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日本の造船業は再生できるか|ドック新設・DX・AIで建造能力倍増へ

8月30日
読了時間: 9分

2026年8月改稿

本記事は2025年に公開しました。その後、日本の造船政策は大きく変化しています。2025年末に策定された「造船業再生ロードマップ」と、その後の設備投資、AI造船ロボット開発などの動きを踏まえ、内容を改稿しました。



「造船業をどう残すか」から「建造能力をどう増やすか」へ


日本の造船業は、かつて世界の船舶建造量の約半分を占めていました。その後、韓国、さらに中国が台頭し、日本の建造量と世界シェアは大きく低下しました。

長らく日本の造船業について語られてきたのは、中国や韓国との価格競争を避け、高付加価値船へ移行するという方向でした。「量ではなく質」「技術力や品質で勝負する」という考え方です。


ところが2026年現在、その前提が変わり始めています。

政府が2025年12月に策定した「造船業再生ロードマップ」は、現在約900万総トンの年間建造量を2035年に1,800万総トンへ引き上げる目標を掲げています。約10年間で倍増させる計画です。

これは、縮小した造船業をいかに維持するかという政策ではありません。一度失われた建造能力を再び増強しようという政策です。

その背景には、世界的な造船能力の偏在があります。日本は資源、エネルギー、食料などの多くを海外から輸入し、貿易量の99%以上を海上輸送に依存しています。商船だけでなく、海上保安、防衛、海洋開発などを考えても、自国で船舶を建造できる能力には国家的な意味があります。


造船は再び、経済安全保障を含めた国家戦略として扱われる産業になりました。


生成AIによる無国籍造船所の様子
生成AIによる無国籍造船所の様子

ドックを新しく造る


今回の造船業再生策で注目したいのは、生産性の向上だけでなく、造船施設そのものを増やそうとしていることです。政府のロードマップには、既存施設の拡充や老朽設備の刷新、休止施設の再稼働に加えて、造船施設の新設まで明記されています。


工程も具体的で、2026~2028年には自動化・省力化設備を中心に導入し、2029~2031年には施設の新設・拡大、2032~2034年には増強したドックやクレーンを稼働させる計画です。2035年の建造能力倍増は、既存造船所の生産性を上げるだけで実現しようとしているわけではありません。物理的に船を造れる場所そのものを増やそうとしています。


造船ドックの新設には巨額の投資が必要です。ドックだけでなく、大型クレーン、岸壁、工場、鋼材加工設備、溶接設備、搬送設備なども必要になります。このため政府は「造船業再生基金」を設け、2025年度補正予算で1,200億円を措置しました。達成状況を確認しながら10年間で3,500億円規模の支援を目指しており、民間投資を含めれば官民合わせて1兆円規模の投資を実現する構想です。


ここまで踏み込んだ支援が行われる背景には、造船所を単なる民間企業の生産設備ではなく、日本が維持すべき産業基盤として捉える考え方があります。一度失った造船能力を民間企業の設備投資だけで取り戻すのではなく、国もその再構築に関与する。日本の造船政策は明らかに転換しています。



ドックを増やすだけでは船は増えない


もっとも、ドックを二倍にすれば船も二倍造れるわけではありません。造船業では技能者の高齢化と人手不足がすでに深刻になっています。しかも船舶は、自動車のように同じ製品を大量生産するものではなく、船種、大きさ、構造、仕様が異なります。巨大な鋼材を加工して多数のブロックを組み上げる工程には、現在も人間の技能と判断に依存する作業が数多く残されています。


したがって、建造能力を倍増させるには物理的な設備を増やすだけでなく、一人あたり、一設備あたりの生産性も大幅に高めなければなりません。そこでDX、AI、ロボットが必要になります。


新しいドックを造っても、そこで従来とまったく同じ方法で船を造るのであれば、現在の人手不足は解決できません。設計データと生産設備をつなぎ、工程をデジタルで管理し、部材の搬送や溶接・加工を自動化する。さらにAIによって生産計画を最適化し、仮想空間上で設備配置や作業工程を検証する。新設される造船施設は、こうした新しい生産方式を最初から組み込めるという点にも意味があります。


ドックの新設とDX・AIは別々の話ではありません。造船能力という「器」を増やすと同時に、その中での造り方を変える。この二つを同時に進めるのが、現在の造船業再生策です。



造船DXは何を変えるのか


造船業におけるDXは、紙の図面をデジタル化したり、現場でタブレットを使ったりするだけではありません。より大きな意味を持つのは、設計から調達、生産、建造、検査、さらには完成後の運航・保守まで、船に関わるデータをつなぐことです。


一隻の船は膨大な数の部品から構成され、多数の舶用機器メーカーや協力会社が建造に関わります。一つの設計変更が後工程のさまざまな作業に影響し、造船所の中だけで情報を完結させることもできません。


設計データを生産設備へ渡し、工程の進捗を把握し、設計変更を後工程へ反映する。造船所と舶用機器メーカーのデータをつなぎ、完成後の船舶から得られた情報を保守や次の設計へ戻す。巨大なものづくりをデータによって一つにつなぎ、全体として生産性を高めるところに造船DXの大きな意味があります。



AIが「船を造る」工程に入ってきた


2026年には、DXからさらに一歩進んだ取り組みも始まりました。国は「AIの活用による次世代造船所」に向けた研究開発を本格化させ、AI造船ロボットなど14件の研究開発事業を採択しています。


対象となっているのは、生成AIを設計者や事務部門が利用するといった話だけではありません。鋼板の曲げ加工や溶接、ロボットの作業経路、設備との干渉、センサーの視界、生産工程のシミュレーションなど、船を実際に造る工程そのものへAIを導入しようとしています。

自動車工場では、ロボットが溶接や塗装を高速で繰り返す光景は珍しくありません。ところが造船は、同じ製品を大量に造る生産方式ではなく、船ごとに大きさや構造が異なります。作業する場所も変わり、巨大な鋼材には加工誤差も生じます。毎回決められた位置へ同じ部品が流れてくる工場とは条件が違うため、従来型のロボットによる自動化には限界がありました。


そこで期待されているのがAIです。カメラやセンサーで周囲を認識し、作業対象の位置や状態を判断し、その状況に合わせて動作を変える。「決められた動きを正確に繰り返すロボット」から「状況を見ながら作業するロボット」への進化によって、これまで自動化が難しかった造船工程へロボットを導入できる可能性が出てきました。



熟練技能をどう残すか


AIやロボットの導入には、省人化とは別の意味もあります。技能継承です。

鋼板の曲げ加工、溶接、巨大なブロックの組み立てなど、造船所には長年の経験によって身につけられた技能が蓄積されています。しかし、そのすべてを図面やマニュアルに記録できるわけではありません。熟練者が何を見て、何を感じ、どこで異常を判断しているのか。本人さえ言葉で説明することが難しい技能もあります。


こうした作業を計測し、データとして蓄積・分析し、AIやロボットへ利用できれば、「人から人へ」伝えてきた技能の一部を別の形で次世代へ残すことができます。ただし、人間の技能をそのままAIへ移せるわけではありません。何をデータとして取得し、どの判断を機械に任せられるのかを見極めること自体が、新しい技術開発になります。


政府のロードマップには、AIだけでなくヒューマノイドロボットの技術開発も盛り込まれています。人間のためにつくられた造船所の中で、人間が使ってきた設備や工具を利用しながら働くのであれば、人型であることにも一定の合理性があります。


もちろん、すべてをヒューマノイドに置き換える必要はありません。専用ロボットが適した仕事もあれば、設備そのものを自動化した方がよい工程もあります。AI、専用ロボット、ヒューマノイド、そして人間をどこへどう配置するか。その組み合わせ自体が、次世代造船所の生産技術になっていくでしょう。



造り方だけでなく、造る船も変わる


造船業が直面している変化は生産方法だけではありません。海運業には温室効果ガスの削減が求められ、LNG、メタノール、アンモニア、水素など新しい燃料への対応、省エネルギー技術、自動運航、高度な船舶制御など、船そのものの技術革新も進んでいます。


次世代船舶は、必ずしも従来船より簡単に造れるわけではありません。新しい燃料に対応するタンクや燃料供給設備、安全装置、制御システムなどが必要になれば、船舶はさらに複雑になります。


つまり日本の造船業には、より多くの船を造ると同時に、より高度な船を造ることが求められています。この二つを両立させるためにも、物理的な建造能力の増強と生産性の向上を同時に進める必要があります。



建造能力倍増を支える三つの要素


現在の造船業再生策を見ると、大きく三つの要素があります。

一つは、ドック、クレーン、生産設備など、物理的に船を造れる能力の増強です。二つ目がDX、AI、ロボットによる生産性の向上。そして三つ目が、設計者や技能者、デジタル人材の確保と育成です。


設備があっても人がいなければ船は造れません。人を増やせないのであれば生産性を上げる必要があります。しかし、どれだけ生産性を高めても、ドックそのものが足りなければ建造量には限界があります。


設備、人材、DX・AIのどれか一つではなく、三つを同時に動かす。 2035年に建造能力を倍増するという目標の難しさと、現在の政策の特徴はここにあります。



造船業の変化をどう映像で伝えるか


造船所は、非常に映像映えする場所です。巨大な船体、厚い鋼板、溶接の火花、ゴライアスクレーン、ドック、進水。カメラを向けるだけでも、造船という仕事のスケールを強烈に伝えることができます。


しかし、これからの造船業を伝えるには、それだけでは足りなくなります。

AIによる工程最適化、設計データと生産設備の連携、シミュレーション、ロボット制御、サプライチェーンを流れるデータ、熟練技能のデジタル化。現在の造船業で大きく変わろうとしているものの多くは、そのままカメラで撮影しても見えません。


これまで造船会社の企業映像では、巨大な造船所をドローンで撮影し、鋼材加工、溶接、組み立て、クレーン作業、進水などをダイナミックに見せることが一つの定石でした。もちろん、その映像には造船業ならではの魅力があります。


そこへ、設計データがどのように現場へ渡り、多数の企業から集まった部品がどのように一隻の船になり、人とロボットがどこで役割を分担し、完成した船から得られたデータが次の設計へどう戻っていくのかという視点を加える。実写、CG、インフォグラフィックスを組み合わせれば、一隻の巨大な船だけではなく、その船を生み出している巨大なシステムそのものを映像にできます。


そして2026年の日本の造船業には、もう一つ映像に残す価値があると思います。いままさに、造船所そのものが変わろうとしていることです。

現在の造船所で働く熟練技能者、新たに導入されるAIやロボット、更新される設備、これから新設・拡張されるドック、変わっていく設計と生産の方法。10年後、建造能力1,800万総トンという目標が達成されていたとしても、現在の造船所の姿を撮影することはできません。


完成した「未来の造船所」をPRするだけではなく、日本の造船業が変わっていく過程そのものを映像で記録する。 そこには、通常の企業PRや採用動画とはまた違った映像の価値があるのではないでしょうか。



映像制作を発注する企業担当者のための情報発信です。

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執筆者・神野富三
名古屋の映像制作会社 株式会社SynApps 代表取締役プロデューサー

シナリオ・演出・編集まで一貫して手がける映像プロデューサー・ディレクターとして、JR東海・トヨタ自動車など200社以上の映像制作に携わる。

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