源泉となっています。現在、各種工作機械の製造・販売に加え、AIやIoTなどの先進技術を導入した製造業のDX化や、スマートファクトリー構築にも注力しています 10。


ブラザー工業株式会社(愛知県名古屋市瑞穂区)

1934年設立のブラザー工業は、プリンターや家庭用ミシンが主力事業ですが、工作機械事業も展開しています 1。東証プライム上場企業です 。同社の工作機械は「SPEEDIO」シリーズが主力であり、EV関連部品加工にも対応可能な汎用性の高さが特徴とされています 12。


株式会社ジェイテクト(愛知県刈谷市)

2006年設立のジェイテクトは、自動車部品(ステアリングシステム、軸受)が主力事業ですが、工作機械も製造しています 3。東証プライム上場企業として、研削盤、マシニングセンタ、ギアスカイビングセンタなど幅広い工作機械を提供し、自動車部品製造で培った高精度な技術を応用しています 15。


株式会社和井田製作所(岐阜県高山市)

1946年設立の和井田製作所は、プロファイル研削盤、超精密平面研削盤、全自動インサート研削盤など各種工作機械や測定機器を製造・販売しています 4。東証スタンダード上場企業です 。特に高精度研削盤に強みを持ち、ナノ・マイクロレベルでの加工精度を実現していることが同社の技術的特徴です 17。


株式会社安永(三重県伊賀市)

1949年設立の安永は、自動車エンジン部品の他、トランスファーマシン、NC工作機械などの機械装置を製造・販売しています 5。東証スタンダード上場企業です 。同社はワイヤソー、検査測定装置、組立設備も手掛け、部品事業、機械装置事業、環境機器事業の多角化を進めている点が特徴です 19。


スター精密株式会社(静岡県静岡市駿河区)

1950年設立のスター精密は、小型プリンターやカードリーダーライターの他、CNC自動旋盤を製造・販売しています 6。スイス型自動旋盤で世界トップシェアを誇り、高精度な小型精密部品加工に強みを持っています 10。東証プライム上場企業です 。


エンシュウ株式会社(静岡県浜松市)

1920年設立のエンシュウは、システム機、立形・横形マシニングセンタなどの汎用機の製造・販売を行い、オートバイエンジン部品なども手掛けています 6。東証スタンダード上場企業であり、自社製工作機械を生産設備ラインとして活用する独自のビジネスモデルを展開している点が特徴です 24。


東海地方の工作機械メーカーは、NC旋盤、マシニングセンタ、研削盤、複合加工機、自動旋盤など、多岐にわたる種類の工作機械を製造しており、その顧客基盤は自動車産業に留まらず、航空機、半導体、医療機器など幅広い産業に貢献しています。




3. 工作機械業界全体の動向と東海地方への影響



国内工作機械受注額の推移と内訳


2024年の日本の工作機械受注額は1兆4,851億円に達し、前年比で0.1%減と2年連続の減少となりました。しかし、この水準は過去8番目に高い受注額であり、市場が依然として高い活動レベルにあることを示唆しています 32。受注額全体に占めるNC工作機械の比率は98.4%と、9年連続で98%を超えており、工作機械の高機能化・自動化へのシフトが顕著に進んでいることが明らかです 32


国内需要の動向を見ると、2024年の内需は4,415億円で、前年比7.4%減と2年連続の減少を記録しました 32。特に、EV関連投資や半導体関連投資の本格的な回復が期待されたものの、それが実現せず、調整局面が2024年を通して継続する形となりました 32。業種別に見ると、一般機械(-11.1%)と自動車(-9.5%)が大きく減少しており、これは東海地方の主要産業である自動車関連の設備投資が国内で伸び悩んでいることを直接的に示唆しています 32。東海地方の工作機械メーカーは、国内の自動車産業への依存度が高いため、国内自動車産業のEVシフト投資の遅れが、国内受注の伸び悩みという形で直接的な影響を及ぼしていると理解できます。


一方で、外需は1兆436億円に達し、前年比3.4%増と2年ぶりに増加しました 32。外需比率は70.3%と、暦年実績として初めて70%を超え、日本の工作機械産業が海外市場、特にアジア市場に大きく依存している構造が鮮明になっています 32。アジア地域は前年比21.0%増と大きく伸び、特に中国(+23.0%)とインド(+25.6%)が好調でした 32。中国では、経済の不安定性への懸念がある中で、補助金政策やEV関連、IT関連の大口受注が回復を牽引しました 32。これは、国内の自動車産業向け受注が減少している一方で、中国ではEV関連の大口受注が増加しているという事実が、東海地方のメーカーが国内市場の停滞を補うために、より積極的に中国市場のEV関連需要を取り込む必要があるという因果関係を示唆しています。北米は堅調さを維持しつつも微減(-4.5%)となり、欧州は大幅な減少(-19.1%)となりました 33


この状況は、日本の工作機械産業が国内需要の低迷を海外、特にアジア市場の好調な外需で補っている構造が鮮明になっていることを示しています。これは、国内の自動車産業のEVシフト投資の遅れや半導体関連投資の調整が影響している可能性が高いです。そのため、東海地方の工作機械メーカーにとっては、海外市場、特にEV関連投資が活発な中国やIT関連投資が拡大するインドへの戦略的なシフトが喫緊の課題となっています。この市場の地理的・技術的再構築は、事業ポートフォリオの再編を促すものです。


EV化の進展が工作機械業界に与える影響


電気自動車(EV)化の進展は、工作機械業界にとって長期的に見て大きな影響をもたらす「創造的破壊」のプロセスです 8。これは、従来の主力製品であった内燃機関部品向けの需要減少と、EV基幹部品や軽量化素材向けの新たな高精度・複合加工需要の創出という二面性を持っています。


内燃機関車とEVを比較すると、自動車1台あたりの工作機械使用額は、ガソリン車の約15,000円からEVの約8,000円へと約45%減少すると予測されています 7。エンジンやエンジン部品、トランスミッションなど、内燃機関関連部品はEVではほぼ100%不要となるため、これらの加工に特化していたメーカーには大きな影響があります 7。東海地方のメーカーは、自動車産業との強い結びつきから、このEVシフトの影響を最も直接的に受ける地域です。


しかし、EV化は同時に新たな工作機械の需要を生み出します。EVの主要部品であるバッテリー、モーター、インバーターの製造には、新たな工作機械需要が生まれると予測されています 8。例えば、バッテリーケース製造には大型の金型が必要となり、モーターコア製造には高精度な金型やプレス機、ワイヤ放電加工機が必要となります 8。また、インバーターのSiCパワーデバイス化に伴い、難削材加工(研削加工など)の需要が増加します 8。車両軽量化のためのマルチマテリアル化(高張力鋼、アルミニウム、CFRPなど)も進んでおり、これに対応する新たな加工方法や工作機械の需要が生まれます 8。さらに、EVの静粛性向上に伴い、高精度なギア(EV用減速機)やギアスカイビング加工の需要が増加すると見られています 8


EV部品は多品種少量生産が増えると予想されており、1台で複数の工程を集約できる5軸複合加工機が特に有効となります 7。EV化が多品種少量生産を促進し、5軸複合加工機が有効であるという事実は、技術革新の方向性が市場のニーズと直結していることを示しています。


高精度加工や複合加工に強みを持つ企業(オークマ、ヤマザキマザック、スター精密、和井田製作所など)は、EVの基幹部品製造における新たな高付加価値需要を取り込む大きな機会を秘めています。内燃機関部品からの脱却と、バッテリー、モーター、インバーター、軽量化素材といった新領域への技術・製品ポートフォリオの転換が、喫緊の課題であると同時に、東海地方のメーカーにとっての大きな成長機会となります。


スマートファクトリー、AI、IoTの導入動向


工作機械業界では、生産性向上、省人化、品質管理のためにITやIoT技術を活用したDX推進、スマートファクトリー構築が加速しています 10。これは、単なる自動化を超え、データ駆動型の生産最適化と効率向上を目指すものであり、AIとIoTはその中核技術として不可欠です。


IoTの導入により、センサーやIoT技術を活用した稼働状況のリアルタイム監視、生産データの収集と解析による効率向上、異常検知、予知保全、生産プロセスの最適化が実現されます 34。CNCマシンやロボットアーム、コンベアへのIoT導入により、遠隔監視、故障予測、生産性・品質向上、ムダ削減が可能となります 36。AIは、IoTセンサーで得た環境データを分析し、自律型工場を実現する事例も存在し、生産プロセスの最適化や予知保全において重要な役割を担います 34


複数の加工工程を一台の機械で完結させる複合加工技術は、設備投資と生産スペースの削減に貢献し、多品種少量生産に適しています 7。また、高速・大容量、低遅延、多数同時接続が可能な5Gは、機械の遠隔制御、高速データ転送、センサーによる生産データ高精度検出を可能にし、スマートファクトリー化を後押しする重要なインフラとなります 10


国内需要が伸び悩む中、生産性向上とコスト削減は喫緊の課題であり、スマートファクトリー化は競争力維持・強化のための不可欠な戦略となっています。東海地方のメーカーもこの流れに積極的に対応しており(ヤマザキマザック、オークマ、ブラザー工業、ジェイテクトなど)、これが国内製造業全体のDXを牽引する可能性を秘めています。国内需要の減少は、メーカーが生産効率を向上させる必要性を高めています。スマートファクトリー、AI、IoTの導入は、この課題に対する直接的な解決策であり、東海地方の主要メーカーがこれらの技術に注力しているのは、市場の要求に応えるためという明確な因果関係が見て取れます。これにより、生産現場の効率化だけでなく、新たなソリューションビジネスの創出にも繋がることが期待されます。



4. 東海地方の工作機械メーカーが直面する課題



EVシフトによる事業構造転換の必要性


自動車産業が最大の顧客層である東海地方の工作機械メーカーにとって、EV化は内燃機関部品向けの工作機械需要の減少を意味します 7。これは、従来の主力製品や技術ポートフォリオの大幅な見直しを迫る構造的な課題です。EV化は単なる需要の変化ではなく、工作機械メーカーの技術的専門性、製品ポートフォリオ、顧客基盤、そしてサプライチェーン全体にわたる根本的な事業構造の再構築を要求する、業界のパラダイムシフトです。


EV関連の新たな部品(バッテリー、モーター、インバーター)の製造には、これまでとは異なる高精度加工や新素材加工技術が求められるため、技術開発と設備投資の再配分が不可欠となります 8。自動車産業が集中する東海地方のメーカーは、EVシフトの恩恵を最も受けやすい一方で、その影響を最も深刻に受けるリスクも抱えています。EV化による需要構造の変化は、東海地方のメーカーにとって、従来の強みが弱みになりうるというジレンマを生じさせます。このリスクを機会に変えるためには、迅速かつ大胆な戦略転換が求められます。この課題を乗り越えるには、既存事業の縮小や転換、そして新たな技術領域への積極的な投資という、痛みを伴う構造改革が必要となるという因果関係が導き出されます。この転換の速度と深度が、今後の企業の存続と成長を左右するでしょう。


国内需要の伸び悩みと海外市場への依存度


2024年の国内工作機械受注額は2年連続で減少しており、特に自動車や一般機械分野での回復が遅れています 32。これは、国内市場の成長が鈍化していることを明確に示しています。国内市場の成熟とEVシフトによる需要構造の変化が、海外市場への依存を加速させています。


一方で、外需が総受注額の70%以上を占め、特にアジア市場が牽引していることから 32、海外市場への依存度が高まっています。これは新たな成長機会であると同時に、地政学リスクや為替変動など、海外市場特有のリスクに晒される度合いが増していることを意味します。東海地方のメーカーは、国内の基盤を維持しつつ、成長市場であるアジア、特にEV投資が活発な中国でのプレゼンスを強化する必要に迫られています。国内需要の減少と海外需要の増加というトレンドは、東海地方のメーカーが国内市場の限界に直面し、成長を海外に求める必要性を示しています。特に中国のEV関連需要の増加は、この戦略的シフトの方向性を明確にしていますが、同時に、海外市場での競争激化やカントリーリスクへの対応が、新たな経営課題として浮上します。


労働力不足と熟練技術の継承問題


工作機械の操作やCAMソフトウェアを扱える人材の需要は継続的に増加していますが 10、日本では少子高齢化による労働力人口の減少、特に熟練技術者の引退が深刻化しており、技術継承が喫緊の課題となっています。労働力不足は、工作機械業界の生産能力と技術革新の足かせとなる構造的な問題であり、企業の持続可能性に直接影響を与えます。


自動化・省人化への投資は進むものの、高額な初期投資が中小企業にとっては導入のハードルとなります 10。スマートファクトリー化やAI/IoTの導入は、この労働力不足と技術継承問題に対する解決策の一つとして期待されますが、同時に、これらの新技術を使いこなせる新たなスキルセットを持つ人材の育成が不可欠となります。熟練技術者のノウハウをデジタル化・形式知化する取り組みも、次の課題として浮上しています。


DX推進、スマートファクトリー構築への高額な初期投資と技術的ハードル


ITやIoTの導入によるDX推進、スマートファクトリー構築は生産性向上に不可欠ですが、高額な初期投資が必要であり、特に中小企業にとっては導入の障壁となります 10。また、ITシステムへの不慣れや、データ活用・解析のノウハウ不足も技術的ハードルとなります 10。DXとスマートファクトリーは競争力強化の鍵ですが、その導入には資金力と技術的知見の両方が求められ、企業間のデジタル格差を拡大させる可能性があります。


大手企業は自社のスマートファクトリー(例:オークマのDream Site 38、ヤマザキマザックのiSMART Factory™ 40)を構築し、そこで培ったノウハウをソリューションとして提供することで、中小企業への普及を促し、業界全体の底上げを図る戦略が考えられます。大手企業が自社工場でAI/IoTを活用したスマートファクトリーを推進しているという事実は、彼らがDXの技術的ハードルを乗り越え、それを競争優位性に変えていることを示しています。同時に、中小企業が直面する高額な初期投資という課題に対し、大手企業がソリューション提供者となることで、業界全体のエコシステムが形成され、ひいてはサプライチェーン全体の生産性向上に貢献するという、より広範な影響が期待されます。


グローバル競争の激化


工作機械業界は世界的な競争が激しく、特に中国市場では現地のメーカーや他国のメーカーとの競争が激化しています 8。DMG森精機のような海外企業との提携も進んでおり、グローバルな視点での競争力強化が求められます 10。国内市場の縮小と海外市場への依存度増加は、工作機械メーカーをより一層グローバル競争の最前線に押し出しています。


外需が総受注額の70%を超え、特にアジアが牽引しているというデータは、グローバル競争が避けられない現実であることを示しています 32。中国市場でのEV関連の大型受注は機会であると同時に、中国メーカーや他のグローバルプレイヤーとの競争激化を意味します。このため、東海地方のメーカーは、技術力や品質の高さに加え、コスト競争力、アフターサービス体制、そして現地のニーズに合わせた製品開発といった点で、グローバル市場での差別化戦略を強化する必要があります。単に製品を輸出するだけでなく、現地でのサービス体制強化や、現地のサプライチェーンへの組み込みといった、より深いグローバル戦略が求められます。



5. 今後の展望と各社の戦略



技術革新と製品開発の方向性


工作機械業界の今後の展望は、技術革新と製品開発の方向性に大きく左右されます。特に、EV化の進展や高機能部品の需要増に対応するため、工作機械はより高精度化、多機能化、そして新素材対応へと進化することが不可欠です。


  • 高精度加工、複合加工、アディティブマニュファクチャリング(AM)の進化EVの基幹部品や航空機部品など、高精度が求められる分野での需要増に対応するため、ナノ・マイクロレベルでの加工精度を追求する動きが加速しています 17。和井田製作所の高精度研削盤技術はその代表例です 17。複数の加工工程を1台の機械で完結させる複合加工機の開発は、設備投資と生産スペースの削減、リードタイム短縮に貢献します 10。ヤマザキマザックはAM(アディティブマニュファクチャリング)技術を複合加工機に統合し、異なる材料の積層を可能にするなど、製造プロセスを革新しています 40。EV化が多品種少量生産を促進し、5軸複合加工機が有効であるという事実と、複合加工技術が設備投資と生産スペース削減に貢献するという事実は、技術革新の方向性が市場のニーズと直結していることを示しています。AM技術の導入は、さらに複雑な部品製造や試作の効率化に寄与し、製品開発サイクルを加速させることが期待されます。


  • AI、IoT、5Gを活用した自動化ソリューションの強化リアルタイム監視、データ収集・解析による生産効率向上、異常検知、予知保全、生産プロセスの最適化が、AI、IoT、5Gの活用によって実現されます 34。AI/IoT/5Gは、工作機械を単なる加工機から、自律的かつ最適化された生産システムへと変革させる中核技術です。オークマのConnect Plan 38 やヤマザキマザックのiSMART Factory™ 40 のように、自社工場で培ったAI/IoT技術を顧客ソリューションとして提供する動きが活発化しています。ブラザー工業の自動化オプション(パレットチェンジャー、ローディングシステム)は、省人化と生産性向上に貢献します 12。ジェイテクトのIoEソリューションは、設備、人、情報を繋ぎ、生産現場に新たな価値を創出しています 14。これらの技術は、労働力不足への対応だけでなく、新たなサービスモデルの創出を可能にし、東海地方のメーカーがこの変革を牽引する可能性を秘めています。


  • 環境負荷低減と脱炭素化への貢献環境負荷低減と脱炭素化は、工作機械メーカーにとって競争優位性を確立する新たな機会となっています。省エネルギー型の機械開発は、その中心的な取り組みです。ブラザー工業のSPEEDIO Blue Technologyは、エネルギー消費量と設置スペースの無駄を削減することで、環境負荷低減に貢献しています 12。オークマのGreen-Smart Machineは、自律的に精度を安定させつつエネルギー消費を削減する技術です 38。ヤマザキマザックは「Mazak Go GREEN」イニシアチブを通じて、2030年までにカーボンフットプリントを2010年比で50%削減する目標を掲げ、製品ライフサイクル全体でのCO2排出量削減に取り組んでいます 40。ジェイテクトは、2035年までに生産におけるカーボンニュートラル達成を目指し、再生可能エネルギーの活用やCN Parkの設立など、サプライチェーン全体のCO2排出量削減を進めています 15。安永も、太陽光発電設備の導入や重油ヒーターの廃止などにより、CO2排出量削減と工場環境改善に取り組んでいます 42。エンシュウも、高効率空調やLED照明の導入、ダスト収集システムのインバーター化など、工場での省エネルギー化を進めています 43。これらの取り組みは、環境目標を製品設計や工場運営に統合し、企業価値向上と持続可能な社会への貢献を両立させるという、東海地方のメーカーの姿勢を示しています。


  • サプライチェーン強靭化と地域貢献サプライチェーンの強靭化は、予測不能な事態に対応するための重要な経営課題です。ジェイテクトは、CN Parkを通じてサプライヤーとの連携を強化し、サプライチェーン全体のCO2排出量削減を目指しています 15。和井田製作所は「パートナーシップ構築宣言」を公表し、取引先との共存共栄を目指すことで、サプライチェーン全体の価値向上を図っています 17。これらの取り組みは、企業が単独で競争するのではなく、サプライチェーン全体で連携し、リスクを分散し、効率を高めるという新たなビジネスモデルを示唆しています。また、地域社会への貢献も、企業の持続可能性を高める重要な要素です。エンシュウは、遠州灘海岸の「ウェルカメクリーン作戦」や浜名湖の清掃活動、天竜浜名湖鉄道沿線の「花のリレープロジェクト」など、地域の環境活動に積極的に参加しています 43。これらの活動は、企業が地域社会の健全な発展に貢献し、地域との良好な関係を築くことで、長期的な事業基盤を強化することに繋がります。


事業戦略と市場展開


東海地方の工作機械メーカーは、変化する市場環境に対応するため、多角的な事業戦略と市場展開を進めています。


  • グローバル市場での競争力強化国内市場の縮小と海外市場への依存度増加は、工作機械メーカーをより一層グローバル競争の最前線に押し出しています。東海地方のメーカーは、技術力や品質の高さに加え、コスト競争力、アフターサービス体制、そして現地のニーズに合わせた製品開発といった点で、グローバル市場での差別化戦略を強化する必要があります。和井田製作所が米国や欧州に子会社を設立し、海外展開を加速しているのはその一例です 17。ヤマザキマザックも早期から海外展開を推進し、グローバルでの市場シェアを確立しています 10。グローバル市場での存在感を高めるためには、単に製品を輸出するだけでなく、現地でのサービス体制強化や、現地のサプライチェーンへの組み込みといった、より深いグローバル戦略が求められます。


  • ソリューションプロバイダーへの転換顧客のニーズが単体の機械から、生産ライン全体の最適化へとシフトする中、工作機械メーカーはソリューションプロバイダーへの転換を進めています。ヤマザキマザックは、機械の選定から加工技術、治具、ソフトウェア、測定機器まで、自動化に必要な全ての設備をワンストップで提供するソリューションを提案しています 40。オークマも、自動化ソリューションやConnect Planを通じて、生産性向上と可視化のサイクルを顧客に提供しています 38。エンシュウも、治具・工具・ロボットなど周辺機器を含めた自動化生産システムをトータルで提案・提供することで、世界の「モノづくり」に貢献しています 24。この戦略は、顧客との長期的なパートナーシップを構築し、新たな収益源を創出するだけでなく、顧客の生産性向上に貢献することで、業界全体の発展を牽引する役割も果たします。


  • 多角化と新分野への進出特定の産業への依存度を低減し、事業リスクを分散するため、多角化戦略が推進されています。安永は、自動車エンジン部品、工作機械に加え、ワイヤソーや環境機器(エアーポンプ、ディスポーザ)など、多岐にわたる事業を展開しています 19。ブラザー工業も、プリンターやミシンを主力としながら、工作機械事業を産業用製品の一部として位置づけ、事業ポートフォリオの多様性を確保しています 11。これらの企業は、既存のコア技術を応用し、新たな成長分野へ進出することで、変化の激しい市場環境におけるレジリエンスを高めています。




6. 課題


東海地方の工作機械メーカーは、日本の製造業の屋台骨を支える重要な存在であり、その多くがグローバル市場で高い競争力を有しています。しかし、業界全体はEV化の進展、国内需要の伸び悩み、労働力不足、DX推進への高額投資、そしてグローバル競争の激化という複数の構造的課題に直面しています。

これらの課題に対し、東海地方の主要メーカーは、高精度加工、複合加工、アディティブマニュファクチャリング(AM)といった技術革新、AI/IoT/5Gを活用した自動化ソリューションの強化、環境負荷低減と脱炭素化への貢献、サプライチェーン強靭化、そしてグローバル市場での競争力強化やソリューションプロバイダーへの転換、事業の多角化といった戦略的な取り組みを積極的に進めています。一部の企業では、将来への投資が短期的な利益の減少に繋がっているものの、これは長期的な成長と競争力強化に向けた前向きな経営判断と評価できます。


これらの分析に基づき、東海地方の工作機械メーカーが今後も持続的な成長を遂げ、業界を牽引していくための課題を以下に示します。


  • EV対応の加速とポートフォリオ転換:内燃機関部品向けの需要減少は避けられないため、EV基幹部品(バッテリー、モーター、インバーター)や軽量化素材(CFRPなど)の製造に必要な高精度加工や新素材加工技術への投資を加速させるべきです。既存技術のEV関連分野への転用可能性を最大限に追求し、製品ポートフォリオの転換を迅速に進めることが不可欠です。


  • DX・スマートファクトリー化の深化と人材育成:労働力不足と生産性向上の両課題に対応するため、AI、IoT、5Gを活用したスマートファクトリー化をさらに深化させる必要があります。自社工場での実践を通じて得られた知見を顧客へのソリューションとして提供することで、業界全体のDXを牽引し、新たな収益源を確立すべきです。同時に、これらの新技術を使いこなせるデジタル人材の育成と、熟練技術者のノウハウをデジタル化・形式知化する取り組みを強化することが求められます。


  • グローバル市場戦略の再構築と現地化:国内需要の伸び悩みを補うため、成長が著しいアジア市場、特にEV関連投資が活発な中国やIT関連投資が拡大するインドへの注力を継続すべきです。単なる製品輸出に留まらず、現地での開発・生産体制の強化、アフターサービス網の拡充、そして現地のニーズに合わせた製品開発を行うことで、グローバル市場での差別化と競争力強化を図る必要があります。


  • サステナビリティ経営の推進と企業価値向上:環境負荷低減と脱炭素化は、企業の社会的責任であると同時に、新たなビジネス機会でもあります。省エネルギー型工作機械の開発・提供、工場でのCO2排出量削減、再生可能エネルギーの活用など、具体的な取り組みを通じて環境目標達成に貢献し、企業価値向上と持続可能な社会への貢献を両立させるべきです。


  • 人材戦略の強化と多様性の推進:労働力不足と熟練技術の継承問題は、業界全体の喫緊の課題です。自動化・省人化技術の導入に加え、若手技術者の育成、女性や外国人材の積極的な登用、多様な働き方の推進を通じて、創造性と生産性の高い職場環境を構築することが重要です。


東海地方の工作機械メーカーは、長年にわたり培ってきた高い技術力と「モノづくり」への情熱を基盤に、これらの課題を乗り越え、変革の時代をリードしていくポテンシャルを秘めています。EV化、DX、そしてサステナビリティといったグローバルな潮流を的確に捉え、戦略的な投資と事業再編を進めることで、東海地方から強靭で持続可能な「モノづくり」の未来を牽引していくことが期待されます。



引用文献
  1. 愛知県の工作機械製造業界の会社・企業一覧|Baseconnect, 6月 13, 2025にアクセス、 https://baseconnect.in/companies/prefecture/60622468-79bd-4eef-86f8-cb69d1ef09f0/category/6af30968-b08b-4049-9f1d-234941a21903

  2. 愛知県で機械メーカーに転職!製造企業のおすすめ10選 - ヒューレックス, 6月 13, 2025にアクセス、 https://www.hurex.jp/column/company/4618/

  3. 愛知県の機械業界の会社・企業一覧|Baseconnect, 6月 13, 2025にアクセス、 https://baseconnect.in/companies/prefecture/60622468-79bd-4eef-86f8-cb69d1ef09f0/category/2fb5b308-bbb2-47fa-837b-a011774b14a7

  4. 岐阜県の工作機械製造業界の会社・企業一覧|Baseconnect, 6月 13, 2025にアクセス、 https://baseconnect.in/companies/prefecture/8de2e273-a5a8-45b9-8fc1-0fe6344d6843/category/6af30968-b08b-4049-9f1d-234941a21903

  5. 三重県の工作機械製造業界の会社・企業一覧|Baseconnect, 6月 13, 2025にアクセス、 https://baseconnect.in/companies/prefecture/e010a2b6-a345-4a52-b350-1ca592e384b8/category/6af30968-b08b-4049-9f1d-234941a21903

  6. 静岡県の工作機械製造業界の会社・企業一覧|Baseconnect, 6月 13, 2025にアクセス、 https://baseconnect.in/companies/prefecture/ce8171a3-9c3a-4158-b1ce-74bbb8bad1e4/category/6af30968-b08b-4049-9f1d-234941a21903

  7. EV化による切削加工業界への影響 - 切削工具の情報サイト - タクミセンパイ, 6月 13, 2025にアクセス、 https://takumi-senpai.com/blog/impact-of-ev/

  8. EV化の進展と工作機械業界への影響 - 日本政策投資銀行(DBJ), 6月 13, 2025にアクセス、 https://www.dbj.jp/topics/region/area/files/0000031523_file2.pdf

  9. 基本情報 | 会社概要 | 企業情報 - オークマ株式会社, 6月 13, 2025にアクセス、 https://www.okuma.co.jp/about/outline.php

  10. 【2025】国内工作機械メーカーランキングを紹介!業界の現状や ..., 6月 13, 2025にアクセス、 https://smart-factory-kenkyujo.com/kousakukikai-ranking/

  11. ブラザーホームページ, 6月 13, 2025にアクセス、 https://www.brother.co.jp/

  12. 工作機械 | ブラザー, 6月 13, 2025にアクセス、 https://www.brother.co.jp/product/machine/index.aspx

  13. 株式会社ジェイテクト – CNC円筒研削盤の世界トップメーカー - はじめの工作機械, 6月 13, 2025にアクセス、 https://monoto.co.jp/manufacturer-jtekt/

  14. トップページ|株式会社ジェイテクト, 6月 13, 2025にアクセス、 https://www.jtekt.co.jp/

  15. サステナビリティ|株式会社ジェイテクト, 6月 13, 2025にアクセス、 https://www.jtekt.co.jp/sustainability/

  16. 岐阜県の産業機械製造・企業一覧|Baseconnect, 6月 13, 2025にアクセス、 https://baseconnect.in/companies/prefecture/8de2e273-a5a8-45b9-8fc1-0fe6344d6843/keyword/63392927-427e-4446-b73e-e8750c62f5f3

  17. CNC高精度研削盤-和井田製作所, 6月 13, 2025にアクセス、 https://www.waida.co.jp/

  18. 株式会社 安永 | メカボケーション2025, 6月 13, 2025にアクセス、 https://mechavocation.com/mecha2025/company/fine-yasunaga-co-jp/

  19. 株式会社 安永, 6月 13, 2025にアクセス、 http://www.fine-yasunaga.co.jp/

  20. 製品情報 | 株式会社 安永, 6月 13, 2025にアクセス、 http://www.fine-yasunaga.co.jp/product/index.html

  21. スター精密株式会社 – スイス型自動旋盤の世界トップメーカー - はじめの工作機械, 6月 13, 2025にアクセス、 https://monoto.co.jp/manufacturer-starm/

  22. スター精密株式会社, 6月 13, 2025にアクセス、 https://www.star-m.jp/

  23. エンシュウ株式会社 – 量産・専用ラインに強い工作機械メーカー, 6月 13, 2025にアクセス、 https://monoto.co.jp/manufacturer-enshu/

  24. エンシュウ株式会社, 6月 13, 2025にアクセス、 https://www.enshu.co.jp/ja/

  25. 業績ハイライト|株主・投資家情報 - ジェイテクト, 6月 13, 2025にアクセス、 https://www.jtekt.co.jp/ir/achievement.html

  26. IRライブラリ&カレンダー-IR情報-和井田製作所, 6月 13, 2025にアクセス、 https://www.waida.co.jp/ir/library/

  27. 安永【7271】、今期経常は31%減益、3円減配へ | 決算速報 - 株探(かぶたん), 6月 13, 2025にアクセス、 https://kabutan.jp/news/?b=k202505140638

  28. 財務・業績ハイライト - 投資家情報 | スター精密株式会社, 6月 13, 2025にアクセス、 https://star-m.jp/ir/finance/highlight/index.html

  29. スター精密【7718】、1-3月期(1Q)経常は63%増益で着地 | 決算速報, 6月 13, 2025にアクセス、 https://kabutan.jp/news/?b=k202505130225

  30. 財務ハイライト|遠州トラック, 6月 13, 2025にアクセス、 https://www.enshu-truck.co.jp/ir/financial_highlights.html

  31. 2025年3月期 決算説明会 - 遠州トラック, 6月 13, 2025にアクセス、 https://www.enshu-truck.co.jp/files/pdf/245/8c191e74ebde736eaf6fac54b403f538.pdf

  32. 日本工作機械工業会 2024年(暦年)工作機械受注実績 | 製造現場 ..., 6月 13, 2025にアクセス、 https://seizougenba.com/node/13982

  33. 日本工作機械工業会 2024年工作機械 受注統計 受注総額はほぼ ..., 6月 13, 2025にアクセス、 https://www.automation-news.jp/2025/02/88731/

  34. 主要な工作機械メーカーとその革新技術 - 機会のブログ, 6月 13, 2025にアクセス、 https://kikaino.com/basic/major-machine-tool-manufacturers/

  35. 2023年の産業用機械製造のトレンド、トップ5 | Oracle 日本, 6月 13, 2025にアクセス、 https://www.oracle.com/jp/industrial-manufacturing/industrial-manufacturing-trends/

  36. 工作機械IoTのシステムとやり方について徹底解説 | Fabmart(ファブマート) - スリプリ, 6月 13, 2025にアクセス、 https://3d-printer-house.com/shop/kousakukikai-iot/

  37. IoTセンサーとは?AIと組み合わせて何ができる?活用事例11選徹底解説! - AI Market, 6月 13, 2025にアクセス、 https://ai-market.jp/ai_magazine/iot-examples/

  38. ソリューション&テクノロジー | オークマ株式会社, 6月 13, 2025にアクセス、 https://www.okuma.co.jp/solution_technology/

  39. オークマの技術 知能化技術|オークマ株式会社, 6月 13, 2025にアクセス、 https://www.okuma.co.jp/onlyone/

  40. Welcome to Mazak Corporation, 6月 13, 2025にアクセス、 https://www.mazak.com/

  41. Environmental Activities - About Us | Mazak Corporation, 6月 13, 2025にアクセス、 https://www.mazak.com/us-en/about-us/environment/

  42. SDGsへの取り組み | CSR | 株式会社 安永, 6月 13, 2025にアクセス、 http://www.fine-yasunaga.co.jp/csr/sdgs.html

  43. サステナビリティ(CSR活動) | エンシュウ株式会社, 6月 13, 2025にアクセス、 https://www.enshu.co.jp/ja/profile/sustainability/

  44. 会社情報-和井田製作所, 6月 13, 2025にアクセス、 https://www.waida.co.jp/company/

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